数えちゃいないが、あれからまあまあの月日が流れたと思う。
体もかなりデカくなった。
5、6倍ってところか? 多分親にも引けを取らない程度にはでかい。
それに比例して喰う量もかなり多くなった。
かつてはルドロス一体も満足に喰いきれなかったが、今では5匹はいないと満足できない体になってしまった。
ジャギィの様な小型のモンスターだといくら喰っても足りないレベルだ。
けど、喰う量に反比例して親からの給餌が段々と少なくなってきた。
喰い盛りの成長期時代は親が交互に獲物を与えてくれたのだが、今では3日に一回母親が帰ってきたタイミングで小さいモンスターを与えられる程度だ。
しかも油でギトギトのサンショウウオみたいな不味いモンスターをたまに持って来やがる。
あれはルドロス以上に不味い。
生臭いとか以前に石油を直接喰ってる様な味がする。
あんな物バルファルクの喰えたもんじゃ無い。
それらが原因で日に日に空腹は増す一方だ。
このままだといずれ餓死する。
…………そろそろ巣立つ時か。
親がまともな給餌をしないのは俺を独り立ちさせる為と考えるのが妥当だろう。
食欲をトリガーに巣立って欲しいって魂胆だろうな。
別にそんなことをしなくてもそろそろ巣立つつもりではあったけどな。
もう飛べるし。
天を仰ぎ、胸を開き、開いた胸から思いっきり空気を吸い込む。
人間で言えば、鼻で空気を吸う感覚だ。
空気を吸えば吸うほどほんのりと胸部は温まっていく。
その温もりは胸部だけにとどまらず全身に広がっていく。
そして、その温もりを翼から放出する——
よし、飛べた。
バルファルクのみが生成する龍属性の物質である"龍気"。
それはバルファルクにとって生命線だ。
龍気を利用しての飛行、熱と爆発性を応用した戦闘など、用途は多岐に渡る。
赤ん坊の内は龍気なんて全く使えなかった。
だが、成長につれて体内での龍気の生成が開始され、その量はぐんぐん増えていった。
そして今ではまともに飛行できるぐらいの量を生成できるようになったって訳だ。
戦闘への応用はまだ厳しくはあるが、一人で生活していく上ではまず困らない。
危険な奴に出会ったら速攻で逃げ出せばいいだけの話だからな。
まあ、これが巣立ちに前向きな理由だ。
戦闘に発展せずともトンズラこけば生き残れる。
これだけ大きな生存のアドバンテージがあれば巣で引き篭もるよりも、この広いモンハン世界を楽しむ方がお得だからな。
「グルゥアアアアッッッ!!!」(フォオオオッッッ!!)
試しに遺群嶺の頂上を中心に旋回してみると、風を切る気持ちよさと龍気の扱いが上手くいった全能感のせいで、思わず声を上げながら飛んでしまう。
調子に乗って体を回転させながら飛行してみたり、急降下してスピードを極限まで上げてみたり、今までは難しかった飛行にも挑戦してみる。
そしてそのどれもが成功し、更に高揚感が脳を支配する。
ただ龍気の残存量は機敏に感じとり、飛行中に燃料切れなんてヘマはしない様にする。
グルゥオオッッッ…………
……ん? なんか呼んでるな。
親からの呼びかけに反応し、飛行を止め巣に戻る。
おかしな話だが、いつの間にか親の伝えたい事がわかる様になった。
言葉自体を理解すると言うよりも、鳴き声の細かな違いを識別し、予想をするといった感じだが。
まあ、これは長い間生活を共にした結果にすぎないだけだろう。
巣に戻ると、母親のみがそこに居た。
父親はと言うと、もう暫く姿を見せていない。
ある日、胸部に巨大な傷を負って帰ってきた日があった。
その時の父親は酷く苦しそうにしていた姿が根強く頭に残っている。
龍気の輝き方も何処かおかしかったな。
まるで龍気を制御できていないかの様な、体内を巡る龍気に翻弄されているかの様な。
そんな印象を抱いた記憶がある。
そして次の日には姿を消して二度と俺たちの前に現れることはなかった。
その時の母親はすごく悲しそうな顔をしていた。
古龍の気持ちなんぞ人間の俺には分からないが、その時だけはハッキリと分かった気がする。
それからは母親が給餌も監視も担当した。
苦労をかけて日々痩せていく姿を見て申し訳ない気持ちになったな……
ただ、もうその心配もなくなる。
とうとう遺群嶺を離れる日が来たんだからな。
これで母親も肩の荷が降りるだろう。
そして母親の元へ近づく。
どうやら大切な話があるらしい。
まあ、大方想像はつくが。
耳を澄まして、母の声を聴く準備を済ませる。
さあ、別れの挨拶くらい短く済ませよう。
湿っぽいのはあんまり好きじゃないからな。
ありがとな、母さ…………
『あなたに、この場所を継いで欲しいの』
「グルア?」(へ?)
ん?
継いで欲しいとは?
ん? どゆこと?
