魔法少女まどか☆マギカ ~少女へ捧げる鎮魂歌~ 作:kasyopa
Side 黄昏藍香
中に誰も居ないことを確認してから、結界を閉じ家に帰る。
「はぁ~、疲れたしお風呂入ろ」
入浴剤を浴槽に入れ服を脱ぎ、浴室に入ってシャワーを浴びる。
勿論頭もその時に洗っておく。
瑠璃色に染まった浴槽に浸かり、体を伸ばした。
肩や首がコキコキと音を立て、疲れていることを体が教えてくれる。
「今日は魔女退治にお茶会、いっぱい魔力使っちゃったなぁ。まぁまどかちゃんとマミさんの親睦も深められたからいっか」
「君が率先して魔女を倒すなんて、珍しいじゃないか。藍香」
お風呂にある窓の外、曇りガラスの向こう側はにキュゥべえが現れる。
「今回は私の友達が犠牲になりかけたからね。本来なら他の子に譲って上げたかったんだけど、誰も近くに居なかったし。私だってほむらちゃんみたいに傍観してたいけど、やっぱり私は傍観者である以前に異端の魔法少女だから」
「君の活躍は当然、上にも通達が行っているよ」
「そうなんだ」
「彼らも君の活躍を高く評価している。僕ら自身、君の存在は非常に好ましい。それほどの逸材でもあるんだ」
「……故に、何かある?」
「正直、今まで君が現れなかったのは非常に惜しいと思っている。時期がもっと早ければ『彼女』も……」
彼女。彼女は大丈夫、私が助けるって決めたから。
「言ったでしょ? 私は異端の魔法少女。あなた達が生み出す魔法少女とは違う。だからその人達にできないことも出来る。運命さえも捻じ曲げて、摂理に逆らうことさえ」
「でも私にできないことがある。それができるのがあなた達が生み出した魔法少女」
「君は、何を知ってるんだい?」
「何も知らないって言ったほうがいいかな。それを知る前に、私が舞台から退場するかもしれないし」
「舞台と言えば、また一人、その舞台に上がった者がいるよ」
十中八九、さやかちゃん。
さやかちゃんが何を望んだのかも解る。
マミさんが死にかけたあの場面をその場で見ていて、どれだけ魔女を狩る事が危険か解っていたはず。
それでも、さやかちゃんは奇跡と魔法を望んだ。
「美樹さやか。彼女が新しい魔法少女の名前だよ」
「………」
「君も彼女を知っているはずだ。何せあの時、あの場所にいたんだから」
うん。よく知ってる。
まっすぐで、ぶつかっても何回も体当たりして、でもすっごく脆い。
誤魔化そうとしても嘘が吐けないか、吐いても下手だからすぐ解っちゃう。
魔法少女は芯の強さが物を言う。彼女ほど、致命的な欠点を抱えた魔法少女はいないと思う。
でもそれはまだ未熟だから。腕前以前に、心の強さが。そういう年頃だし。
私だって最初は何にも知らずに日々を過ごしていた。
あの日が来るまでは。
******
避難所。
家族の人がいない私は一人で避難所に駆け込んだ。
その際、役所の人達にいろいろと聞かれたり言われたりしたりしたけど、いつもの遠い親戚の話をして納得してもらう。
避難所はとても込み合っている。
避難命令が出てから随分と遅くなってしまった。
情報が入ってくるのが遅かったからだ。
停電に加え、ラジオも使えず、車が来てから準備していたから遅くなった。
ゴゴゴゴ……
激しい風の音と、地響きを上げる音が建物の中に木霊した。
子供は怯え、大人が声をかけて安心させる。
ただの風と地響き? 何か違う物があるような。
少し怖くなって誰にも気づかれないように建物を飛び出す。
何が怖いのか解らないまま、ただただ本能に従って人一人いない道を駆ける。
「はぁ、はぁ」
息を整えて空を仰ぐ。
そして私は私のしたことを後悔した。
何故空を仰いだんだと。どうして上を見たんだと。
「―――――」
青紫色のドレスに白いフリルを身に纏った逆さまの化け物。
足があるはずの上の方には三段重ねになった大中小の歯車。
あと一つ容姿を付け加えるならとても大きいということ。
足がすくみ、腰が抜けた錯覚。足のすくみから震えに代わる。
私は悟る。何に恐れていたか。そして、頭の中にひとつの単語が過る。
【魔女】
「フフフ―――アハハハハハ―――――!!!」
高々とした笑い声と共に、その魔女を中心にして暴風が吹き荒れる。
