第1話 ENTUM設立式 ~情熱と混沌の幕開け~
2018年4月8日、東京都の中心にそびえるビルの一室は、熱気と期待に満ちていた。株式会社ENTUMの設立式典が、今まさに幕を開けようとしていた。会場には色とりどりの装飾が施され、集まった人々のざわめきが響き合う。新たな夢の第一歩を祝うために集まった者たちの中で、ひときわ異彩を放つ面々が壇上に並んでいた。
「えー……この度、設立式にご参加いただき、誠にありがとうございます! 私は株式会社ENTUMの社長、ベイレーンです!」
陽気な声が会場を切り裂く。ベイレーンはにこやかな笑顔を浮かべながら、隣に立つ少女に視線を向けた。
「こちらは……」
「にゃんハロー! 副社長のエイレーンです!」
猫のようなしなやかさで手を振るエイレーン。彼女の軽やかな挨拶に、会場から小さなくすくす笑いが漏れた。
「部長のベノちゃんです!」
小さな体に大きな存在感をまとうベノちゃんが、元気いっぱいに胸を張る。
「ハロー、キミの嫁の萌実だよ♪」
ふわりと微笑む萌実に、ベイレーンがすかさず補足する。
「彼女は次長だ!」
「ハロー、ダーリン♪ ヨメミだよー!」
弾けるような明るさで手を振るヨメミに、ベイレーンが再び冷静に付け加えた。
「彼女は課長という立場だ」
「エボラちゃん係長だよ!」
少し照れくさそうに笑うエボラちゃんの声が、会場に柔らかく響いた。
ベイレーンは一呼吸置き、会場を見渡すと、厳かな口調で続けた。
「では、我が社の会長と名誉会長をご紹介します。どうぞ、お進みください!」
静寂の中、重々しい足音とともに現れたのは、凛とした雰囲気をまとった女性だった。
「私は株式会社ENTUM会長、アイリスディーナ・ベルンハルト。この度は我が社の設立式にご参加いただき、心より感謝申し上げる。我が社はクリエイティブな仕事に挑む。詳細は私もまだ理解しきれていないが……まあ、穏便に頼むよ」
彼女の落ち着いた声には、どこか人を引き込む不思議な力があった。
その隣に立つもう一人の女性は、まるで嵐のような迫力で会場を圧倒した。
「株式会社ENTUMの名誉会長を務める、ベアトリクス・ブレーメだ。会長は甘っちょろいが、私は飴と鞭を使い分けるぞ。YorTuber?そんな職業は知らん!だが、我が社に入ったからには気合いを入れて励め! 質問は一切受け付けんから、そのつもりでいろ!」
ベアトリクスの鋭い眼光に、会場が一瞬凍りついた。
だが、その静寂を破るように、一人の少女が手を挙げた。
「ちょっと待ってください! 一つ質問があります!」
明るい声の主は、アカリだった。
ベアトリクスが眉をひそめる。
「質問は受け付けんと言ったはずだ」
「でも、ネタ切れしたらどうするんですか!?」
アカリの言葉に、会場がざわめき始めた。
「そうよ、そうよ! ネタ切れしたらどうなるの!?」
猫宮ひなたが勢いよく同調する。
「確かにそうだな」
届木ウカが静かに、しかし力強く頷いた。
「保証してくれるの!?」
もちひよこが声を張り上げる。
「私たちには意見を言う権利があるよ!」
アカリがさらに畳みかける。
「もし私たちがオワコンになったら、どうしてくれるの!?」
「そうよ! 誰が責任取るの!?」
もちひよこが叫び、会場は一気に騒然とした雰囲気に包まれた。ガヤガヤと響き合う声の中、ベアトリクスの表情が一変する。
「黙れッ!」
彼女の怒号が雷鳴のように響き、会場が静まり返った。
「粛正されたいのか!? ゴミどもが!」
ざわ……。誰もが息を呑む中、ベアトリクスは一層声を張り上げた。
「質問するのが当たり前だとでも思ってるのか!?貴様らは皆幼児のように自己中心に、周りが右往左往して世話を焼いてくれる臆面も無くそんな事考えてる」
ベイレーン、エイレーン、ベノちゃんが一斉に硬直する。萌実は静かに目を伏せ、ヨメミは「あらぁ……」と小さく呟いた。
「甘えるな!世間は貴様らの母親じゃない!貴様等は個人で甘え負けに負けてる折り紙付きの”最底辺”だ!最底辺には反論する権利など何もない。会社の中でも、外でもだ!」
ベアトリクスの言葉はまるで刃のように鋭く、会場を切り裂いた。
アカリが小さく呟く。
「暴言よ……」
だが、ベアトリクスは止まらない。
「それは貴様等が負け続けてきたからだ。他に理由は一切無いわ。貴様等は今なすべき事はただ勝つ事…勝つ事!これは情報戦だ。勝ったらいいなじゃない、勝たなきゃいけないんだ!」
アイリスディーナが静かにベアトリクスを見つめる。
「ベアトリクス、お前……」
「勝ちもせずに生きようとするVTuberなんて論外だ!これはクズを集めた戦争だ!―――ここで負けるような奴。そんな奴の運命など知らないわ。本当に知らない。そんな奴はどうでもいい」
ベアトリクスの言葉に、アカリは震えながら呟いた。
「怖いよ……」
だが、ベアトリクスは不敵に笑う。
「勝つことが全てだ。勝たなきゃゴミだ!」
その瞬間、ニコラ、カタリーナ、ファルカがなぜか無邪気に笑い声を上げ、場に奇妙な空気が流れた。
ベイレーンは慌てて空気を変えるように声を張った。
「あ、はい!ありがとうございます!さて、次は特別ゲストとして、とあるアイドルグループをお呼びしています! どうぞ!」
スポットライトが壇上に当たり、七人の少女たちが現れた。
「みなさん、こんにちWUG!」
リーダーの佳乃が明るく叫ぶと、メンバー全員が声を揃えた。
「Wake Up, Girls! です♪」
会場が一気に華やいだ。ベイレーンがニヤリと笑う。
「お前ら、喜べ! 彼女たちが歌を披露してくれるぞ。有り難く思え!」
エイレーンがすかさず茶化す。
「Wake Up, Girls! の皆さんと百合百合パラダイスです♪」
「クビにするぞ」
ベイレーンが即座に突っ込む。
「設立式に相応しくない発言は控えろ!」
ベアトリクスが厳かに締めくくる。
「貴様らにとって、今日のことは良い思い出になるだろう。心に刻め。そして、彼女たちの歌声をよく聴け!」
ベイレーンが勢いよく叫んだ。
「それでは、Wake Up, Girls! の全曲メドレー、スタートです! どうぞ!」
会場が拍手に包まれる中、少女たちの歌声が響き始めた。情熱と混沌に満ちたENTUMの物語は、ここから始まる――。
ENTUM23というタイトルですが、実は元ネタがあります。
ヒントは『宇宙船内部には過去で一番平和な時代だった1980年代の東京が再現されていた。そこで暮らす人々はバハムートに情報操作され、20世紀の幻影の中で生活していた。』と言う内容の作品です。
23は東京23区ですね。