魔法少女まどか☆マギカ ~少女へ捧げる鎮魂歌~   作:kasyopa

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―――それは、一人の少女の始まりの記憶―――


第十三話『理想の始まり』

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

「ふわぁ……」

 

日光の眩しさと、鳴り響く目覚まし時計の音で目を覚ます。

時刻はまだ早い。二度寝しようか考えたが、朝ごはんが食べられなくなるから無理に起きる。

 

「ふわぁ……ねむ……」

 

朝ごはんを作る前に、眠気を覚ますために顔を洗う。

冷水が気持ちいい。最近は朝シャンなんてのが流行ってるらしいけど、私はやる気がしない。

光熱費ももったいないし。

 

髪を鏡で確認しながら櫛で梳いていく。

同時に寝癖が一つもない事を確認。

 

「よーし! 今日も元気に行ってみよー!!」

 

パンとほほを叩いて気を引き締め、私は左腕を突きあげた。

 

「っとと、その前に朝ごはん朝ごはん」

 

今日から新しい生活が始まる。

生活って言っても、学校生活がなのだが。

 

その事で胸がいっぱいになる私だった。

 

 

 

通学路。

さんさんと照りつける日の光があったかくて気持ちいい。

小鳥の鳴き声。風が耳元を流れる音。葉が風で擦れる音。

目を閉じると聞こえてくる自然の音。自分の耳がよく利くお蔭だ。

 

「ミィ~」

「こんなに小さいのに、一人ぼっちなの?」

「ミィ~」

「そう……私と同じだね」

 

そんな自然の中に混じる一人の少女の声と子猫の鳴き声。

目を開けると、綺麗な長い三つ編みの黒髪に、赤いフレームのメガネを掛けた少女が屈んで、黒子猫の頭を撫でていた。

 

その時見えた顔は少し哀しくて、それを見た私は放っておけなかった。

でも、どうやって声かけようかな。やっぱり子猫から話を振った方が自然かな。

 

「あ、子猫!」

「っ?!」

 

突然の声にびっくりしたのか、名も知らぬ少女は驚いた顔で私を見た。

当然、彼女も私の事を知らないから戸惑うしかない。

 

「ミィ~」

「あはは、可愛い~」

 

頭と背中を優しく、優しくなでる。

気持ち良さそうに目をつぶったのを確認すると、今度は喉元を優しく弄る。

 

「ミィ~」

「気持ちいいのかな? もっとしてほしい?」

「ミィ~」

「はーい。解りました」

「あの、この子のこと、知ってるんですか?」

 

喉元を弄っていると、私の事をじっと見ていた少女が声を掛けてきた。

味をしめた私は会話に乗る。

 

「ん? 私は知らないよ? ここではじめて見たもん」

「そうなんですか……」

「貴女もやってみる? こういう撫で方」

「えっ……」

「アニマルセラピーってすっごくいいんだよ~?」

 

私が止めると、今度は彼女がやってくれるのかと、子猫は彼女の方を向く。

戸惑った様子の彼女に対し、私がレクチャーする。

 

「爪を立てずに、こう、指の腹で優しくゆっくり」

 

恐る恐る首元に伸びる手は震えていた。心配なのだろう。

 

「ミィ~」

 

振れたと同時に鳴き声。高さも、質も変わって無いから、嬉しいのに変わりはない事が解る。

びっくりして手を引こうとした彼女に制止の声を掛けて、そのまま続けて、とレクチャー。

 

手慣れず不格好なそれは、それでも子猫に十分な癒しを与えた。

 

「ミィ~」

 

暫くして時間を気にし始めたのか、そわそわしてる。

 

「えっと、それ、見滝原中の制服ですよね?」

「あ、うん。でも私今日転校してきたばっかりで……ごめんね?」

「え、あ、そう、なんです、か」

「え? もしかして」

「は、はい。私も、今日転校してきたばっかりで……ごめんなさい」

「なんだぁ! それならお友達になろうよ!」

「えっ?!」

「同じもの同士、それ触れ合うも多生の縁だよ! 私、黄昏藍香、よろしくね?」

「あ、暁美ほむらと言います……あの、でも」

「でもなんてないよ! ほら、行こ?」

「そういう事じゃなくて……あの、どこかで―――」

 

私は強引に彼女を、ほむらちゃんの手を取り、走り出す。

でもその途中で心臓が悪い事を聞いて、本気で謝ったのは別の話。

 

 

*******

 

 

校舎だけでなく、仕切りの壁でさえも全面ガラス張りの教室。

中の様子が丸見えで、時間的にも、朝のS.H.R.をやっていることが解る。

私とほむらちゃんは共に転入の手続きを終えて、目的地の教室を探していた。

 

「えっと、教室どこかなー。ほむらちゃん、解る?」

「多分、こっちじゃないでしょうか……?」

「私地図読めないし、方向音痴だからよっぽどな目印がないと迷っちゃうんだよね」

「そうなんですか」

「そうなんですよ」

 

