魔法少女まどか☆マギカ ~少女へ捧げる鎮魂歌~ 作:kasyopa
Side 黄昏藍香
「さてと、ここら辺かな」
市街地で他人の目を潜り、事件があった脇道に入る。
警察は犯人の捜索に移ったようで、現場はもう何もなかった。
「とでも思っているのかしら」
「っ!」
後頭部に銃を突きつけられる。驚きながらも仕方なく両手を上げた。
いきなりでこれはご挨拶だと思うなー。
「流石に貴女でもこの状況はどうにもならないようね」
「でもその状態だと私の顔が見れないよ?」
「別に。こうして突き付けていれば貴女はご自慢の仮面も作れないわ」
「あー。そういう意味でこういうことしたの?」
「それ以外よ。貴女をここから逃がさない為」
「うわぁ、もしかして私がここに来ることも「解っていたわ」」
昔の時間軸だとほむらちゃんと友達だったから顔見られるとまずいんだよね。
髪の毛は隠しようがないからどうしようもなかった。
どうしよっかなー。頑張れば顔を見られないまま逃げられるんだろうけど―――
と、気付いた時には私の前に魔法少女姿の彼女が移動していて、突きつけられていた銃が消えていた。
あ、ヤラレチャッタ。
「やっとはっきりしたわ。黄昏藍香」
「あー、うー、にゃー、Let’sにゃー」
「誤魔化さない」
大きなため息をついて、私は壁に寄り掛かった。
「あーあ。私の負ーけ。ほむらちゃんの勝ーち」
「勝ち負けを付けるなら、貴女の負けよ」
「うわあああん、なんでこんなに早くばれちゃうのー」
「全てが思い通りに行けば、なんて思わないことね。特にイレギュラーであれば」
「夢から情報聞き出したんだったら、私に会う必要もないと思うけど?」
「そうね。本来ならこうやって待ち伏せして銃を突きつけ、貴女と鉢合わせする予定なんて無かったわ」
「だったら「本来なら、ね」」
私は空を仰ぐ。どうしてこうなっちゃったの、と。
当然今から彼女は逃がしてくれないだろうし、露骨に逃げるとなっても彼女の前では無意味だし。
ここで本来の目的である使い魔狩りについて思い出す。
楼幻刀を持ったと同時に使い魔の結界の入口を切り開き、その中に逃げた。
「っ!」
いきなりの行動に驚きながら、ほむらちゃんは追って結界に飛び込むまでは見た。
後ろを見ずに全力で掛け周り、結界の複雑さを利用して物陰に隠れながら、追跡してくるほむらちゃんを撒く。
ついでに楼幻刀を破幻刀に持ち替えて、立ちはだかろうとする使い魔を一瞬のうちに斬り捨てる。
うまく撒ければいいんだけど……!
Side 暁美ほむら
それにしても彼女の行動一つ一つにいちいち驚かされる。
即座に刀を持ち結界の中に逃げるという荒技。
そんなに私に与えたくない情報でもあるのだろうか?
そんなに私に正体を明かされてしまってはいけないのだろうか?
考えても答えを見つけることは出来ないと、すぐさま判断した私は結界の中に飛び込む。
結界内は一本道ではなく複雑に入り組んでいた。
それに加え、クレヨンや文字ブロックのような物が障害物になって視界を阻む。
彼女ほどの体格なら身を窄めれば隠れられるであろう。
辺りを見渡すが黄昏藍香の姿は無かった。
この複雑に入り組んだ道と障害物を巧みに使って行方を晦ましているであろう。
だがその策を使っても私にはどこに逃げたかは解る。彼女の性格を利用すれば。
確実に捉える為、時間停止を使い着実に近付く。
本当に近付いているのかと聞かれれば、私は首を縦に振るだろう。
それだけ、彼女は『証拠』を『抹消』しているのだから。
・
・
・
「見つけたわよ」
「え!」
彼女は広い場所で使い魔を狩っていた。上の方では五月蠅く飛び回る使い魔が。
やはり。ある道を通って行けば何れ追いつけると思ったが、それなりに時間がかかってしまった。
「今回ばかりは貴女に感謝しないとね。道案内をわざわざありがとう」
「え、ここ使い魔の結界だよ?」
「誰が魔女って言った? 貴女自身のいる場所への道案内よ」
「………」
彼女は考える前に、いつの間にか彼女の背後に現れた使い魔を倒す。
