禪院直哉の御三家のススメ   作:北直哉

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励みになってます。
直哉と皆様のお陰で日間ランキング最高5位獲得しました。
やっぱり直哉の注目度って凄いなぁ
設定は皆さんが納得出来ない部分もあるかもしれませんが暖かい目で見て頂ければありがたいです。


禪院直哉の世界

 

 

その存在を知ったのはつい最近だった。

甚壱君の弟の存在。

一族の術師がヒソヒソとみっともなく陰口を叩いていたのを聞いたのだ。

 

曰く、禪院家に生まれたにも関わらず呪力が全く無い。

曰く、落ちこぼれだと。

 

だったらそれに対して呪いもろくに祓わず陰口しか言わんお前らは何なんや、とは呆れて口にする気も起きなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新しく直哉の毎日の日課となった墓参り。

来るのは直哉くらいのものだがその場所はいつも綺麗にされている。

ここに来る度に器に力が少しだけ注がれているようなそんな気がする。

 

墓石に刻まれた女中の名前を指でなぞる。

 

「…いつだって一緒や。もっとありがとうって言いたかったわ」

 

暖かな思い出と、目に焼き付いて離れない悲痛な光景と、屈辱を、ここへ来て何度も何度も思い出す。

 

(俺はやるで…死んでいった人が、また生まれてきたいと思えるような優しい世界を作るんや。それが今を生きる俺の義務や)

 

「見とってな…俺、頑張るから」

 

そして決意と暖かな想いと共に1日を始めるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

そうして鍛錬のためその場所を離れようとした時、件の人物の事を思い出したのだ。

 

 

(一般人ですら僅かに呪力は持っとるもんや…それが全く無いということはもはや落ちこぼれとは別や。もしただの落ちこぼれならとっくに禪院家から抹消されとる。それがされていないということは……)

 

 

「禪院家にすらそれが出来ん存在ってことや、……どちらにせよ会ってみたい人や」

 

 

 

直哉は自分が更に強くなれる予感を感じながら屋敷に向けて歩き始めた。その人物に会うために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷の離れにその人物の部屋はあった。

禪院の術師でも全員が全員個別の部屋を持つ訳では無い。

だが、その人物には部屋が割り当てられていた。

しかもこんな離れに。

矛盾するその光景に禪院家がこの人物を恐れているような印象を受けた。

 

 

部屋を訪ねようとした瞬間、その人物は角から廊下を歩いて目の前に出てきた。

名前は知っているが顔は知らない。

だがこの人だと直感で分かった。

 

 

圧倒的な自己。力の権化。剥き出しの暴力。

天性の肉体。

 

 

 

━━━━━━━━━圧倒的な強者。

 

 

 

直哉は理解した。

この人物は呪力が無いだけではなく、本来持って生まれるはずだった天賦の才を全て失うことで別の才能を持って生まれただけなのだと。

そしてその才がこの禪院家では、認められなかっただけなのだと。

 

直哉は天から伸ばされる鎖を幻視した。

 

 

 

 

 

 

 

(…このガキ、直毘人のところのか。わざわざここに来たってことは俺に用があるって事だな。めんどくせぇ、笑いにでもきやがったか)

 

甚爾は直哉の存在のことは知っていた。

 

と言っても禪院家の中で冷遇されている甚爾はそこまで家の事情には詳しくはないし、そもそも興味もない。

 

 

ただ当主に息子が生まれ、その息子が持ってる側の人間だったということくらいであった。

 

 

そうでなくても自分も他人にも無関心な甚爾がこの少年に構うことなどなく、そのまま目の前を横切ろうとしたその時だった。

関わってくるな、という威圧をしながら。

 

 

「君が甚爾君やろ、ちょっと話さへん?」

 

 

それなのに目の前の少年はまるで友達に話しかけるような気軽さで、笑いかけるのだった。

 

 

 

目の前にいるのは自分など敵わぬ存在、だが恐れは無かった。

 

正直に言えば直哉は目の前の男を見て羨ましいと思った。

これだけの力があればもっと呪いを祓えるのに、と。

 

正直に言えば禪院家に生まれ、それだけの力が持っていながら、何で呪いを祓おうとせんのやと問い詰めようとも思った。

 

だがそんな事は聞かなくても分かった。

それを全て奪ったのは禪院家だと。

その暗く沈んだ瞳を見て、口が裂けてもその力を呪いを祓う為に使って欲しいとは言えなかった。

 

