禪院直哉の御三家のススメ   作:北直哉

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4話目です。
1話にまとめるつもりが2話になりました。

紅蘭
【挿絵表示】



禪院直哉の三歩後 弍

 

 

桜が咲き誇る季節。

直哉は紅蘭と女中を数人連れて花見へ出掛けていた。

 

 

(あぁ、なんて美しいんや。春の日差し、少し肌寒い風、それに乗って届く花の薫、この綺麗な世界を、そこに生きる人達を、俺は命をかけて守るんや。呪いなんかに壊させへんぞ。)

 

 

世界に触れ、変わる景色に心奪われ、直哉は人生の中で最も充実した時間を過ごしていた。

 

 

(ふふっ……直哉様嬉しそう。最近は鍛錬ばっかりだったから)

 

 

紅蘭は直哉の嬉しそうな様子を見て呑気に微笑んでいるが、この花見に出かける前にこの女一悶着を起こしていた。

 

紅蘭には護衛の方を主にやって欲しいということで、直哉の身の回りの世話役に女中数人が名乗り出た。

 

直哉は禪院家唯一の良心と言っても過言ではなく、気さくに声をかけてくれたり、目立たないところでフォローをしてくれたりと、女中からの好感度は抜群に高い。

普段禪院の男に冷たくモノのように扱われ、耐え忍ぶことしか出来ない女中達にとっては直哉の存在は太陽の様に眩しい。

 

数年後に

 

「禪院家の女は皆、禪院直哉に恋をする」

 

という格言も女中の中で生まれるほど直哉は女中から愛されていた。

 

故に直哉に付きっきりの紅蘭は、女中達からしてみれば血涙を流すほど、羨ましい存在であり何とかしてお世話になっている直哉に恩返しをしたいと常日頃から考えていた女中達に、このお花見の話はまたとないチャンスなのであった。

以前直哉が庇った女中もその中の1人だった。

 

 

紅蘭からすれば愛しい主人との逢瀬(紅蘭が勝手に思っているだけ)を邪魔されたのであってはたまったものではなく、恩返しをしたい女中と直哉を独り占めしたい紅蘭の衝突は避けられないものであった。

 

 

決して怒鳴りあったり、暴力に訴えることはない。

しかしれっきとした血で血を洗う女の戦いが繰り広げられようとしていた所に直哉が2つの勢力の雰囲気の悪さを察して間に入ったのであった。

 

 

事情を聞き直哉は紅蘭の訴えをみっともないワガママと退け、皆で花見をする判決を下した。

紅蘭はその場に崩れ落ちたが、紅蘭にも

「紅蘭にしか頼めへんことがあることを忘れたらあかん。何かあったら頼むで」

と肩を叩きフォローを欠かさない。

「私にお任せ下さいっ!!!!」

それだけで紅蘭は復活した。

むしろ先程までより元気になっていた。

 

 

そうして迎えた当日。

花見日和の公園には直哉達以外にも多くの花見客が美しく咲いた桜を見ようと訪れていた。

 

(えっ…何あの人達?大企業の御曹司とか?)

(うわぁ…前を歩いてる着物の女の人綺麗だなぁ)

(真ん中の男の子の顔整いすぎでしょ)

(将来絶対女たらしになるわアレ)

(ドンナハナガタイプダイ?)

 

 

沢山の花見客の中にあっても直哉達の姿は浮いてしまう。

周りの声は特に気にしている訳では無いが前を歩く紅蘭を見て

(確かに…黙っとけば桜が似合う美人やなぁ)

と直哉は思うのだった。

 

 

 

「直哉様!ここなんていかがですか?とても良い風景ですよ。」

 

紅蘭が嬉しそうに指示した場所は確かに景色がよく見渡せて、一際大きな桜の木の下にある場所だった。

しかし直哉はやんわりと断る。

 

「確かにええ場所やな。でも今日は大所帯やからもうちょい離れた場所でゆっくりしようや。他の人に迷惑かけてもあかんし……そんな顔すなや紅蘭。また来年くればええねん」

 

