待ちぼうけの騎士〜天童アリスの護衛従者〜   作:弥次郎兵衛

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Q,なんか長くね?
A,だってアリスの精神世界の時から考えてたことが漸く書けるんだぞ、そりゃ長くなるわ


月降る礼拝堂で見た貴方の背中

あの人と初めて会ったのは私が中等部に入ったばかりの頃でした

 

当時の私はまだシスター見習いと言うにはまだ幼く

まだまだ子供で好奇心が旺盛だったのでしょう

 

そのせいか入学してすぐに私は夜、誰にも言わずにもう使われていない教会に訪れました

今思えば何故行こうと考えたのかはわかりません

先輩の話を聞いたのか、あるいは誰も来ない場所に冒険したかったのか

 

一応信心深い方ではあったので目的地に近づくたびに罪悪感を少し抱きました

謝罪の意を含み、祈りを捧げてから帰ろうと教会の扉を開くと

 

先客がいました

 

その人は屋根が崩れたのか月明かり差し込む教会で膝をつき、後ろからではよく見えませんでしたが両手を交差させる様に握り込み

その月明かりに照らされる奥のスタンドガラスに祈っている様で…

いえ、きっと月に祈っていたのでしょう

 

こういう状況では見つかってしまったことに慌てたり、突然の見知らぬ人物に少しばかりの不安を抱くのがきっと正解なのでしょうが

 

そんな気持ちはその衝撃で無くなってしまいました

 

 

騎士様が、いたのです

 

 

鎧を着て、側に剣を立て掛け

まるで物語の登場人物がそのまま本から出てきたと思いましたね

 

ですが月が降り注ぐ中

その光景は何処か幻想的で、同時に酷く悲しい

そんな後ろ姿でした

 

その背中を呆然と見ていると扉を開ける音に気付いたのか騎士様は振り向き

こちらへ歩いてきたのです

 

私はたじろぎました

どうやって弁明しよう、まずは謝らなきゃ

…なんて、思えばその人物が自分に害を及ぼす存在の可能性は不思議と頭から抜けていました

 

そんな私の考えは間違っていなかった様で、あの人は何処からか機械音を出しながら

2m程ある身長に驚いている私に騎士様は優しく、親しく語りかけてくれました

 

 

ー…迷子か?よくここまで来たな。大丈夫だ、悪いヤツじゃない。この場所はその心配は無いが、どこかで天井が崩落したら危ないからな、安全な帰り道を教えてやろう

 

 

だから、もうこんな場所来るんじゃ無いぞ

 

 

普通ならこの人に言われた通りに教えられた道を辿り、危険な場所に近付かない為にもう訪れず

途中で騎士様に道を教えてもらえたと言う噂になりそうな、そんな秘密を持って普段の生活に戻る

それが正解の筈なのに私は

 

 

拒否しました

 

 

思いもしなかったのか何処か驚いた雰囲気を出す騎士様

何も意地を張ったり、まだ冒険がしたいなどど言うつもりではありません

 

ただ、

心配してれたその人の声は機械のはずなのにその奥底に『寂しさ』を感じました

私があの背中から感じたその悲しさは間違いじゃ無かったと確信したのです

 

故に拒否しました

幼い子供が持つ正義感に駆られたのかは分かりません

それでもこの人を放って普段の生活に戻るなんて出来ないと思ったのは確かです

 

今思えば中等部に入ったばかりのシスター見習いですら無い私に何が出来るのかそんな考えはありませんでしたね

 

騎士様に帰り道だけ教えってもらって、もう一度来ると伝えました

案の定止めるように言われましたが、どこ吹く風

 

私は帰り道を歩きながら頭の中は騎士様に埋め尽くされていました

 

ーーー

ーーー

 

次の日は学校の教材が入ったカバンを持ったままで昨日よりも少し早い時間に出発し

あの教会に行くため少し張り切りながら昨日の帰り道を辿って歩きました

 

扉を開けると昨晩と同じように月に祈りを捧げている騎士様がいました

 

彼は昨日とは打って変わって呆れた様子で

そんな様子を申し訳ないと思いつつも心の隅では嬉しく感じたのを覚えています

 

しかし、そこで想定外のこと起きたのです

立派なシスターになるためのもあんな寂しそうな人は放って置けない

そう朝から張り切っていたのですが問題が起きました

 

