[〜〜♪]
隣でヨジロウが雑誌を読んでいる
表紙から見えた『トリニティのケーキ特集』という文字から察するに、何か買うつもりなのだろうか?
“行くの嫌がってた割には案外楽しみにしてるの?”
私たちは電車でトリニティに向かっていた
電車内は昼時だからかほとんど人も居らず、そこそこ大きな声で喋れた
[嫌がってたのは長期だからで行くことに関しては全然いい、むしろ楽しみだ]
[最近会えなかった知り合いに会えるし、お土産をいっぱい買って行こうと思ってな]
知り合い?
[ああ、数年前に会ってよ。本当に優しい、いい奴なんだよ]
ふーん…
私は電車の扉の上にあるあの…アレ、あの次の駅を教えてくれるやつ
何て言うんだろ?ディスプレイ?
[車内案内表示装置だ]
へーあれの名前そう言うんだ……何で知ってるの?
とりあえずその車内案内表示装置で降りる駅までしばらくかかることを確認すると
私はヨジロウに話を聞く事にした
“その人について教えてくれない?”
[ん?ああ、いいぜ。アイツと初めて会ったのは夜の教会だったな]
ーーー
ーーー
ーーー
その頃のオレは王女が目覚めない事に参っていてな
簡単に言うと絶望してたんだ
まあ、そんなことは昔から定期的に来るんだが…あの頃はそれまで以上に落ち込んでた
そのせいで気分もダダ下がり
昔馴染みの教会に引きこもっててな
久々に祈りってやつをやったね
崩れた天井から見た月はキィと一緒に見た月と同じで、あの月だけはいつまでも変わらない事に少し喜んだ記憶があるよ
そんな引きこもった日々を過ごしてたらある時、シスター服を着たやつがやってきてな
見るに中等部の服装だったから優しく帰り道を教えて、もう来ないように言ったんだが
信じられるか?あろう事かそのシスター、拒否したんだぜ?
明日も来るって言って、オレの静止を聞かずに教えた道を帰りやがった
有言実行って言うのかな
アイツは宣言通り次の日も来たんだ
オレは呆れたね
こっちは世界に絶望してるのに絡んで来るんだ
鬱陶しいとも思ったよ
それで何をするのかと観察してたら話すことが無かったのか、いきなり慌ててな?
ちょっとな…ほんのちょっと可哀想になってきてよ
とりあえず教会の長椅子に座らせて、オレもその横に座って月を眺めてたんだ
しばらくすると横でカバンをガサゴソし始め出して
中から古文の宿題と思われるもんを出して解き始めたんだ
少し気になって覗いたんだよ
優等生なのかスラスラ解いててな、ちょっと感心したのを覚えてる
だけど順調にペンが進んでいく中である問題で行き詰まってたようで
ウンウン悩んでいてな
つい、助言しちまったんだ
オレにとっちゃその古文も普通の言葉だから分からない道理がないんだが…
そいつは目を開いて解けるのか聞いてきてな
他の問題も教えてやると何かを決心した様子でこっちを見たんだ
何か言おうとしてるのは分かってるんだが、言葉が詰まってたみたいでな
それでも必死に言おうとしてるのか、だんだん涙目になった時は驚いたぜ
内容は『他にも難しい問題を教えて欲しい』とかだったけな
オレはそれを承諾した
あの時何故そうしたのかは覚えていない
もしかすると何処か王女と重ねていたのかもしれない
ま、そんな考えもすぐに無くなったんだが
承諾したら嬉しそうに笑顔になって大きく手を振って帰り道についたよ
だけど帰り道の途中でアイツは振り向いてきてな?