そうやって紅蘭と周りを慮ってはにかむ直哉の姿に、禪院の女達は口元を抑え熱っぽい息を漏らした。

 

 

 

 

「頂きます……おぉ美味いなぁ、コレもこれも。味も栄養もバッチリや、皆ありがとな」

 

人がよく集まっている場所から少し離れた場所に腰を下ろした直哉達は日頃の合間を縫ってせっせと女中が用意した朝食に舌鼓を打った。

 

「おぉ!これサンドイッチやん、綺麗やなぁ……うん、美味いわ。和食もええけどこういうのも新鮮でええなぁ」

ベタ褒めである。

直哉も花見に来てテンションが上がっていた。

 

女中達は自分の中にある、何か直哉に関係するゲージのようなものが振り切ってぶち抜いて行ったのを感じていた。

 

紅蘭は血涙を流しながらウマイウマイ…と呟くしかできなかった。

 

 

 

 

直哉は景色の良い場所で宴会を楽しむ団体や家族を見ながら

「花見に来て、桜を見れるだけで幸せやと思っとった。いや、それは間違いない。それだけで良いって思ってたんや。でも今は、来年も皆と花見をしながらまたこうやって弁当を食べたいってワガママ言ってしまいそうや」

 

「あぁ…やっぱり人がいっぱい集まっとる所に行くべきやったかな。どや、ウチの従者達は凄いんやでってあの人らにもっと言いたかったわ。」

当たり前のようにそうやって微笑むものだから、禪院の女は何から何までがクリティカルヒット。

直哉の背後では禪院の女が滂沱の涙である。

 

「言って下さいよぅ!孫の代まで自慢できる従者になりますからぁー!!」

 

号泣しながら泣き叫ぶ紅蘭に一同から笑い声が上がる。

 

「それは楽しみやなぁ」

直哉は嬉しそうに、ひらひら舞う桜の花びらを見上げたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

満足するまで花見を楽しみ一行は屋敷へ繋がる道を帰っていた。

 

 

 

その時最初に異変に気付いたのは直哉だった。

近くにいた紅蘭に耳打ちをする。

 

〈誰かに尾けられとる、3人はおる。女中を集めぇや。〉

 

〈す、すいません直哉様!私…〉

 

〈えぇそんなんは後や、屋敷の目の前まで来れば紅蘭は女中連れて走って逃げぇや。俺1人ならどうとでも出来るわ。〉

 

〈そんな、直哉様を置いて行くなんて私にはできません!〉

 

〈やかましい、女中がおったら思い切り戦えんやろ。それがお前の仕事や。〉

 

 

(……今日は甚壱君もおるはずや、屋敷まで帰ればなんとでもなる。尾けてきとんのも屋敷の中まで追いかけてくるほどアホやないやろ)

 

 

術式が発現したくらいから視線は感じるようになった。

今までは感情が読み取れない位のものだったが今日は違う、敵意を感じる視線。

やるなら、屋敷の手前で必ずカタを付けに来る…そん時は最高速度でぶち抜いたる。

最悪でも全力で女中と紅蘭が逃げる時間を稼ぐ。

それさえ出来れば相手が格上であろうとなんの問題もない。

 

 

 

 

屋敷がもうすぐ見えるという辺りで視線に込められていた敵意が膨れ上がるのを感じた。

 

「来るで、紅蘭!!!」

(様子見しとったがバレバレの尾行、大した事ない呪詛師やな)

 

直哉は既に投射呪法は手足のように扱えるようになっている。

コイツらは呪術を悪行に使う許されん奴らや、そう考えるだけで器に力が満ちていくのを感じる。

敵意を感じる方へ駆け出す、1秒先の未来へ。

 

 

その瞬間建物の影から、茂みの影から直哉の見立て通り3人の男達が飛び出してきた。

 

(スっとろいのォ!フリーズも要らんわ!!!!)

