真選組の者たちが幽霊により、ばたばたと倒れていく。
土方たちが、自称拝み屋と騒いでる一方で、山崎退は摩戸才宴を押し付けられていた。副長命令である。
倒れた隊士たちを才宴が診ているが、対症療法しか出来ていない。
「山崎さん♡」
不意に、名前を呼ばれる山崎。
「な、なんですか?」
「呼んだだけ♡」
才宴は、スッと手を伸ばして山崎の手を取った。
「脈が早いね」
「あんたのせいだよ!」
「ははは!」
山崎には、女の幽霊より、目の前のマッドサイエンティストの方が怖い。
よりによって、何故こんな男を呼んだのだろう? 才宴以外の医者が絶滅でもしたのだろうか。
「摩戸先生」
「才宴」
「才宴先生は、こんなところに来るの嫌じゃないんですか?」
「どうしてだい?」
「だって、しょっちゅう取り調べられてるじゃないですか」
才宴は、顎に手をやり、少し考えた。
「正直、真選組は好きじゃないよ。私は、法が苦手だから」
「この人、法って言った?」
「法がなければ、もっと実験の幅が広がるからねぇ」
「医者なのに、なんでそんなアウトローなんですか……」
山崎は、冷や汗を流す。
「私はねぇ、鬼なんだそうだよ」
「鬼?」
「母を殺して産まれた、鬼子なのさ」
「…………」
押し黙る山崎。
誰かに、そんな心ないことを言われたことがあるのか。
「親族や近所の者から、ずっと後ろ指を差されてきた。そして、戦場で私は本物の鬼になったんだよ」
「戦場にいたんですか?」
「攘夷戦争に、少しね。そこで私は、“白蛇の医鬼”と呼ばれていた」
白蛇の医鬼のことは、聞いたことがあった。鬼気迫る表情で戦場を渡り歩き、多くの命を救ったという伝説。自らの怪我の治療そっちのけで、他者を治療し続けた男。彼の腕に巻かれ、ゆるんだ包帯は、まるで白蛇のように。
「才宴先生が、あの白蛇の医鬼だったんですね……」
山崎は、少し才宴の認識を改めた。
この人は、マッドサイエンティストなだけじゃないのかもしれない、と。
「母親を亡くしたから、医者になったんですね、先生は」
「え? いや、違うよ?」
「違うの?! この流れで?!」
「人の嫌がる顔が好きだから、医者になったんだよ。天職だよね」
「やっぱ、おかしいよこの人!」
一番好みの人の嫌がる顔は、好きな人の嫌がる顔である。
「山崎さん♡ 話を聞いてくれて、ありがとう♡」
「チクショウ! どういたしましてェェ!」
摩戸才宴の屈折した愛情表現は、誰も幸せにしなかった。本人を除いて。
その後。幽霊の正体見たり枯れ尾花。天人の仕業ということが判明し、才宴の適切な処置で皆が回復する。
頭がおかしいことに目を瞑れば、いい医者なんだけどな、と山崎退は思った。