人の嫌がることは進んでしろ   作:スナエ

6 / 12
マッドサイエンティストってホラーじゃね?

 真選組の者たちが幽霊により、ばたばたと倒れていく。

 土方たちが、自称拝み屋と騒いでる一方で、山崎退は摩戸才宴を押し付けられていた。副長命令である。

 倒れた隊士たちを才宴が診ているが、対症療法しか出来ていない。

 

「山崎さん♡」

 

 不意に、名前を呼ばれる山崎。

 

「な、なんですか?」

「呼んだだけ♡」

 

 才宴は、スッと手を伸ばして山崎の手を取った。

 

「脈が早いね」

「あんたのせいだよ!」

「ははは!」

 

 山崎には、女の幽霊より、目の前のマッドサイエンティストの方が怖い。

 よりによって、何故こんな男を呼んだのだろう? 才宴以外の医者が絶滅でもしたのだろうか。

 

「摩戸先生」

「才宴」

「才宴先生は、こんなところに来るの嫌じゃないんですか?」

「どうしてだい?」

「だって、しょっちゅう取り調べられてるじゃないですか」

 

 才宴は、顎に手をやり、少し考えた。

 

「正直、真選組は好きじゃないよ。私は、法が苦手だから」

「この人、法って言った?」

「法がなければ、もっと実験の幅が広がるからねぇ」

「医者なのに、なんでそんなアウトローなんですか……」

 

 山崎は、冷や汗を流す。

 

「私はねぇ、鬼なんだそうだよ」

「鬼?」

「母を殺して産まれた、鬼子なのさ」

「…………」

 

 押し黙る山崎。

 誰かに、そんな心ないことを言われたことがあるのか。

 

「親族や近所の者から、ずっと後ろ指を差されてきた。そして、戦場で私は本物の鬼になったんだよ」

「戦場にいたんですか?」

「攘夷戦争に、少しね。そこで私は、“白蛇の医鬼”と呼ばれていた」

 

 白蛇の医鬼のことは、聞いたことがあった。鬼気迫る表情で戦場を渡り歩き、多くの命を救ったという伝説。自らの怪我の治療そっちのけで、他者を治療し続けた男。彼の腕に巻かれ、ゆるんだ包帯は、まるで白蛇のように。

 

「才宴先生が、あの白蛇の医鬼だったんですね……」

 

 山崎は、少し才宴の認識を改めた。

 この人は、マッドサイエンティストなだけじゃないのかもしれない、と。

 

「母親を亡くしたから、医者になったんですね、先生は」

「え? いや、違うよ?」

「違うの?! この流れで?!」

「人の嫌がる顔が好きだから、医者になったんだよ。天職だよね」

「やっぱ、おかしいよこの人!」

 

 一番好みの人の嫌がる顔は、好きな人の嫌がる顔である。

 

「山崎さん♡ 話を聞いてくれて、ありがとう♡」

「チクショウ! どういたしましてェェ!」

 

 摩戸才宴の屈折した愛情表現は、誰も幸せにしなかった。本人を除いて。

 その後。幽霊の正体見たり枯れ尾花。天人の仕業ということが判明し、才宴の適切な処置で皆が回復する。

 頭がおかしいことに目を瞑れば、いい医者なんだけどな、と山崎退は思った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。