簡単に言うと、話すことがなかったのです

 

説得しようとしても何を?となったり

いきなり寂しさの原因を探るのは流石にどうかと思ったりして

何を話せばいいのか分からなかったのです

 

私がしどろもどろしていると騎士様は何を思ったのか

礼拝堂の古ぼけた長椅子に座るよう促されました

騎士様は私が座った隣に腰掛け、少し軋む音がして、私は壊れないか不安になりましね

 

騎士様は相変わらず崩れた天井ごしに月を見ていて

手持ち沙汰になった私は学校のカバンから課題だった古文書の読解を解くことにしました

 

しばらくして順調に解けていく途中で難問に出会ってしまい、四苦八苦していると

 

 

ー…それを解くんだったら、前の文章よりも後の方を重点的に読んだ方がいい

 

 

そう言われました

隣を見るといつのまにか騎士様は私の課題を覗いていたのです

 

 

ー分かるのですか?

 

ー…まあ、これでも長い間過ごしていてな。オレにとっちゃその問題もただの文章だよ

 

 

これだ、と思いました

 

 

ーあ、あの!この問題も…教えて頂けませんか?

 

ーん?ああ、それは一つ前の言葉が掛かっていて反対の意味になる。簡単に言えば最後に『しない』とか入れると分かりやすいな

 

 

これで騎士様とお話ができる

そう思ったら行動に移していました

 

 

ーか、課題は他にもあって…そのどれもが難しくって…それで…えっと…

 

 

考えたことをそのまま口にしていたので文章がおかしくなってしまいましたが

それでも必死に伝えました

 

 

ーい、今みたいに教えていただくことって出来ますか?

 

 

あまりに必死だったので自分でもよくわからない涙が出てきてたせいで

涙目で言ったのを覚えています

 

騎士様は何を考えていたのか

しばらくすると

 

 

ーオレが教えた道を通ってくるのなら、また教えてやる

 

 

そっぽを向いてそう仰ってくださいました

 

この時、私の行動方針は決まりました

その後は頭に今後の計画を立てつつ、手を大きく振って別れの挨拶をしました

 

いざ帰り道に戻ろうとした時

ふと、後ろを振り返ると小さくこちらに手を振ってくれている騎士様を見て、あまりの嬉しさに少しスキップ気味に帰りましたね

 

 

そのスキップで転びそうになったのは内緒です

 

 

 

 

それから私は課題やそれ以外の古文書なんかを持って毎晩教会に赴きました

 

ーーー

ーーー

ーーー

 

 

ー騎士様はなんと言う名前なのですか?

 

ーオレは…お前の言う通り騎士だ

 

ー嘘です、今言い淀みましたね。本当は名前があるのでしょう?教えて下さいよ

 

ー何でもかんでも教えるわけじゃ無いんだぞ?…まあ、いつか教えることがあるかもな

 

ー本当ですか!?いつですか?明日ですか?

 

ーんな近くねぇよ

 

 

ーーー

ーーー

ーーー

 

 

ー今日はトランプを持ってきました!

 

ー…宿題じゃ無いのか?

 

ーはい、たまには騎士様と遊んでみたいと思いまして。ダメ…ですか?

 

ー…いや、別に構わない。それで?二人しかいないのに何をするんだ?

 

ーえっと…ダウトとかどうでしょう

 

ー二人でやるダウト程つまらないものは無いから却下だ

 

 

ーーー

ーーー

ーーー

 

 

ーいつも騎士様はお月様を見ていますが、お好きなのですか?

 

ーさあ、分からんな

 

ーでは何故?

 

ーあの月だけは、いつまで経ってもあの頃と変わらないからかもな

 

ー?

 

ー…キザな事言っちまった、恥ずかしい、…気にすんな、昔を思い出してただけだ

 

 

ーーー

ーーー

ーーー

 

そして高等部に入るまで…たまに行けなかった事もありましたが

それでも私はあの教会に通い続けました

 

自分でもここまで通い続けた事に驚いています

通っていくうちに私はあの教会に行くのが楽しみでしょうがありませんでした

 

また騎士様に会える

今度は何を話そう

次はこれで一緒に遊んでもらおう…と胸を高鳴らせていました

 

…勘違いしないで欲しいのですが友達がいないわけではありません

ただ、色々勘違いされることがあるだけです

それにちゃんと当初の目的も頭に入れてました

 

当然、騎士様にも心配されたりした事もありましたが

ちゃんと学校生活を話して

次の日に支障をきたさないようにちゃんと睡眠はとっていることも伝えました

 

そんな日々が続いたある日

一度だけ不良の方に遭遇した時がありました

 

ですが()()、騎士様がその付近を歩いてたようで

不良の方々の後ろに立って話しかけると

不良の方々は「お化けーーー!」と言って逃げていきました

 

 

ーふふっ、お化けだなんて。騎士様は今こうしてこの場にいて居て、私を()()()下さったのに失礼ですね?