ガラスが割れ、門が激しく開閉し、木々の枝が悲鳴を上げた。
そして次の暴風が吹き荒れた瞬間、私は空に舞い上げられる。
そのまま、廃墟と化したビルに叩きつけられた。
「痛……いだけ?」
かなりの勢いで叩きつけられたから、普通なら痛いどころか死んでしまうのではないだろうか。
なのに背中に感じるのは瓦礫のゴツゴツした感触と、叩かれた様な痛みだけ。
おかしい。何で生きてるのかが不思議なくらい。
と、自分の回りに球体の薄い膜の様なものが展開されていることに気付く。
「バリア?」
頭に浮かんだのはその言葉しかなかった。
私は立ち上がりその場所から魔女の方を見る。
魔女はかなりの速さでどこかに向かっているようだった。
進行方向の先、そこには避難所が。
魔女の歯車が上下して再び暴風を巻き起こし、回りにビルを浮かばせる。
そして浮いたビルが勢いよく落ちていく。
落下地点にあるのは、避難所。
「っ! やめてえええええええええええええええ!!!!!!!!!」
私の必死の叫びは轟音に呑まれ、そして虚空に消えていった。
********
ぶくぶくと口まで湯船に付けて泡を立てる。
嫌な事思い出しちゃったな。
「それじゃ伝えるべき事は伝えた。また用があったら、いつでも呼んでくれれば駆けつけるよ」
「うん。あ、キュゥべえ」
「なんだい?」
「女の子の入浴してる時とかは、現れない方がいいよ?」
「……やれやれ、僕たちには感情がない。君もそれを解っているだろう?」
「だけど、私達には感情がある。だからキュゥべえが気にしなくても私達は気にする。そんなこと言ってたら、女の子達から嫌われちゃうよ?」
「それは流石に困る。参考にさせてもらうよ」
「じゃあね、キュゥべえ」
影が遠のき、薄れ、気配と同時に消えた。
静寂がこの場を支配する。
「さってと。いつさやかちゃんをお誘いしようかな~♪」
根源が違っても同じ魔法少女という存在。できれば、仲良くしたいな。
――――――別の時間軸で、仲良しだったんだから――――――
Side 暁美ほむら
ルーズリーフに今日聞き出した、黄昏藍香の情報をまとめる。
・あの場所は魔女の結界を自分なりにアレンジした彼女の結界であること
・その結界の中では夢を含めて5体の人形が招待された者をもてなすこと
・黄昏藍香の使う魔法は、私達魔法少女の使う魔法のベクトルとは全く別の物であること。故にここまで特異な魔法の使い方も出来る
・勿論、ソウルジェムがないので、傷付いた体の修復だけで命を繋ぐことはできない
・使う武器は多種多様で、現代兵器を使うこともあれば、自分の魔力で生成された武器を使うこともある。因みに肉弾戦はほとんどしないらしい
纏めてみたが、ほとんど情報を聞き出せていないことが解る。
ただ、それは量のこと。一番重要なのは……
『・黄昏藍香の使う魔法は、私達魔法少女の使う魔法のベクトルとは全く別の物であること。故にここまで特異な魔法の使い方も出来る』
ということ。
でないとあんな結界を作ったりはできない。
それに夢という者もあの結界の効果について話していた。
『この結界には、ソウルジェムを徐々に浄化する力があるんですよ』
『それはまた、大層な造りね』
『インキュベーターの干渉もありませんので、何かとした会議の時にでも』
『………』
ソウルジェムを浄化し、インキュベーターの干渉も無くす結界。
魔女の結界でさえ、インキュベーターは侵入してくるというのに。
冷静に考えれば当然の話だ。彼らが生み出した技術で生まれた副産物と言って間違いはないのだから。
「黄昏藍香、貴女は一体何者なの?」
少なくとも彼女は学校には行っていない。
そして、他の時間軸でも――――
記憶にノイズがかかる。
まどかを救うため、必要のない記憶を排除し続けたからだ。
必要のないものかどうかは、後になってみれば解るというのに。
私は切り捨て、排除してきた。過去の自分を置き去りにして。
だが、今は違う。昔の記憶が必要だ。何か引っかかる。奥の方で、何かが。
「黄昏藍香……黄昏藍香……」
暗くてよく見えなかった仮面の中身。彼女の素顔。
私が知っているのは、腰まで伸びた綺麗な青い髪。
その色は美樹さやかの髪の色と同じ。
美樹さやかと同じ?
