ロッカーのように袖が千切られた隊服の山崎退を見付けて、才宴は、さっと近付いた。
「山崎さん♡ ずいぶん注射がしやすい服装をしているね♡」
「きゃあァァァァァァァァァ! 誰か、男の人呼んでェェェェェェェェ!」
「はーい♡」と、片手を挙げる才宴。
「あんた以外だよ!」
「今日は、真選組がうろうろしているねぇ。誰か捜してるのかい?」
「いや、一般人に言えることじゃないんで……」
そう答えたが、摩戸才宴は、一般人ではなく危険人物である。
「まあでも、一応訊きますけど、かぶき町で見知らぬ娘さんを見ませんでした?」
山崎たちが捜しているのは、家出した、そよ姫だ。
「見てないなぁ」
「そうですか。じゃ、俺はこれで」
「またねぇ♡ 山崎さん♡」
ぶんぶん手を振りながら、才宴は笑っている。
その後。そよ姫は無事に見付かった。
「お姫様の血液というのも、なかなかレアだよねぇ」
テレビに映る少女を見て、摩戸才宴は呟く。
◆◆◆
将軍も来るという祭りの当日。
摩戸才宴は、夕方に診療所を閉めて、夜店を見物していた。
「よう、才宴」
「おや、高杉くん。何か用?」
過激派攘夷志士、高杉晋助。彼も才宴とは昔馴染みである。
「また、お前に医者として協力してもらおうと思ってな」
「いいよ」
「即断即決か。相変わらず、てめーは人を生かすことさえ出来ればいいんだな。さすが、白蛇の医鬼だ」
低く笑う高杉。
「だが、こうは思わねーのか? 自分が助けた奴が、もし千人殺したらってな」
「その千人も助ける」
「前提を覆すんじゃねーよ」
「私は、生きたい者を生かすだけだよ。それがたとえ、殺人鬼だとしても」
「そうかい」
高杉は、去って行った。
そして才宴は、パシリにされている山崎を目にする。
「山崎さーん♡」
「うわッ!? 出たァ!」
「なにしてるの? 警護? 注射してもいい?」
「よくないです! やめてください!」
たこ焼きを買った後も、才宴は山崎について来た。
「なんでついて来るんですか?! 俺、忙しいんですけど!」
「祭りだから、楽しいことがしたいのさ」
「それ、実験ですよね?! いつもと一緒じゃん!」
「毎回、実験内容は違うよ? 今日は、脳を通常の倍働かせられるけれど、三日くらい寝たきりになる薬」
「毎回、ただの悪夢じゃねーか!」
迫り来る厄災を撒き、山崎は小腹が空いたので、たこ焼きを食べる。
そのせいで、土方にしこたま絞られた。
その後、源外のカラクリたちが起こした騒動での負傷者を、通りすがりの医者、摩戸才宴は的確に手当てをする。
それから、名乗りもせずに診療所に帰って行った。