俺が魔法少女にしてやるって言ってんだ。 作:おまえも書くんだよ!
俺、瀬川陽太が【五条 若菜】という人間に出会ったのは、高校に入学してからだ。
初めての会話は、入学してすぐのこと。
岩槻にひな人形屋があって、もしかしてお前んち?と声をかけたときだった。
ちなみにそこは五条の家ではないらしい。
五条なんて珍しいから、ひな人形屋の跡取り息子とかだったらよかったのに。
まあ、それきり五条とはほとんど話していなかった。
俺の後ろの席というのもありたまに見るが、時折腕に墨のようなものをつけてきているので、書道かなにかやっているのだろうか。
いつも大人しめでこれといって誰かと話しているところを見たことはなかった。
の、だが。
今朝学校に来たらクラスのギャル【喜多川 夢海】と何やら親しい様子。
先週までは赤の他人、って感じだったのが土日挟んだらあら不思議。
朝からずっと「ごじょ~くん!」って喜多川が一方的に話しかけまくってた。
授業が終わる度に音もなく消える五条に困惑する喜多川。
さすがに3回連続で授業後にいないとなればなにか策を考える訳で。
「瀬川くん!」
首をぐるりと回してこちらを振り向く喜多川。
「なに?」
「こじょーくんどこいったかわかる!?」
「知らん。今日は授業終わると音もなくいなくなるからな」
「…そっか~」
「なんか用あんなら引き止めとくけど?」
喜多川とはあまり話したことは無いが、それくらいはやってあげてもいいだろう。
見た目に反して悪意がないというか、性格の悪さを感じない。
悪い人間ではないだろうし、五条をいじめたい訳ではなく、純粋に話がしたいようだ。
まぁ、いじめられてたらすまん。
「マジっ!?助かる~!でも意外じゃん、瀬川くんっていつも眠そうだし他人に関わらないタイプかと思ってたー」
そりゃあ学校生活の8割を寝て過ごしてればそう思われてしまうのも仕方ないことだ。
一応弁明しておこう。
「これただの寝不足だから。気が付いたら意識無いだけ。人と話すのは嫌いじゃないぜ」
「そーなんだ!とりま、ごじょーくんのことヨロ!」
「うい」
俺としても、授業は受けようとしている。
決してダルいからとか、そんな理由で寝ている訳では無い。
家で夜遅くまで作業を行っていると学校で眠くなるのは仕方の無いことで。
気がつくと机に突っ伏して寝てるって訳だ。
この学校の教師はそこそこ寛大な人が多くて助かっている。
…寛大なのか、見捨てられているのかは考えてはいけない。
ーーー
4時間目の授業もしっかり寝ていたが、基本的に眠りが深い方では無いので授業終わりの号令で目が覚める。
便利な身体でよかった。
昼休み、喜多川と約束したので五条に話しかけて引き留める。
「なあ五条」
「えっ!?ぼ、僕ですか?」
異常に挙動不審な五条は、まさか話しかけられると思っていなかったのか、とんでもない声の裏返り方をしていた。
「五条ってお前しかいないじゃんか」
「あっ……はい。な、なんでしょうか?」
「最近喜多川と仲良いじゃん、なんで?」
顔面蒼白になった五条は、3秒ほどフリーズする。
「い、いや!そんなことないです!全然、仲良くないです!」
ま、確かに喜多川が一方的に絡んでる感はあるよな。
「お、俺みたいなタイプの人間とあの喜多川さんが仲良いなんてそんなことある訳無いじゃないですか!」
そこまで否定せんでも。
というか、べつに仲良くてもいいだろ別に。
「なんだそれ、友達作らん縛りプレイでもしてんの?」
「…っ!」
「少なくとも俺には、喜多川が五条のこと友達として扱ってるように見えるぜ」
「友達に、見えるんだ…」
ポツリと呟く五条は困ったような怯えたような表情をしていた。
「んで、なんで喜多川とツルみはじめたの?」
観念したように五条が口を開こうとした時、噂の人物が現れた。
「なになに?あたしの話?」
振り向くと五条の後ろには喜多川が立っていた。
「あっ!き…喜多川さんっ……!」
「そうそう喜多川の話。お前ら急に仲良さそうじゃんか。どしたの急に。まさか五条って虐められてたりする?」
努めて明るく、茶化すように聞いてみる。
「なわけないじゃんか!」
「だよな。喜多川そーゆーこと嫌いそうだし」
「あっあの!僕お昼食べてきます!」
五条の突然の逃走に俺たち2人は呆然とする。
「…お前、何したの?五条の家族でも殺したんか?」
「殺してねーし!いや~なんでだろーねー…。あたしべつに嫌われるようなことしてないとおもうんだけどなぁ」
心当たりが無いってことは、よく漫画とかである陽キャ怖いってやつか。
そりゃ急にこんなギャルに絡まれても困るわな。