『藍香ちゃんってすっごい綺麗な髪してるよね』
『そんなに長いのに手入れも行き届いてて羨ましいですわー』
『そうかな。私はそんな特に気に掛けることもないんだけど』
『んぐぐ……同じ髪の色なのになんなんだこの扱いの差はーー!!』
『えっと、髪の色は関係ないと思います……』
「っ?!」
確かにいた。別の時間軸に、黄昏藍香という存在が!
私、まどか、美樹さやか、志筑仁美の四人と共にいたあの少女を!
「………」
一度、直々に合って話をする必要があるようね。彼女には。
Side 黄昏藍香
朝。平和な朝。
私はいつもの時間通り起きだし、朝ごはんを作る。
ピンポーン。
と、チャイムが鳴る。
こんな時間。いや、この家に訪ねてくるのは一人しかいない。
「はーい!」
「おっ邪魔っしまーす!」
そう、杏子ちゃんだ。
朝に来ることは少ないのだが、時たま朝ごはん目当てにやってくることがある。
「お、今日の朝飯は洋食かー」
「杏子ちゃん洋食好きだもんね。ちょっと待ってて」
「もーらい♪」
「あ、それ出来t「アツッ!」だから言ったのに……」
「はふっ、はふっ、うまーい! やっぱ藍香の料理は最高だな」
「杏子ちゃんも作ってみたら?」
「へん、そんなのあたしがすることじゃねーよ」
「そんなこと言ってると、後で痛い目に合うよー」
杏子ちゃんはリビングに行ってテレビを付ける。
こんな時間にやってるのはニュースばっかりなんだけど。
『今日のニュースです。昨日の夜、見滝原市の市街地付近の脇道で、青年一人が重傷の状態で発見される事件がありました』
「「………」」
『青年は顔面などに打撲などの酷い怪我を負っており、警察は暴力事件と見て――』
いきなりチャンネルが代わり、情報番組に切り替わった。
「まぁ、この規模ならまず使い魔だな」
「だね。時間空いたら倒してくるよ」
「使い魔は他の魔法少女にとって無駄な魔力使うから、ってか?」
「それも大きいけど、出来る限り被害者は出したくないから」
「そうかい。なら私は別のとこでも見張っとくよ」
「おねがい。あ、ご飯出来たよー」
一人身同士、こうやって触れ合える場があっていいなと思う私でした。
Out side
美樹さやかが魔法少女になったという事が知れるのは、そう難しいことではなかった。
ほむらが学校を休んでいたが、マミとまどかはいつも通り学業に励んでいる。
そして休み時間にまどかがさやかの指輪に気が付いたのだ。
≪さやかちゃん、それって≫
≪あ、うんそう。さやかちゃん魔法少女になっちゃいましたー! なんてね≫
≪やっぱり願い事≫
≪あー、それ以上は言わないで。解ってるなら心の中にしまってて欲しいな≫
≪……うん≫
≪という訳でマミさん、私新人なんでよろしくお願いしまーす≫
≪ふふふ、はいはい≫
≪(さやかちゃんも魔法少女になって、私は見てるだけ。私も何かできないのかな)≫
さやかが魔法少女になったという事実は、まどかの心に容赦なく降りかかる。
その事実は、まどかの焦りと不安をさらに掻き立てるのであった。
大きく動いた、のか。
サブタイトル通り、過去のお話をちょこっと。
もうすぐ、独自設定がいろいろ無双し始める頃かと。
あ、今回の話で解ったと思いますが、俺は圧倒的さやか派です。
だからと言ってさやか特別接待でもないです。多分。
弄りやすいんですよね、ああ言うキャラ立ちだと。
次回は、ほむら主体パートです!
次回予告 CV:暁美ほむら
そんなに私に与えたくない情報でもあるのだろうか?
そんなに私に正体を明かされてしまってはいけないのだろうか?
『暁の昏冥』