戦闘描写はやっぱり難しい。
赤々と燃え盛る火炎を空の王者は放ち、雷の反逆者は反撃に閃緑の雷をお見舞いする。
王者は持ち前の空中機動力で雷を軽く躱し、反逆者は真っ正面から雷で火炎を相殺する。
その光景に王者は歯噛みし、反逆者は苛立ちを募らせる。
表情や背景は違えど、両者の心理は一致する。
自身に歯向かう者を中々殺せないもどかしさ。
それを両者は抱いていた。
痺れを切らした火竜は口から漏れ出る火炎を大気ごと一気に飲み込んで、胸を大きく反らせる。
そして、数秒の溜めを経て、不届者への審判として"高出力火炎ブレス"を放った。
しかし、電竜はそんな物を安易とは受け入れない。
回避行動を取るわけでもなくその頭部に備えた特徴的な鵜冠に緑雷を溜め込んだ。
そして、一閃。
もはや一筋のブレードと化したそれは、王者の逞しく隆起した右肩ごと高出力火炎ブレスを切り裂いた。
火竜は悲鳴にも似た咆哮を上げ、姿勢を崩しながら落下してゆく。
雷竜はすぐさま無防備な火竜に肉薄し無慈悲な追撃を行う。
火竜は猛毒を伴う蹴り、苦し紛れの火炎ブレスで必死の抵抗を見せるものの電竜を退けるには不十分すぎる。
そのまま火竜は地に叩きつけられるが、それでも電竜は止まらなかった。
雷竜は火竜を地面を抉り込ませる勢いで押さえ込み、そのまま引き摺り回す。
もはや火竜に抵抗する力は残っていなかった。
雷の反逆者を前に持てる力の全てを出し尽くた。
それでも及ばなかったのだ。
もはや火竜に残された選択肢は訪れる死を無抵抗で待つのみだった。
……とある乱入者が現れなかった場合の話だが。
「ッ!!? グルゥァァアアアアアッッ!!!」(ちょっ!!? こっちくんなァァアアアア!!!)
◆◆◆◆◆◆
リオレウスとライゼクスを発見したのはまだ良い。
けどな? 発見した途端にもみくちゃ状態のまま俺に突っ込んでくるのは流石に話が違うだろうが。
不意打ちも良いところだぞクソッタレ。
二体の縄張り争いに巻き込まれそうになった俺は、反射的に龍気を噴射し何とか空へと逃れる。
そして空中でホバリングしながら、今だ土煙に身を包む二体の様子を伺う。
土煙が晴れ、姿を現したのは気絶したリオレウスを押さえつけるライゼクスだった。
そしてコイツ、俺を睨みつけている。
まさかリオレウスと連続で俺と戦うつもりじゃないよな?
ギシャァアアアアアアッッッ!!!
どうやらそのまさからしい……
完全に俺を部外者として捉え、叩き出す事に決めた様だ。
怒気を含んだ咆哮で俺を威嚇してくる。
人様の縄張りでそんな横暴な振る舞いができる傲慢さと凶暴さには恐怖すら覚えるが、これがライゼクスの性なのだと自分を納得させる。
グルゥァァアアアアアッッッ!!!!