母親曰く、どうやら遺群嶺は種族で代々引き継いできた物らしい。
親から子へ。
その子が成長し、親となり、また子へと継ぐ。
それを何世代も繰り返し、ここまで遺群嶺を大きくしながら守り抜いてきたらしい。
いや、まず大きくしたってどう言う事だよ。
そんでもってバルファルクと遺群嶺ってそんな関係があったのかよ。
ただ単に生息地に適した地をバルファルクが発見したってだけじゃないのかよ。
いや、そこはさして問題じゃない。
問題はここからだ。
父親がいない今、この場所を継げるのは俺だけらしい。
要するに遺群嶺を大きくしながら守り抜くのは俺の役割とのことだ。
いや、勘弁して???
俺この場所捨てる気満々だったよ?
この世界を漫遊する気満々だったんだけど??
と言うか守り抜くってことは必ず戦闘が発生するってことだろ?
絶対に嫌だが?
もしもイビルジョーなんかが現れたらどうする?
ラージャンが現れたら?
バゼルギウスが襲来したら?
多分俺は殴られ喰われ黒焦げにされる。
なんで独り立ち早々に逃げの一手と言う最強の生存アドバンテージを捨てなきゃならんのだ。
勿論却下だ。
ごめんよ母さん。
俺臆病なんだ。
その旨をどうにかこうにか母親に伝えてみる。
すると…………
泣き出した。
『私は貴方を立派に育てたつもりだったのに……』『私たちの代で遺群嶺が終わってしまうなんて…………』みたいなことを嘆きながら泣いてる。
あのさ、あんた中に人間入ってんだろ。
本当にモンスターなのかよ?
いくら知性を持つ古龍といえど限度ってもんがあるだろうが。
『父さんも悲しむわ……』
おま……それは禁止カードだろうが。
可能性の範疇ではあるが亡くなっているであろう身内をダシに使うとか、この母親、結構いい性格してんな。
クソッ…………バツが悪すぎるッ…………
……………………仕方、ない。
分かったよ。
継ぐ、継ぐよ。
でも、本当に危なくなったら逃げさせて。
と、伝えてみる。
すると、
母親は涙を一瞬で引っ込ませ、ほくそ笑みやがった。
ッッッ!!?? 計ったなこのババァッッ…!
やられた。
言質を取られた。
クソッ!! いい性格してるのに気づいた時点で軽率な発言は控えるべきだったかッ!!
まさか龍風情に心理戦で遅れをとるとは……
俺ってもしかして人間の風上にも置けない?
ちょっとした自己嫌悪に陥っていると、母親はすっかりと安心した顔をして、『よろしくね』と言わんばかりに軽やかに唸り、何処かへ飛び去っていった。
もしかしてだが、これ、遺群嶺を押し付けられただけじゃね…………?
親から子へと代々受け継いだって、それ押し付け続けただけじゃね…………?
………………どうやらバルファルクと言う種族は性格が悪いらしいな。
俺は飛び去る母親の軌跡を見ながらそんな気づきを得るのだった。
◆◆◆◆◆◆
俺は母親から半ば強制的に託された遺群嶺を探索してみることにした。
実は今までのバルファルク生活において俺は遺群嶺の視察を全くといって良いほどしてこなかった。
まあ、する必要がなかったと言う方が正しいか。
餌は常に親から与えられ、それ以外は寝るか飛行練習をしていた。
いちいち地上に降りてまでやる事が無かったのだ。
だが今は事情が違う。
今の遺群嶺は不本意だが俺の縄張りだ。
自分の縄張りくらい隅々まで把握すべきなのは犬でもわかる事だからな。
だからとりあえず遺群嶺にどんな環境があるのかを調べてみる。
まず俺は塔のように伸びる頂上付近の麓に足を運ぶ。
その地一帯は分厚い雷雨に包まれていた。
視界は悪く、風も強い。
翼に雨水は侵入するし、何より雷が怖い。
バルファルクは属性耐性がものすごく低いと言う弱点がある以上、普通の雷が直撃しただけでも致命傷になるかも知れない。
しかも、ここには飛竜の巣があった。
なんの飛竜かは知らないが種族によっては余裕で殺される。
ここにはできるだけ近寄らない方がいい。
次は、さらに下層に位置する草原地帯と水辺を視察する。
頂上付近とは打って変わって暖かな日光が心地よく、日向ぼっこにうってつけの場所だった。
水源も豊富で、水中には俺が与えられていたであろうルドロスが豊富に生息していた。
草原地帯にはアプトノス、ジャギィにマッカォなど温暖な地域に住まう小型モンスターも生息していた。
いくら草原地帯に適応したモンスター達とはいえ、なにもこんな超高高度で暮らさなくて良いだろと思ってしまう。
小型モンスターの逞しさには驚かされるばかりだ。
他にも洞窟地帯や、遺群嶺と下界を繋ぐであろう超巨大な滝やツタなど様々な環境が根付いていた。
これが天彗龍が種で継いできた遺群嶺の環境だと思うと途端に誇らしくなってきた。
まあ、押し付けられた形ではあるが。
そうして、ある程度の視察を終え、アプトノスでも獲って巣に帰ろうとしたその時——
ガルァァアアアアアッッッ!!!
ギシャァァアアアッッッ!!!!
生物の本能的恐怖を引き出すような響く咆哮と、雷撃にも似た異質な咆哮が同時に響き渡る。
俺は思わずその咆哮が聞こえた方向へ目を向ける。
その正体はすぐに分かった。
リオレウスにライゼクスか……!!
次回、初戦闘です。
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