ENTUM23   作:マブラマ

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第108話 友人にパズドラを消されて発狂する萌実

2017年3月20日 萌実自宅

 

それはENTUM設立する1年前でありミライアカリがデビューする3ヶ月前――萌実の自宅リビングは、彼女のVTuberデビュー直後の熱気でほんのり賑わっていた。3月3日に「アニメ娘エイレーン」YouTubeチャンネルで公開された『NieR:Automata』実況『これはパンツじゃないもん!!!』で鮮烈なスタートを切った萌実は、プロデューサー的存在のエイレーンとその妹ベノちゃんを自宅に招き、泊まり込みの楽しい夜を過ごしていた。壁にはまだ貼られていないミライアカリのポスター枠が空き、テーブルには『NieR:Automata』の攻略本とコンドーム(ゲームのネタアイテム)が転がる。だが、リビングのデスクトップパソコンには、なぜか株式取引の表示板が映し出され、赤い矢印がズルズルと下落中。萌実の気分も、株価と一緒に沈んでいた。

「はぁ…。」

萌実がソファにドカッと座り、ため息をつく。彼女の初期衣装は、2019年の指ぬきグローブやショートパンツとは違い、まだシンプルな可愛さ全開のデザインだ。エイレーンが隣で心配そうに言う。

「どーしましたか、萌実さん?」

彼女のスーツ姿は、VTuber界の姉貴分らしい落ち着きを放つ。

「エイレーン、あれだよ。」

萌実がパソコンを指差す。画面には、株価の無情な下落チャートが。

「へぇ、株なんかやってたんですか?」

エイレーンが目を丸くする。

「え? そうだよ。お隣のおじいさんに勧められて始めたんだけど、これがなかなか…。」

萌実が肩を落とし、呟く。

「これはシビアすぎますね…。」

エイレーンがチャートをチラ見し、苦笑い。

「はぁ…。」

萌実がさらに深いため息。

「たまには、外へ出かけて散歩したら気持ちいいですよ。」

エイレーンが励ますように言う。

「―――そうね。たまには行くか。」

萌実が立ち上がり、気を取り直す。

「私はここで留守してますよ。」

エイレーンが微笑む。

「パズドラ。」

萌実が急に真顔でエイレーンを振り返る。

「え?」

エイレーンがキョトン。

「…萌実のパズドラ。Samsung Galaxy Tab S2 9.7、絶対に触らないでね!」

萌実が念を押す。彼女の目は、株価の赤より鋭い。

「分かってますよ!」

エイレーンが慌てて頷く。

「行ってくるね。」

萌実が玄関に向かい、ドアを閉める。

ガチャ!

萌実の足音が遠ざかると、ベノちゃんがソファの裏からニヤリと登場。

「行った?」

「はい。」

エイレーンが小さく頷く。

「やっちゃう?」

ベノちゃんの目が悪ノリでキラキラ。

「え? マジでやるのですか?」

エイレーンが不安げに眉をひそめる。

「萌実ちゃんには悪いけど…ちょっと地獄に落ちてもらうよ!」

ベノちゃんがニヤニヤしながら、テーブル上のSamsung Galaxy Tab S2を手に取る。

「ベノちゃん…何やらかすの?」

エイレーンがオロオロ。

「おっ、これGalaxy Tab S2じゃん。ちょっと弄繰り回すか…ん?」

ベノちゃんが画面を起動し、あちこちスワイプ。

「これって…!」

Galaxy Tab S2の画面に、パズドラアプリが登場。ベノちゃんの目がさらに輝く。

「これってあのマックスむらいがやってるゲームだよね!」

「ベノちゃん…やめといた方が…。」

エイレーンが弱々しく止める。

「少しだけ! ね? お姉ちゃん!」

ベノちゃんが悪ノリ全開でタップ開始。

「(こんな光景、萌実さんに見られたら…)」

エイレーンが顔を覆い、責任逃れのポーズ。ベノちゃんは勝手にパズドラを弄り、萌実がコツコツ集めたドラゴンやレアモンスターを強化合成し、次々売却。

「あ、レアモノまである。生意気だね!」

「ベノちゃん、このぐらいにしてください!」

エイレーンが必死に止める。

「まだだ。まだ憂さ晴らしが足りないよ…。」

ベノちゃんがニヤニヤしながら、売却ボタンを連打。

「これも、これも、これも! 売却! 売却!」

「(私、しーらない!)」

エイレーンが完全に諦めモード。

チャリーン! 売却音が響き、ベノちゃんが満足げに笑う。

「ふふふ、ざまーみろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後 帰宅とカレーの誘い

 

ガチャ!

萌実が玄関から戻り、リビングに登場。

「帰ったわよ。あ、ベノちゃんいたんだ。」

ベノちゃんが慌ててGalaxy Tab S2の電源を切り、「(ヤバァッ!)」と冷や汗。

「ねえねえ、3人で一緒にココイチのカレー食いに行こうよ!」

萌実が明るく提案。株価のモヤモヤを吹き飛ばす勢いだ。

「いいですね! 久々のカレーだ!」

エイレーンがホッとした顔で賛同。

「う、うん。カレー食いたいなぁ…。」

ベノちゃんが挙動不審で頷く。

「ふふ、決まりね。じゃ車出してくるから、2人は外で待っててね!」

萌実が笑顔で玄関へ。

「あ、外で待ってますね。」

エイレーンが急いで後を追う。

「うん…。」

ベノちゃんがコソコソと続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2時間後 悲劇の発覚

 

ココイチでカレーを堪能し、エイレーンとベノちゃんを家に送った後、萌実がリビングでくつろぐ。彼女はSamsung Galaxy Tab S2を手に取り、パズドラを起動。

「パーティ編成はと…――え?」

画面を見つめる萌実の目が、徐々に異変を捉える。

「…!?」

彼女の手が震え、Galaxy Tab S2を握り潰しそうな勢い。

「……!」

萌実はSamsung Galaxy S7を手に取り、エイレーンに電話をかける。

「エイレーン。ちょっと聞きたい事あるけどいいかな? ―――うん。単刀直入に言うけど。パズドラ。パズドラ触ってない? ……そう、あいつがやったの。ベノちゃんがやったんだね。……わかった。」

電話を切り、萌実の表情が凍りつく。愕然。呆然。唖然。

「ふざけんなぁぁぁ!!! ああぁもう!! あーもう!! ふざけんなよ……もう……うぅ…エイレーンの…エイレーンの馬鹿あああああああああ!!!」

萌実が絶叫し、ソファに倒れ込む。リビングに転がる『NieR:Automata』の攻略本が、彼女の叫び声に震える。コメント欄を想像すると「萌実、パズドラ全滅w」「ベノ、2017年からやらかし魔王!」「エイレーン、なぜ止めなかった!」と、未来のファンが騒ぐ声が聞こえてきそうだ。

 

 

 

 

 

この2017年のパズドラ売却事件は、2019年のヴィーガー乱射騒動やベノちゃんの謹慎につながる、ENTUMのハチャメチャ史の第一章だった。萌実の怒りは、後の「天才萌実先生」シリーズでベノちゃんを「パズドラ破壊魔王」としてネタ化する原動力に。夏コミ(No.1251)の「萌実のヴィーガーペンライト」は、この怒りと情熱の結晶だったのかもしれない。

 

 

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