人の嫌がることは進んでしろ   作:スナエ

9 / 12
過去はいつでも背後にある

 摩戸診療所に、傷を負った桂小太郎がやって来た。何故か髪が短くなっている。

 

「才宴、治療を頼む」

「はいはい」

 

 診療所を閉めてから、桂に向き合う。

 酷い刀傷だ。殺菌消毒し、麻酔を打ってから傷口を縫う。

 

「桂くんを相手にこんなことが出来る人がいるんだねぇ」

 

 才宴は、興味深そうに笑っている。

 

「人斬り似蔵だ。妙な刀を持っていた」

「へぇ、面白い。それ持って来てよ」

「……相変わらずだな、おまえは」

「はははっ! 君もね。侍というのは、どうしてすぐ死んでしまうようなことをするのかなぁ?」

 

 摩戸才宴には、分からない。

 

「自分の命よりも守りたいものもあるだろう」

「ダメだよ、そんなの。命より大切なものなんてないよ」

「才宴。おまえは医者だから分かるまい」

「私が苦手なものは、法と死に急ぐ人間さ」

「今、法って言った?」

 

「本人が生きようとしてくれないと、医者にはどうにも出来ない」と、包帯を巻きながら才宴は語った。

 

「桂くん。どうか、死なないで」

 

 それは、祈りのような言葉。ただ、生きていてほしいという願い。

 

「……ああ」

「本当は、しばらく安静にしていてほしいんだけどな。行くんでしょう?」

「……世話になった。おれが生きていることは、他言無用だ」

「うん。またね、桂くん」

「またな、才宴」

 

 その後。今度は、坂田銀時が人斬りにやられたと聞いた。

 志村妙と共に、彼に手当てをする。

 

「銀さん、目覚めますよね?」

「もちろん。こんなことで死ぬ男じゃないさ」

「才宴さんは、この人と古い付き合いだと聞きました。昔からこうなんですか?」

「そうだね。変わらないよ」

「そうですか…………」

 

 お妙は、一度目を伏せた。それから、小さな声で尋ねる。

 

「……あなたも?」

「私? 私は、どうかな。自分ではあまり分からないね」

「いつも、どんな気持ちで戦う人たちを待っていましたか?」

「とても単純なことだよ。生きたい者が生きられるのがいいと、ずっと思っていた」

「根っからのお医者様ですね」

 

 お妙は、微笑んだ。才宴は、一瞬笑みを消してから、いつも通りに「はははっ!」と笑う。

 

「では、私は診療所に戻るよ。あとは、よろしく。お妙さん」

「はい。ありがとうございました」

 

 男は、万事屋を出て帰路を行った。

 道すがら、自らの過去を思う。

 私は、人の命を奪って産まれた者だ。

 摩戸才宴の母は、彼を産んですぐに亡くなっている。

 母の命と引き換えに得た、この命。たとえ何人救ったとしても、母は生き返らない。

 それでも、才宴は医者で在り続けるだろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。