オレは特に何も考えず手を振り返した覚えがある
それが嬉しかったのかスキップしながら帰ったんだ
…そういえばそのスキップで転びそうになってたな、アイツ
それから毎晩来たよ
宿題を教えてもらう為に来たり
オレの為にわざわざ本を持ってきてくれたり
時にはトランプで一緒に遊んだりしてよ
暇してたオレを気遣って本も持って来てくれた
朝とかは教会の日陰でそれらを読んでたっけ
…アイツはオレの気分が落ち込んでいる事に気づいていてな、色々元気づけようとしてくれたんだ
こういうことを言う柄じゃ無いが
アイツが来てくれた事で傷ついた心が治っていくのを感じたのは確かだ
ある日アイツが
それで…え?
偶々見つけて…
いやだから偶々…
…ああ!クソッ分かった!
そうだよ!偶々じゃなくて、いつも後ろから見送ってたりしてたんだよ!
満足したか!えぇ!!?
……ふぅ……話を戻すが、オレの姿見た不良共がお化けって言って逃げ出した
結果として助けた形になって
アイツは笑いながらこう言ったんだよ
ーふふっ、お化けだなんて。騎士様は今こうしてこの場に居て、私を
『守って』
この言葉がオレの心に響いた
時間を潰す為に読んでいた本でも『人生はプラスだ』とかそんな趣旨の言葉はいっぱいあった
それでも、どんな言葉よりもその一単語がオレを揺さぶったんだ
王女を守ること、従うことを第一にするオレとにとって
『騎士』いう存在を肯定してくれた様だった
だから語った
全部語った
オレが昔から王女を待っている事
その為に色々やっていた事
寂しかった事
全部吐き出したらスッキリしたんだ
その日は新月で、いつも降っていた月明かりは無かった
寂しくなったのも含めて、一度誰かに聞いてもらいたかったんだろうな
…その話を聞いてくれたアイツは泣いてくれたよ
だからオレは感謝を伝えた
ちゃんとした理由はない、ただ感謝を伝えたかった
今まであの教会に来てくれた事
いつもオレを励まそうとしてくれた事
その全てを伝えた
結局アイツは泣き疲れて寝ちまったが
その日以降オレは夜に引き篭るのをやめて朝に活動し出し
アイツとも朝とかに会う事になった
オレはオレで手始めに砂漠に行ったけな
ああ、そうそう
その頃にユメのやつを見つけて助けたんだっけ?
それからしばらくして、スズランのしおりを貰ったんだ
嬉しかったよ、すごく
今でも大切にしてる、オレの宝物だ
そのお礼として名前も教えたな
え?ああ、うん
教えたぞ
…そういえば、キィがユミちゃん達に名前をバラされるまでオレの名を知っていたのはここ最近じゃ、アイツだけだったな
まあ、ともかく
それ程までにオレはアイツに感謝してるって訳だ
ーーー
ーーー
ーーー
[ほれ、話してたらもう降りる駅だぞ]
“あっホントだ”
車内案内表示放置は目的の駅の名前を示していた
話に集中してたみたいで気づかなかった
まさかヨジロウにそんなに大切な人がいたとは
…私も会ってみたいな
[さ、降りる準備しなきゃだな]
そう言いながら彼はスズランのしおりを挟み、雑誌を閉じた
《スズランのしおり》
ヨジロウが機械だった頃に恩人から貰った宝物
本体に戻り、日用品を転送出来るようにするため義手に登録する際に一番最初にしたもの
当時色々な本を読んでいたところを見たサクラコが先輩から教わり、自作した押し花のしおり
スズランは押し花に適しており、花言葉も合っていたので自分で綺麗なものを探し丁寧に作成した
ヨジロウはそのしおりを本に挟むのが好きなのだが
ミレニアムでは電子書籍が流通していたので使う機会が無く、今では雑誌に挟んだりしている
貰った時は喜んだ
ケイからのミサンガの時のように騒いだりせず、リアクションをするつもりはなかったのだが
内心では同じくらい喜んでいたので、贈った当の本人にはバレていた模様
時折、しおりを見てはニヤニヤして他の人から気味悪がられる
《スズラン》
花言葉 : 純粋 謙遜 『幸福の再来』