“───で、アカネが間違えてちゃってね、いつもの癖で爆弾を設置しちゃったの”
[ああ、だからあの爆発音か……………癖で爆弾を設置???]
ヨッちゃんの話を先生が受け継いだ
横を見るとまだケイとわちゃわちゃしてるヨッちゃんの背中が見える
ふと、その背中に存在する虎と目があった気がした
あたしはどことなく先生の話と一緒に、あの船であったことを思い出した
ーーー
ーーー
「ギャー!ネル先輩とバニー服着た変態が追ってくるーー!」
「待てコラァ!!」
[ラビットハントならぬラビット
「それさっきスタッフが悶絶してたアイアンクローじゃないですかぁーー!!」
あたしとヨッちゃんはコユキを追っていた
ヨッちゃんもあたしの真似をして、いつもの虎のスカジャンを着ていた
何となくテンションも上がって、邪魔するモンも無くなったから好き放題追いかけられた
あとは上手いこと別れた先生達と挟み撃ちにするだけ……だったけど
「……っ」
[どうしたネル、足でも怪我したか?さては慣れないヒールで靴づれしただろ、どれ見せてみろ]
「いや、ものの見事にその通りだけどよぉ……何で分かんだよ、こえーよ」
テレパシーでも持ってるのかコイツは
ヨッちゃんはあたしの意見も聞かずに自己完結すると、そこら辺にあったカジノ台にスカジャンの襟を引っ張られ座らされた
……少し恥ずかしかったけど、靴も脱がされた
「別にこれぐらい大丈夫だ、さっさとコユキの奴を追うぞ」
[いいやダメだ絆創膏を貼る、バルバラですらほっとくと戦闘に支障が出るって言うほどだからな?分かってんのか、あのバルバラがだぞ?]
「いやバルバラって誰だよ」
ホントに誰だよ
ミレニアムの生徒……では無さそうだし、他校の生徒か?
ヨッちゃんは先生の護衛で色んなトコに行ったりするらしいし、そこで出会ったのかもしれないな
口ぶりからしてそのバルバラって奴は、強さか分かんないけど随分と信頼してるよーだった
……にしても、コイツ妙に絆創膏を貼るの手慣れてんな
[よし!これでバッチリ貼れたぜ]
「……あんがと」
ヨッちゃんはそう言ってあたしの踵に絆創膏を……うわキモッ!なんだこの絆創膏の柄!これって……目玉?
って追従者じゃねーか!まさか自作か?!妙に器用だなヨッちゃん!!
は、剥がしてぇ……だけど痛むのは事実だし……むむむ……
そんな事を考えていると虎と目が合った
いや、ヨッちゃんがあたしに背中を向けているんだ
[早く乗れ、おぶるぞ]
「おぶるって……ヨッちゃんあたしをおんぶする気か?!」
[?、靴擦れしたんだろ?靴擦れした奴はおんぶして運ばなきゃいけないって知らないのか?]
「知らねぇーよ!つーかなんだその常識!どこ情報だよ!!」
[ユスティナ]
「どこだよ!!」
ヨッちゃんはそのよく分からない常識を信じきっているみたいで、あたしの意見に終始『
だけどよく考えたら、あたしは走れ……なくはないが速く動けねぇし、ヨッちゃんは剣を使うから遠くで走るコユキに対して対抗手段がない……むぐぐ……り、理にかなってるのか?
[ウジウジ言ってねぇで早く乗れ、オレの背中に乗れる機会なんてそうそう無いんだからな?]
「だぁーー!!分かったよ!さっさとコユキのやつを追いかけるぞ!」
[合点承知って、うわっ軽!]
あたしはヒョイっと持ち上げられて、そのままヨッちゃんは走り出した
それが余りも軽々とされたから、まるであたしがチビで軽いって言われた様な気がした
つまりムカついた
いや、そんな場合じゃ無いのはよーく分かってんだけどよ
何か、こう仕返しがしたい
つっても一応任務だし、おんぶされたじょうたいて叩いたりするのはダメか
う〜ん、どうすっか……あっ
[……あれ?ネル、お前オレのカチューシャ弄った?]
