待ちぼうけの騎士〜天童アリスの護衛従者〜   作:弥次郎兵衛

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すみませんでしたぁ!!

あの後ヨジロウは全く違うことを考えていたようで、自分の思想が腐ってると勘違いした私に謝ってくれた。アリス達にフルーツケーキを買って帰ろうとしてたらしく、今回のお礼として私にも何か奢ってあげると言ってくれた。買ってくれたのクマさんをモチーフにしたチョコケーキだった。

 

……常々思うのだがヨジロウは私を『ちゃん』付けで呼んだりするあたり、何処か子供扱いしている節がある。と言うか、私のことを『先生』と呼んだことなんて………あれ?

 

(待って?無くない?)

 

え?ホント?私一度もヨジロウに先生って呼ばれたことないの?

ここで引き出すのはどうかと思うけどあの『黒服』ですら私のこと先生呼びだったのに?

……なんか自覚したせいか、いつかヨジロウに先生って呼ばせてみたくなってきた

 

私は今の状況と全く違うことを考えつつ

ゲーム開発部のソファにモモイ達と座りながら部屋の中心を見る

そこには───

 

[大変…っ!申し訳ございませんでした……っ!!]

 

「………」

 

アリスに体を震わせながら|土下座をするヨジロウがいた

 

ーーー

ーーー

 

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!

怖い!本当に怖い!!王女に嫌われたくない!!

オレは王女を目の前に、心の中で『怖い』がゲシュタルト崩壊を起こしそうなほど連呼した

いざ目の前にしたら恐怖心が何億倍になってオレの思考を埋め尽くす

 

[王女自らの手で結って頂いた三つ編みを、今回自分の不手際ゆえに破壊されてしまいしました]

 

ゲーム開発部に入って王女を視界に入れると、そのまま自分でも驚くほど速さで土下座した

ズガンッ!と音を鳴らしながら頭を地面に叩きつけたので額にだんだん痛みを感じ始めたし、偶々あったゲームのコントローラーの上で土下座したせいで位置的に脛の下敷きになっていて割と冗談抜きで痛いが、それどころじゃない。Lスティックが脛にめり込んで痛くてもそれどころじゃない

 

[ほ、本当に申し訳ございません、お守りとして頂いたのに解くどころか銃弾に撃ち抜かれるとは、鎧を着るなど対策出来たはずなのにそれをしなかったのは自分の責任です]

 

王女は何も言わない

そして今どんな顔をされているのかも分からない

 

ユミちゃんがフォローしてくれると言ってくれたが部室に入る前に遠慮させて貰った

厚意を踏み割るような行為だが、これはオレの責任だ

オレが謝らなくてはならない、何一つ偽りなく、ただやってしまった事を王女に述べる

ただ……

 

[…カヒュ……ヒュー……ヒュー…]

 

死ぬ、死ねる

息がおかしくなっている事を自覚しながらオレは思う

もしこれで王女に嫌われれでもすれば、本当にショックで自殺する自信がある

悪いユスティナ皆んな、そっちに逝ったらどうかこんなオレを慰めて

 

[どうか、お気の済むままに罰をお与え下さい]

 

ーーー

ーーー

 

『まだアリスが怒っていると思っているのですか』

 

“あ、ケイちゃんお帰り”

 

『ちゃん付けしないで下さい』

 

買ってきた牛乳とフルーツケーキを冷蔵庫に入れに行ったケイちゃんが帰ってきた

ヨジロウも早く顔を上げてアリスの顔を見ればいいのに

ほら、怒るどころか勢いよく土下座したから心配しているよ?

 

実のところ、三つ編み件についてアリスはすでに知っている

ヨジロウがウジウジしていた時に私がメールして事情を話し、怒らないであげてほしいと言う旨を伝えていた

 

そもそもの話、アリスは最初から怒っていなかったし、それどころか危うく首に銃弾が当たりそうだったことを心配していた。

ケイちゃんに至っては『あのバカッ!昔から周りを注意しなさいとあれ程言ったのに、私とアリスを心配させるんじゃありませんよ……帰ってきたら土下座ですね』と怒ってはいたが、それは三つ編み云々ではなくヨジロウ自身を心配してのものだった。

土下座も達成された今、アリスが『怒っていない』と言えば良いのだけれでも……

 

[ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、どうか嫌いにならないで下さい!何でもします、罰なら何でも受け入れます!だからどうかお許し下さい、本当に申し訳ございません!どうか嫌いにならないで下さい!]

