魔法少女まどか☆マギカ ~少女へ捧げる鎮魂歌~ 作:kasyopa
Side 黄昏藍香
「アーウ!」
「ほらほらタッちゃん、おいでおいでー」
まどかちゃんの弟、タツヤ君とリビングで追いかけっこ。
飛び込んできたときは、上手く体を入れ替えて大丈夫なように受け止める。
「それにしてもまどかも新しい女友達を連れてくるなんてねー」
「それに、いきなりお泊まりだなんてね。僕も最初は驚いたよ」
「ごめんね、パパ、ママ。急に無理言っちゃって」
「いーのいーの。引っ込み思案のまどかがここまで変わってくれて、私としては嬉しい限りだ」
「あははは! タッちゃん、くすぐったいって!」
「アイカー!」
「タツヤったら、もう藍香ちゃんの事気に入っちゃってる」
「ちょ、まどかちゃん助けてよー!」
「あはは、はーい」
弱い横腹を弄られるとどうしてもくすぐったくて、悶絶してしまう。
自分でやっても大丈夫のに、人にやられるとなんでこんなにくすぐったいんだろう。
「ほらタツヤ、今度は私と遊ぼ?」
「アーイ!」
一旦リビングを離れ、ダイニングに移動して椅子に座る。
「藍香ちゃん、だったっけ」
「あ、はい。まどかちゃんにはいつもお世話になっています」
「まどかから話は大体聞いてるよ。いつもお世話になってるのはこっちの方さ」
「いえいえ、そんなことはないですよ。この前なんて逆に励まされたぐらいで」
「ほぅ、あのまどかが人を励ますなんてねぇ?」
「な、なーにママ」
「いーや、いい方に代わってホント良かったって思ってるよ」
最近のまどかはちょっと抱え込んでる所があったからね。と、まどかちゃんに聞こえない声で、私には聞こえる声でそう呟いたお母さん。
「ねぇ藍香ちゃん、この後どうする?」
「まどかちゃんのお勧めの場所とか教えてほしいな。私あんまりこの街詳しくないからせっかくだし教えてもらえたら」
「あれ? そうだったの?」
「まどか~? 藍香ちゃんが最近引っ越してきたばっかりだってこと、もう忘れたのかい?」
「あ、そうだった」
「もうまどかちゃんたら~」
「(本当に、そんなこと忘れちゃうくらい仲良くしてくれて、でも……それ以前に会った事があるような気が)」
相変わらず、まどかちゃんは首をかしげていた。
因果が強いから記憶の片鱗が残っているのはおかしくないこと。
……でも私や、ほむらちゃんからすれば少し、都合が悪いのかもしれない。
ただし、それは全てを悟った時だが。
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「美味しいねー!」
「うん。ここのクレープ屋さん、ほんとにオススメなんだぁ」
二人で苺とホイップクリームのクレープにかぶりつく。
「ほらそんなに杏子ちゃんみたいにがっついたから、ほっぺに付いちゃってるよ?」
「え? どこどこ?」
私はほっぺに指を走らせるも、そんな感触はない。
「反対側だよ」
まどかちゃんが反対側のほっぺを指で撫でると、その指にはホイップクリームが付いていた。
「ありがとうまどかちゃん」
「えへへ、どういたしまして」
その指についたクリームをおもむろに、自分の口に持って行くまどかちゃん。
かわいいなぁ。
「……こんなにも平和な街が、壊されちゃうんだね。魔女に」
「……大丈夫、私達が守るから。今は、今を大切に。そして今を幸せに」
「そうだよね。未来の事を気にかけて今を立ち止まってちゃいけないもんね」
「そうそう。あ、そうだ」
「? どうしたの?」
「いやー。ちょっと皆の強化……もとい、育成……じゃなかった。改造……でもない」