 

最速、最適、最短の道筋。

屋敷へ女中達を庇いながら走り出した紅蘭とすれ違うように、直哉は呪詛師へ決められた勝利の道を後追いする。

渾身の3連撃、速度を上乗せし、直哉の優れた呪力量と呪力出力により強化された拳はさながら小さな砲弾であり、速度に反応すら出来ずマトモに食らった呪詛師達は重い打撃音と共に爆発したような勢いのまま吹き飛ばされそのままクズ切れのように沈黙した。

 

(尾行の時から呪力が漏れ出していた。まるで見付けて下さいと言わんばかりの……まさか!?)

 

 

直哉が刺客の狙いに気付くのと

「ぐぅっ!!」

紅蘭の苦しげな声が響いたのはほぼ同時であった。

 

 

(アイツらどこから出て来よった!いや、今はそれよりも!!)

 

紅蘭達を襲った呪詛師は2人、初撃は何とか紅蘭が凌いだようだが実力は刺客の方が格上。

2人目の刺客が既に得物を振り上げている。

 

直哉は最短の道を打ち、一陣の風の様に飛び出す。

 

(何で俺を狙わへんかった!人質にでもするつもりか……!!術師じゃない奴らもおるんやぞ!!!)

 

 

「この…ドブカスがァァァァ!!!!」

 

 

器から力が溢れ出した━━━━━。

 

 

得物を振り上げていた刺客に対し、速度を乗せた飛び膝蹴りを食らわせ沈め、返す掌でもう1人の刺客に触れる。

 

触れられた刺客は、直哉の画角内のコマに組み込まれフリーズする。

速度を落とさないままトップスピードを突破し、更に加速する。

動き始めたら止まらない限りどこまでも加速する、これが投射呪法の真骨頂。

周りの景色が残像となり遂には光の粒子となって直哉の横を過ぎていく。

 

 

(許さへんぞ、お前ら呪いはこの世界に要らんのや!!!!)

 

 

研ぎ澄まされる集中、呪いを前にし器から溢れ出す力、精神のみがものすごい速さで地面を滑る感覚。

そして、それを寸分の狂いもなく後追いする身体。

呪力をインパクトの瞬間に込め悪しき呪いを打ち祓う。

毎日ちゃんと積み上げてきた渾身の一撃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、1人の若き才能に黒い火花は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒閃!!

 

 

 

 

 

 

 

黒く染められた閃光が迸る。

その先にいるのは鬼神の如き少年。

その瞬間直哉の脳にあらゆる情報が流れ込んできた。

 

 

(……!!これが、世界の色か。俺は今まで世界を見るだけやったんや…これが世界に触れること、周りを流れる空気にも触れられるほど圧倒的な存在感があるんや!俺は今全力で世界に生かされとる!!!)

 

 

 

黒き火花に導かれ、天賦の才がとうとう真の開花を遂げる。

術式の解釈が世界に広がっていく。

世界が手に取るように触れられるように感じられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからこそ信じられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前で膨らむ殺気。

 

 

 

「何で…アンタが……」

 

 

 

刺客の落とした短刀を手にし、こちらへ突っ込んで来る女中。

忘れもしない、自分のせいで傷付けた人。

手が赤切れてしまうほど自分達のために戦ってくれた人。

 

 

「直哉様ッ!!!」

 

 

そして目の前で重なり合う、信頼する従者と女中の姿を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ!くそ!!!血が止まらへん!おい紅蘭、しっかりせぇや!」

「誰か屋敷に走って専属の反転術師を呼ぶんや!!!」

 

 

短刀により腹部を刺された紅蘭。

その傷口からは生暖かい血が溢れ出している。

 

(マズい…!急所を掠めてしもうとる……!!!)