人ん家に勝手に上がり込んだ挙句、ここは自分の物だと主張する傲慢な反逆者に対し、"やるなら容赦はしない"、と意味を込めた咆哮で威嚇し返す。
そしてそれが開戦の合図となった。
ライゼクスは飛び上がり、一直線に俺へ向かってくる。
だが遅い。
バルファルクの俺からすれば止まって見える。
俺は噴出口の向きを少しずらし、ライゼクスを軽く躱す。
この時、噴出口の向きを少しでもずらしすぎると、明後日の方向へ暴走しながら飛んでいく。
それだけ龍気での飛行は難しい。
飛び始めの時は本当に苦労した。
不意の急降下で危うく全身粉砕骨折しかけたり、障害物に当たりまくって身体中ヘコみまくったり…………
だが、慣れればどうと言う事はない。
慣れてしまえば、残るのは圧倒的な速度と精密な飛行能力だ。
それこそ、ライゼクスなど余裕で圧倒できるほどの。
ライゼクスは不満げに唸りながら俺を睨む。
どうやら躱されると思っていなかったらしい。
空中戦でバルファルクに勝つつもりなのか? 甘い奴だ。
自分の実力に自信を持つのは良い事だが、まずは身の程を弁えるんだな。
龍気の放出を抑え、胸部に少しずつ龍気を溜める。
胸の膨らみと熱の増加で溜めた量を測りながら、少しずつ溜め込む。
ライゼクスは再び俺に向かって飛んでくる。
さっきよりも速いが、まだまだ遅い。
これなら十分間に合うだろう。
そして胸の膨らみと熱が強くなったところで、溜めを止める。
あとは体の指向をライゼクスに絞り、一気に放出するだけだ——
その瞬間、俺は音を置き去りにしながらライゼクスへと突進した。
ズドン!!! と鈍い音が響く。
真正面からぶつかり合って、ライゼクスだけが跳ね飛んだ音だ。
それに対して俺は全くの無傷、痛みも何もない。
バルファルクの耐衝撃性に優れた甲殻と体の構造には本人である俺も驚かされるばかりだ。
ライゼクスは羽ばたきもせずに地面に落下し悶えている。
そりゃあそうだ。
たとえライゼクスであったとしてもアレを喰らってまともな状態でいられる訳がない。
と言うかこれが効かなかったら即撤退だわ。
そう言える程これには自信があった。
ギシャァァア”ア”ア”ア”ッッッ!!!!
ライゼクスは憤怒の雄叫びを上げる。
あの一撃を喰らって堪らず怒り状態に移行したようだ。
その証拠に息を荒げている。
ゲーム内での怒り状態とアレが同じ状態ならば、攻撃力は増し行動速度も上昇する。
ならば気を引き締めて、慎重にやろう。
最悪遺群嶺から追い出せればいい。
万が一も想定して戦わなきゃならない。
気を張り直したところで今度は俺から仕掛ける。
再びライゼクスに指向を絞り、翼を突き出しながら突進する。
ライゼクスは俺の速度になんとか反応し、バックステップで回避しながら距離を取る。
ライゼクスに風穴を開けるつもりだった俺は勢い余って地面に翼を突き刺してしまう。
そしてライゼクスはこの隙を見逃してはくれなかった。
鋭利に鋭く曲がった翼爪で俺を叩きつけにくる。
だが舐めるなよ。
バルファルクは地上戦もいけるクチなんだ。
俺は地面から翼をぶっこ抜き、反復横跳びの要領でサイドステップし、叩きつけを回避する。
そして逆に隙が生まれたライゼクスに翼を槍状に変形し、弱点の頭部を狙って突き刺した。
しかし、ライゼクスは顔を逸らす事でギリギリ槍翼を回避する。
「グルォ……!」(マジか……!)
どうやら怒り時のステータス上昇は現実でも同じの様だ。
明らかに動体視力と反射神経が上がり、動きのキレが良くなった。
クソっ……怒り状態は厄介だな。
槍翼を躱したライゼクスは、首をもたげて口内から緑電を覗かせる。
間違いない、ブレスだッッッ!!!!
