堪忍袋の尾が切れるとかじゃなくて堪忍袋自体をダイナマイトで爆破する様な…そんな話です
「…ねぇ」
“どうしたの?コハル”
「ヨジロウってさ、もしかして結構強いの?」
“ん〜、本人曰く『大勢の方が得意』って前に言ってたし…あと近接は強いと思うよ?”
「……水とかかければ大人しくならないでしょうか?」
「ヒフミ、あれを見てもそれが言えるか?」
「流石に無理だと思いますよ♡」
雑談を終え、私たちは目を向ける
私たちの視線の先の終着点
そこには
【
悪魔と化した、
ーーー
ーーー
何故こうなったのか、説明しようと思う
戦闘が始まってから私たちは苦戦していた
減ることのないアリウスの部隊、一応倒して入るものの訓練された個々の実力
加えて途中から参加し、黒幕として現れたミカの攻撃
さらに加えて『ゲヘナへ全面戦争を仕掛ける』と言う発言
それ等によってみんなが疲弊し、状況は混戦を極めていた
そして
“アズサ!後ろ!”
「む!ありがとう先生!」
私はアズサの死角から狙おうとするアリウス生に気付き、声を上げる
忠告を受け取ってくれたアズサは後ろの敵にほぼノールックで銃を撃ち、見事額に当てて倒した
倒されたアリウス兵は最後の悪足掻きか、発砲
パンッ
この戦場で嫌になる程聞いた乾いた音が響く
撃たれた先、つまり射線には誰もおらず、戦闘の影響で瓦礫と化した壁のみ
そう、
突然だが、『跳弾』と言う現象がある
銃弾や砲弾などが目標に命中せず、壁や地面などの障害物に当たって跳ね返る、というものだ
何故こんなことを今説明したかと言うと…まあ察して欲しい
そのまま弾は進み、瓦礫の中に鉄にでも当たったのか、金属同士がぶつかる音が鳴り響く
それがこの戦場でいやにはっきり聞こえたものだから全員の気がほん僅かにそちらに向いた
ただ、
[嫌だなぁ、アリウスとまた戦うの、天国であいつ等に怒られ『パスッ』ん?何の…音……]
何か考え事をしていたのか
ヨジロウは自分の方へ横から飛来してくる銃弾に気づいていなかった
「ヨジ…っ!」
アズサが叫ぶ
しかし銃弾の方が圧倒的に速く、声が出たのは全てが終わった後だった
結論から言うと、彼自身に肉体的損傷はほぼない
そう、
”「「「「あっ」」」」”
[…あ?]
その銃弾は彼の
きっとあの銃弾は勢いを無くしてそのままあっさり落ちるか
何かに当たって止まる、
しかしこの場において、あの銃弾は彼女達にとってのパンドラの箱だったのだろう
いや、もっと簡単に言うのなら触れてはいけない『逆鱗』の方がいい
ポトッと、軽い何かが落ちる音がする
私と補習授業部はあまりの光景に一瞬動きを止め
その行動が何かあるのかと思ったのか、それとも他の理由があったのか
アリウスの生徒達とミカもその動きを止めーーーー硬直
先程まで銃声が鳴り響き
あんなに騒がしかったこの場に、謎の静寂が流れる
[………]
最初に動き出したのは、ヨジロウ
でもその動きは不自然で、まるで機械の頃に戻ったのかと思うほど
まるで体が錆びついたようだった
頭が軽いと思ったのか
ギギギッと、音が鳴りそうな動きでうなじ付近に手を伸ばす
彼は
さっきよりも、更にゆっくりと自分の背後…その足元を見る
何故かこの場の全員が戦いの最中であるにも関わらず自分勝手に動く彼に注目していた
オーラ、それとも雰囲気と言うヤツだろうか
『今騒いだら何かされる』、そんな認識が私達にはあった
そしてヨジロウは
ようやくその事実を理解することができたのか私の方に近づいてきて
預かってくれ、という意味だろう
そして彼女たちを指差し、アズサを見た
「…?……!!」
アズサは察したのか、コクコクと少し焦った様に首を縦に振る
そして彼は了解、また理解の意を表す様に頷き
一歩、前に出た
アリウスの銃器が僅かに音を鳴らす
二歩目、彼は鎧を転送して装着し、右手の剣をより握り込む
そして、最後に口を開き
