「ふぅ…」
紅茶を口に含み、一息つく
…眠れない
「もう、こんな時間ですか……」
テーブルの上に置かれた小さな懐中時計を見つめ、私は呟く
今日、全てが決まる
エデン条約を前にした最終調整日程
今日の試験を以て補習授業部の方々は退学となり、自身は調印式まで姿をくらます
正しい、私の行動は正しい筈です
…一つ、心残りがあるとすれば
「ごめんなさい、ヒフミさん…全ては、平和のためなのです」
自分とよく話をし、仲良くしてくれた相手…ヒフミさんのこと
コンコン
部屋に響くノックの音
「……紅茶でしたら、もう結構です」
そう扉の奥に向けて声をかければ、返ってくる言葉は
[紅茶か、最近飲んだ中じゃジャスミン茶が好きだな]
「なっ!?」
[ん?ジャスミン茶って紅茶だっけ?…まぁいっか]
い、いつの間に!?
誰?と言う疑問はその特徴的な
現に振り向けば私の座る椅子の背もたれに腕を乗っけて見下ろす男性
私は勢いよく扉に目線を向ける
(扉は開いていません…と言うより)
「今晩は、ナギサさん♡」
「……」
今、開きました
開いた扉の前に立ち、こちらを見る二人
ガスマスクをつけた白髪の少女の隣にいるのは
「ハ、ハナコさん…っ!」
[おっと、茶会中に突然の立席はマナーが悪いぜ?後輩]
驚きのあまりに席を立つ…と言う仕草でこの場から逃げようとしましたが
椅子の背後から肩を抑えられ、ストンッと呆気なく席に座らされ
[よしよし]
そして何故か頭を撫でられる
(逃げるのは…不可能…っ!)
私がその行動に若干の不気味さを感じているその間にも、話を進める三人
[今のセーフハウスって87もあるのな、ユスティナの時より5倍以上に増えてるの何なん?やっぱ女子高生って屋根裏部屋とか好きなのか?]
「まだ言っているんですか…貴方が妄想癖なのは分かりましたからもう良いです」
「屋根裏部屋か、身を潜めるには丁度良いが逃げ場が無いな」
そう言う時は爆弾でも大量に置いて生き埋めにしちまえ、と三つ編みを弄りつつ答える
…結構怖いこと言いますね
(思考が落ち着いてきました、もう明らかです、トリニティの裏切り者は個人ではなく複数人…!)
そもそもこの人どうやって後ろに立ったのでしょう?
扉を開けて…例えばハナコさんに注目している間に素早く移動するのなら分かりますが…
まさか天井から?それに、いつまで頭を撫でられるのでしょうか??
「トリニティの裏切り者が個人では無く複数人と思っているナギサさんに一つ聞きたいのですが」
思考を読まれているかのように話すハナコさんに驚くも
そんな思いは次の言葉で吹き飛びました
「何故、ヒフミちゃんも退学にしようとしたのですか?」
何故…何故ですか
「そうですね。ヒフミさんに悪いことをしたかもしれません。ですが、後悔はしていません。すべては大義のため、確かに彼女との間柄だけは守れればといい思っていましたが、私は…」
「試験会場までも爆破しましたよね」
[オレは結構気に入って「ヨジロウさん?」イッエサー!!口を慎んでいるであります!]
ハナコさんはヨジロウさんに注意を促した後
少し息を吐いてから言いました
「私たちにも一応リーダー的存在がいるんです。そのリーダーからのメッセージお伝えしますね
『あはは、楽しかったですよナギサさんとのお友達ごっこ』
…とのことです♡」
「…え?」
ーーー
ーーー
[ほい、キュッとな]
「…っ」
オレは後ろからナギサの首に腕を通して意識を落とす
中身は同じだから頭に血が回らなきゃ『生徒』だろうが皆同じだ
「むぅ…弾倉一つ使うつもりだったのに」
アズサちゃん、今お忍びで拉致するの
弾倉丸々使うとか、どんだけうるさいと思ってるの、バレちゃうわよ?
