魔法少女まどか☆マギカ ~少女へ捧げる鎮魂歌~   作:kasyopa

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『我々には管理するものが必要だ。我々は我々だけで生きるべきではないのだ。』 byAC2 クライン


第九話『貴女の望んだ真意』

Side 黄昏藍香

 

 

朝。いつもどおり、朝日が昇る空を見つめる。

ただ、マミさんの部屋なので、カーテンを開けることなくベランダに出た。

 

着ているのはマミさんのおさがりパジャマ。

ちょっと肌寒さが身にしみるが、火照った体を覚ましてくれるからちょうどいい。

息を吐き出すが、白くはならない。そんな季節はとっくに過ぎてしまっているから。

 

「おはよう、藍香」

「おはよう、相変わらずだねキュゥべえ」

 

前の結界の中で収集した穢れの塊を取り出し、キュゥべえに投げつける。

彼は仕事をすぐさま済まし、私に話しかけた。

 

「そういえば昨日はほとんど君達を見かけなかったけれど、どこにいたんだい?」

「さぁね? あなた達に見つけられない場所なんて、いくらでもあるもん」

 

それを聞いてやれやれと目を閉じ、首を横に振ったキュゥべえは参った様子で退散して行った。

それを見送ってから私は手紙を取り出し、その紙で紙飛行機を折る。

宛先はほむらちゃん。ちょっと魔力を籠めて飛ばした。

 

「さってと、体が冷えないうちに早く部屋に戻ろっと」

 

流石に、すぎる事はなんでも体に悪いから。

 

 

////////////////////////////

 

 

マミさんに朝ごはんを御馳走になって、学校に行く時にお別れして私は自宅に戻る。

 

「ただいま」

「……………」

 

帰ってみると、杏子ちゃんがソファの上でふんぞり返って眠っていた。

周りには食い散らかしたと見られるパンの袋やハンバーガーの包み紙が散らばっている。

雰囲気から察するに、昨日の晩からいたようだ。

お腹一杯になって帰っていったのに、こんなにゴミが散らばっているのはおかしいと思う。

 

「杏子ちゃん、起きて」

「んあ~……」

 

体をゆするも一向に起きる気配がない。

 

「お腹空いてても朝ごはん作ってあげないよー?」

「……!」

 

ピクリと反応し、定期的な呼吸が乱れる。

へぇ、お腹空いてるんだ……

 

「いいのかな~? 私はマミさんの家で食べてきちゃったからお腹いっぱいなんだよねー」

「………」

「だったらわざわざ自分の分を作らなくてもいい訳だから、寝てる子の分はいらないよね~?」

 

ピクピクとこめかみが動く。

 

「さってと、私はちょっとさやかちゃんの様子でも見てこよっかなー?」

「うがー!!」

 

杏子ちゃんが奇声をあげて私に飛びかかってきたが、避けることはせずにそのまましがみ付かれた。

 

「藍香! 昨日なんで帰ってこないんだよ!」

「マミさんの家にお泊まりしてたから」

「だからって、少しくらいはあたしにそのこと教えろよ!」

 

彼女の話を聞く限り、あの後またお腹がすいたので私に何か作ってもらおうと私の家に来たが。

どこを探しても当の本人がおらずその憂さ晴らしにいろいろかっぱらってきて、食い散らかしてそのまま寝てしまったらしい。

 

で、私が帰ってきて起しに来た物の拗ねてすぐには起き出さなかったらしい。

 

駄々をこねる杏子ちゃんのお願いもあって、私は簡単な物を作る。

なんでも夜中に食べたのでまだお腹が空いていないらしい。

作り終えてから散らかったゴミを片付けて、私はさやかちゃんを捜しに出た。

 

 

 

Side 暁美ほむら

 

 

 

早朝に届いた黄昏藍香からの手紙。

内容は、巴マミに魔法少女の真実を伝えたこと。

そして、まどかが魔法少女になることによって訪れる悲劇について伝えたこと。

 

「流石はイレギュラー。仕事が早いわね」

「イレギュラーがどうしたんだい? 暁美ほむら」

「あなたは今お呼びじゃない。消えなさい」

「……そのレギュラーは誰か僕達も知っている。君は何を企んでいるのか教えてほしいものだね」

「あなた達に話す権利が私になければ、あなた達は私から聞き出す権利もない」

「権利など有って無いようなものだよ」

「最後の忠告よ。消えなさい」

 

銃を取り出し、引き金に手を掛ける。

 

「やれやれ、君といい杏子といい、何がそうさせたんだろうね」

 

家の闇の部分に入り、気配が消えた。

 

「……本当に、望んでいいのかしら」

 

私は微かな希望に向かって、つぶやく事を止められなかった。

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

学校はガラス張りだから教室の中は簡単に見ることができた。

当然近いと誰かに気付かれちゃうから、遠くから視力を強化して教室の中を探る。

 