「あれだろ、困ってんだろ。陽キャ怖いってやつだろ。世の引っ込み思案は喜多川みてーなギャルに絡まれても同じノリできねーだろうし」
「えー、そんなのカンケーなくない?」
「男の子にはいろいろあるんだよきっと。知らんけど」
「瀬川くんだって男の子じゃーん」
まぁそうだが。
とりあえずどうしてこうなったのか気になったので、素直に何があったのか聞いてみた。
「あたしコスしたいんだけどさー。どうやったらこんなに下手につくれんのってくらい裁縫無理だった!んで、こじょーくんに手伝ってもらってるんだけど…」
「ほー。そりゃ面白そうだな」
なんでも、土日は五条宅で採寸やらなにやらをして、その時もこれと言って関係が悪化するようなことはなかったらしい。
てか急に家行くなんて、すげぇ行動力だな。
「ごしょーくんすごいんだよ!ミシン使えるの!」
それはたしかにすげぇ。
俺はミシンどころか針も使えん。
中学の時エプロン作ったが、もう何も覚えてない。
「海夢~ご飯食べよー」
ちっこいツインテールの菅谷が喜多川を呼びに来た。
「今行く!じゃあね瀬川くん、サンキュね!」
「おう」
しかしなんで五条は逃げるのか。
本当に陽キャ怖いだけならいいんだが。
机に弁当を広げて、食ったら少し寝る。
昼休み終了のチャイムで起きると、五条は席に戻ってきていた。
「あの、瀬川…くん。さっきは突然逃げてごめんね」
俺が後ろを向いて五条の顔を見ると、申し訳なさそうな顔をして口を開いた。
「いや、別にいいよ。俺より喜多川に謝ってやんな」
「…そうだよね。俺、喜多川さんに酷いことしたよね…」
「んな深刻そうな顔すんなって。誰だって間違いはあるだろ?」
「…ありがとう瀬川くん」
「陽太。陽太でいいよ」
「あ、うん…ありがとう陽太くん」
「くんも付けるなむず痒い」
先生が教室に入ってきて、授業が始まった。
世の中色んな人間がいて、みんな色んなことで悩んでる。
そんなことを考えていると、まぁ寝てた。
普通に爆睡していた。
気がつくと既に帰りのSHRが終わっていて、さすがに焦ったがもう今更どうしようもなかった。
ガタガタとクラスメイトが帰り出す中、振り向くともう五条はいなくなっていて、当然の如く喜多川もいない。
仲直り出来てればいいが。
まぁ、喜多川ってそういうの強そうだし、心配することも無いか。
さっさと帰ろ。
「おーい瀬川~!掃除当番~!!」
菅谷に引き留められ、教室の掃除をして帰宅した。
ーーー
翌日。
相も変わらず深夜まで作業していたので、ばっちり寝不足。
自分の席について、はて喜多川と五条はどうなったのかと思い振り返ると、まだ五条は来ていなかった。
俺は予鈴ギリギリに来るタイプなので、この時点で来ていないならほぼ間違いなく遅刻だ。
仲直りは失敗、さらに関係がこじれたのかと思い喜多川を見てみると、やはりチラチラと五条の席を見ていた。
「みんなおはよう~。HR始めるわよ~」
HR開始のチャイムと共に花岡先生が教室に入ってきた。
朝の挨拶をして、出席を取り始める。
五条の名前を呼んだ時、花岡先生は五条がいないことを思い出したようだ。
「あ、五条君はお家の都合でお休みだったわね」
「はなちゃ~ん!ごじょーくんなんかあったんですか?」
喜多川が手を挙げて質問した。
「なんでもおじいちゃんが腰を悪くしちゃったみたいで、バタバタしてるみたいね。そこまでひどくないみたいだから明日は来れるみたいだけど」
普通に家庭の事情か。
後で喜多川に昨日どうなったのか聞いてみるか。
そう思いながら、俺は睡魔にあらがうのをやめた。
授業の終わりを告げるチャイムで目が覚めると、さっそく俺は喜多川のもとへ行く。
「よお喜多川、五条とのいざこざは解決したのか?」
「瀬川くんじゃん、昨日はありがとね。うん、ごじょーくんとは仲直りできたよ!」
「そか、それはよかったな」
まあ、仲直りが成功したんならよかった。
「てか、瀬川君ってごじょーくんのライン知らない?」
「残念だが知らん。そもそも俺も五条と絡みないしな」
「やっぱりかー…。明日学校来たら聞いてみるしかないかぁ~」
家には行ったのに連絡先は知らんのか。
「連絡先しらんのにどうやって家行ったんだお前…」
「え?五条・ひな人形で検索した!」
「あいつん家ってもしかして岩槻?」
「そだよっ!瀬川くんも知ってんの?」
「…まあそんなとこ」
はて、俺の記憶が正しければ、過去にひな人形屋であることを否定された気がするんだが。
その辺もそのうち聞いてみるか。
とりあえず何事もなく学校に来られればいいのだが。