それよりもオレには気になる事がある、さっきの発言
[エゲツねぇ〜、もうちょっと他人のこと考えてあげろよな〜]
「ああ、少しハナコが怖くなった」
「うふふ、ヨジロウさんにだけは言われたくありません♡」
あれ〜?いきなりディスられたんだけど、オレ何かしたっけ?
ちょっと顔に影が出来てるし…マジで何かしたっけ???
[アズサ、ハナコは怒らせない方が良さそうだぞ]
「うん、先生達にも伝えよう」
「うふふふふふふふふふふふふふふふ♡」
…壊れた?
ーーー
ーーー
[おーい!ユミちゃんとヒフ…以下略ー!]
「「面倒くさがって略さないで!」下さい!」
作戦通りにオレ達はユミちゃん含めたヒフミとコハルの三人に合流した
作戦とは殺害予告されているナギサを拉致…保護すると言うものだ
当然予告通りにアリウスの子達が来たのだか、アズサが相手した
アズサはゲリラ戦が得意だからな
来ると分かっているなら罠なんて張り放題だ
そのおかげでバーゲンセールみたいに襲撃者をバッタバッタと倒したのだ
隣にいたハナコからの『お前は働かないのか』と言う視線がビシビシと来たのが印象に残っている
何なら今も背後から感じる……あれ?これって殺気?
まあ、別に加勢しても良かったのだが
ずっと一人で戦ってきたからネルとかの近接はまだしもゲリラ戦はきつい
罠の場所やその種類、それらを覚えなきゃいけないのが面倒くさい
あとアズサが結構強い…いやかなり強い
これじゃ足引っ張って邪魔になると判断した結果だ
そんな『こいつ本当に仕事出来るのか?』みたいな目で見られる筋合いはないね
[そんな目で見るなよ…ほら、ナギサをここまで丁重に運んできたじゃないか]
“その割には髪の毛ボサボサだよ?”
ありゃ、本当だ
オレは右肩に担いだナギサを見る
[しまったな…シートベルト着けるの忘れてた]
「えっ、ヨジロウってシートベルト付いてるの!?」
[何言ってるんだコハル、ヒトにシートベルトなんて付いてる訳ないじゃないか]
「なっ!!?」
どーりで走ってる途中に視界が遮られて邪魔だと思ったわけだ
隣からワーキャーと聞こえる
[まだ、何だろ?悪趣味め]
“ふふ、そんな謂れの無いこと言わないでよ、ただナギサを襲おうとするアリウスの
お〜こわ
堂々と罠にかけて返り討ち発言をニッコリ笑顔で放つユミちゃんを見てオレは思う
どうやらオレ達にある頭の辞書には随分と齟齬があるようだ
…発行日調べてみる?
[あ、そう言えばオレ]
ーーー
ーーー
ーーー
鳴り響く銃声
空を飛ぶガスマスク
バッタバッタと倒れるアリウス諸君
それを見てオレは騎士ブレインを最大限にまわし
今まで読んできた大量の書物から学んだ語彙力を振り絞り
この思いを口にした
[や、やべぇ〜…]
、と
いや…いやいやいやいや、何あれ?
え?おかしくね?話通りだと相手アリウスの部隊よ?
確かに本気の指揮は初めて見るが…おかしくね??
今まで美食研究会の相手とか、その他諸々は見とことあるが…
数的有利って言葉知ってらっしゃる???
[やっぱ
オレは隣にいるハナコに話しかける
「そんな状況で話しかけないで下さい」
[え?あ、ゴメンさっさと
「……っ!」
「ぐっ…」
ハナコに注意された事と
「いきなり『両腕それぞれで敵の首を絞めている人』に話しかけられる気持ちを考えてください」
[ごめんて]
とりあえずアリウスの二人の意識を消す
オレは先ほどから意気揚々と、ハキハキと指揮するユミちゃんを遠目で見ながら質問する
だっておかしいもん、何で援護のハナコ含めた四人で対抗出来るのさ
アズサは強いのは分かる、コハルも…一応は正義実現委員会の端くれだし、一応(ここ大事)
ハナコもその頭脳で援護をしてる、だがヒフミ…テメーは何だ?