「んー。ほむらちゃんとまどかちゃん、仁美ちゃんはいるんだけど、さやかちゃんはいないのかなー」

 

ほむらちゃんが当てられてないのを見計らって、『話しかけて』みる。

 

「≪ほむらちゃん≫」

「≪今は授業中よ。手短にお願いするわ≫」

「≪さやかちゃん来てる?≫」

「≪来てないわよ。それがどうしたの≫」

「≪特に意味は無いよ。さやかちゃんに話した事があっただけ≫」

「≪……黄昏藍香≫」

「≪ん? どうしたの?≫」

「≪……ありがとう≫」

「≪どういたしまして≫」

 

私は再び、さやかちゃんを捜しに別の場所に移動した。

 

 

Side 美樹さやか

 

 

私は一人学校をさぼって街中を歩いていた。

 

「いやー、こんな天気のいい日には街でぶらぶらするのが一番ですなぁ~」

「そんな貴女に鉄拳制裁!」

「うわぁ?!」

 

不意に後ろから痛くは無いものの、ポカリと殴られて驚きの声を上げる。

勢いよく振り返ると、そこには見なれない笑顔があった。

 

「藍香? あんたこそどうしてここに」

「私学校に行ってないから」

「うわ、不良だ」

「平日のこんな時間にうろうろしている現学生も不良だと思うけどなー」

 

うぐぐ……

ごもっともな事を言われ、言い返そうにも言い返せない。

 

「とにかく、ここじゃ人目につくから補導されても知らないよ?」

「あー。それは……ほんと勘弁」

 

苦笑いを浮かべ、私は藍香の言われるままに別の場所に移動した。

 

 

//////////////////////////////////////

 

 

移動している途中。私は少し気になった事を訊ねてみた。

 

「そういえば、杏子って学校行ってるの?」

「杏子ちゃんも行ってないよ。それはまぁ、詳しいことは本人から聞いてね」

「はい」

 

なんか雰囲気的にサボってるって感じじゃないんだけど……

まぁ気にしてもしょうがないか。

 

佐倉杏子。今日の朝、マミさんに杏子について聞いてみた。

この前の魔女戦でもおかしな行動が多かったから。

 

なんでも元々はいい魔法少女で、マミさんとは昔一緒に魔女と戦った仲だそうで。

でもある日を境に利己的な行動を取り始め、最後には強く反発し合って魔法少女同士なのに戦う事になったそうだ。

 

「……藍香、なんであんたは杏子とコンビ組んでるのさ?」

「人の本質は、一見しただけで解るものではない。そう言う信念があるから」

 

一見しただけで人の本質が解れば、それほど楽な事は無いのに。

恭介の内に秘められた苦痛を、もっともっと早く解ってあげられただろうに。

でも、この奇跡で救って上げられた。恭介の演奏が聴けた。恭介の嬉しそうな顔を見る事が出来た。

 

「さやかちゃんはどんな願いで魔法少女になったの?」

「……なんで言わなきゃいけないのさ?」

「でも、隠すほどの事でもないでしょ?」

 

どんなに幼くったって、願いは願い。命を掛けてまで魔女と戦う道を選んだんだから。

そう付け加える藍香は相変わらずの陽気な雰囲気を出していた。

 

「大丈夫、笑ったりしないから」

 

そういう問題じゃないんだけどなぁ……

そんなことを思っていると、振り返って顔を覗き込んできていた。

 

「あー! もう言うから! そんなに顔近付けなくてもいいから!」

「うん、素直でよろしい」

 

ため息を吐いて口を開く。

当の本人はまた歩き始めた。

 

「私の幼馴染で、バイオリンがすっごく上手い奴……恭介っていうだけど。そいつ、昔事故で指が動かなくなっちゃって、それでお医者さんからももう治せないって言われて……」

「……その怪我を治すために」

「うん」

「………」

 

歩きながらも黙り込む藍香。

その沈黙が身にしみる。

すぐ笑ってくれたらすぐに言い返せてその場が晴れると思ったのに。

 

「な、なんか言いなさいよ」

「ごめんね。何も言えなくて」

「………」

「人の為に掛けた願いっていうのは、難しいから。本当に、それで自分で満たされたのなら、問題ないんだけど」

「私は何にも後悔してない。だから、良かったんだよ」

「さやかちゃんは、その恭介ってその怪我を治すこと自体が願いなの? それとも、その怪我が治ってからのそれからを望んでいるの?」

「?」

 

何を言ってるんだろうか。

その怪我を治すこと自体が願いなのか、その怪我が治ってからのそれからを望んでいるのか。

 

「つまり、怪我を治す事が願いなのか、治ってからの見返りを望んでいるのかってこと」

「そんなの、怪我を治す事自体に決まってるじゃん! それで恭介の怪我は治ったんだから」

「でもそれがもしも、過程に過ぎなかったら」

「何よ! まるで私が見返りを望んでいるみたいなそんな言い方して!」

「自分の願いを、裏切らないためだよ」

 

自分の願いを……裏切らない為?

