鬼兵隊の根城の一室で、摩戸才宴と高杉晋助が話している。
「才宴」
「なんだい?」
「お前だろう? 桂を助けたのは」
「医者には答えられないなぁ」
才宴は、表情を変えずに返した。
「そうかい」
高杉は、低く笑い、旧知の男を見る。
波打つ髪の白衣を肩にかけた医者は、己と同じ匂いがした。
いまだに戦の中にいる存在。それが、ふたりの共通点だった。
「お前のことだから、どうせ銀時も診てるんだろうよ」
「…………」
才宴は黙って、薄く笑みをたたえたままでいる。
「母親を喪い、戦で父親を喪い、兄は目覚めないまま。お前は、何に手を伸ばす?」
「星だよ」
「星、ねえ」
「私は、自分の夢のために生きている。それは、昔から変わらないよ」
男は、両腕を空に届かせようと伸ばした。当然、その腕は星に触れるには短過ぎる。
着物の袖が下がり、才宴の右腕の古い傷痕を晒した。酷い火傷の痕のように見える。
それは、天人の兵器に負わされたもの。その傷に巻いた包帯が、後の白蛇の所以である。
「お前の大層な夢が叶うか、俺が破壊の限りを尽くして終わるか。最後に立ってるのは、どっちの鬼だろうな」
「ははは! どちらも立っていたらいいじゃないか」
「ふん。まあ、お前はそう言うか。今日は、ご苦労だったな、才宴」
「私は、医者として当然のことをしただけさ」
「……そうだな」
なんの躊躇いもなく、才宴は、過激派の攘夷集団へも手を差し伸べていた。全ての命は、平等に。老いも若きも、聖人も悪人も、彼には関係ない。才宴の瞳には、ただ救うべき命だけが映っている。
「さて。私は、そろそろ帰るよ。次は、健康診断で会おう」
「ああ。またな、才宴」
高杉は、才宴を隊員に見送らせ、ひとりで思考を巡らせた。
摩戸才宴は、とても正気ではない。彼の倫理は、常人には理解出来ない。
命を救うためならば、あの男は何でもするだろうし、実際にそうして生きている。
そこに善意はなく、悪意もない。
才宴が持つ悪性は、人に嫌がらせをする時にだけ発現した。
その趣味の嫌がらせすらも、医療のための研鑽にしている男。
あれが、鬼でなくて、何だというのだろうか?
摩戸才宴という鬼は、代々医者の家系に生まれ落ちた傑物だった。
彼の生は、何を得て、時代に何を残すのだろうか?
高杉晋助は、才宴の狂気の行く末を考え、ふたりの鬼が共に並ぶことはないと結論を出した。
攘夷戦争で出会ったふたりは、違う夢を見ている。
高杉の考えをよそに、摩戸才宴は、当然のように旧友たち全員の命を救うつもりでいた。
その願いだけ見れば、美しい色彩で。才宴の理想は、途方もない高みにあった。