魔法少女まどか☆マギカ ~少女へ捧げる鎮魂歌~ 作:kasyopa
『偉そうに、非戦闘員を守る、そんな格好すらつけられないか』 byACFA ウィン・D・ファンション
Side 黄昏藍香
「さて、お茶会始めよっか」
カップを持ち、微笑んで口を付ける。
「熱っ?!」
だがまた予想以上に熱くて驚いた。カップをおいて唇に指を当てる。
その私の様子を見て二人は吹き出していた。やっぱり締まった雰囲気は似合わないか。
図った訳ではないが、緊張した空気が解かれたのを肌で感じながら良かったと思う。
「私に質問があるなら、答えられる範囲で答えるよ?」
「ならまず私からいいかしら」
マミさんは肘をつき手を組んで私を見詰めた。
「はい。なんでもどうぞ」
「貴女は一体何者?」
うわぁ、単刀直入だなぁ。
苦笑しながら質問で返す。
「それはどう言う意味で、ですか?」
「そのままの意味よ。グリーシードを必要としない魔法少女なんて、普通じゃないわ」
そうですねと言いながら私は紅茶を飲む。
「実を言えば、私はキュゥべえと契約してないの」
マミさんは予想通りといった顔をして納得し、まどかちゃんは驚きを隠せないでいた。
「言える事はそれだけ。だけど、そのお蔭で貴女達に出来ない事が私には出来るの」
「グリーフシードを浄化したのも、そのひとつってわけ?」
「はい。それ以外にも……マミさん、ソウルジェム出してくれますか?」
「ええ、いいわよ」
マミさんの右手にある指輪が金色のソウルジェムに変化し、渡してくれる。
それは少し濁っていて、私がこの前渡したグリーフシードを使っていない事を物語っていた。
「実はこの結界、少しずつだけどソウルジェムの魔力を回復させるっていうおまけ付きなの」
正確には穢れを取り除くんだけど。と付け加えてマミさんのソウルジェムを見詰める。
すると段々と本来の輝きを取り戻し始めた。
「これが貴女の魔法……」
「凄い……」
私は得意げに微笑むとマミさんにソウルジェムを返す。
と、私の膝の上で大人しくしていた時が玄関の方へ飛んでいった。
それに合わせて風と守もあわただしい様子で奥の部屋へ飛んでいく。
ああ、これはもしかして。
「新しいお客さんが着たみたい。ちょっと騒がしくなるけど気にしないでね」
私は微笑んで奥の部屋の方を見詰める。
風と守が椅子を運んできて、私の隣に置いた。
再び消えていったかと思えば、純白のテーブルクロスを持ってくる。
私がケーキとカップの乗ったお皿を浮かばせて、二人の手助けをした。
そうするとすぐに私達の机にもすぐさまテーブルクロスを掛ける。
そのあっという間の出来事に二人は相変わらず追いつけていない。
扉が開く。その先に居たのは。
「なんだよ、やっぱり先客が居るじゃねーか」
Outside
「っ?!」
マミはすぐさま後ろを振り返り、彼女の姿を視界に捉える。
「貴女がどうして此処に居るのかしら、佐倉杏子さん?」
「そんな事どうだっていいだろ。私は藍香に晩飯を貰いに来たんだよ」
私服姿の杏子は動ずる事無く、藍香の隣に座ると風と守が持ってきた紅茶を啜った。
一方のマミは警戒心を向けたまま、席に座ろうともしない。
「で、あんたは一体何なの?」
「えっ、あ、私は」
急にまどかの方に話が移る。
杏子からすれば、この結界に居るのはせいぜい藍香の招いた者のみ。
とはいっても魔法少女でもないこの少女を招いた理由が、全くもって理解できなかった。
「あの、私、魔女から藍香ちゃんに助けてもらったんです」
「ふーん。ま、それはご苦労なこった」
もうこれ以上興味が無くなったのか、今度はケーキに手を付ける彼女。
「≪鹿目さん気を付けて、彼女も魔法少女よ≫」
「≪えっ!≫」
「≪それも他の町の魔法少女≫」
「≪じゃあもしかして≫」
まどかの頭に過ぎる、マミの言葉。
<私のような魔法少女は珍しいから、逆に有名なくらいよ>と。
<むしろ多いと、見返りの奪い合いになりかねないわ>と。
「≪自分の損得を考えて≫」
「≪そうね。彼女の場合もっとひどいのだけど≫」
マミは話した。杏子のやり方を。
使い魔を倒さず、魔女だけを狩りグリーフシードを集める。
使い魔はいずれ分裂元と同じ魔女へと成長する為、そこで初めて狩る。
まるでそれはグリーフシード、即ち魔女の養殖であり普通では考えられない事。
使い魔でも、人を殺す事は出来るのだから。
まどかはその話を聞き、驚愕を顔で表わす。
