遺群嶺って魔境だよな、とふと考えてみたら衝動的に書きたくなったので書いてみます。
俺はバルファルクだ。
元人間、現バルファルクって感じ。
「コイツ、頭わいてんのか?」ってみんな思うだろう。
実際俺も思う。
なら何故そんなトンチンカンな事を言っているのか?
それは自分がバルファルクだと言う事実を認めざるを得ない状況にあるからだ。
どんな状況だよって?
そりゃぁ……目の前に2体のバルファルクがいて、殻の中から自分が頭を出している状況なんだから、自分がバルファルクの赤ん坊として生まれた変わったとしか考えられないだろう。
………………いや、どう言う事?
「ピィィィッッッ!!!!!」(どうなってんだこりゃァァアアアアアッッッ!!!!???)
◆◆◆◆◆◆
……くっさ
目の前に差し出されたルドロスにそんな感想を抱く。
人間的な感覚がまだ残っているのだろうか?
バルファルク的にこれは良い香りのする上等な飯なのだろうか?
色々な疑問が雪崩のように押し寄せるが、一旦頭の隅っこに払いのけてルドロスの死骸に口を運んでみる。
いや、硬ッ…………
一番柔らかそうに見える背鰭に生まれつきの小さい犬歯を食い込ませ、噛みちぎるつもりで精一杯喰らいつく。
だがゴム質のそれは赤ちゃん天彗龍が噛み切るには少々硬すぎるらしい。
少し伸びる程度で全く噛み切れる気がしなかった。
グルォオ…………
「ッ!? ピィッ!?」(何だ!? 何かするつもりか!?)
突然耳元で親が唸る。
俺は素っ頓狂な鳴き声を上げながらおぼつかない四足歩行で親から距離を取る。
もしかして共食いでもされるんじゃないかと俺は警戒するが、どうやら杞憂の様だ。
中々噛みきれない俺を見かねた親は、ルドロスを咥え込むと軽く噛み込み、俺が食える程度のサイズにし、柔らかくしてから口移しで与えてくれたのだ。
いや、ありがたい。
ありがたいよ?
けどさ……そのR-18G、モザイク必須の黄色く濁った肉片を元人間の俺に喰えと……?
親の口に咥えられた肉は、はっきり言えばグチャグチャの腐肉のソレだ。
お世辞にも食い物とは思えない見た目の物を差し出されて、「さあどうぞ」、で食べられる程俺は人間を辞めちゃいなかった。
俺はどうしても口をつけられず、親からの口移しを拒否してしまう。
多少の申し訳なさを抱くが、この世に未知の物ほど怖い物は無い。
許せ、親バルク。
親バルクは俺がルドロス肉を受け付けない事を理解したのか、咥えていた肉片をペロリと飲み込み、俺の口周りについた汚れを舐め取り始めた。
ザラザラとした舌で舐められる感覚に思わず背筋を震わせるが、拒むこともできないので甘んじて受け入れる。
と言うか、提供された飯をイヤイヤで食べなかった以上毛繕いすらも拒否するのは流石にバツが悪かった。
俺の毛繕いを終えた親バルクは親猫の様に俺の首の後ろを咥え、自分の体の下へ俺をしまい込んだ。
親と密着状態になり、駅の様な鉄臭い刺激臭が鼻を刺す。
バルファルクなのにこの匂いを不快に感じるのは俺の中身が人間だからだろうか?
何にせよ常にこの匂いが付きまとうと考えると憂鬱な気分になる。
親はオレを抱え込んだまま眠りについた。
いや、離せよ……鉄臭いんだ、このッ……
俺は親バルクの拘束から抜け出そうともがくが、まるでびくともしない。
どうやら完全に拘束されていて、動くのは無理な様だ。
「ピィ……」(ハァ…………)
俺を抱きながら心地良さそうに寝息をかく親を横目に思わずため息をつく。
俺はこれからどうなるのだろうか。
これからずっとバルファルクのまま一生を過ごすのだろうか。
人間には永遠に戻れないのだろうか。
卵から親バルク2体を見上げたあの日から数日間、一向に戻る気配はない。
寝て起きたら人間に戻ってました、なんて都合の良い事も無かった。
夢だったと言う結論は完全に無くなった訳だ。
「ピィイ……」(何で突然モンスターハンターの世界に転生なんて…………)
何故か前世の記憶は殆ど消え、自分がどこの誰なのかも思い出せない。
覚えているのはモンスターハンターの知識のみ。
モンスターの名前、作中の武器種の名前や性能、フィールドの名前や環境などなど。
俺を転生させた張本人はギフトのつもりでこの記憶だけを残したのだろうか?