判断を下すと同時に龍気を放出し飛ぶ。
その瞬間、ライゼクスの口からは雷ブレスが放たれた。
俺はなんとか回避に成功するが、縦に伸びる不規則な動きの雷ブレスは放った後でも二つ、三つに分岐しながら広がっていく。
そして持続時間がゲーム内と比べて長過ぎる。
動きも不規則な為軌道がかなり読みづらい。
大袈裟に離れれば回避できるが、ライゼクスに接近して攻撃するとなると、アレを掻い潜る必要が出てくる。
俺相手に近接戦を仕掛けるのは不利だとしての判断なのか、単純な気まぐれなのかは知らないが、どちらにせよ厄介極まりない行動だ。
更に俺は属性に弱い。
これは……一気に雲行きが怪しくなってきたぞ。
身の程を弁えろとは言ったが、実行には移すなよ……
ライゼクスは未だ空中にいる俺に降りてこいと、言わんばかりに通常の雷球ブレスを放つ。
俺はブレスを躱し、ライゼクスに接近戦を仕掛けにいくが、再び放たれたブレスに阻まれる。
ダメだ、近づけない…………
そして、攻めあぐねている俺の隙をライゼクスは逃さなかった。
ライゼクスは残留するブレスを突き抜けながら一直線に向かってきた。
その俺は行動に意表を突かれた。
まさか自分のブレスを突っ切って突進してくるとは思わず、回避行動が遅れる。
そして、初めて被弾した。
ライゼクスの凶爪が顔面に襲いかかる。
顔を逸らす事でなんとか致命傷は回避したものの、首筋に三筋の掻き傷を負ってしまう。
そのままライゼクスは俺を滅多打ちにする。
翼での連打に次ぐ連打。
牙での噛みつき。
尾の鋏での攻撃。
バルファルクの甲殻はそれでも砕けはしなかったが、表面に傷は蓄積されていく。
俺はなんとかライゼクスを引き剥がそうと躍起になるが、ライゼクスは離しちゃくれなかった。
そしてそのまま空中でもつれ合いながら、飛行を維持できず地面に叩きつけられ、背中を下に胸部を押さえつけらる。
ダメだ……完全に力負けしてる……
体を動かしてもまるでビクともしなかった。
そして、ライゼクスの漆黒だった鵜冠が緑に輝き始める。
"電荷状態"ッ……!
まさか、ブレスを連発していたのは、俺を寄せ付けない為じゃなく……頭にいち早く帯電する為か……!!!
リオレウスとの戦いを経て消費した電力を俺と戦いながら溜めて帯電したのかよバケモンが!!
ライゼクスの鵜冠を見て血の気が引いていく。
なぜならこの次は"ライトニングブレード"が来る確信があったからだ。
だがこのままでは回避などできる訳もなかった。
そして、ライゼクスの鵜冠が緑雷を纏いながら伸び始める。
あぁ……こりゃダメだな。
…………やるしかない。
ライゼクスに抑えつられている胸部を無理やり開き大気を吸う。
開いた際、ライゼクスの爪が少し吸引口に食い込み激痛が走るが、そんな事は気にしちゃいられない。
胸が熱い。
呼吸がしにくい。
だが、まだ溜められる。
なら溜めは止めない。
そしてライゼクスが天に頭を掲げた瞬間、限界が来た。
そして間髪入れずに翼を反転させ、ライゼクスに噴出口を向けてからありったけの龍気を一気に放出した。
瞬間、赫い火炎が爆ぜ、耳を覆いたくなる様な轟音が遺群嶺全土に響き渡った。
ライゼクスは途方もない暴力的な爆発に晒され、遥か高くまで吹っ飛ばされる。
俺もただじゃ済まなかった。
爆発の中心近くにいたものの、甲殻の耐衝撃性は今の爆破すらも防ぎ、そのおかげで目立つ様な怪我はしなかった。
しかし、爆発の衝撃を抑え込む為に使った翼の関節が物凄く痛い。
かなり無理な使い方をしたツケなのだろう。
だが言ってしまえばそれだけだった。
そしてライゼクスは力無く地面に落下し、黒焦げの状態で沈黙した。
もしかするとまだ生きていて襲ってくるかもしれない。と、気を張り続けるが、どうやら杞憂らしい。
ライゼクスは息をしていなかった。
決着だ。
そう認識した途端足腰の力が抜けて思わずへたり込んでしまう。
張り詰めていた物を全て吐き出す様に深いため息をつく。
疲れた…………
これが縄張り争いか…………
めちゃくちゃしんどい…………
怒ってからが……キツかった………
だが、苦労してもぎ取った勝利だからか、僅かに達成感もある。
そして、それ以上に万が一を想定しておいてよかったと感じた。
フラッシュバックするのは、目の前でライトニングブレードを掲げるライゼクスだ。
もしも保険に龍気を少しずつ溜めていなかったら、きっとアレに体を真っ二つにされていだのだろう。
そう思うと保険をかけておいて正解だったと言わざるを経なかった。
「グ……グルォォ…………」(はぁ……帰ろう)
そうして俺は、初めての防衛戦を勝ち抜き、途方もない疲れと僅かな達成感を抱えながら帰路に着くのだった。
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