ENTUM23   作:マブラマ

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第113話 エトラ大地に立つ!

2019年9月3日。昨日、突如としてVTuber界に彗星の如く現れた新人、エトラ。彼女のプロデューサーであるエイレーンは、興奮を抑えきれなかった。すべてはTwitterのDMから始まった。エイレーンはエトラに「顔写真と全身写真を送って」と指示し、送られてきた画像に目を輝かせた。「これだ!」と確信した瞬間だった。だが、エイレーンには別の試練が待っていた。夏コミ終了後、ベノちゃんの不適切な行動を止められなかった責任を問われ、ENTUM樺太支部への左遷が決定。とはいえ、そこで支部長に任命されるという、なんとも皮肉な展開に。今日、エイレーンはビデオ会議でエトラと対話していた。

「エトラさん、あなたをプロデュースできて本当に良かったです!」

エイレーンは画面越しに満面の笑みを浮かべる。エトラの声が、機械的かつ少し好奇心に満ちたトーンで響く。

《画面越しでも話せて嬉しいよ、エイレーン。で、私は何をすればいいの?》

エイレーンは一瞬、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「そうですね……萌実さんを弄ってください」

《萌実……?》

エトラの声に戸惑いが滲む。

「今、メールで写真を送りますよ」

エイレーンは素早く萌実の写真を送信。画面に映し出された萌実の顔を見て、エトラの瞳に決意の光が宿る。

《萌実……うん、わかった。やってみるよ》

エトラの声には、どこか挑戦的な響きがあった。

「では、早速お願いしますか!」

エイレーンは目を細め、まるでゲームの開始を告げるゲームマスターのようだった。

「エトラさん、あなたが戦力の要として相応しいかどうか、しっかり見極めさせてもらいますよ!」

エイレーンはそう言い放ち、エトラの初任務が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、エトラはENTUM本社の玄関前に立っていた。巨大なガラス張りのビルは、まるで未来都市の一角を思わせる威容を誇っている。

「ENTUM……」

エトラは小さく呟き、決意を胸に秘めて中へと足を踏み入れた。ロビーに足を踏み入れた瞬間、賑やかな笑い声が耳に飛び込んできた。視線の先には、楽しげに会話する二人の少女。片方はミライアカリ、VTuber界の輝く星。そしてもう一人が――。