「えっと、不審な言葉がいっぱい出て来てるんだけど?」
「ごめんごめん。簡単に言ったら皆トレーニングして、強くなってもらわないと厳しいかなって」
「え、でもマミさんも杏子ちゃんも、ほむらちゃんだって強いよ?」
「各個が強いだけじゃ、あんまり強い『組織』とは言えないんだよね。
特に、皆が共に行動するなんて時には特に連携が物を言う事だってあるし」
「そっか。藍香ちゃん、結構いろいろな事考えてるんだね」
「何を言いますか! 私だって色々考える事が多すぎて参っちゃってるくらいだから」
「たとえばどんな?」
「今日の夜は一緒に何をしようかなーとか、まどかちゃんのお背中お流ししようかなとか、今日はオールでもしようかなとかー」
「純情な乙女が街中で白昼堂々と……けしからーん!」
「わひゃぁ!?」
いきなり脇腹を鷲掴みされ、揉まれる。
そのあまりにも突然な出来事と、そのくすぐったさが私の驚きの声がさらに大きくした。
「さ、さやかちゃん?!」
「まどかと藍香を見つけたと思ったら、いきなりそんな会話してるんだから」
「あーうー、それはね」
「それにまどか~? どうしてさっきの強い魔法少女の中にわ・た・し・の! 名前が入って無かったのかな~?」
「そ、それは……」
「さやかちゃんはまだもうちょっとかなー。重点的にトレーニングするつもりだから、覚悟しててね?」
「あ、あははー♪ 藍香? ちょっと場所移そうか…?」
「いいよ? でも『あっち』の方の喧嘩みたいな事をするのなら、結界張るけどどうするの?」
そう言いながらも、さやかちゃんに向けて静かな威嚇のオーラを出す。
以前キュゥべえに向けた物よりもっと弱い物だけど、静かに事を終わらせるならこれが一番なのだ。
案の定さやかちゃんの怒気が引いて、立場が逆転する。
「う……藍香、なんか怒ってる?」
「別にー? 逆ギレなんて私には無縁の言葉だし? さて、どうするのかなー、さやかちゃん?」
「あ、藍香ちゃんそれくらいにしないと」
まどかちゃんの言葉で辺りを見渡すと、周りの人がこちらに視線を集めている事に気が付く。
一部の人は足を止めてまでして私達を見ている。
それをいち早く察知していたさやかちゃんは、私達の手を取ってその場を駆け去って行った。
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「まさかあんな事になるなんてねー」
「元はと言えば藍香が悪いんでしょうが! なんで私はそんなに、弱いのさ」
「さやかちゃん……」
お昼時。人の少ない公園でベンチに座り私達は話し合っていた。
何故自分には素質があるのに弱いのか。
彼女は唯一の情報源であるキュゥべえとは既に縁を切っている上、先輩であるマミさんや杏子ちゃんには聞きづらい点も多いため、無知な部分も多い。
「全部が全部素質じゃないよ? 皆始めた頃は下手。それを才能や素質でカバー出来てる人は、一種の天才なんじゃないかな」
「……そうだよね。それも、身近にいるから解ってるんだけどさ」
「それって恭介君の事?」
「うん。あいつは元々、ヴァイオリニストの素質があったし、あいつ自身もヴァイオリンが好きで頑張ってる。今でもそう。私の願いで治った今も」
「それに、まどかも」
「………」
「あーごめん。そういう意味で言ったんじゃなくて。そういえばあいつが言ってたなーって思い出しただけで」
「確かにね。そうなんだけど大抵はその願いの対価に似合わずに、魔女化してしまう子もたくさんいる訳なんだ」
