摩戸診療所に、傷を負った桂小太郎がやって来た。何故か髪が短くなっている。
「才宴、治療を頼む」
「はいはい」
診療所を閉めてから、桂に向き合う。
酷い刀傷だ。殺菌消毒し、麻酔を打ってから傷口を縫う。
「桂くんを相手にこんなことが出来る人がいるんだねぇ」
才宴は、興味深そうに笑っている。
「人斬り似蔵だ。妙な刀を持っていた」
「へぇ、面白い。それ持って来てよ」
「……相変わらずだな、おまえは」
「はははっ! 君もね。侍というのは、どうしてすぐ死んでしまうようなことをするのかなぁ?」
摩戸才宴には、分からない。
「自分の命よりも守りたいものもあるだろう」
「ダメだよ、そんなの。命より大切なものなんてないよ」
「才宴。おまえは医者だから分かるまい」
「私が苦手なものは、法と死に急ぐ人間さ」
「今、法って言った?」
「本人が生きようとしてくれないと、医者にはどうにも出来ない」と、包帯を巻きながら才宴は語った。
「桂くん。どうか、死なないで」
それは、祈りのような言葉。ただ、生きていてほしいという願い。
「……ああ」
「本当は、しばらく安静にしていてほしいんだけどな。行くんでしょう?」
「……世話になった。おれが生きていることは、他言無用だ」
「うん。またね、桂くん」
「またな、才宴」
その後。今度は、坂田銀時が人斬りにやられたと聞いた。
志村妙と共に、彼に手当てをする。
「銀さん、目覚めますよね?」
「もちろん。こんなことで死ぬ男じゃないさ」
「才宴さんは、この人と古い付き合いだと聞きました。昔からこうなんですか?」
「そうだね。変わらないよ」
「そうですか…………」
お妙は、一度目を伏せた。それから、小さな声で尋ねる。
「……あなたも?」
「私? 私は、どうかな。自分ではあまり分からないね」
「いつも、どんな気持ちで戦う人たちを待っていましたか?」
「とても単純なことだよ。生きたい者が生きられるのがいいと、ずっと思っていた」
「根っからのお医者様ですね」
お妙は、微笑んだ。才宴は、一瞬笑みを消してから、いつも通りに「はははっ!」と笑う。
「では、私は診療所に戻るよ。あとは、よろしく。お妙さん」
「はい。ありがとうございました」
男は、万事屋を出て帰路を行った。
道すがら、自らの過去を思う。
私は、人の命を奪って産まれた者だ。
摩戸才宴の母は、彼を産んですぐに亡くなっている。
母の命と引き換えに得た、この命。たとえ何人救ったとしても、母は生き返らない。
それでも、才宴は医者で在り続けるだろう。