 

刺した女中は他の女中に取り押さえられているが、呆然とへたり込み抵抗もなく項垂れている。

 

 

直哉は自分の着物を破り傷口を抑え止血しようとするが流れ出る命を留めることができない。

 

「ざけんなや、ざけんなや!こんなの!!!」

 

 

その時紅蘭の手が直哉の頬に触れた。

 

「…直哉様、……お怪我は、ござ……いません…か」

 

「喋らんでええ!……なんで、何で前に出てきたんや……」

 

「お役……に、たて…ました……でしょう、か……」

 

「当たり前やろ……お前は俺の自慢の従者や、ずっと俺の傍におらんと許さへんからな……!!」

 

直哉は力なく伸ばされる手を握り締める。

 

「……あぁ、良かった……私…お役に……」

 

「紅蘭!!!死なせへん!死なせへんぞ!!死んで役に立つことなんかあらへんぞ!生きて役目を果たせぇや!!」

 

 

その時直哉の呪力が淡く光出し、紅蘭の周りを漂い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後紅蘭は屋敷に運び込まれ禪院家専属の反転術師の治療を受け、一命を取り留めた。

 

治療を行い禪院家から手厚い歓待を受け、帰路に着いた反転術師は患者の奇妙な状態について考えを巡らせていた。

 

 

(…凶器として使用された短刀の刃渡りと傷の深さに矛盾があった。いや、それは確かに無い話では無いが、傷口から凶器を抜く瞬間にもう周りの肉が再生を始めていた)

 

(そのお陰か大きな血管の損傷も無く、いや、塞がっていたと言うべきだろうか。傷の深さの割には出血が少なかった。だからこそ臓器の修復に間に合った。)

 

(肉が再生を始めていたから凶器を抜くのに苦労したが…そうでなければあの女性の術師は死んでいた。あの女性の回復機能か…いや、それよりは……)

 

 

術師は禪院家に似合わぬ、優しい表情で女性に寄り添っていた少年の姿を思い出した。

禪院家の雰囲気はガラッと変わっており、以前の禪院家なら例え術師であろうと女の為にあそこまでやっていなかっただろう。

自分を呼びに来たのは女中だったがそれはもう必死な形相で車を飛ばしていた。

それが許されていた。

今までの禪院家ならそんなことはありえない。

偉そうな態度の男が当たり前のように自分を呼びに来て、その後決まった報酬が払われるだけ。

 

しかし今日は食事までご馳走され、少年とその父親である禪院家当主にまで礼を言われたのである。

「大切な従者の命を救ってくれてありがとう」と。

少年の真摯な瞳を思い出す。

その時もう無くしたはずの何かが胸に回帰し、思わず感極まったことを覚えている。

 

全ての中心にいたのがあの少年だった。

禪院家次期当主に相応しい才能を秘めていると思った。

「あの少年が……いや、まさかな」

有り得ないと思いつつもそうでは無いと説明のつきようがないことに術師はもう一度だけ禪院家の屋敷を振り返り、これからの呪術界を背負って立つのはこの禪院家かもしれないと思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刺客による直哉の襲撃事件があってから数日経った。

しかし紅蘭はまだ目を覚まさない。

治療は問題なく完了しているが、一時は重体になっていたのだ。

心配ではあるが今は待つしかない。

くれぐれもよろしく頼む、と看病を担当する女中に伝え紅蘭の眠る部屋を直哉は後にした。

 

 

 

その時血相を変え別の女中が直哉の元に駆け寄ってきた。

 

 

 

「直哉様ッ!申し訳ありませんッ!!部屋で謹慎していた女中が……!見張りの交代の僅かな時間の間に……」

 

恐れていた事が起きてしまったのだ。

 

 

直哉は自分を刺そうとした女中の行動は、何らかの術式により強制されたものだと分かっていた。

 

当時は気にする程の余裕は無かったが、黒閃により研ぎ澄まされた呪力感覚は僅かながら女中から別の呪力の気配を感じ取っていた。

 

そうでなくてもあの女中が自分を刺そうとする筈がない。

 

自分が好かれているとかそういうことではなく、あの優しい女中が誰かを傷付けることをするワケがないのだ。

 

 

故に独房にて謹慎を命じられたこの女中に、気にする必要は何も無いと何度も丁寧に伝えていた。

周りに何度も熱心に説明をし、あともう少しで謹慎が解かれるという時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女中は見張りが交代する僅かな時間の間に、独房にて自分の着物を使い首を吊り命を絶っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直哉がその場に着いた時には既に女中の遺体は房の床に横たわっていた。