長く感じた静寂が終わりを迎える
【……言い遺すことは?】
ーーー
ーーー
これがつい5分前の話
【三つ編みの恨みぃ!!まだまだ晴らさせてもらうぞガキ共ォォォ!!!】
「ひっ!ま、待っ【問答など無用!掃き溜めに捨てたるわ!!!】ぎゃあ!!」
ヨジロウの三つ編みが跳弾で撃たれた時はどうなるかと思ったけど……こうなった
めっちゃ予想通りだった
私は生徒を導く先生だ
そのためにこの職業に必須と言っていいものが『知識』
私は今まで生徒と語るために鍛えてきた言葉をフル活用して言う
“や、やばぁ〜…”
、と
勘違いしないで欲しいけど
超スピードとか、スーパーパワーとか、殺気で怯ませるとかは無い
もっと単純、単純に
「コーチ、容赦が全く無いですね…」
まさにその一言に限るのだ
ガスマスクの空気穴に転送したテープやら土を詰めて窒息させようとしたり
その上から殴ったり、蹴りを入れたり、踏みつけたり
剣でボールを打つ様に頭を目掛けてフルスイングしたり、マスクごと頭突きしたり
鳩尾に思いっきり突き刺したり
奪った銃を撃たずに二刀流として振り回したり
動かなくなったアリウス兵を盾にしたり
そのアリウス兵を武器の代わりとして振るったり投げたり(おまけに奪った手榴弾付き)
逃げようとしたらそこら辺の瓦礫を投げて足止め、その隙に一撃を入れる
…相手、女の子ですよ???
加えて趣味の背後取りで後ろからの不意打ち
あれ本当に気配が無いからアリウスにはいきなりホラーが始まった様なものだ
騎士道とか正々堂々とか無いでしょ、あれ
【六文銭と酔い止め持ったか!?お前等は今から三途の川の舟に乗るんだからなぁぁぁぁ!!!】
君は地獄の鬼って事かな?
見なよ、ミカが口を開けてポカンとしてるよ
さっきまで黒幕として登場したのにあんな惨状が始まったら…どっちが悪か分かんないよね
“やっぱり暗殺者じゃん…”
私はいつか言った言葉を口にする
それに反応したのか、皮切りに補習授業部も思ったことを口にする
「私は一応裏切り者なのだが…ちょっとアリウスが可哀想になってきた」
「ヨジロウさんにはいつかバチでも当たって欲しいと思ってましたが…流石に同情しますね」
「コーチが言う騎士って嘘じゃなかったんですね…」
「いや何あの鎧!どこから出したのよ!」
全くもってその通りである
私がウンウンと頷いていると背後から声をかけられた
「あ、あの先生」
“…あれ?サクラコ!?”
恋するシスターがどうしてここに!?
ハッ!愛の力か…っ!?
「ティーパーティーの聖園ミカさんの身柄を拘束しに来たのですが…」
後ろからおずおずと声をかけるサクラコ
しかも更にその後ろ、サクラコに続く大勢の武装したシスターの姿があった
「シスターフッドが何で……浦和ハナコっ!」
「はい、来てくれるよう少々
ハナコの声が少しづつ小さくなっていく
……うん
【多勢に無勢だと思ったかバカめ!!
遠くから反対に大声が聞こえる、めっちゃキレてる
そろそろ声が枯れないか心配になってくる
あぁっ…!マリー含めた他のシスター達がすごい困惑している…っ!
まあ、あんな地獄を見たらそんな顔になるでしょうね
……あっ、違うみんな!あれ敵じゃない!!すごく敵っぽいよね!でも敵じゃないから!!
【もうアリウスだとかどうでもいい!!
“ちょっと泣いてるじゃん…”
「あの…ヨジロウ様にどうにか落ち着いてもらえるようお願いしてきます」
こちらこそお願いします
いやホントあれをどうにかするのサクラコしか思い付かないから本当に助かる
私は他のシスターを連れて
もはやモンスターに挑む主人公の様だ
…なんかこんな内容の映画、昔見たことがある気がする
“さて…”
気を取り直して私はミカの方を向く
アリウスの部隊は全員ヨジロウがひきつけてる(本人はそんな認識はないと思うけど)、ので
ミカは現在この戦場で孤立している状態だ
“ミカ…終わりにしない?”
