「またのご来店を〜」
オレたちが店に到着すると、同時に残っていた最後の客が会計を済ませて帰っていった
……というか、セリカか? 帰る客は常連なのか、『ばいばいセリカちゃん』などと言って帰っていったどうやら間違いはないようだ。セリカ、貴様こんなとこで働いてたのか
「いらっしゃいませ〜……って!あんた便利屋の!!」
[おや?知り合いか?]
ん? どうしたアル、目ぇ合わせろ
なんでそんな気まずい空気出してんだ、お前が連れてきた店だろうに
シャー! と、威嚇するセリカ
『あうあう』と、気まずそうなアル
……えっ? 気まずくなる相手がいる店に誘うとか、お前どんな感情だったの?
そんなに腹減ってたの?
「きょ、今日はちゃんと食事をしに来たのよ!連れだっているのに変なことしないわ!」
そう言うとセリカはじっとアルとオレを見る
すると少しため息を吐いた、どうやらこれ以上何か言うつもりは無くなったようだ
それよりもアルさん? 『今日は』って言いました? 今日じゃない日は変なことをしたんですか?? おーい、アルさーん
「2名様ですね、お好きなところにお座りください、お冷をお持ちします」
それにしても、セリカのやつオレのことわかってないようだった
確かに人になってからアビドスの奴らには1度も連絡などしてないが……う〜ん
面倒だし、気づいたら教えてあげよう
俺たちは促されたまま店長の柴ちゃんが正面に見える席に座った
そういや久しぶりに柴ちゃん見たな、あいも変わらず顔の傷がいい味出してるぜ
店を構えていたと記憶していたのだが、なぜ今更移動式に戻しているのだろうか?
そんなことを疑問に持ちつつ、アルが頼んだものを適当にオレも頼む
「ここの『柴崎ラーメン』って言うラーメン、とってもおいしいのよ?」
[ふーん、初めて食べるな]
「……その、今更だけど、依頼とは言え本当にいいの?」
[なぁに、ボロボロになった教え子に奢るぐら……あ]
「……ふふっ、
むぅ、こうも真っ直ぐ感謝を伝えられるのは少々照れるものがあるな
そう言う点ならやはりネルは良い、アイツ大体『サンキュー!』で終わらせる
そもそも真摯に感謝を伝えられるのは苦手だ、オレはそんな大層な奴じゃねぇし、聖人君子でもないのである。そんなことを思いつつ、しばらくアルの今日あった理不尽を聞いていると
「へいお待ちぃ!」
柴ちゃんはそう言って、オレとアルの前に2杯のラーメンをドンッと置く
お〜、改めて見ると確かに美味そうだ
オレはそう思いながら割り箸を割る
ぐ……綺麗に割れなかった
ーーー
ーーー
あぁ〜〜〜! おいっしぃ!! 仕事帰りに食べるラーメンって、とってもおいしいわ!!!
最初は疲れているのに依頼を頼まれた時はどうしようと思ったけど、まさか奢ってくれるなんて! きっと、私だと遠慮しちゃうって思ってくれたのかしら?
「今日は本当に災難で……、スマホは無くすし、依頼人は逃げるし、風紀委員会から濡れ衣着せられて追いかけ回されるしで……うぅっ……」
[おおう……そりゃ大変だったな。大丈夫、お前はよく頑張ってる、きっとその依頼人?も報いを受けるさ。なんならオレがやってこようか?]
ヨジロウさんは私の頭を撫でて慰めてくれる
ここに着くまで荷物を持ってくれたり、靴も履き替えさせてくれたりと
いつかアリスちゃんが言ってたように、ヨジロウさんってすごく優しいのね!
私はそう思いながらちゅるちゅるとラーメンを啜る
……の、だけれども
[……………ふむ]
み、見てくる!
なぜかヨジロウさんがラーメンを食べずに私を見てくる! なんで?! 私何かしちゃった?!?
(ううっ…私、何か気分悪くするようなことしちゃったかしら……)
「あの……ヨ、ヨジロウさん? そんなに私を見てどうかしたのかしら?何かしてしまったのなら謝るのだけれど」
[ん? いやいや、謝らなくていい。ただアルがどうやってラーメン食べてるのか観察してただけだ、気を悪くしたならこちらこそ申し訳ない]
「それなら良かったけど、何で観察していたの? 早く食べちゃわないと麺が伸びちゃうわよ?」
[ああ、さっきも言ったが食べるのが初めてなんだ]
「……何が?」
[ラーメン]
……え?