裏切るって、私は恭介の為に怪我を治したんだ。

私の、大切な恭介の腕を……治して。それで、あいつの演奏が聴きたかっただけ。

あいつの演奏している顔が見たかっただけ……

 

「自分に問い詰めれば解るはずだよ。偽りの願いは絶望を生むから」

「……なんか、見えてきた」

「? 何が?」

「自分の、本当に望んだ事」

「それは今、実現してる?」

 

病院の屋上で、恭介の演奏を聴いた時の事を思い出す。

 

『後悔なんて、あるわけない。私、今、最高に幸せ』

 

「やっぱり、マミさんの言ってた事とはちょっと違うけど、確かに見返りを求めてた」

「そっか。そんな素敵な顔出来るんだったら、それは本当なんだね」

 

手鏡を取り出し、私の顔を映す。

そこにはいつも通りの私の顔が映っていた。

 

さっきまで、自分でも悩んでたっていうのに、今じゃいつもの顔が出来る。

そうだ。私は恭介の演奏が聴きたいから、恭介の演奏するところが見たいから、私は。

もう、これ以上は求めない。

魔法少女になったからには、命がけの戦いを強いられるから。

もう、普通の恋する乙女には戻れない。

 

「そこまで信念が固まったなら、もう話してもいい気がしてきた」

「? 何を?」

「魔法少女としての現実と末路について」

 

思わず歩みを止める。

気に掛けた事なんてなかった。

もう戻れない事は知っている。でも、その先にある事を知らない。

 

「どうあがいても戻れない、その結末を知る覚悟はある?」

 

髪を舞い上げながら振り返り、今までの陽気な雰囲気とは打って変わって、まるで転校生……転校生以上の凍りつくような雰囲気を出す藍香。

 

その後ろには目的地なのかどうかは解らない、ボロボロの教会が見えていた。

 

「大丈夫」

 

その返事を聞きて、再び歩き出す。

その向かう先にあるのは勿論、教会。

 

と、ここである事を不意に思って聞いてみる。

 

「ねぇ、藍香」

「なに? さやかちゃん」

「藍香はどうして、キュゥべえと契約して魔法少女に成らなかったのさ?」

 

キュゥべえと契約して、魔法少女になれば何でも願いをひとつ叶えて貰える。

それからは、まだ私も知らないけど、何でも願いがかなうっていう利点があれば誰でも契約してしまうと思う。

キュゥべえも言っていた。大抵の子は二つ返事だと。

 

「それは後で教えてあげる」

 

教会の前。藍香が古びた扉を開ける。

 

中も雨風にさらされたのか床は黒く少しでも体重をかければ踏み抜けそうなくらいボロボロで。

周りのあるステンドグラスは所々が割れていた。

見るからに豪勢な造りだったんだろう。でも、今じゃその面影もない。

 

「うわぁ……」

 

藍香のお城とはまた別の意味で声を漏らす。

 

「脆くなってる場所があるかもしれないから気をつけてね」

 

彼女は何度も来た事があるかのように、特に周りを気にせず先に進んで教壇の手前にある階段を上っていく。

 

「こんなところまで来て、そんなに大切な話するの?」

「ここには主が居るからね。他の人も、他の魔法少女も近寄らないと思うよ」

 

他の魔法少女まで? 一体どんな人がこんな場所を拠点にしているんだろうか。

 

「さてと、話はごく単純明快に。魔法少女の真相と末路を話すね」

 

私は黙って首を縦に振る。

もうここまで来たから後戻りはできない。

私だって魔法少女だ。正義の味方なんだ。

願いもはっきりしたし、それに恭介との関係もしっかり割り切れた。

もう、なんでもドンと来いって感じだ。

それに、藍香の雰囲気と表情から、尋常じゃない事を言われるのも解る。

ついでに言うなら、信念が固まった事を確認したからだ。

 

「うん。言って」

「その言葉、確かに聞きとめました」

 

「魔法少女になった者は、魂を抜きとられ、その魂はソウルジェムに形を変える」

 

「そしてソウルジェムは、魔力を消費するほど穢れを貯めて、何れグリーフシードとなり魔女を生む」

 




真意など、簡単に見つかるものではないのかもしれない。
しかし、自らを見つめ直せば……必ず。

どうしてもしたかったんだこれ。うん。
さやかの魔女化回避だけは。
……さてもうそろそろ貯め書きが無くなってきた。

次回予告 CV:黄昏藍香

私はここにいるんだと言う事を、手を伸ばさなくても届く場所にいると言う事を。
自分の存在を、確かに彼女に伝える為に。

『因果の記憶』
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