「私がこうやって使い魔を倒して行ったから、それが道しるべになったってこと?」「ええ。貴女随分頭が回ると思ったんだけど、私の思い違いだったわ」
「はたしてどうかな」
刀を消して、今度は銃身に紅い刃が付いた拳銃のような物を持つ。
次の瞬間空中を飛びまわっていた使い魔が全て撃ち落とされ、それと同時に結界が解除された。
「結界内は大きな箱庭。あの逃走がその場しのぎでしかないことは初めから解ってたよ? だから早急に使い魔を倒して結界を解いて、逃げる手もあったんだけどね」
「……訂正するわ。貴女かなり頭が回るようね」
「そう? そう思ってくれるなら嬉しいかな。さて、どこでお話ししようか?」
銃を消して再び私と向き合う彼女。
私が選んでもいいんだけど、ほむらちゃんのお好きにどうぞ。と。
付け加える言葉に私は付けこむことにした。
「なら、私の家でどうかしら?」
ハンバーガーショップや喫茶店でもよかったのだが、まだ昼に差し掛かったころで当然学校も終わっていない。
そんな時間に本当の学生と元学生がいたら、指導を受けるのは当然。
それに、私の家の方が何かと私自身もいい。メモ用などの道具も揃っている。
まぁ、頭が回る彼女が直々に、相手の本拠地とも言える場所に行こうとするかは別の話だけど。
「いいよ。案内して」
「………」
本当に、何を考えているのだろうか。この魔法少女は。
Side 黄昏藍香
ほむらちゃんの家に初めてお邪魔する。
「お邪魔します」
別の時間軸にはそういうことすら聞かなかったのに。
まぁ、何か裏があるとは思うけどそんなに悪いようなことではないと思う。
背掛けのないソファ、白い継ぎ目のない床、空中に浮かぶ額縁、シルエットだけの特徴的な振り子。
「好きなところに座ってもらっていいわ」
「じゃあほむらちゃんの隣「向かい側の、ね」冗談だって」
相変わらずだなー、ほむらちゃん。
私は彼女が座ったちょうど向かいの席に座った。
「何も出せないけどゆっくりしていくといいわ」
「といっても話し合いだけだけどね」
それに、ここは雰囲気さえ違うがキュゥべえが入ってこれる。
だからそれなりに有力な情報も、秘密も渡せない。
しかし彼女がここと望んだのだから、私はそれに合わせるしかなかった。
「それで、貴女は何者?」
「ほむらちゃんの予想通り」≪でも、口には出さないでね≫
「≪………≫」
「≪ここはキュゥべえが介入できる場所だから。ほむらちゃん自身もこんな早急に悟られたくはないでしょ?≫」
私は笑みを浮かべて相手の顔を見る。
彼女は表情のひとつも崩さず、私の目を見ていた。
「貴女にはいろいろ、頼まないといけないことがあるようね」
「結界とか?」
「ええ。奴らが干渉できないなら何かと話がしやすいわ。真実についてもね」
「知らないところで事が運べば、理解に苦しむからね」
キュゥべえ達に感情がなくとも、感情がなくても予想能力があればその予想と違ったときに、戸惑う事はある。
「じゃあ話を変えるわ。何故貴女は学校に入らなかったの?」
「一番の理由は、最初に知り合ったのが杏子ちゃんだったから。前の町だと入ってたんだけど」
「そう」
後は、自分の正体をあまり明かしたくなかったからと、クラスメイトになっちゃう可能性の根絶かな。
クラスメイトとしての存在は、まどかちゃんやさやかちゃんに大きな影響を及ぼすと思ったから。
「昔から変わらないのね、貴女は」
「そういうほむらちゃんは、切り捨てすぎだよ」
本当に必要かどうかも解らないのに、不要と決めつけて切り捨てる。
それが、彼女がとり続けた行動。それ故に、私の正体に気付くのが実質遅くなった。
正直、私がほむらちゃんを助けた時に気付かれるのではないかと、心の中で思ってた。
それでも気付かれなかったので、私は多少安心し、そしてその結果が今の状況である。
「黄昏藍香。貴女の事が羨ましいわ」
ふっ、と哀しげな笑みを零す彼女。
私はその笑顔が本当に羨ましい物と、思っているものから出たのだと解った。
「ほむらちゃん、一緒に組まない?」
「お断りするわ」
「どうして?」
「貴女と私は違いすぎる。何もかも。それに――――」
「これだけ何度も現実に打ち拉がれても、変わらない笑顔を持つ藍香が今の私には眩しすぎるもの」