返事を返すと突然笑い出したほむらちゃん。私は意味が解らないので、首を傾げる。

 

「ご、ごめんなさい。ダジャレを言ったわけじゃないんですよね?」

「ダジャレ? そうなんですよって合わせて言っただけ……って、なるほど」

 

私が迷いやすいって言う事は、遭難しやすいってことでもある。それをかけて言ったのかと彼女は思ったのだろう。

 

「私が言ったのに、ほむらちゃんに一本取られちゃった」

「ふふふ。あ、あの教室じゃないですか?」

 

指差す教室の中では、他のS.H.R.とは打って変わった異様な雰囲気が出ていた。

クラスの人が少しぐったりしており、先生は熱烈に語っている。

流石に何の話までかははっきり聞こえなかったけど、なんとなく私は勘弁だった。

 

教室の番号を確認してうなずく。

 

「流石ほむらちゃん」

「そんなことないです」

「謙遜しないで」

『はい。後それから、今日は皆さんに転校生を紹介しまーす』

『そっちが後回しかよ!』

 

教室の中の声が漏れて聞こえる。

そのツッコミの意味が私には解らなかったけど、何故か笑えてしまった。

 

『じゃあ、暁美さん、黄昏さん、いらっしゃーい』

 

戸を開けて、まずはほむらちゃんからと催促する。

多分私が先に行ってしまったら、行くタイミングを逃してしまうと思うから。

若干せかした方が、彼女にとってはいいのかもしれないから。

 

クラス中がざわめく。まぁ、当然だよね。

 

「はーい、それじゃあ自己紹介行ってみよう!」

「あ、あの、暁美……ほむら、です。その、えっと、どうか……よろしく、お願いします」

「黄昏藍香です。おかしな名前ですけど、よろしくお願いします」

 

二人でお辞儀をして、頭を上げた頃にペンを置く音がする。

早乙女先生が名前を書き終えたんだろう。

 

「暁美さんは、心臓の病気でずっと入院していたの。久しぶりの学校だから色々と戸惑う所も多いでしょう」

 

「黄昏さんは、家庭の事情で隣町から引っ越してきたの。こちらでの生活にはまだ慣れていないでしょうし」

 

「皆、助けてあげてね?」

 

こうして始まった学校生活。

席は前の方の、丁度ほむらちゃんの隣。普通なのか、偶然なのかは解らない。

 

S.H.R.が終わって質問攻めに合う。

さっきほむらちゃんは鹿目まどかという人に連れられて保健室に行ってしまった。

もっとお話ししたかったのになー。

 

「綺麗な髪~、地毛なの? 染めてるの?」

「地毛だよ? 染めると髪が傷んじゃうからしない主義なんだー」

「こんなに長いと毎日手入れ大変じゃない?」

「んー、どうだろ。慣れと経験で、もう大変じゃないかな?」

「でもでも、これだけ長いといろんな髪型試せるよね?」

「試してみてもいいんだけど、やっぱり髪の質が落ちるのは嫌だからね」

 

なんでみんな髪の毛のことばっかりなんだろうと思いながらも、的確に質問に答えていく。

 

「うううう……」

 

でもなんだろうか。この表現し辛い背後からの視線は。

周りは生徒で囲まれてる筈なのに、そのバリケードを突き破ってまで届く視線は。

 

「うがー!」

 

ついにその視線を送っている主が爆発した。

後ろから凄い剣幕で迫ってくる、何かを私は見ようとして振り返る。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

群衆をかきわけて出てきたのは、青い髪に青い瞳の女の子。

その私に向けた表情は決してよくない物だった。

 

「転校生! あんたは何でもっとおどおどして、質問されたら戸惑うみたいな反応しないの!? 学級委員としての私の立場が無いでしょーが!」

「えっと、それとこれとは話が違うっていうか、十人十色だから他にも私みたいな人がいるかもしれないし」

「関係あるの!」

「さやかさん、それは藍香さんの言うとおり、関係ないと思いますわ」

「うわっ、仁美……」

 

さやかと呼ばれたその人の後ろから現れたのは、抹茶色の髪に抹茶色の瞳の少女。

お上品な雰囲気で、お嬢様みたいな感じがした。

 

「それに、例えそうなっていたとしても、友達になりたいなら―――」

「ひ、仁美! それ以上は言わなくていいって!」

「??」

「あー、ごめんね。あたし美樹さやか。えっと、黄昏藍香だっけ?」

「うん。そうだけど」

「え、っと。まぁ、なんて言ったらいいかな」

 

戸惑うさやかちゃんの様子を見てなんとなく察する。

さっきの仁美ちゃんの発言もあったわけだし。

 

「さやかちゃんだっけ? 私解らない事多いから、学級委員さんに色々教えてほしいなー、なんて」

 

相手が話を切り出しやすいように言葉を添える。

相手の立場とか、色々理解いてもっとも適した言葉を。

 

気休めに溜息を吐く彼女。

 