その表情の変化に気付くもあえて声を掛けない藍香と杏子。
「ああそうだ。これまた頼むよ」
「うん。いいよ」
別の魔女を狩り終えたのか、報酬を藍香に渡す杏子。
藍香は飲んでいた紅茶を置いて浄化を始めた。
「藍香さん、もうひとつ質問いいかしら?」
「はい。答えられる範囲で、ですよ?」
「佐倉さんとはどこで知り合ったの?」
先の二人のやり取りは、何気ない雰囲気が漂っていた。
それすなわち彼女達はそれなりの付き合いである事を物語ってもいる。
「私がもともと住んでいた町で、使い魔を倒してた時に知り合ったんです」
「全く無駄な事する奴だよ。藍香も本当に」
「いいでしょ? だって人が死ぬのは見たくないもん」
杏子がその発言をした後も藍香はそう言って笑った。
しかしまどかは杏子の発言で核心を得る。
マミの言っていることに間違いはなかったと。それでも、疑問が一つ生まれた。
なら、何故そんなやり方をしている彼女と、藍香が付き合っている理由が分らない。
まるで水と油のように違う二人が、何故此処まで調和されているのか。
杏子も、藍香も、仕方ないから付き合っている、とは到底見えない。
姉妹のように慣れ合い、親しみを持って接している。
「まどかちゃん、さっきから黙ってるけどどうかしたの?」
「えっ? ううん、大丈夫だよ?」
顔に出ていたのかと思いながら何とか誤魔化すまどか。
藍香は首を傾げていたが、紅茶を飲む事によってそれを止めた。
此処で奥の部屋からいい匂いを漂わせながら、世が料理を持ってくる。
「御馳走するよ。私は貴女達とも仲良くなりたいの」
Side 鹿目まどか
藍香ちゃんの告白。
その時の顔はいつもの笑顔じゃなくて、真剣な表情で私とマミさんを見据えていた。
3つのお人形さんがテキパキと配膳していくが、藍香ちゃんは相変わらず私達を見詰める。
「「「「………」」」」
食器が擦れる音だけがこの場を埋める。
私はこんな雰囲気に慣れてないから目線を料理に移した。
ミートローフにコーンスープ、色とりどりの野菜が入ったサラダにロールパン。
おかずにはフライドポテト、マカロニのトマト煮、サーモンのマリネ。
全部が全部出来たてなのか、湯気を立てていたりいい香りがしたりしていた。
「(凄いなぁ、これ全部あのお人形さんが作ったのかなぁ?)」
「おいおい、見合ってないで早く食べようぜ。じゃないと冷めちまう」
杏子ちゃんの言葉ではっとする。そうだ、まだ藍香ちゃんとマミさんは。
「そうね。作ってもらったからには頂かないと。作った人にも失礼だもの」
「やっぱり食事は最初だけでも皆幸せにならないとね」
「何言ってんだ、食べ終わるまで全部感謝して食べなきゃダメだろ?」
なんだか杏子ちゃんのいい所が少しわかった気がする。
「「「「いただきます」」」」
マミさんからしていた緊迫した雰囲気も納まり、私はほっとしながらもスープを飲んだ。
「おいしい……!」
「そうでしょ? 世の作る料理はかなりの腕なの」
嬉しさと自慢が混じった笑みを浮かばせる藍香ちゃん。
誰なのかなぁと思っていたら、赤く長い髪に綺麗な銀色の目をした人形がペコリとお辞儀した。
慌てて私も頭を下げると、すぐさま藍香ちゃんの方に飛んでいってしまう。
「あっ」
「ごめんね。世は人見知りが激しいから」
「そ、そうなんだ」
まるで人の様な人形。感情も表情もある。
最初は不思議な感じがしたけど、今では友達になれるかなとも思ってしまう程。
マミさんの方を見ると美味しそうに、そして優雅に味わっていた。
杏子ちゃんもおいしそうに食べているけど、対照的に豪快に食べて……いや、食らいついていた。
その光景を見て思わず苦笑い。
藍香ちゃんは至って普通に、言うなら丁寧に食べている。
「あの、これも藍香ちゃんの魔法なの?」
「うん。この空間も、この子たちも。料理は本物だよ?」
魔女が結界を構成すれば、身をひそめ、人に絶望をまき散らすように。
魔法少女が結界を構成すれば、身を落ち着かせ、他の者に癒しを与える。
そんな想像で創ったのがこの結界。だそうで。
「あ、そうそう大事なこと言い忘れてた」
何かを思い出したかのように相槌を打つ藍香ちゃん。
なんだろうと自然と食事の手も止まる。
「この空間は時間の流れが早いから、時間はあんまり気にしなくていいよ」
「?」
「簡単にいえば、ここに長く居ても外じゃ時間が全然経ってないんだよ」
杏子ちゃんの補足でやっと理解できた。