「…そうだね、最後に抗おうかと思ってたけどアリウスの部隊は全員あの鎧の人に行っちゃったし、シスターフッドも来ちゃった、もう私に勝ち目なんてないよ」
ミカは自分の状況を顧みたのか銃を手放し、そのまま重力に従って地面に落ちた
そのまま強がる様に、強い後悔の念を込めた目で語る
「…どうして?セイアちゃんが襲撃された時ですら動かなかったシスターフッドが今介入するなんて、冗談にも程があるよ……本当に殺すつもりじゃなかったの、今の私が何を言っても言い訳になると思うけど…多分、事故だった、セイアちゃん、元々体が弱かったし……それに……」
「……ミカさん、聞いてください」
ポツポツとミカは懺悔の様に言う
するとハナコがその様子に何か思ったのか、意を決した様に口を開く
「……セイアちゃんは生きて【撫で切りだ!根切りだ!このバカ共ぉぉぉ!!!】…ます。それとヨジロウさんは後で思いっきりビンタします」
たった今ヨジロウの処刑が決まった
【どうせ
「あ、ありませんよっそんな一文!マリーとヒナタさんも手伝って下さい!」
「「は、はい!」」
しすたーふっどがんばえーー!!
がんばってわるい(悪くない)きしをやっつけてーー!!
私は心を童心に戻して応援する……え?見苦しい?
……いくつになっても私の心は少女だよ、死海文書にもそう書いてあった
そんな様子を見たハナコはため息を吐いた後、再び口を開く
「改めて…ずっと偽装していたんです、襲撃の犯人が見つからなかったので、安全のためというのもあって……トリニティの外で身を隠しています」
「セイアちゃんが…無事…?………よかったぁ」
ミカは本当に力が抜けたのか、ペタリと地面に座り込んでしまう
「…降参、私の負けだよ」
「あ〜あ、どこで間違っちゃたのかなぁ?」
「浦和ハナコはとんでもない存在ってのは知ってたけどいつの間にか無害な存在になっていた」
「それこそ、変数として計算しなくてもいいくらいに」
「アズサちゃんはただの操り人形」
「…ヒフミちゃんはただの普通な子で」
「コハルちゃんはただのおバカさんでしょ?」
「変数になる様な存在じゃなかった」
ミカはもうどうなってもいいと思ったのか、堰を切ったように話し始めた
私たちは耳を傾ける
“…………”
「それなのに、どうして負けちゃうのかなぁ?」
ミカは私と目が合うと少し微笑んで続きを話す
「そういえば、一番大きな変数を忘れてたね」
…もし、もしだけど
その一番の変数が私のことを指そうとしているのなら、それは間違いだよ
これだけは胸を張って言える、絶対に私じゃない
「ねえ、先s【バーカ!バカバカバカ!!バーーーカ!!】………」
【今すぐミレニアムに戻って王女にプロトコルATORAHASISを起動して貰う!グスッ!世界なんてアーカイブ化しちまえばいいんだバーカ!!ズビッ!】
「ヨジロウ様!あ、あとらはしーす?が何か存じ上げませんが落ち着いてください!!よ、よしよししてあげますから!!」
「ヨジロウ様!?この鎧の中の人ってヨジロウさんなんですか!?あっヒナタさん!そっち押さえてください!」
「
サクラコ、マリー、ヒナタが三人がかりで今尚暴れるヨジロウを羽交締めしている
一応手加減している様だけど必死にヨジロウは抜け出そうとしているようだ
見ようによっては美少女三人に抱きつかれているのだが…
何故だろう、本人の事と状況を知っているからか全く羨ましくない
「えい!」
【ゴファッ!?】
「「ヒナタさん!!?」」
ジャーマンスープレックス!?
ウソ!ヒナタってジャーマンスープレックスできる系シスターだったの!?
鎧を着てはいるものの、見事に頭から地面に激突しヨジロウは起き上がる気配がない
…と言うか今の音大丈夫?地面揺れたよ??死んでない???
“…………”
「…………」
私とミカの間に微妙な空気が流れる
何だっけ?今回の出来事での一番の変数だっけ?
なら、もう一度言わせて貰うね
“……絶対私じゃない!!!”
私の声は全てが終わった戦場に跳弾のごとく跳ね返り、高らかに響き渡ったのだった
ヨジロウ は くたばった !
次回、掲示板