だが直哉もこのまま帰るだけでは、せっかく埒外の強者と会えたのにあまりにも勿体無いと感じていた。

この出会いを何とか自分の成長の糧としたい。

そこで直哉が取ったのは当然の行動だった。

 

「甚爾くん、俺に稽古を付けて欲しいんや」

そうやって頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

甚爾は目の前の存在を歳の割に大人びたガキだと思った。

話の選び方や、言葉遣い、表情も似つかわしくないくらい達観している。

天才と持て囃され、甘やかされ育ったどんなクソガキだろうと思っていた甚爾は拍子抜けすることとなった。

 

このガキ⋯直哉の目的はイマイチ分からない。

だが、まぁ話くらいは聞いてやってもいいかと思える程には、禪院家とは思えないくらい嫌味の無いヤツだと思った。

そんな奴が急に稽古を付けて欲しいだなんて頭を下げるものだから甚爾はまた禪院家に似つかわしくない奴だと鼻を鳴らすのであった。

 

「断る。他を当たれ。」

 

だが甚爾の応えは簡潔なものだった。

 

 

確かに面白いガキだと思った、禪院家に関係なく好感の持てるヤツとも思った。ただそれだけ。

自分にも他人にも価値を見出さず、故にどちらも尊ぶことはない。

それが自分の生き方で、他人の為にやったことも無い先生の真似事など真っ平御免だった。

 

「そうか…でも困ったなぁ。ここで引き下がる訳にいかんし、かと言って用意出来るのはお金くらいなもんやし。でも甚爾くんがお金なんかで引き受けてくれる訳ないし⋯」

 

直哉は半ば予想していた応えだったといえ改めて言われると頭を抱えた。

しかしその瞬間目の前の男は態度をコロッと変えるのだった。

 

 

「乗った」

 

「…え?」

 

直哉はまさかの掌返しに逆に不安になった。

「いやいや、さっき問答無用って感じで断ってたで。有難いけど」

 

「いくら出せるんだ?」

 

(あーなるほど…甚爾くん意外に俗っぽいところあるんやね)

 

「もちろん甚爾くんの言い値でええで、足りんかったらオトンにも頼んでみるわ」

直哉は何となく甚爾とのこれからの付き合い方が分かったような気がした。

 

 

 

それから報酬の話を終え、2人は開けた場所へ移動していた。

 

 

「だが意外だな、お前なら俺に頼らなくてもいくらでも相手ならいるんだろ」

「知ってるだろうが俺から呪術学べるとは思うなよ。俺は呪術はからっきしだからな」

 

 

「それだけじゃ足りないと思ったんや。強くなる為にはなんでもやらんとあかん。」

「それに術師は呪術だけじゃやってけんわ。甚爾くん見てたら余計に思うわ」

 

 

「ハッ言うじゃねぇか」

 

 

甚爾は直哉の持つ才能をある程度見抜いていた。

先日目にした数百年ぶりの六眼と無下限呪術の抱き合わせに比べればポテンシャルは多少劣るかも知れないが、それと比較の対象にはなるくらいの規格外の才能だった。

 

(だからこそ分からねぇ、なんでお前はそこまで強さに貪欲なんだ。)

 

「何をそこまで焦ってんだ?周りが羨ましくなるくらいの天才様が…」

 

 

そこまで言って甚爾は直哉の持つ雰囲気が変わったことに気付いた。

 

 

「羨ましい…?女中に満足な死に方も選ばせてやれんような才能がやろうか…」

 

 

(コイツ…ガキのくせになんて顔しやがる……)

甚爾は戦闘態勢に入った直哉の実力を過去の経験や特別な五感で判断し、既に準1級から1級相当の実力はあると当たりを付ける。

 

退屈凌ぎにはなるかもな、と甚爾は身体をほぐし口角を上げた。

 

 

 

「いいぜ。だが俺に手解きなんか期待するな。俺はお前をぶちのめす。その中で勝手に学びたきゃ学べ」

甚爾のプレッシャーが跳ね上がる

 

「あぁ楽しみやなぁ…」

直哉は埒外の強者との出会いに、自分が更に強くなれることを確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯まぁこんなもんだろ」

それからしばらくして少し息の上がった甚爾の目の前には

 