「あたしのと交換した」
[えっ、何で?何故にカチュー『グキッ』ぎゃぁあぁ!!首がぁ!!]
「うわっ、似合わね〜!」
あたしは背中に乗りつつ、無理矢理ヨッちゃんの首をこっちに向けた
流石に180°向けたわけじゃ無い、自分の体を背中を乗り出してヨッちゃんの顔を覗き込んだ
見慣れた顔だった、ウサギのカチューシャを付けたその顔はすっげぇ似合わなかった
……これ、別にカチューシャ交換しなくても良かったな
[うごご、首が……な、何すんだよ]
「んー?べっつに〜?」
[ふぇぇ、このチビ何考えてんのか分んねぇよぉ、怖ぇよぉ]
「おう今なんつった?」
言わせておけば、このポンコツ騎士
手加減せずに思いっきり叩けば良かったか?
そんなことを考えていると
(………まただ)
また、目が合った
ヨッちゃんが着ているスカジャン、その背中にいる虎と目が合った
そりゃおんぶされてんだから嫌でも目に入るし、おんぶされてない時も見る時は見る
だけど、こんな近くで見たのは初めてだった
(このスカジャン……あたしがコイツ買ったやつだよな)
初めて会った時にした約束で、一緒に店に買いに行ったんだ
買ってやったらすげー喜んでくれし、スキップもしてたっけ
あたしはもう一度、まじまじとヨッちゃんの背中を見る
相変わらず、あの虎はこっちを見ていた
あたしはC&Cのコールサイン
立場とか戦闘ポジションとか、そう言う理由もあるし、何より性分で前に突っ走って行きがちだ
だからあたしの前には誰も居ない、居るのはターゲットだけ
それに対して文句は無いし、むしろ気分ソーカイだからやめる気もない
だけどヨッちゃんはあたしの横にいることが多いし、今だっておぶられて前にいる形になってる
だから……まあ…なんつーか、こう、ムズムズするんだ
「……なぁ」
[ん?どうした、銃弾無くなったのか?にしてもお前軽いなぁ、チビだとこっちも疲れなくていいや]
今のは良いよな?ぶん殴っても良いよな?
よーし歯ぁ食いしばれよ?いつか戦った時みたくノックアウトしてやるからよ
……まあそれはコユキを捕まえてから絶対にするとして
「ヨッちゃんってさ、何でいつもスカジャン着てんだ?」
[この世で最もお前に言われたくない質問されたな……ん?]
「あ゛ーー!!ネル先輩と変態が悪魔合体してるぅぅぅぅ!!!」
[しゃあ!追いついたぜぇ!!]
いや、んー……その通りっちゃその通りだけどヨォ
[お前にだけは絶対言われたくないが、まあ質問の意図は分かるぜ……ついでにあのクソガキの足って狙える?]