 

 

そう笑いながら言うと騎士様はたった一言だけ

 

 

ー…そうだな

 

 

その日から送り迎えをして下さるようになり、私はいつもより多く話せると喜びました

 

 

それからしばらくして

騎士様が自分の過去を教えて下さいました

 

その日は新月で、騎士様は前振りもなく、急に話して下さいました

私は驚きつつも何か寂しさの原因があるのではないかと探るように、全てを記憶するつもりでその話を聞きました

 

……結果から言えば、寂しさの原因は探る必要などありませんでした

 

その話、その全てが寂しさの原因だったからです

 

 

私が生まれるずっと、ずっと前に騎士様は生まれ

ある理由で主人は今でも眠り続けている

起こそうにしても起こすには特別な資格がないとできず

その資格を持つ者を探しても見つからず、残るのは罠として張ったただの噂

時折その寂しさを紛らわそうと組織や人間関係を持っても

その関係も自分の時間の前にはすぐに終わってしまう

 

 

騎士様は新月で見えない月を見ながら話してくれました

 

私は涙が溢れました

これはいつかの理由の分からない涙ではありません

 

どうにか声をかけよう

そう頭では分かっているのに何て言えば分かりませんでした

 

私は20も生きて居ない子供で、大人ですらありません

騎士様に比べればほんのちょっと…本当に少しの人生しか生きて居ない私に何が言えるのでしょう

 

涙を流し続ける私に騎士様は

 

 

ー……ありがとな。本当に感謝してる

ーお前はいつも来てくれて、元気に話しかけてくれた

ーうん、思いっきり吐き出したら心が随分軽くなったぜ

ー夜に引き篭もるのも、この大人しいテンションもそろそろ止めるか

ーよーし!次会う時間は朝だ!間違えるなよ!

 

 

そう言って頭をガシガシと撫でてくれました

頭を撫でられるべきなのは貴方のはずなのにどれほど優しい方なのでしょう

 

最終的に私は泣き疲れて寝てしまって、そのまま教会で朝を迎える事になり

起きた時に騎士様は『おはよう』と言ってくれました

 

私は寝ぼけた目を少し擦りつつ、声のした方に目を向けました

騎士様はいつもお月様を見ていた崩れた天井から太陽を見ていた様でした

 

 

初めて、朝日に照らされている騎士様を見て

 

 

(……あ)

 

 

私は

 

 

 

 

 

 

恋に、落ちました

 

 

 

 

きっと初恋という感情でしょう

この気持ちはきっと勘違いではありません

だって、こんなにもあなたが愛おしい

 

…ですが彼は件の主人を待っていて

私とは違う機械

きっと迷惑になってしまう

 

だから隠そう、気づかれないように

 

そして私はその気持ちを胸にしまい

いつかその願いが叶う様に先輩から教えてもらった押し花でしおりを作って騎士様に渡しました

 

騎士様は鎧越しでも分かるくらい喜んでくださり

贈ったこちらもすごく嬉しかったのを覚えています

 

それからというもの

騎士様に色々勉強を教えて下さったおかげで成績も上がり、学校での立場も上がった結果

多忙になり中々会う機会が無く、月に一回程しか会えなくなってしまいました

 

……これで良いのです

 

このまま今までと同じように

親愛なる隣人として接しましょう

 

そう私は決めました

 

 

 

 

 

 

…そう、決めた筈なのに

 

 

 

 

この気持ちは、とっくに諦めた筈なのに

こんな、夢のような事が

 

 

 

 

「ヨジロウ…様?」

 

 

貴方は金色の三つ編みを揺らしながら言う

 

 

 

 

 

[よう、久しぶり]

 

 

 

 

 

初めて聞く、()()

 

 

 

 

 

 

[サクラコ]

 

私の、名前を




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