『ここの『柴崎ラーメン』って言うラーメン、とってもおいしいのよ?』
『ふーん、初めて食べるな』
初めて……初めて食べる……初めて食べる?
……あっ!
「もしかして『柴崎』じゃなくて、『ラーメン』が初めてってこと?!?」
「マジか兄ちゃん!?!?!」
「ウソでしょ!!?!」
[えへへっ///]
いや『えへへ』じゃないわよ! 信じられなくて店長さんと店員さんも驚いちゃったじゃない! 口には出さないけどそんなヤンチャしてそうな格好してるのにラーメン食べた事ないの?! あと何で照れくさそうにしてるのよ?!
試しにカップヌードルも食べた事ないかと聞くと『あれ体に悪そうじゃん』って言われたわ
どうしましょう、ぐうの音も出なくなっちゃった
[それに、初めてのラーメンはこの店にするって決めてたからな、最近ゴタゴタしてて来れなかったが……アルがここに連れてきてくれて良かったぜ]
「おっ何だ兄ちゃん、前からウチの店の事知ってたのかい? それに初めてってのは?」
あら? ヨジロウさんここのお店最初から知っていたの?
しかも最初はここに決めてたって……どういうことかしら
[それにしても気付かねぇモンだな、サクラコは一発で気付いたのに……いやサクラコがすごいのか?さすサク]
「うん? その名前よく誰かから聞いていたような……………ん? まさか……?」
[久しぶりだな、柴ちゃん]
「その呼び方! あんた兄貴か!?!」
あ、兄貴?
私とアビドスの店員さんは一緒に首を捻る
二人って知り合いだったのかしら
「いやいやいや!何でそんな姿になってるんだ?!…………いや、まあ兄貴だしなぁ」
[謎の信頼があってお兄さん嬉しいよ。それにしてもよく信じたな、証拠とか出せって言われるかと思ったぜ]
「ちなみに言ったらあるのか? 証拠」
[いや? 無いけど?]
ええ……
それでいいのかしらヨジロウさん
店員さんもびっくりしちゃっているわ
[まあいいか、そんなことよりもアル、悪いがラーメンの啜り方を教えてくれ。早く食べてみたいんだ]
「そうだな、便利屋のお嬢ちゃん、悪いが兄貴に啜り方を教えてあげてくれねぇか?……にしても、ほ〜、兄貴ってそんな姿だったんだな」
「うぇ? 私?! えっ、ええ、別に構わないけど……」
でもヨジロウさんって私よりも歳上だしぃ……
何なら先生よりも歳上疑惑もあるしぃ……
実際に兄貴って呼ばれてるしぃ……
気が、引けるわ
[頼むよ社長さん、ラーメン初心者のオレにどうか綺麗な食べ方を教えておくれ]
「む、むむむ………ああもう!ちょっと緊張するけど良いわよ!教えてあげるわよ!」
[わーい]
もう!やけっぱちよ!
美味しいラーメンが伸びちゃうなんて看過できないんだから!
以下、日時不明の音声記録
【合図したら走り出せ、アイツらは引き受けてやるよ。なに、ただの気まぐれだ。気にするな】
「助かるぜ騎士の旦那、アレを済ませば後はこの出来事は連鎖的にに収まるはずだ」
【旦那はやめてくれ、歳を感じる。にしてもサクラコと別れてすぐに
「なら兄貴とでも呼んだほうがいいか? まあお互い名前もしらねぇがな。そうだ、これが終わったらウチにラーメンを食いにきてくれ、あんたになら奢るぞ」
【悪いが物食い出来ない体なんだが、ラーメン?何だそれ美味いのか?】
「麺類だ。そりゃ残念だな、これでもウチのラーメン屋は結構評判なんだ」
【……待て、聞いたことがある、頰に十字傷をもつ隻眼のラーメン屋がいると。確か名前は柴───】
「今だ! 警戒が手薄になった! 行くぞ兄貴!」