結構頑張ったから一旦これで許してちょ
「ヒナタさんが何故私がヨ、ヨジロウ様の事をす、好きと何故知って……」
「それはマリーさ「わー!わー!ち、違うんです!ついポロっと!!」
朝、大聖堂でヒナタさんの発言で私は目をグルグルと回す事になりました
話を聞けば昨夜のクーデターの際に私とヨジロウ様の様子を見て疑問を持ったヒナタさんがマリーに聞いたところ口を滑らしてしまったの事。マリーはペコペコと謝りながら説明してくれました。ヒナタさんはマリーに内緒と言われたものの、それが私とマリーとヒナタさんの『三人』との間と勘違いしたらしく、本当はマリーとヒナタさんの『二人』という意味で話したそうです。
「すみませんでした……」
「謝らなくてもいいですよヒナタさん。話を聞けば誰かが悪いというのも無いみたいですし、よくある勘違いですから………………私もよく勘違いされるので分かります」
「あの、サクラコ様は何故この時間に大聖堂に?いつもなら事務仕事をされてたと聞き及んでいたのですが」
えぇっと……それは……
突然の質問に私が戸惑ると二人は頭にクエスチョンマークを出し、まるでタイミングを合わせた様に大聖堂の扉の開く音が教会内に響きます
来てくれた!
[クソッ……ハナコのやつ思いっきりビンタしやがって、まだ脳みそ揺れてる気がするぞ]
私は胸を高鳴らせながら振り向きます
今日は昨夜のお詫びとトリニティを去る前の挨拶として訪れる約束をしていた彼
両手に紙袋を持ち、虎の洋服を着て、髪は短くなり、
扉付近で立ち止まり、駆け寄る私を見つけてくれて
彼はニカっと笑う
[よっ、来たぜサクラコ]
「よっ、です!ヨジロウ様!」
ーーー
ーーー
オレ達は今大聖堂の……休憩室?スタッフルーム?に偶々居合わせた他のシスター達も呼んでお茶会の準備をしている
「むぅ……ヨジロウ様、動かないでください。それで、何故頬にお怪我を?」
[……過去の行いが巡り巡った因果律によって引き起こされた事象の結果、とでも言うべきか]
「つまり自業自得ってことですね」
物分かりが速すぎるぜマリーの嬢ちゃん……
オレは物分かりがドラッグカー並みに速すぎるマリーの嬢ちゃんに慄く
自分ですら途中から何言ってるのか分からなくなったのによく分かったね
テーブルに皿を置く手を止め、大人しくサクラコによって頬に貼られた湿布を、更にテープで固定される
今日大聖堂に来た理由は至極単純、昨日オレがやらかした件についてお礼と謝罪、あと可愛いシスターフッドの後輩達への差し入れ
[今日の朝クッキー焼いて来たんだ、他のシスターにも分けて……うんサクラコ、もう大丈夫だから、そこまで痛いわけじゃないから、それ以上テープを貼ると顔面の半分埋まっちゃうから]
「……ヨジロウ様がお怪我をされるのは少し……不安になります」
いやまぁ、そうは言っても実際自業自得だし、別に言うほど痛くはないのだ
双方合意の上でのビンタなのである
個人的には頬に刻まれたの紅葉の正体に気づいて慌てるサクラコを落ち着かせるほうが大変だった
ハナコには大聖堂に向かう途中バッタリ会ったら『ビンタさせろ』って言われたのだ。何でも今までの鬱憤をトリニティから去る前に晴らしたいだとか何とか。勿論拒否しようと思ったがハナコの眼光にビビって……じゃなくて己の非を認めて素直に受け入れる事にしたのだ。決して笑顔のくせに目が無表情を極めて怖かったとか、遠くの方でユミちゃんが死刑執行を見る様な目を見て逃げることができないことを悟ったとかじゃ無い。そう、無いのだ
後でユミちゃんに聞いたのだがオレは回りながらハナコから3m程飛んだらしい
……距離じゃないぞ?