「具体的にはどれくらいかしら?」
「一時間が10分くらいかな。ちなみに年齢とか、そういうのには影響ないから」
「そ、そんなに?!」
えーっと、じゃあここに長くいてから帰っても、すごく遅い時間に帰ってきたなんてことはないのかな。
うん、そうだよね。ここでの一時間がふつうの10分だから……問題ないよね。
Side 暁美ほむら
イレギュラー。確かに名乗った、黄昏藍香という存在。
私は彼女を知らない。当たり前だ。
当たり前だが、知らないという当たり前ではない事態に私は惑っている。
「………」
そして、今は彼女の創りだした空間の内部にいる。
見失わないという点では良いのだが、逆に見つかるという点では分が悪い。
どうやら森を抜けた先にある、メルヘンチックな城に彼女はいるようだ。
しかし、先ほども杏子が入る時に見たが、出迎え役をする人形がいる。
真っ向から行っても、時間を止めて侵入しても、どう転ぶか解らない。
侵入者として撃退しようとするかもしれない。それはないと、思いたいのだが。
いや、すでに黄昏藍香が私の存在に気づいていても、なんらおかしいことではない。
この空間の創造主は彼女自身なのだから。
「(それにしても、佐倉杏子は何故ここに?)」
「やはり、あなたでしたか」
「っ?!」
思考が別の事へ移り変わろうとした時、何者かに背後から話しかけられた。
月光に照らされ風に揺れる白銀の髪。それと相対的に燃え上がる赤い太陽の瞳。
だが人形で背も150cmほど。あの時出迎えていた人形とは違う。
「私は夢(む)。漢字で書くと夢と読む方です」
「そう、それで貴女は何をしに来たの?」
一瞬だけ時を止めて銃を構える。
「藍香様の命で探索に来たのです。おそらく暁美ほむらも来ているだろう、と」
「正確にいえば、巻き込まれたのだけど」
「そうでしたか。深くご無礼を」
頭を下げ丁重に謝る夢。悪い気はしないのだが、ここまで来ると調子が狂う。
「もしご所望なら出口まで案内しましょうか?」
「結構よ。私は貴女の主に用があるから」
「私が許可されている範囲までなら、お教えしましょう。主の事を」
私の表情から何かを読み取ろうとする、彼女の思わぬ発言に言葉を失う。
その発言はまるで、私がいい策はないかと考えていたのを、見透かしてのような発言であった。
「貴女、本当に何なの?」
「私自身の事はもうすでに話し尽くしました。さて、どうされますか?」
「……話してもらえるとありがたいわ」
嘘をつくような者にも見えない。
私はその人形からできる限り情報を聞き出すのだった。
Side 黄昏藍香
世がデザートを持ってくる頃には、二人の質問タイムも終わって温かい雰囲気に包まれていた。
互いに互いを信用し合う。それはそう、杏子ちゃんはまどかちゃんにちょっかいを出すまでに。
私とマミさんは行きつけのお店とか、好きなものについてとかのお話をするまでに。
「あーあ、こんなに楽しいなら、さやかちゃんも誘ってあげたらよかったのに」
「ふふ、それもそうね」
「ん? 誰だそのさやかってやつ」
「私の友達。今度会ったら紹介するけど……」
ここでまどかちゃんがハッとする。
杏子ちゃんが学校に行ってない事に再度気づいたようだ。
さっきさらりと彼女がまどかちゃんに対して言っていた。
「あ……ごめん」
「なんでまどかが謝るんだよ。あたしの人生だ、誰に何言われようと気にしないよ」
これが杏子ちゃんの本当にいいところ。
全て自分の所為。という考え方は、自ら抱く不条理に対してもろい部分がある。
しかしそれを越えれば、すべてを真正面から受け止められる、前向きな考えでもある。
悪い面もあれば良い面もあるのが絶対。見方次第、考え方次第でどうにでもなる。
「まどかちゃん、マミさん、これだけは覚えておいて」
「「?」」
「どんな人にも、必ず良い所はある。だけど時にはそれを気付かずに、気付こうともせずに、
自らのみを信じる人がいるかもしれない。そんなことがあるかもしれない。
そんなことになったら、一度立ち止まってしっかりと相手を見て。
相手を動くのを待つんじゃない、自分から動くの。でないと全部始まらない。
相手を心から信頼してみて。そうすれば、きっと相手も自分を信頼してくれるから
互いに信頼し合えたなら、今度はその信頼の砦を守り続けて。
もし相手から崩れそうになったら支えてあげて。そうやって初めて、信頼は厚くなるんだよ」
Side 鹿目まどか