 

 

涙が滲んで、視界がぼやけていく。

それでも目元を拭い女中の傍に寄り、身体を抱き抱えた。

 

首には縊死の跡が顎から首のエラの部分にかけて赤黒く残っている。

身体はまだほのかに暖かく、遺体の硬直すら始まっていない。

舌はだらりと口から垂れ下がり、瞳は半開きで虚ろになっている。

流した涙が乾き、その跡が青白くなった顔に残っている。

 

 

この光景を目に焼き付けて生涯忘れまいと思った。

 

 

 

女中の傍に手紙が置いてあった。

これは遺書なのだろう、直哉はその手紙を震える手で開いた。

見なければならない。自分が。

辛くてもこの女中が最期に残した想いを自分が見なくては。

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━直哉様。

あれから数日、直哉様は私を慮りお言葉をかけてくださいましたが、私には直哉様を傷付けようとしたこと、そして紅蘭様を傷付けてしまったことの罪の重さにとても耐えられそうにはありません。

私の命で償うしかないと、そうとしか思えないのです。

直哉様は庇ってくださいましたが、記憶の中にははっきりとあの時の事が残っております。

直哉様を、紅蘭様を、傷付けたのは間違いなく私なのです。

許されるものではありません。

でもそれ以上に私が命を絶つことで自分が楽になろうとする道を選んでしまうことをお許し下さい。

罪すらも言い訳にすることをお許し下さい。

直哉様、どうか貴方は自分の思うがまま真っ直ぐ生きて下さい

 

手紙の文字は涙が落ちたのだろう、所々滲んでいる。

涙が乾き、紙がシワになっていた。

 

 

女中は誰かに操られていたのだ。

女中に今回のことの責任は無かった。

 

 

ならばこの光景を作り出したのは、女中を操った憎き呪詛師。呪いだ。

いや、それ以上にこの女中を救えなかった自分のせいなのだ。

 

 

「……直哉様…申し訳ありません。申し訳ありません。申し訳ありません………」

 

 

「…もう、ええんや。もう……」

 

この女中の涙が乾いて出来た紙のシワすら忘れまい。

この屈辱と共に。

もっともっと沢山の呪いを祓うのだ。

 

 

女中の赤切れだらけの手を両手でもう一度握り締める。

その手に涙が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直哉はこんな日でも鍛錬をこなし、1人屋敷の屋根の上に寝転がり夜空を見ていた。

 

 

桜も散り始め、だんだんと夏が近付いてきている。

日中は暑いが、朝晩はまだ肌寒い。

この風の冷たさが鍛錬終わりの火照った身体を冷ますのにちょうど良かった。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━弱き事は罪や。

 

 

 

 

弱ければ今回の紅蘭や女中の様にその罪を罰で償うことになる。

ならば、弱き者はいつも強者に虐げられ(不幸)を噛み締め続けることしか出来ないのか。

 

否、断じて否。

何故自分は御三家に生まれたのか、恵まれた力を持って生まれてきたのか。

 

 

 

 

 

 

 

考えんでも答えはもうとっくに出とんねん。

 

 

 

 

 

 

 

 

(俺が…払うんやその罰を。もっと強くなって、弱き者の罰は(力を持つもの)が払えばええ。皆俺の三歩後を歩けばええ、そしたら俺が全部守ってやんねん。)

 

 

 

 

 

それが俺の生まれた意味、俺の道。

呪いを祓い、誰かの弱きことへの罰を払い続けるんや。

そうやないとおかしいやろ。

こんなにも世界が美して、呪いが疎ましくて、自分に恵まれた力がある。

なら、俺が祓う(払う)しかないやろ。

 

 

死ぬ最後の瞬間まで俺は力を持つ者の責務を全うするだけや。

喝采は要らん、同情も、共感も要らん。

ちゃんとやんねん。毎日毎日ちゃんとやんねん。

 

 

 

 

 

この世界から呪いを祓うその日まで。

 

 

 

 

 

 

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