「ん」
「にょわぁぁぁぁぁ!!危なぁ!イタタタタタタッ!!」
あたしをおんぶしながらコユキを追いかけながら
ヨッちゃんは前を向きつつ語り始めた
[昔さ、オレはユスティナって所に所属したことがあんだけどよ、そこに所属するヤツらから色々プレゼントを貰ってたんだよ]
[本とか、花とか、いつか使うかもしれないからって皿とかカップとか]
[オレも色々渡したぜ?クッキーとかマカロンとか、紅茶も入れたりして……やっぱあれオレのこと給仕として扱ってたな]
[まあ、嬉しかったよ、誰かから物を貰うなんて生まれて初めてだったから]
[だけどさ、アイツらとは喧嘩別れみたいになって、会いにいけなくなっちまったんだ]
「うぎゃ!ちょっ!いつの間に後ろにぃ!?」
『それこそ、ユスティナって名前すら変わっちまうまで』そんな事を続けながら、ヨッちゃんはコユキに追いついてドロップキックをお見舞いした
よく分からないけど、この船に来てからヨッちゃんのコユキへのヘイトが妙に高い
[そん時、貰ったプレゼント全部置いてきちゃって、もう手元に一つもなくてさ]
[今考えても、あれ一つ一つが宝物だった]
[嬉しかったのも、苦労したのも……何より貰った相手との思い出も]
[オレはアイツらと別れて、初めてその事に気付いちまったんだ]
[後悔したよ、『せめて何か一つだけでも持ってくれば良かった』ってな……ネル、撃て]
「イタタッ!シリアスな話してるっぽいのに撃たないでくださいよぉ!!」
ちっ、コユキのやつ意外とタフなんだよなぁ
それとうるせーぞ、ヨッちゃんの話が聞こえねーだろーが
[だからオレは誰かから貰ったものを大切にしようって思った]
[今オレが持っているのは恩人から貰った栞、そしてお前からのスカジャン]
「あっ、あれ?本当に撃たない?これもしかしたら逃げれます?」
ヨッちゃんは話していると少しナイーブになっちまったのか
だんだんとコユキを追いかける速度が遅くなっていった
……いや、あたしが重くて息切れしたんじゃねぇだろうな?
それはそれでぶっ飛ばすぞ
[まあ詰まるところ、お前から貰った
「ふ〜ん……」
「なんか話してるっぽいし……にゃはは!案外逃げるのも簡単ですねぇ!」
照れ臭かった
あたしはそんなつもりは無かったのに、あたしが思ってた以上にコイツはスカジャンを大切にしてくれていた
あたしはそれを隠す様に額を背中にグリグリと押し付けた
[あの、ネルさん?い、痛いんですが?ちょっとおでこが背骨に……いでででででででででで]
「なんかあの二人戯れあってる……そうだ!今のうちにプレイルームに行っちゃおっかなー!」
それと同時に無性に嬉しかった
キヴォトスじゃあたし以外誰も着ないスカジャンを好きになってくれて
あまつさえ宝物だと言ってくれた
そして顔を上げて、決めた
「よっしゃ!あの
[うぇっ?!あっ、はい!じゃなくて押忍!!]
「ですよねぇーーーーーーーーー!!!!!」
あのガキぶっ潰すってな!
ーーー
ーーー
ーーー
「そうだったんですか……ヨジロウは
『あなたは……全くあなたは私が知らない恥じらいを何処に置いてきたんですか?』
[燃えるゴミの日に捨ててきたよ]
“プライドって燃えるゴミなんだ”
「お姉ちゃん、ヨジロウさんが何でバニー服を個人で持ってるのかが分からないんだけど……」
「大丈夫だよミドリ、私も分かんない」
そんな事を思い出してたら、いつの間にか話は終わっていた様だった
ヨッちゃんから貰った(強奪した)フルーツケーキもとっくに食い終わっていた
その本人は相変わらずチビと話し込んでいて、こちらに背を向けていた
(……よお、相変わらず仏頂面だな)
返事もあるはずが無いし、そもそも口に出してすらいないが
今日も目が合った『虎』に、何となく挨拶をした
(あたしがヨッちゃんと仲良くなれたのは、お前のお陰もあるかもな)
こんな事思って何だが、この感情は『恋』って奴じゃないと思ってる
散々あたしをチビ呼ばわりするし、ゲームに勝ったら必ずと言って良いほど煽ってくるし
先生とかアカネに詰められたりした時は真っ先に見捨てるし、なんなら罪をなすり付けてくる
……ぶっちゃけそれ全部、あたし自身コイツにやってる事でもあるんだけどな
まあ要するにあたしは───
[ところでネル、暇だからってオレにお前のカチューシャ付けるのやめて?]
「うわっ、やっぱ似合わね〜」
[はっ倒しますわよ?]
やっぱり