藍香ちゃんの言葉を聞いて、思い浮かんだのは藍香ちゃんのさっきまでしてきたこと。
私達をこの結界に招いて、お城でのお出迎えは人形さんだったけど確かに丁重に案内してくれた。
お茶を出してくれて、質問にも的確に答えを出していた。
何故グリーフシードを浄化してマミさんに渡したのか、とか。
実は藍香ちゃんはキュゥべえと契約せずに魔法少女になった、とか。
藍香ちゃんの魔法は色んな事ができる、とか。
そして杏子ちゃんが来てからの言葉。
『御馳走するよ。私は貴女達とも仲良くなりたいの』
藍香ちゃんの方から動いていた。まっすぐに、素直に、自分の望むままの事を私達に伝えた。
友達じゃない。でも友達になりたいから最高のお持て成しをする。自分の正体を私達に教える。
そう言った行動は全部、信頼から生まれる物。心から信じているから生まれた物。
それこそ、相手を疑っていたらぎこちない感じになっちゃうもんね。
初めて会った筈なのに、もう友達だなんておかしいけど、そうも思わない。
私だって、藍香ちゃんと友達になりたかったから。
そういえば、ほむらちゃん……本当に……
「藍香ちゃん」
「どうしたの、まどかちゃん」
「もし、話も聞いてくれなくて、本当にどうしようも無くなっちゃったらどうしたらいいの?」
目を閉じ、肘をついて手を組んでじっくりと見据えるかのように考える藍香ちゃん。
少しして口を開いた。
「そんな弱気になっちゃいけないね。そんな事を思いながらじゃ絶対に自分の想いは届かない」
「まどろっこしいねぇ、そんなのぶん殴ってでも言う事聞かせりゃいいんだよ」
「それは本当の本当にどうしようも無くなった時。そうだね……」
「………」
「自分が、その相手にとってどんな存在か。それを自分で理解すること」
「そしてそれを理解したら、自分は何をしたらいいかを考えて行動する。かな?」
Outside
そこでお開きとなった晩餐会。
藍香は二人を送った後、杏子と共にある場所へ向かった。
結界の城を越えた先。そこには打って変わって幻想的な森が広がっている。
その森の中にある祭壇。石で出来ているが苔が生しており随分と時間が経っているようだ。
「で、こんなとこまで連れてきて何の用?」
「ワルプルギスの夜についてなんだけどね」
超弩級の魔女、ワルプルギスの夜。
通称名であり、元々一人だったのか、複数人の呪いの集合体なのかは解らない。
しかし結界を必要としないその魔女は直に都市や町に被害を及ぼす。
最終的には世界を戯曲と化すまでの力を持っているのだ。
「(まぁ、今更なんだけどね。藍香はさらっと凄い事言うし)」
杏子はもうなれたと言わんばかりの溜息を吐いて、藍香の顔を見る。
その名を告げた藍香は杏子の顔をしっかりと見て、再び口を開いた。
「何れこの街にワルプルギスの夜が来る」
「……いきなりすぎやしないかい?」
「ごめんね。でも今の内に知っておいてほしかったことだから」
「流石は藍香。と言っておくかな」
ワルプルギスの夜。その正体はたった一人の魔法少女から生まれた魔女。
その真実は、ほむらも知らない。
「ところでさぁ、この祭壇は何?」
「これ? これは、私の初めての友達が戻ってきたときに、安静にしてもらえたらって思って作ったの」
藍香が祭壇に触れると、淡い虹色を纏って、光のベッドに変わる。
そこには、所々装飾が施された純白のシスターの服に身を包んだ少女が眠っていた。
髪も服と同じ純白。瞳の色は目を閉じているので解らない。
その表情はとても満たされていて、それでいて哀しげな雰囲気を醸し出していた。
「こいつは……」
「一番有名なのに誰も知らない、魔法少女。彼女が私の初めての友達」
「……まぁ、いつか起きたら紹介してくれよ。まどろっこしいからさ」
「うん。絶対」
それから杏子はその場を離れ、自分の住処にしているホテルに戻った。
OutSideとは、第三者視点のことです。
更新速度は一週間に一度のペースぐらいを保って行きます。
卒業制作にあまりにも時間がとられて、書けないだよおおお!(泣)
藍香の結界の最大の特徴は、キュゥべえも干渉できない空間という事です。
だって特異魔法少女の空間に別魔法主体の塊が入ってきたらおかしいですし。
次回予告 CV:暁美ほむら
必要のないものかどうかは、後になってみれば解るというのに。
私は切り捨て、排除してきた。過去の自分を置き去りにして。
『少女の過去』