だとするなら渋すぎる。
禁忌級の実力でも寄越せと直談判してやりたい。
いや、人間に戻せと要求するか。
とりあえずその記憶から推察すると、俺は"天彗龍 バルファルク"にいつの間にかなってしまった、と言う訳だ。
原因は不明。
そして今は"遺群嶺"と呼ばれる超高高度のフィールドの更に頂点にあるバルファルクの巣で生まれたばかりの子供として生活している。
改めて思うが意味分からんな、ほんとに。
ただ、俺の記憶によるとバルファルクは超高高度を生息域とし、数千年周期で姿を現す珍しいモンスターと言う設定の筈だ。
それ故に他の存在と争いに発展する事は滅多にないんだとか。
これが不幸中の幸いだったな。
このおかげで常に命の危機に晒さられる事は無いと言い切れる。
もし、仮に生まれ変わったのがアプトノスだとしたら…………
「ピィイ……ピィ?」(考えたくもないな……ん?)
今の状況を俯瞰していたその時、遥か向こう側に、赫い尾を引く彗星が見える。
あれは、バルファルクの飛行による軌跡だ。
どうやら代り番の親が帰ってきた様だ。
俺を抱いて眠っていた方の親は、その飛行音で番の帰りに気づいたのか、瞼を開き、赫い軌跡とは正反対の紺色の瞳で番を確認しながら大きなあくびをする。
そのまま体を起こし、全身を震わせ、伸びをする。
まあ、猫科動物の伸びみたいなもんだろう。
そしてついに親の拘束が解ける。
これで鉄臭い環境とは暫くおさらばだ。
「ピィ……」(はっや……)
遥か向こうに見えていた彗星はものの数秒で既に頭上付近に迫っていた。
規格外の速さだ。
あくまでも推定だが、10kmは離れている場所から数秒でここに飛んで来ている。
殆ど残っちゃいない前世の記憶に僅かにある乗り物の記憶を辿ってみるが、確かここまでのスピードは出せなかった筈だ。
最初に見た時はその速度と音圧がもの凄くて腰を抜かしたな……
そして帰宅した親はホバリングの後に着地し、とったアプトノスを地に起き、番と顔をすり合わせ合う。
まさに相思相愛って感じの様子だ。
あれから自分が生まれたと思うとなんか複雑だが。
帰宅した親バルクは今度は俺に近づいてくる。
「ピッ……ピィイ」(ちょ……何で寄ってくるんだよ)
俺が小さいのもあるが、親の体は相当でかい。
めちゃくちゃ圧を感じる。
正直怖いから近づかないで欲しい。
だが、そんな俺の思いはどこ吹く風と言った様子で近づき、顔を近づけて、舌で舐めてくる。
「ピッ、ピピィッ」(だから、ソレッ……やめっ)
帰宅した方の毛繕いは巣にいた方と比べてやや荒っぽい。
丁寧というよりも顔全体を舐めまわされる感じ。
頭をガサツに撫で回される様な感覚だった。
まあ、多分愛情表現だろうな。
で、こっちは父親でさっきのは母親なんだろう。
だから毛繕いにも違いがある。
体格的にもこっちの方がでかいし、何やら傷も多いしな…………
父親と母親で愛情表現に違いあるのは、何だか人間に近いものを感じる。
細かく言えば全然違うんだろうけど、曖昧だから上手く思い出せない。
そして暫く家族団欒の時間を過ごすと、今度は母親が巣から飛び立っていく。
父親に比べて速度、音圧は劣るが、それでも息を呑む程には凄まじい光景だった。
実感は湧かないが、俺もいつか父親や母親の様に飛ぶ日が来るのだろう。
まあ、その時まで生きていられるのかは知らないが。
「ピィイッピピィッ!」(だから鉄臭いから離せって!!!)
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