“ねぇ、ケイ”
騎士の本体がいると言われている部屋に向かう途中、ふと疑問に思ったことをケイに聞く事にした
“何で騎士はアリスと一緒にいたのにあの部屋にあった玩具で遊ばなかったの?”
今までかなり時間があり、ゲームでは遊ぶのに何故集めた道具で遊ばなかったのだろうか
私といる時にも玩具を集めていたのは見た事がある
てっきり玩具コレクターか何かと思った
『そうですね…そもそも騎士は未だにこの現状を夢の様に思っているのですよ』
まあ、アリスを長い間待っていてようやく会えたから、そのくらい喜ぶ…のかな?
『いえ、騎士はこの現実を受け止めきれていません。今でも彼にとってはまさに夢なのでしょう』
『だから起こさなくてはいけません、鎧越しではなく、ちゃんと肌でこの今が現実である事を知らしめなければいけないのです』
…私にとっての日常は騎士にとっての奇跡だったんだね
「ならヨジロウを起こしたらしっかり褒めてあげましょう!」
『ええ、きっと涙を流して喜びますよ。私と会った時も褒めろと要求してきましたから』
そうアリスは張り切り、私達は長い通路を進んでいった
ーーー
ーーー
ーーー
ここです
ケイは呟くと先程の指輪で何かを操作し、目の前の扉を開けた
中に入ると部屋はホールの様に広く、奥に扉があり、まだ部屋があるようだが
目的は部屋の中央
そこにある、未だ稼働しているポッド
ガラス張りのポッドの中はオレンジ色の液体で満たされ、時々下から空気の塊が上に向かっている
「この人が…」
『はい、ヨジロウです』
中に入っているのは病院服に似た服を着た男の人だった
体格は中肉中背
身長は180か、170後半
大人っぽく子供のような顔立ち
髪は伸びていて金色だった
だけど…
「腕が…」
そんな特徴よりも私達は
“義手?”
彼の右腕は機械で出来ていたのだ
『昨晩申した通り、彼は幼い頃に私達の組織に拾われました。その際彼は負傷していたようで本人の希望の下、色々と改造したのですよ』
ケイがポッドを操作しながら解説してくれる
いつも明るい騎士は幼い頃に腕を無くすほどの重傷を負っていたんだ
子供たちを見ている先生として思うところがある
『ああ、悲観しないで下さい。むしろ彼は手首が360度回ると言ってはしゃいでいましたし、人工タンパク質を使って生身と同じようにできるのにあえてこの様にしてくれと頼んでいましたから』
…思わなくてよかったみたいだ
『さあ、私達の騎士が目覚めますよ』
ーーー
ーーー
ーーー
◼️
…
……
………ん
沈んでいた意識が覚める
目を開けて周りを見ようとするも液体の中にいるせいでよく見えない
…外に、誰かいるのか?
誰かが操作したのかポッドの中の液体が無くなり、視界がクリアになっていく
なるほど…迎えに来てくれたんだな
キィに連れられたのか?
敵対関係だったけど、仲良くなってくれてたらこっちも気が楽なんだが
久々の生身の目で周りを見れば、メンバーは王女含むゲーム開発部にユミちゃん。お、ネルもいる
わざわざここまで来てくれたのか、嬉しいねぇ
全員がこっちを奇異の目で見ている
…見せもんじゃねぇぞ
………
…それにしても、なんか苦しい
…?……あ、息すんの忘れてた
そりゃ苦しいに決まってるわな
息できてないんだもん
[………]
……あれ?どうやんだっけ?
おいおい、長い間鎧を操っていたせいで息の仕方忘れるとかマジか
あ、ヤバい、めちゃめちゃ苦しくなってきた
お、落ち着け、空気を肺に送り吐き出す、それだけだ
はい深呼吸ー
[………ヵ]
吸えねぇ!なんか変な音出ただけだ!
クソッ!無意識の行動をを意識すると出来ねぇ!
ヤバいヤバいこのままじゃお陀仏にな『えい』
[ぐふぅ!]
「え!ケイ!?」
突如(おそらくキィと思われる)ドローンがオレの腹めがけ飛んできてクリーンヒットし、オレは地面に手をつき四つん這いになって咽せた
そう、咽せた
[げほっげほっごほっ!]
「ケイ!何やってるの!?」
『大方、息の仕方を忘れていたのでしょう。感謝して下さいね』
[た、助かった…どこぞのクソゲーみたいにチュートリアルで死ぬとこだった]
今度はちゃんと息ができている
やっぱり生存本能?ってやつはすごいな
さすが生存本能、久しぶり生存本能、I love you 生存本能……いや、条件反射か?
…おいネル、そんなとんでもないアホを見る様な目をやめろ。傷つくだろ
[…ふぅ]
そうだ、そうだったな。息ってこうやるんだった
「ヨジロウ!大丈夫ですか?」
うずくまっているオレの前に王女がやって来て、わざわざしゃがみ、オレと目線を合わせて心配してくれた
…ん?ヨジロウ?
[はい、大丈夫です。……ところで何故名前を??]
「そうですか!良かったです!」
[あの、名前「ポンッ」…へ?]
オレが何故コンプレックスを知っているのか疑問に思っていると
頭に温かいものが乗せられた
「よしよしです、よく頑張りましたね。とっても長い間、アリスのために頑張ってくれてありがとうございます。今までお疲れ様でした!」
…撫でられた
王女に、撫でられた
温かい、柔らかい
鎧越しじゃ、無い
まるで夢のような…
[え……]
おかしいな、ポッドの中の液体が残っていたのか?前が滲んで良く見えねぇや
[う……ぁ…]
おいおい、さっきまで出来たのにもう息の仕方忘れのか?声がうまく出てねぇぞ
『ヨジロウ、大丈夫です。夢ではありません、これは現実です』
ふよふよといつの間にか隣にいたキィが言う
夢じゃ、ない
夢じゃないんだ
[あぁ…]
王女はニコニコとしながら未だにオレを撫でてくれている
前が滲む…いや、誤魔化すのはやめよう
涙が出た
今まで何度も出したいと願った涙が出た
[……
[ずっと待ってて、起こそうとしても出来なくて、色々手を尽くして。でも、起こせなくて、寂しくて、友人は出来たけど居なく…なって]
[時々頭が変になって、気づいたらよく分かんない場所に…いて、もうずっと起きないんじゃ無いかと思って]
[でも頑張って、ずっとずっと待って、気丈に振る舞って、そしたらやっと起きてくれてっ、幸せそうでっ、嬉しくて…っ]
[…もう、よく分かんないけど頑張ったんです。俺は…頑張ったんだ、ずっとずっと…]
[だから……]
[褒めてっ、下さい…]
「はい!ヨジロウはいっぱい、いーっぱい頑張りました!流石アリスの騎士です!」
『そうです、貴方ほど頑張った人間などいませんよ。まさに最高の騎士ですね』
[ぐぅ、ううぅぅ……っ!]
まだ、王女は撫でてくれる
涙が出る
今まで流したく堪らなくて、恋焦がれた涙が出る
今まで泣けなかった分の涙が出る
…どうだ世界、俺は待ち続けたぞ
待ちぼうけた報酬がこれだってか?
「さあ!ここからが始まりです!行きますよ!ヨジロウ!」
ああ、全く最高だよ
『何ボーっとしているのですか、王女が待っていますよ』
この耳で聞きたくて堪らなかった声で王女とキィが呼んでくれる
[ああ、聞こえてる]
待たせちゃいけないな
[今行くよ]
俺は果てしなく久しぶりの笑顔を作って、そう答えた
次回、掲示板で一旦締めくくります