「藍香でもその言い方は無いと思う」
「ごめん……でも、やっぱり絶望の末路を歩んでほしくないから」
私は遠くの方を見つめ、『彼女』の事を思い出す。
「藍香ー、戻ってこーい」
「あ! さやかちゃん何? 何かあったの?」
「いや何もないけど、最近藍香想いに耽てる事多くない?」
「そうかなぁ? 私はいたって正常だと思うけど」
「私も耽ってる時が多くなったと思う。もしかしてワルプルギスの夜?」
まどかちゃんの発言が鋭い。
でもまったく動揺することなく普通に返す私。
「とりあえず話を戻して。さやかちゃんは絶対素質があるからすぐに強くなると私は思うんだけどな」
「え、ほんと?!」
「ほんとほんと。だってその速度と機動性に回復速度、武器はその速度を生かせる近接武器。極めれば汎用にして最強の魔法少女にだって……」
「へぇ? このあたしを追い抜いてさやかが最強の魔法少女にねぇ?」
ベンチの後ろから急に声が掛ってきて。振り返ればそこに杏子ちゃんがいた。
「杏子! あんた人がせっかくいい気分になってるのに」
「そんな鼻っ面伸ばして調子に乗ってる奴は真っ先にへし折っとかないと」
「ま、まぁまぁ二人とも」
「「まどかは黙ってて!(黙ってろ!)」」
「あぅ」
まどかちゃんは二人の威圧に負けてすぐに引っ込んだ。
相変わらずの二人。でも仲がいいのはもう知ってる。
お昼ごはんも一緒に食べたし一緒にゲームセンターに行ったりしたし。
「今は幸いお昼時で人もいない。どうだい、ここで決着つけてやってもいいんだぜ?」
「望む所よ! 最強の魔法少女である私があんたをコテンパンにのしてやる!」
「ほらほら二人とも。今は魔法少女の話は置いておいて」
「「藍香も黙ってて!(黙ってろ!)」」
「………」
このままじゃ普通に成り行きで始まっちゃいそうなので、私は次の手段に移行する。
「へぇ~、ふぅ~ん? そんなこと言っちゃうんだ~?」
「そりゃあ言うわよ! 私達の話に割り込んできたんだから!」
「私達が優しく言葉で止めてあげようとしてるのに、無視するどころかつっ返すんだ~?」
「お、おい藍香。なんかおかしくないか?」
「別に? 私は気にしてないよ~?」
「あ、藍香、まさか怒ってない? さっきみたいに怒ってない?!」
「だから大丈夫だよ~? 私はいつも通りだから♪」
「いや、いつも通りじゃないだろどう考えても! そのオーラみたいなの抑えろよ!」
「そうそう! 私達ももう喧嘩してないしさ!」
「ならいいけど」
私は怒気を収めて、普通の笑顔をつくる。
「≪ねぇ杏子、藍香って本気で怒ったことあるの?≫」
「≪無い。いっつもあんな感じで押さえ付けられるんだよな≫」
「≪でもあれだけ怖い笑み、始めて見たよ……≫」
「≪最近は治まってたんだけどな。どうも慣れないね、長い付き合いだけど≫」
二人は目で何か会話しているみたいだけど、盗み聞きしないで私は普通にまどかちゃんに話しかける。
「いっつも杏子ちゃんあんな感じなんだよね。さやかちゃんと相性良い筈なんだけどなー」
「それは私も思った。似た者同士っていうのか喧嘩するほど仲が良いっていうのか」
「そうそうそれそれ! ……まぁ、魔法少女同士の戦闘は訓練として取り込むけど」
「え、でも魔法少女同士って危なくないの?」
「いきなりそんなことはしないよ。個人練習からかな。中に対人戦、後に秘密特訓」
「やっぱり結界内でするの?」
「そうだね。後半の秘密特訓は特に。何より結界内だと安全だからね」
主に魔力とか怪我した時の治療とか。
後はお茶会とか?