お前平凡じゃなかったのかよ、バリバリ前線はってんじゃねーか
あ、なんか投げた……うわキモ!ヘドロ様出てきた!!
大好きなキャラをデコイにしてんじゃねぇーよ!!!慈悲もねぇのか!!
ちなみにオレはカウントしなくていい
オレはあくまでユミちゃんの護衛なので後方を狙って来たやつだけ仕留めている
さっきの二人もその狙って来たやつだ
[それで…どう思うよ]
「まあ、先生が指揮すると普段以上の力が出るのは確かです」
それに立ち位置も完璧ですし、と付け加えるハナコ
それだ
その『立ち位置が完璧』が一番やばい
王女のやっていたゲームみたいに俯瞰視点で見てんのかと思うくらい完璧だ
…なんだコイツ、新手の変態か?
“なになに?私の話?”
[あ、すいません、あまり近づくと変態がうつるんで離れて下さい]
“あれ〜??急に悪口言われたんだけど〜???”
少し余裕ができたのか、こちらに
戦闘してるのによそ見してんじゃないわよ
[前々から思ってたが、やっぱ
オレはトボトボと後ろ姿を見せるユミちゃんの腕の中にあるもの
それはオレみたいに首を絞めたアリウス兵……じゃないね、はい、すいませんでした
改めて
オレは腕の中にあるタブレットに目をやる
(アレは何だ?画面から戦場を把握できるみたいだが…見たところドローンとかが浮いてる様子でも無い。それに味方への
まっ、どっちでもいいが
それよりもだ
「くっ、増援が来たか…っ!」
「ちょ、ちょっと!どんだけ居るのよ!」
わらわらと物陰から出てくるアリウスの増援
まあ
いつかこうなると思っていたが…
「お、おかしいです!いつまで経っても正義実現委員会の方達が来ません!」
確かにおかしい
作戦通りならそろそろ来てもいい頃だ
コハルがあの…
同じようにアリウスが正義実現…長い、『正実』でいいや
それで、正実の方にも向かっているのか?…いや、それこそ数的不利で無いな
[もしくは誰かが魔法陣でも作って召喚「ヨジロウさん?」はい、真面目に考えます]
最近ハナコがおっかない
他のやつには下ネタ言うのにオレには言わないのだ……まあ言われても困るんだけど
何かしたっけ?
「それは仕方ないよ」
え、オレ何かしちゃいました?
「正義実行委員会は私が厳戒態勢を取っておくように命令しておいたからね」
ああ、そっちか
…とう言うか
“ミカ…?”
「黒幕登場ってやつかな☆」
な、なにぃーーーー!!!ま、まさか!ティーパーティーの人間が!?
おいおいおい!どんだけ腐ってんだ今のトリニティ!!
「先生、久しぶり…ってほどでも無いけど久しぶりだね」
どっちやねん
マジか、マジか〜、こんな事になってんのかよ…
いや、サクラコからそんな節の話は聞いていたが…思いの外ショックがでかい
「コーチ、大丈夫ですか?」
[ああ、オレの青春時代がどれだけ煌めいていたか再確認していただけだ…]
「おじさんみたいなこと言ってる」
やめい、こちとらまだまだバリバリ現役の……何歳だ?もう1000歳とかでよくない?え、ダメ?
それよりも
「ナギちゃんを渡してくれない?ヘイローを破壊するとかしないから…まあ、卒業まで監獄で過ごしてもらうかもだけど」
「平和条約は…嘘だったのか?」
アズサが少しだけ声を振るわせ、質問を口にする
「あなたは… 白洲アズサだね。貴方にも用事があるんだ、だってナギゃんを襲った犯人になってもらわないといけないからね」
そんな言葉を皮切りにアリウス諸君がこちらに銃を構える
“ナギサは隠したよ、それに絶対に渡さない”
「あは、交渉決裂だね☆」
戦いが、始まる
しかしこの後
オレはこの戦闘に参加するんじゃなかったと
心の底から後悔することになるのであった
嫌われる理由:何もしなかったから
次回、やろうぶっ56してやる