 

「あうぅ……せ、先生ぇ……!」

 

ヤバい、ヨジロウが暴走し始めた

若干過呼吸気味だしそろそろ危なくなってきたかもしれない……主に身体と精神面で

 

[そうだ四肢の一本……いえ!この際なら右腕以外の手足を切断します!だからどうか嫌いにならないでください、お願いします!硫酸だろうと廃液だろうと何だって飲みます、だからどうか嫌いにならないで下さい!]

 

“ちょっ、落ち着いて!!”

 

モモイ達も引いてきたので流石にストップを入れざる負えない

と、思ったのだが

 

『はぁ……アリス、ここは一旦任せてください』

 

ケイちゃんはそう言った

 

ーーー

 

[どうか、どうか!グスッ!オレを嫌わないでくださ『ヨジロウ』

 

半ば泣きそうになりながら許しを乞うと名前を呼ばれた

 

『いい加減に顔を上げなさい』

 

……上げるべきだろうか

だけれども怖い、王女の顔を見るのが恐ろしい

どうかいつものあの笑みを見せてほしい

トリニティやここに来るまでの間で頑張って空元気を出してきたが怖い

怖い、人生でこれほど怖いと思ったことなどあっただろうか

オレがそうウジウジしているとキィから溜息が聞こえる

 

『鍵より貴方に命じます、今すぐ顔を上げなさい』

 

[………]

 

そう言われたら断れない

渋々と、オレは命令された通りに顔を上げる

そして目に映るは呆れた様子のキィと───

 

 

 

困った顔をした王女

 

(……?)

 

………何でだ?

なぜ、怒った顔をしていないんですか?

 

『アリスの言葉を遮ることは貴方が一番嫌いな事でしょう、それを自ら行ってどうするつもりなんですか」』

 

[……すみません]

 

そうしてまた一つ、ため息をこぼすキィ

 

『アリスが喋ります、静かにしなさい』

 

[……はい]

 

……怖い、怖いなぁ

オレは王女の為に今まで生きてきた

いつか目覚める王女の為になれと、あわよくば仲が良くなれたらと

そう夢見て、そう心の支えにして今まで頑張ってきた

 

要は好かれたかったんだ

オレに対して良い印象を持って欲しかった

だから努力した、王女にとって頼りになる従者になれるよう努力した

もし困ったことがあれば真っ先に頼りに来てくれる様な、そんな従者になりたかった

ユスティナの皆んなには料理を上手くなれとか、裁縫も出来る様にしろとか色々と言われたし、いっぱい教えてもらった

 

だから嫌われたくない

嫌われたら今までの全てが無駄に思えて、きっと自分の生命活動を終わらせたくなる

 

オレは心が狭いから、自分があげた物を不注意で壊されたら良い気がしない

王女が今どう思っているのかは分からないが、それでもプラスな感情は持っているはずが無い

 

こんなにも怖いと思ったのはユスティナのみんなが時間と共に死んでいった時以来か

もしユスティナの……アイツらに会えたら久々に紅茶でも淹れてあげよう「そもそもアリスは怒っていません」…か…………な?

 

[………?]

 

……??………???…………???????

え?…あっ!………ん??

 

[い、今なんと?]

 

「アリスは!ヨジロウに怒ってなどいません!!」

 

………はい?

 

『何故分からないのですか』

 

[キィ、オレの耳がおかしいのか、王女は怒っていないって言ってる様に聞こえる]

 

“ヨジロウ、アリスはそう言っているんだよ?”

 

……へ?

 

[お、怒っていない……?]

 

「そうです!アリスは怒っていません!」

 

[な、何故?]

 

「ヨジロウはあと少し場所が違ったら死んでいたと先生から聞いています。つまり!アリスのお守りが身代わりとなって守ってくれたのです!だから壊れてもアリスは怒ったりしません!」

 

身代わりアイテムが消耗品なのは定番ですからね!と自慢げに話す王女

 

[そ、それじゃあ!オ……オレのこと嫌いになっていません…か?]