「仕方ないなぁ。そこまで言われたら引き受けないわけがないでしょ? この学級委員であるさやかちゃんが何でも教えまくっちゃいますからねー!」

「よろしくお願いします。で、さっそくなんだけど次の授業は」

「数学。って数学?!」

「? どうしたの?」

「あたし最近数学全然解んなくってさー。仁美、後でノート見せて?」

「仕方がありませんわね。藍香さんは、どうされますか?」

「あ、っと……」

「あ、申し訳ありません。志筑仁美と申します。以後お見知りおきを」

「黄昏藍香です。仁美ちゃん、って呼んでいいかな?」

「勿論構いませんわ。私も藍香さんと呼ばせてもらってもよろしいですか?」

「うん、いいよいいよ。あの、ノート私もお願いします」

 

本当にお嬢様みたいにお上品な雰囲気。

私が珍しそうな目で見ていると、さやかちゃんが斬り込んできた。

 

「仁美はね、お金持ちのお嬢様なんだよー。羨ましいよね」

「私もちょっと憧れかな。こう、お上品な雰囲気って素敵だよね」

「そんなことありませんわ。さやかさんも藍香さんも、素晴らしい自分をお持ちですもの」

 

ここまで会話が進んで、ほむらちゃんとまどかちゃんが帰ってきた。

もうすぐチャイムが鳴る時間なので、クラスの皆はそれぞれの席に着いていく。

私はそんななか席に着いたほむらちゃんに声をかけた。

 

「大丈夫だった?」

「うん。でも、定期的に保健室に行かないといけないから」

「そうなんだ。大変だね」

「いえ、慣れてますから……」

「後、朝、ごめんね」

「そ、その事は黄昏さんは関係ないですよ。私の体が弱いからで」

「そんなこと言わないで。ほむらちゃんは何にも悪くないよ」

 

チャイムが鳴り、先生が入ってくる。

前の学校と範囲が同じだったらいいな。

 

 

*********

 

 

「きりーつ、礼!」

 

一時間目終了。ほっと溜息。

前の学校だと、ゆっくりしっかりやっていたからよく解ったけど、この学校では簡単に説明して早く進むから、私には理解しづらかった。

何とか追い付いたものの、これからもこのペースならいずれ追い付けなくなる。

 

それはさておき、先生も察してくれないかなぁ。

私は置いておいて、ほむらちゃんは退院したばっかりで解んないのに当てるなんて。

それに、問題が解けなかったからって、人を見た目で判断する人が陰口を叩いていたのが無性に気になった。

当然、私も同じ問題は時間をかけてゆっくり解いた。

それなのに陰口で、単純に遅いとか、グダグダするから早くしろと急かされた。

悔しい以上に哀しかった。そういう考え方、行動をする人は将来でその性格が災いして絶対に損するから。

 

「ほむらちゃん、元気出して」

「………」

 

うーん……流石に、無理、かな。

重く受け止めすぎるような気がするけど、それも人による。個人差がある。

 

「いやぁ、難しかったー」

「さやかちゃん」

「藍香もなかなか応えたでしょ。あの先生教えるの下手だからさー」

「なんとなくそれ解る! なんだか教科書読んでるだけー、みたいな」

「そうそう!」

「そんなこと言ってばかりでは、授業から遅れるばかりですわよ?」

 

はぁ、と溜息を吐く仁美ちゃん。その手にはノートが。

 

「さっすが仁美、話が解る!」

「ありがとう、仁美ちゃん」

「いえいえ。仰って下されば、他の科目のノートもお見せしますわ」

「はーい。またその時になったら言うね?」

「じゃあ私は国語と英語のノートを……」

「さやかさんには言ってませんわ」

「えー!? 仁美のけちんぼ!」

 

そんなやり取りを聞きながらも、私は一心にノートを写す。

綺麗な字で読みやすく、ノートの取り方もすっごく綺麗で見やすい。

このノートからも、お嬢様な雰囲気が出ていた。

 

「仁美ちゃん、後で数学のノート見せて」

「まどかさん。なるほど、そういう事ですの」

 

私はそのまどかちゃんので気が付く。ほむらちゃんもノートを写したいはずだと。

 

「ほむらちゃんも見る?」

「いえ、私は黄昏さんが写し終わった後にでも」

「暁美さんだっけ? そんなんじゃ休み時間終わっちゃうよー」

「そうだよ。解らない時に見た方がいいって」

「じゃ、じゃあ失礼して……お願いします」

 

こうして、二時間目が始まるまで二人仲良くノートを写すのでした。

 





過去の記憶。

というわけで暫く(15話まで)過去編公開となります。
本編と関係ないから外伝とかでもいいのかなぁ?
うーむ、むずかしい。

更新遅れて誠に申し訳ありません。
そしてあけましておめでとうございます。
今年も見てくれてる方が居て非常にうれしい限りです。

次回予告はしばらく休止。なんてったって過去編ですから!
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