通りで頬より身体中が痛いわけだ、どっかで誰かが落ちた様な音がしたから不幸をシンパシーしてたのだが……オレかよ。
頬の衝撃がヤバすぎて気にする事ができなかったぞチクショウめ。
ハナコはそのあと『今まで色々誤解してすみませんでした』と結構真剣に謝ってきた
ビンタした相手にいきなり謝るとかサイコパスかな?
そのくせビンタは衝撃や頬の跡のみで別に痛くないって何なの?
合気道とか言う奴?ボクこわくなってきたよ
[何となくだけど、ハナコが水着でホース片手に持ったら勝てる気がしないよな]
「よく分かりませんでしたが……大変でしたね」
[ん?……ああオレを地面に叩きつけた嬢ちゃんか、迷惑かけて悪かったな。それと礼を言うぜ、あの時は頭に血が昇ってたからあの衝撃で目を覚ます事ができた……失神したけども]
「若葉ヒナタです!こ、こちらこそ申し訳ありませんでした!」
元気があって大変よろしい
こんな娘のどこに2mの鎧をジャーマンスープレックスする力があるんだか
死刑を執行したハナコもそうだが……まったくこれだから『生徒』という存在はわからない
おや?ヒナタや他のシスター達は差し入れのクッキーに興味があるのかい?
まったくしょうがないな〜
ユスティナで半ば強制的に鍛え上げられたお菓子スキルを味わうが良い!
さあ!お茶会タイムだ!
ーーー
ーーー
「このクッキーとても甘くて美味しいですね!」
「本当ですね、紅茶によく合います」
「ヨジロウさん、ありがとうございます」
[喜んでくれて何より、昔さんざん作ったからレシピ覚えてて良かった良かった]
今、私たちは偶々教会にいた他のシスターも含めて応接間でお茶をしています
ヨジロウ様がお詫びとして買ってきてくれたクッキーを他のシスターの方が美味しそうに食べています。
「ヨジロウ様、こんなに沢山のお菓子を頂いて……お金の方は大丈夫なのですか?」
[大丈夫だ安心してくれ、材料費だけだし、それにいざとなったらバイトでもしてみようと思うんだ]
それは大丈夫ではないのでは?
別に先生じゃなくても私に相談してくれればサンドウィッチを作って差し上げますのに
それこそ今までみたいに毎日……
いいえ!ダメですよサクラコ!
ヨジロウ様がご自分で考えた事なので私がするのはお門違いというものです!
「わぁ……この虎さん、迫力満点ですね」
[スカジャンって言うんだ、ダチからのプレゼントでな、良いだろ?]
虎の服……
話ではミレニアムの方で仲が良くなった方からのプレゼントと聞きました
「………」
何でしょう、皆さんがヨジロウ様とお仲が良くなるのはとても嬉しいのですが、心の奥底でモヤモヤとしたものをを感じます。
「サクラコ様、浮かない顔をしていますね……」
「きっとジェラシーですよ!……多分!」
マリーとヒナタさんが話しているのが聞こえます
遠くであまり聞こえませんが、『じぇらしー』とは何のことでしょうか?
[どうしたサクラコそんな浮かない顔して?そんな時はクッキーが良いって古いトモダチが言ってたし、ほら口開けな]
「い、頂きます、あー…………本当です、とっても甘くて美味ひいです!」
[だろ〜?]