杏子ちゃんの言葉を思い出して公園の時計を確認すると、本当にお昼時だった。
さやかちゃんと杏子ちゃんはまだ頭で会話しているみたい。
「もうお昼時なんだねー」
「あ、ママからメールが来てる」
まどかちゃんがポケットからピンク色の携帯端末を取り出し画面を見る。
「お昼ごはんもうできるから早く帰ってこい、だって。ママらしいな」
「じゃあ今日はまどかのパパさんの料理をご馳走になろうかな」
「はーい。じゃあさやかちゃん、杏子ちゃん、またね?」
「ん? おーまどか、またねー」
「ああ、またな」
そう言って私達はまどかちゃんの家に戻る。
こんな平凡な日々が続けばいいのに。
でも、これは嵐の前の静けさでしかない事は、自分が一番知っていた。
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5人で食卓に並んだ料理を頂く。
主食はパン、主菜はベーコンエッグにソーセージ、副菜は葉の野菜のサラダにコーンとミニトマトを添えた物。
温かい料理は本当においしい。手作りの物は出来合いの物にはない温かさがある。
世に料理を本格的に教え始めた時の事を思い出す。
勿論食べるのは私だけど。
「藍香ちゃん紅茶のお代わりはいいかい?」
「あ、じゃあお願いします」
まどかちゃんのお父さんは専業主夫。
家事、炊事、洗濯なんでもできる、素敵な人だ。
「藍香ちゃん、遠慮せずゆっくりしていけばいいよ。なんてったってまどかの恩人なんだから」
「もうママったらー」
まどかちゃんのお母さんはバリバリのキャリアウーマン。
まどかちゃんの赤いリボンもお母さんが選んだ物だそうだ。
お仕事が忙しくても家族想いが強い、素敵な人だ。
「アウー!」
まどかちゃんの弟、タツヤ君。あだ名はタッちゃん。
まだ言葉はしっかり話せないものの、その行動力で愛情表現する元気いっぱいな子。
家庭。家族。
皆にある、最後の信頼の砦であり、帰る場所にいる人の代表。
私の記憶をいくら探っても登場する事はない、失われた物でもある。
「(でもいいかな。そんなに羨むことも、出来ないから)」
私にも、あったはずだから。覚えてなくても、居た人達だから。
私が存在するだけで、家族が存在したという証明が出来るのだから。
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時間はあっという間に過ぎて、一緒にお布団で寝る。
まどかちゃんの部屋はいろいろといっぱいだから、空いていた居間を使わせてもらう。
「ねぇ藍香ちゃん。私って、変わったと思う?」
「そうだね、変わったよ。断言できる」
「だよね。そうだよね」
自分に言い聞かせるように、まどかちゃんは繰り返す。自分は変わったのだと。
「………」
「まどかちゃん、変わってよかったと思う?」
「うん。でも」
「でも?」
「ほむらちゃん、どうしてあんなに哀しそうな顔してたんだろうって」
輪廻の因果がもたらす、価値観の変化。それの明確化。
「ほむらちゃんに何かあったの?」
「ううん。なにもないんだけど、この前ちょっとお話したの。ほむらちゃんの事教えて欲しかったから」
そっか、私の教えがまどかちゃんを変え、自らの疑問を解くために自らで行動してるんだ。
だからあの時のゲームセンターの時も、ほむらちゃんに無理矢理あのぬいぐるみを。
「ほむらちゃんは絶対何か知ってる。でも教えてくれないの。藍香ちゃんの説明してくれた秘密以外に」
「それを知りたいんだね」
「うん。それも、ほむらちゃんの口から。私にぶつけて欲しいの」
「そっか」
私は天井を向いているから、今彼女がどんな顔をしているかは解らない。
でもその言葉からひしひしと覚悟と意志が伝わってきた。
「望めば叶う、願いは通じる」
「えっ?」
「私の信条」
そう言って私は瞼を下した。
「やっぱり、難しいね。藍香ちゃん」
その言葉を最後に聞いて、意識は闇と夢の中に落ちていった。
信頼という砦は守らなくてはならない。
特に、家族であればなおさらだ。
この言葉は父から学んだ言葉でもあります。
家族という最後の砦は必ず守れと。
今回はこれで終いにしましょう。前回長すぎた。それに次回急展開。
エルソード面白いなぁ。←
次回予告 CV:佐倉杏子
自分と同じ、孤児という立場を理解して、
あたしは片膝をついて目を閉じ、手を組んで祈る。
今は安らかに。
『相、対する光』