「だから貴女の傍にずっといるわけにはいかない」
決意の顔。しかしそれは儚い物。脆い物。
「……暁美ほむら。なんかさ、燃え上がれー! って感じでカッコイイと思うな~」
「!」
「黄昏藍香。こう、夕日と夜空が一緒になってキラキラしてる感じだよね!」
「………」
「ほむらちゃんには、そう言われたよね? 私にはこう言われた」
「だから、なんだというの?」
「私と貴女は対なる存在だった。最初から」
「暁と黄昏。相容れぬもの」
「だから、当然なんじゃないかな。貴女と私が共に居れないのは」
「………」
「でも、そんなの関係ないよ」
それは名前だけ。私達が一緒に居ちゃいけない理由にはならない。
だから、私は関係ないと言った。
「どうして貴女は私に執着するの?」
「同じ時を生きる者だから。後は、なんだろ」
「残念だけど、私は昔の私に戻ることは許されない。貴女がまどかを救うのに本当に必要な存在だとしても、私は既に貴女についての関係も、記憶も全て切り捨てた」
「………」
「私も貴女の様に、考えることができれば、こうはならなかったはずだから」
「なら、最初からやり直せばいいんじゃないかな。取り戻せないなら、初めからを選べばいいんだよ」
Side 暁美ほむら
最初からやり直す? 取り戻せないなら初めから? 何を言っているのだろうか。
この前代未聞の魔法少女は。
「思い出せないなら、一度全部無くして新しく作ればいいんだよ」
「今の貴女が嫌なら、元に戻ればいい」
「そんなこと出来ないわよ!」
彼女は知らない。私がこれまでまどかの為にどこまで尽くしてきたかを。
まどかに対する思いがどれほど強いかを。
それを全部忘れて、初めから関係を作るなんて……!
「あ、因みに私との関係だよ? ほむらちゃんがまどかちゃんに対する思いを失わせたくないもん」
「……そこまでして何の意味があるの?」
しつこい。
この一言に尽きる。
同じ時を生きるから、ここまで執着するものだろうか?
お節介どころじゃない。迷惑だ。
「本当の理由は、私にも解らないの」
「だったらなおさらね」
「私も、何か大切な事忘れてる気がする」
時間遡行者の宿命だ。大切な事でさえ、見失ってしまう。
「でも、絶対何かあったんだよ。でないと、私がここまで執着することないもん」
「有ったとしても、そこまでしつこいと逆に嫌われるわよ」
「それは流石に嫌だなー」
しょんぼりと少し下を向く彼女。
「絶対何かあった、ね」
「うん。忘れてるだけで、大切な事はいっぱいあるはずだよ」
昔、彼女と私の身に何があったのだろうか。
忘れているだけで、大切な事がたくさんあること自体、私も知っている。
自分の両親の事、私の幼い頃。
「貴女、両親は?」
「知らない。多分今はもういないんじゃないかな」
「……そう」
不味いこと聞いたかしら。
「ごめんなさい。不味いこと聞いたわね」
「ううん。それこそ忘れてることだから」
「それじゃ、また今度私のところでね」
「ええ。またお願いするわ」
そう言って出ていく彼女。その背中からは、私の決意とはまた別の決意を感じた。
Side 黄昏藍香
ほむらちゃんの家を出た直後。
「っ!」
結界の気配を感じる。この感じは魔女。
ドアを開け放つ音。ほむらちゃんが勢いよく飛び出してきた。
「ほむらちゃん!」
「今は貴女に付き合ってる暇は無いわ」
そう言ってまたたく間にいなくなる彼女。
私も結界の気配がする場所へ急いだ。
見せたのは真意。今は共に歩むこと叶わぬ二人。
相対する二人だからこそ、なのかもしれない。
昏冥・こんめい
暗い事。暗闇の事を差す言葉です。
正直サブタイは『東の暁 西の黄昏』にしたかったんですけど、
仕事してPさんの楽曲とほとんど被るので没に。(『東ノ暁 西ノ黄昏』)
次回は戦闘メイン(?)です。そしてまどマギPSPで出てきたあの魔女が。
さて、藍香以外の新技考えるか……
次回予告
杏「あんたがさやかだな。まどかの言ってた」
さ「だからなんだってのよ!」
杏「生半可な気持ちで魔法少女やってんじゃねぇ。死ぬぞ」
『玄人、素人』