人の嫌がることは進んでしろ   作:スナエ

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好きな子をいじめると当たり前に嫌われる

 かぶき町、摩戸診療所内にて。

 

「真選組だァ!」

 

 鬼の副長、土方十四郎が吠えた。

 

「摩戸才宴、違法薬物所持容疑で令状が出てる」

「またぁ?」

 

 才宴は、やれやれと肩をすくめる。

 

「俺らだって嫌なんだよ。そうだろ、山崎?」

「はは……」

 

 山崎退は、青い顔で曖昧に笑った。

 

「山崎さん♡」

「ひぃっ!?」

 

 才宴に詰め寄られた山崎は、情けない声を上げ、逃げ腰になる。

 しかし、才宴に腕を掴まれて逃げられない。そもそも、家宅捜索の仕事を放り出すワケにもいかない。

 

「また君と遊びたいなぁ。この後、暇?」

「暇じゃないです! 全っ然暇じゃないです!」

 

 歳下の上に危険人物リストに名前を連ねている才宴に、敬語で必死に答える山崎。

 

「山崎、ソイツを見張ってろ」

「えっ!?」

 

 怯える山崎に無慈悲な命令が下った。

 

「山崎さん♡ 私と一緒にいてくれるんだね♡」

「副長命令なんで……!」

 

 山崎には、何故摩戸才宴がこんなに自分に嫌がらせをしてくるのか分からない。

 才宴は、山崎の嫌がる顔が好きで、怖がる様が好きで、彼のことを気に入っていた。山崎にとっては、最悪な事実である。

 山崎は、才宴の診療所に潜入したことがあるのだが、気付いた時には意識を失い、診察台の上に拘束されていたという過去があった。それから、山崎の頭には、摩戸才宴という厄災が刻み込まれている。

 頼むから、早く捕縛されてくれ!

 山崎の願いも虚しく、摩戸診療所からは何も出て来なかった。

 

「撤収するぞ」

「はい……!」

「山崎さん♡ また来てねぇ♡」

 

 才宴は、足早に去って行く山崎に手を振る。

 

「さて」

 

 肩にかけた白衣を翻し、診療所の隅へ向かう。

 

「摩戸才宴は、生きている。浅き夢見じ、酔いもせず」

 

 真選組の者たちがいなくなってから、才宴は合言葉入力と声紋認証をしなくては入れない地下室へ降りた。

 違法な物品は、全てここにしまってある。

 診療所の床にある隠し戸には継ぎ目すらないため、“ある”ことを知らなければ見付けられないだろう。

 才宴は、今日も嫌がらせのための薬品作りに余念がない。

 現在、彼が作ろうとしているのは、内心を暴露してしまう薬である。つまり、自白剤のようなもの。

 完成したら、万事屋銀ちゃんに持って行くつもりだ。

 

「銀時くん、どんな顔をするかなぁ」

 

 摩戸才宴は、ニヤリと笑う。

 傍迷惑なマッドサイエンティストは、今日も絶好調であった。

 

◆◆◆

 

 白蛇の医鬼(しろへびのいき)と呼ばれた男がいた。

 攘夷戦争の頃に、戦場で負傷者の救護と治療をしていた彼。

 自分の怪我に巻いていた包帯がゆるみ、白蛇のようになびいていたことから、そう呼ばれるようになった。

 多くを助けた、伝説的な医者。

 しかし現在では、彼の消息は不明である。

 戦場で負った傷で亡くなったとか、故郷へ戻り医者を続けているとか、様々な噂があった。

 実際のところ、白蛇の医鬼こと摩戸才宴は、かぶき町で町医者として生きている。

 彼が白蛇の医鬼であることを知る者は少ない。

 山崎退もまた、そんな事実は知らなかった。

 

「山崎さん♡ 私と遊ぼう♡」

「勘弁してください! 勘弁してください!」

 

 非番で、そこらを散歩していた山崎を捕まえ、才宴は実験をしたがっている。もちろん、山崎は全力で嫌がっていた。

 

「ちょっと注射するだけだから」

「なんで注射器持ち歩いてんのォ!?」

 

 ツッコミをする山崎。

 

「医者だからだよ」

「マッドサイエンティストだからでしょ!」

「私は正気だよ♡」

「この人、タチが悪いよ!」

 

 ふたりが攻防を繰り広げていると、そこにふらりと男がやって来た。

 

「ギャーギャーうるせぇなぁ。痴話喧嘩ですか、コノヤロー」

 

「旦那ァ! 助けてくださいよ!」と、坂田銀時に助けを求める山崎。

 

「才宴。お前、そんなんじゃ絶対に成就しないけど、いいのか?」

「そんなのは別にいいんだよ、銀時くん。私は、今のままで充分楽しいからねぇ」

「だとよ、山崎」

 

 耳の穴に小指を突っ込みながら、銀時は言った。

 

「何が?!」

「才宴に気に入られちまったら、もう仕舞いってこった。ご愁傷様でーす」

「そんな!?」

 

 銀時は、残酷なことを告げて去る。

 

「隙あり!」

 

 才宴が、山崎の首筋に注射器を刺し、何かを注入した。

 

「ぎゃーッ!? 何を打ったの?! 毒?!」

「では、記録を取らせてもらおう」

 

 才宴は、手帳を取り出し、日付と現時刻を記入する。

 

「どうかな? 体調の変化は?」

「あれ? なんか気分がよくなってきました…………」

「記録、1分15秒。なるほどね。他には?」

「目の疲れがなくなってる……?」

「ふむふむ」

 

 才宴は、記録を続けた。

 

「あの、才宴さん、何を打ったんですか?」

「疲労回復剤」

 

 手帳から顔を上げ、山崎を見つめる才宴。

 

「それなら、そう言ってくださいよ!」

「そんなことしたら、つまらないだろう? 君の嫌がる顔が見られないと」

「早く医師免許剥奪されてください……」

 

「ははは! 私が医師でなくなったら、世界の損失だよ」と、悪魔のように男は笑った。

 

「名残惜しいけれど、そろそろ仕事に戻るかなぁ。また遊ぼうね♡ 山崎さん♡」

「嫌だァァァァァァァ!」

 

 ひらりと、白衣をなびかせ、摩戸才宴は去って行く。

 残された山崎退は、さめざめと泣いた。

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