「ーっは、ハァーぐっ、ハァ⋯」

滝のように汗をかき、息も絶え絶えの様子で直哉が倒れ込んでいた。

 

 

「どうだ?満足したかよ」

 

「…無茶苦茶や、なんで術式も使わずに空中を走れんねん⋯!」

 

 

簡単だろうが、空気を面で捉えるんだよ面で、と甚爾は当たり前のことのように説明するがその感覚はよく分からない。

 

 

自分も黒閃を経験してから術式の解釈が広がり、術式の対象を空気等手に触れられなかったものにまで広げることは出来たがあくまで術式ありきだ。

 

 

「ほんと、甚爾くんは凄いわ」

 

 

直哉の嬉しそうな顔を見ていると何故か背中がむず痒くなってきた甚爾は背中を向けぶっきらぼうに言った。

 

「お前の投射呪法は確かにスピードもあって中々面白ぇ。だがそれだけだ。これから動きを先回りして攻撃を置いてくるような奴も出てくるだろうぜ、俺みたいにな」

 

 

それを分かった上で戦い方や術式を使えば俺にいつかは勝てるかもな、と後ろ手を振りながら甚爾は離れていった。

 

 

 

「ははっ⋯無茶言うで甚爾くん。動き読まれたらおしまいやろ」

(手解きなんかせん言うとったのに⋯ ほんま甚爾くんは)

 

 

遠ざかって行く背中に直哉はこの人に色々とまだまだ勝てそうにないとため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

甚爾との稽古で身体は疲れ果てているが、鍛錬は欠かさない。

良い術師を作るのは、呪いを憎みこの世を良くしたいと思う心、美味い飯、それと無限回の鍛錬なのだから。

 

 

空気を固めそれを拳で捉えることで爆発させる仮称【空掌】、空気を固め足場とすることで変幻自在多角的な機動を作る仮称【空歩】。

黒閃を経験し広がった術式の解釈により実現可能となった新たな直哉の武器。

 

それを何度も反復して行い、身体に叩き込む。

 

(才能は開花させるもの、センスは磨くものや。鍛錬で出来んことは本番でも出来ひん。磨くんや、ちゃんと。)

 

 

 

そうして鍛錬を続け、締めである打込みをしながら思い出すのは甚爾の言葉。

(黒閃を経験して広がった世界も甚爾くんの見える世界からしたらまだ1部だけなんや)

投射呪法は速度や固定させる能力が強力だと周りは思うが、直哉はその再現性が最大の魅力だと思っている。

 

黒閃を経験してから更に磨かれた再現度。

自らの精神の理想の動きに寸分の狂いなく追従するようになった術式の再現度に、直哉は黒閃すらもその対象になるのでは、と考えるようになった。

 

 

(また黒閃を打ちたい。できるはずや、完全に掴むんやあの感覚を。)

 

 

あの日から身体の中に残る黒閃の感触を追いかけ続けている。

ただ届かない。

黒い火花はまだ微笑んではくれない。

 

 

その時に甚爾と出会ったのだ。

 

 

 

(もっと、世界に耳を傾けるんや。黒閃は現象、攻撃やない。ならばその発生は自分だけで完結するものやないはずや。自分と世界この空気や温度すらも利用してヒントにするんや)

 

美しきこの世界に自らを溶け込ませる。

器が空っぽになる寸前、自分というものが限りなく薄まっていき世界と精神の境目が曖昧になっていく感覚。

そして見えてくる空間の流れ。

 

それを理解した瞬間、少年は世界に祝福された。

 

「⋯見えた、もう放さへんで。その手を」

 

 

 

 

黒い火花は微笑む相手を選ばない。

それでもその手を握り、寵愛を自分に振り向かせる者が現れた。

 

 

 

黒閃!!

 

 

 

 

 

(無茶したな⋯でも掴んだで。黒閃の再現⋯)

 

 

 

 

頭に流れ込んでくる絶え間ない情報。

全てがクリアに感じる。

しかし肉体は限界を迎え、脳が痺れ、目や鼻、耳からも血が溢れだしてくる。

それでも掴んだ黒閃の核心に、直哉は満足気に意識を手放した。

 

 

 

 

 





読者様と直哉に今は感謝を。
高評価めちゃくちゃ嬉しいんでよろしくお願いしますm(_ _)m
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