ニコニコしながらヨジロウ様は私のカップに紅茶を注いでくれました
口に残るクッキーの甘さを覚えつつ、紅茶を一口含みます
香りもとても良くて、体の底から暖かくなるのを感じます。ヨジロウ様が仰るように浮かない顔をしてはいけませんね、彼がどのような方と知り合いになろうと私は構いません。私はそんなヨジロウ様が好きになったのですから。
ーーー
ーーー
「マ、マリーさん」
「……はい、ヒナタさん」
私達は紅茶を飲むのをやめました
……と言うより、動けなくなったと言うのが正しいでしょう
理由はといえば、今起こった現象に私達の脳がエラーを起こしたからです
「見間違いだったら申し訳ないのですが……今、ヨジロウさんがサクラコ様に『あーん』、しました?」
「大丈夫ですヒナタさん、見間違いではないですよ、私も見ました」
私だけではありません、他のシスターもです。
その証拠に私達と同じ様に紅茶を飲もうとして中途半端なところで空中に留まっています。あちらの方はクッキーを食べようとして口を開いたまま目を見開いていますね。
それに先ほどから思っていたのですが何気なくヨジロウさんの隣に座ってますし、他の方に比べて距離も近く、ヨジロウさんに喋りかけられた時は顔を少し赤らめて普段私達には見せることのない
え?あの状態で嫉妬心が湧くのですか?……いえ、確かお二人は中等部の付き合いの様ですし、このくらい意識することではないのでしょうか?
「肩、触れてますよ?」
「本当ですね…」
そんな行動をするサクラコ様はまるで恋する乙女のような………サクラコ様、もしかして隠す気ありません?
「……無自覚って怖いですね」
「そうですね……あ、いい香り」
私達二人は紅茶を飲む手を再起動させてそう呟きました
ーーー
ーーー
ーーー
[いやもうホント三つ編みの件、なんて報告すりゃいいんだ……王女に嫌われたくねぇよぉ……]
「だ、大丈夫です!きっと王女様?も事情を話したら許してくれます!」
「マリーさん、王女ってどなたですか?」
「なんでもミレニアムの一年生と聞いていますが……」
「えっ、それってロリk」
ーーー
ーーー
[これ約束してたサクラコ人形、あげる]
「わあ!ありがとうございます!」
「ヨジロウさんが作ったんですか?!小さいので棚とかに飾ったりしたらいいかもです!」
[本当は等身大の人形を作ろうといてたんだが、ユミちゃんに止めろって言われて断念したんだ]
「先生、懸命な判断だと思います」
ーーー
ーーー
[せるふれじ……ああ、最近出始めたアレか。え?もう出回ってんの?]
「マリーはよく知ってますね、若者だからでしょうか?」
「お二人とも十分お若いのでは??」
「このクッキー美味しいですね!」
ーーー
ーーー
「その……トリニティには美味しいと評判なミラクル5000と言うお菓子がありまして……それで……えっと…是非ともヨジロウ様と……なので連絡先を……」
[……そう言えば連絡先交換してなかったな、交換する?]
「は、はい!!」
((まだ交換してなかったんですか!?))
ーーー
ーーー
そして現在
[そろそろ帰るけどサクラコ、今度はその有名なお菓子とやらを食べに行こうな]
「はい、またいつでも遊びに来てくださいね」
マリーやヒナタさん、他のシスターがヨジロウ様と別れの挨拶をしているのを視界に入れながら私は自分の手元を覗きます
スマホに表示される『騎士』の単語
それは想い人を表わす言葉、私は思わず頰が緩みます
……えへへ、ヨジロウ様の
モモトークの交換の仕方がヨジロウ様も分からなくて一時はどうしようかと思いましたが……
ありがとうございますマリー……!
私が心の中で浮かれているとこちらへ来たヨジロウ様が少し声を小さくして言います
[それじゃあ帰るけど……サクラコ、さっきは悪かった]
「大丈夫です、お気になさらないでください」
私は本当に気にしていないと示すように笑いかけます
その反応を見たのか、ヨジロウ様はホッとした表情をして帰路に着く様です
それに伴いシスターの方々が別れの言葉を紡ぎます
「クッキーありがとうございました」
「紅茶もとっても美味しかったです」
「またいつでも来てくださいねー!」
[おう、お前らも風邪ひかないように気ぃつけろよ?布団は温かくして歯はちゃんと磨いて、あと過度な夜更かしはしないように、今度会った時にお菓子食べられなくても知らないからな?]
「「「はーい!」」」
……お母さんでしょうか?