 

「嫌いになりません!アリスが従者であるヨジロウを嫌いになるなんて絶対に無いのです!」

 

[ぜっ絶対ですか!?絶対オレのこと嫌いにならないんですか!?]

 

「はい!絶対です!」

 

「絶対絶対……絶対、きっ嫌いにならないんですね?!」

 

そうすると王女はいつもの笑顔で

その眩しい笑みを浮かべながら両手を広げて誇張する様に言う

 

「絶対絶対ぜーーーーーったい!アリスは!ヨジロウを嫌いになるなんてありません!!」

 

……よ

 

[良かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!]

 

良かった!本当に良かった!!

王女に嫌われたらマジで自殺するところだった!

 

『まったく、初めからアリスの言うことをちゃんと聞かないからですよ』

 

[キィ!]

 

オレは安心と喜びのあまりキィを持ち上げてグルグル回った

いつもは『降ろしてください』とか『離しなさい』と言うのだが、こういう時にコイツは何も言わないでくれるから本当にキィは大好きだ

 

[これからもお前と一緒にいられそうで良かった!!]

 

『はいはい良かったですね、私もですよ』

 

しかも王女は絶対オレのこと嫌わないって言ってくれた!

これほど幸せなことがあって良いのだろうか!!

 

[ウフフ!アハハハ〜!!]

 

『はいはい、良かったですね。そろそろ降ろしてください』

 

“すんごい浮かれてる”

 

報われた!全部報われた!!今までの苦労、今までの努力が全て報われた!!

ごめんユスティナのみんな!やっぱオレまだそっちに逝けねぇわ!!

次会うのは悠久の果てになるかもしれないしな!!

 

[あっ王女!フルーツケーキ買ってきたんです!みんなで食べましょう!]

 

「わぁ!ありがとうございますヨジロウ!」

 

“お皿持ってくるね”

 

いやっふぅ!王女かーわいっ!!

とりあえず爆速で冷蔵庫からフルーツケーキを人数分持ってきて皿に乗せて差し出す

女の子故か、差し出した瞬間あっという間にそれぞれ持っていった

特に蚊帳の外だったモモイ達はケーキって聞いた瞬間からスタンバってた

 

「先生はクマさんのケーキですか?」

 

「先生って結構子供っぽいとこあるんだね〜」

 

「わ、私は良いと…思います」

 

“あはは、ありがと……”

 

ユミちゃんから何やら視線を感じるが無視する

いいじゃんクマさん、可愛いじゃん

 

『ところで私が贈ったミサンガは無事ですか?』

 

[もちろん!無事であります!]

 

『なら良いです』

 

オレは勢いよく左腕の袖を捲って手首につけたミサンガを見せる

キィは満足した様で、オレに寄りかかりながらフルーツケーキを頬張り始めた

もしミサンガも壊されてたら、昔交わしたオレとアリウスの不可侵契約すら破ってアリウスそのものを潰しにかかってた

 

「とっても甘くて美味しいです!」

 

ああ良かった、この笑顔が見たかった

そう思いながらオレは自分の幸せを実感しながら贖罪は幕を下ろした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[ところでキィ、いつから王女の事をアリス呼びに?]

 

『………喜びなさいヨジロウ、私が『あーん』をしてあげますよ』

 

[あれ?キィさん?話逸らさないでくれよ、キィさnちょっ待てなぜ逆手持ち?!刺すのか?!『あーん』で刺すつもりなのか!?!あっ待っギャーーーーーーーーーーーーーー!!!!]




Q.もしアリスに本気で嫌われたらどうなりますか?

A.先生やサクラコあたりが超ベストコミュニケーションを取った場合は精神を病んで廃人で済むが、何だかんだショックで自分の代わりにアリスを守ることのできるロボを作った後、主人の嫌いなものをこの世から無くそうの一心で自分に関する情報をできる限り消し去る。そしてアリスの目を汚さないために廃墟の奥で自殺する。しかも大量の硫酸が入った入れ物で死ぬのでそのまま死体は溶けて無くなる。要はセルフ死体処理やね、ウケる。
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