なんて心配をよそに、翌日。
五条はちゃんと学校に来ているらしい。
後ろの席を見ると、五条のカバンがちゃんと掛かっていた。
HRの予鈴がなった後、喜多川と共に教室に戻ってきたのだが、なにやら五条の顔が死んでいる。
「五条、お前大丈夫か?また喜多川となんかあったのか?」
「あ、陽太くん…喜多川さんとは何もないよ」
「くんは付けんな…まあいい。それよりひでぇ顔してるぞ?保健室でも行ってきたほうがいいんじゃねーの?」
「あ、いや…大丈夫。心配してくれてありがとう」
大丈夫には見えないが、本人がそういうならまあ、仕方ないか。
喜多川は普通に心配そうな顔をしていたし、おそらく喜多川だけが原因ってわけではなさそうだが。
それにしてもひどい顔をしている。
まあ、俺が何かしてやれるわけでもなく…。
心配ではあるが、睡魔には勝てなかった。
授業が終わる度に起きているとはいえ、あっという間に放課後に。
そんな感じで数日が過ぎたが、五条の顔色は日に日に悪くなっていく一方だった。
さすがにひな人形屋であることを否定されたことを問い詰める気にはなれず、中間テストも始まってしまったのでそれどころではなかった。
テスト勉強なんてするタイプではない俺は、ヤマを張ってテスト前に教科書を凝視することで手一杯だった。
五条の表情になんとなく覚えがあるなと思っていたが、これはあれだ。
締め切りに間に合わない人間の顔だ。
もしかするとおじいちゃんの体調不良に伴い、五条も家の手伝いで切羽詰まっているのかもしれない。
そうである場合、俺は何も手伝ってやれないだろう。
そんなこんなで、金曜日。
やっとテストも終わり、何とか赤点は回避したような錯覚を覚えながら、振り返って五条の方を向く。
「五条、今にも倒れそうな顔してんぞ。あんまり根詰めすぎるなよ?」
「…あ、うん」
心ここにあらず。
半ば放心状態の五条は、焦点が合ってないような表情でこちらを見る。
まあ、土日でしっかり療養すれば大丈夫だろう。
それでだめなら月曜は無理やり保健室へ叩き込もう。
そう思いながら五条の背中を見送った。
ーーー
で、月曜日。
憑き物が落ちたような、晴れやかな表情の五条がすでに登校していた。
俺の心配は杞憂で終わったようだ。
「五条おはよ。顔色よくなったな」
「あ、陽太くん、おはよう。ごめんね、心配してくれてたのに」
「いいって、別になんかしてやったわけでもないし。俺が勝手に気にしてただけだぜ。あとくんは付けんな」
「そういえば、ごめん。俺、実は陽太くんに嘘ついてたことがあるんだ。前、俺の家がひな人形屋じゃないって嘘をついたんだ…」
五条の方からその話題が出てくるとは思ってなかった俺は、面食らって言葉が出なかった。
あとやっぱり君付けはやめないらしいしスルーされた。
「本当は、俺の家は五条人形店ていう、ひな人形屋なんだ」
「…そうか。なんで嘘ついたのか、聞いてもいいか?」
別に今更嘘をつかれたことを気にしてなどいないが、その理由は気になるので聞いてみた。
「俺、ひな人形が好きで…。でも、男なのにひな人形が好きなのは変だって子供のころいわれてさ…。それで、なんだかひな人形に関することを人に話すのが怖くて」
「そういうことか。いいじゃんひな人形。俺はそういう伝統だとか由緒あるものは大好きだぜ」
「本当にごめんね…ずっと嘘ついてて」
深刻そうな顔をする五条に、気にするなと伝える。
会って間もない人間にトラウマをえぐられる危険があったのなら、嘘をついてでも回避するっていうのは当然だ。
誰も五条を責める権利なんかない。
「ところで五条、つまりお前の家っておじいさんの代からはすでにひな人形屋だったんだな?」
「うん、じいちゃんは今年で48年目になるのかな」
「それはマジで素晴らしいな」
「もしかして、瀬川くんはひな人形に興味があるの!?」
「ないわけじゃないけど、俺の興味は別のところにある」
確かにひな人形というものには興味はある。
日本人形は正直少し怖いと感じる部分はあるが、それを補って有り余るほどの美しさがある。
「…別のところ?」
「五条人形店と、職人技だ。ということで、五条のおじいさんと店に取材をしたいんだが、どうだろう」
取材、という単語に怪訝そうな顔をする五条。
記者でもないただのクラスメイトから出る単語ではないから仕方ない。
「…取材?それは問題ないけど、取材してどうするの?」
「俺の趣味に使う。ああ、悪用はしないから安心してくれていいぜ」
「陽太くんの趣味って一体…?」
「映像制作だよ。俺は所謂、映像クリエイターってやつさ」