「それにしても先ほどの……ヨジロウさんも抜けているところがあるのでしょうか?」
「ヨジロウ様は時々どこか抜けているところがありますよ?……ですがあのように間違われたのは初めてですね」
私は先ほどのお茶会のことを思い出します
それは私のカップが空になったことに気づいたヨジロウ様が、紅茶のおかわりを聞いてくださった時、この場にいない誰かと私を間違えてしまったのです
『え?えっと……私のことですか?』
『……いや…悪い、間違えた、違うんだ忘れてくれ、つい懐かしくなって……すまんサクラコ』
ヨジロウ様はとてもバツが悪そうな顔で謝ってくれましたが……
一体、どなただったのでしょうか?
ーーー
ーーー
ーーー
[やっちまったぁ……]
オレはついさっきサクラコとの会話でやらかした事を思い出す
[今まで間違えることなんてなかったのに……]
シスター達に囲まれてお茶会したせいか、それとも大聖堂にいたせいか、はたまたその両方か……
性格も、容姿も、声色も違うのになんで間違えたのかねぇ
[ふっ、オレも歳か?随分とボケたもんだ]
誰も見てないのに言い訳をし、若干恥ずかしくなりつつもオレは目元の涙を拭いた
目頭が熱かった、鼻の奥もツンとする
随分と懐かしい気分になった、オレの人生でたった一回の、唯一の青春
本当に大切で、一瞬で過ぎ去っていた、たった数年のかけがえのない思い出
ふと一瞬だけ大聖堂にみんながいる幻覚を見てしまった
[良い子ばっかりだったな]
サクラコ、マリー、ヒナタ、それに他のシスターも良い子達だった
みんな笑顔で元気よく挨拶してくれるし、お菓子をあげると素直に喜んでくれる
大聖堂も綺麗に掃除されてるし、備品も大事にされている
ヒナタが壊す事があって申し訳ないとか言ってたけど……ま、偶にはやんちゃな子がいてもいいだろ、元気があって個人的には何よりだ。今は昔みたいに血生臭い事など全く無い……よな?
いや……無い、無いったら無いのだ。クーデター?黙れオレの中の理性よ、質問するな。
[……懐かしい]
本当に、懐かしい
今は王女がいてこの上なく幸せだが、あの頃もとても楽しかった
また戻りたいと願わずにはいられないし、もう一度みんなの姿を見たい
今でもちゃんと思い出せる、あの頃の記憶は十分にオレの宝物だ
[聞こえてるかみんな、オレ達の後輩は良い子ばかりだったぜ?紅茶も注いでくれたんだ]
オレは空に嘆く
悪いな青空サン、話し相手になってくれよ
[サクラコも組織の長として立派にやってる、さらに今じゃトリニティには正義実現委員会とやらもあるから治安も良さそうだ……相変わらず内面はかなり悪そうだけど]
涙がもう出ない事を確認したオレは振り返る
遠くに見えるのはたった今出てきた大聖堂
昔通っていた頃から変わらず、まるで時代に取り残されているような我が本部
姿が変わらない事に嬉しく感じもするし、同時に何故か切なくもある
オレはつい先ほどサクラコと間違えてしまったのを含めて、改めて口にする
[ともかく、今のところお前が心配する必要はなさそうだぞ……なぁ?]
オレをユスティナ聖徒会に勧誘した張本人であり
背中を任され、オレも背中を任せ
もう二度と会うことが叶わない
大切な
[……バルバラ]
『大聖堂に篭ってたせいで最新が分からないシスター』と『育ちが最先端すぎて今の技術が全てレトロに感じる騎士』の受難
「ところでモモトークはどうやって登録するのでしょうか?」
[さあ?毎回ユミちゃんとかキィが勝手に登録してくれんだけど……マリーの嬢ちゃんは知ってる?]
「私ですか?!え、えっと、まずどちらかがQRコードを出してもらって……」
[「……きゅーあーるこーど?」]
「……私がやらせていただきます」