「(この子が萌実……―――エイレーンから与えられた初任務だ。行くよ!)」

エトラは心の中で気合いを入れ、足音を響かせて二人に近づいた。萌実は手に持ったマウンパをアカリに見せながら、目を輝かせていた。

「それでね。このマウンパはベージュ色だけど最高に可愛いの!」

「うん!萌実ちゃん凄く可愛いよ!」

アカリが満面の笑みで相槌を打つ。

「でしょ?…ん?」

萌実はふと視線を上げ、目の前に立つ見知らぬ少女に気づいた。エトラは堂々と萌実の前に立ち塞がり、腕を組んだ。彼女の瞳には、挑発的な光が宿っている。

「え……あなたは?」

萌実が怪訝そうに眉をひそめる。

「知り合い?」

アカリが無邪気に尋ねる。

「ううん、知らない人よ」と萌実が首を振る。

エトラは一瞬、鋭い視線で萌実を捉えた。

「(!――これだ)」

彼女は深呼吸し、口を開く。

「私はエトラ。未来からやってきたアンドロイドよ!」

「は?」

萌実は目を丸くし、呆気にとられた。

「え?何々?アンドロイド?凄い!ターミネーターじゃん!ミライアカリだよ。宜しくね!」

アカリは目を輝かせ、興奮気味に手を振った。

「ええ、宜しく―――あなたが萌実ね」

エトラは視線を萌実に戻し、じっくりと彼女を見据える。

「へ?そうだけど…」

萌実は戸惑いながらも答えた。

「……へぇ」

エトラは意味深に呟き、萌実の胸元に視線を落とす。

「何だ、貧乳か」

その一言は、まるで雷鳴のように萌実の心を貫いた。彼女の顔が一瞬で真っ赤に染まり、瞳に怒りの炎が宿る。貧乳は、萌実が誰にも触れられたくないコンプレックスだった。

「―――!」

萌実は言葉を失い、拳を握りしめる。

「ちょっと萌実ちゃん!」

アカリが慌てて止めようとするが、時すでに遅し。

「舐めるな!」

萌実は怒りを爆発させ、エトラの顔面に渾身のパンチを叩き込んだ。

「ぐ!」

エトラはよろめきながらも、驚いた表情で萌実を見つめる。

「萌実が貧乳で何が悪いのよ!萌実は貧乳だよ!」

萌実は叫び、感情のままに声を張り上げる。

「え?ちょっと!」

エトラは動揺しながらも、どこかその反応に興味を引かれていた。アカリは呆然と二人を見比べ、呟く。

「あー…これってZガンダムのカミーユとジェリドのファーストコンタクトだよ…」

その時、重々しい足音がロビーに響いた。

「―――何を騒いでるの?」

全員が一斉に振り返る。そこに立っていたのは、ENTUMの名誉会長、ベアトリクス・ブレーメ。元シュタージの兵士であり、ベルンハルト会長の親友でありながら、かつては敵対していた伝説の女性だ。彼女の眼光は鋭く、場を凍りつかせるほどの威圧感を放っていた。

「ヤバいよ…ブレーメ名誉会長だ」

アカリが小声で呟き、緊張を隠せない。

「!」

萌実は息を呑み、エトラもまた、目の前の存在に圧倒される。

「ベアトリクス・ブレーメ……元シュタージの兵士で、ベルンハルト会長の親友でかつて、敵対していた女性だ」

エトラは心の中で情報を整理し、冷静さを取り戻そうとする。ベアトリクスはゆっくりと二人に近づき、冷ややかな声で言った。

「……さて、どう説明してくれるかしら?」

その場に緊張が走る。エトラの初任務は、予想外の波乱を巻き起こしていた――。

 

エトラは一瞬、言葉に詰まった。だが、彼女の瞳にはまだ任務への決意が宿っている。深呼吸し、勇気を振り絞って口を開いた。

「ブレーメ名誉会長、私、エトラです。エイレーンさんの指示でここに来ました。萌実さんを…その、弄るように言われて…」

エトラは正直に、しかし少し声が震えながら告白した。

「でも、やりすぎました。萌実さん、ごめんなさい!」

その言葉に、萌実は目を丸くする。怒りで真っ赤だった顔が、ほんの少しだけ緩んだ。

「…は?急に何?謝られても…」

彼女は戸惑いながらも、エトラの真剣な表情に言葉を失う。アカリが慌てて間に入る。

「ほ、ほら!エトラちゃんも悪気はなかったんだよ、ね?萌実ちゃん、落ち着いて!」

だが、ベアトリクスの表情は変わらない。彼女は腕を組み、冷徹な視線でエトラを見据えた。

「エイレーンの指示、か。なるほどね。だが、ENTUMはそんな軽率な行動を許す場所じゃない。エトラ、貴様の所属は却下する」

「!」

エトラの肩が落ち、瞳に失望の色が浮かぶ。初任務での失敗が、彼女の心に重くのしかかった。しかし、ベアトリクスの言葉はそこで終わらなかった。

「――とはいえ、あなたの可能性は見逃せないわ。ENTUMの枠に収まらないなら、別の形で輝ける場所を用意してあげる。配信環境、設備、支援――私が整える。あなたの才能を無駄にはしない」

エトラは驚きに目を見開いた。

「ベアトリクスさん…ありがとう、ございます…!」

彼女の声には、感謝と新たな決意が滲んでいた。萌実はまだ不満げに唇を尖らせていたが、ベアトリクスの言葉に何かを感じたのか、黙って視線を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ENTUM本社のカフェスペース。陽光が差し込む窓際の席で、萌実とエトラは向かい合っていた。テーブルの上には、萌実が注文したベージュ色のマウンパを模したクッキーと、エトラが選んだ無難なアイスコーヒーが置かれている。二人とも、どこか気まずそうな空気を漂わせていた。

「…あのさ、エトラ、だっけ?」

萌実が先に口を開いた。彼女の声は、昨日までの怒りが消え、代わりにぎこちなさが滲んでいる。

「昨日は、なんか…悪かったね。パンチとか、やりすぎたかも」

エトラはカップを握る手に力を込め、目を伏せた。

「いや、私が悪かったよ。貧乳とか…そんなこと言うべきじゃなかった。ほんと、ごめん」

「うっ…その話、蒸し返さないでよ!」

萌実は顔を赤らめ、慌ててクッキーを手に取る。

「もういいって!水(みず)に流すから!」

「そ、そっか。ありがとう…」

エトラはほっと息をつき、初めて小さく微笑んだ。その笑顔は、まるで初対面のクラスメイトが初めて心を開いた瞬間のように、純粋で少しぎこちなかった。二人の会話は、まるで壊れ物を扱うように慎重だった。互いの距離感を測りながら、言葉を選び、探り合う。萌実はマウンパクッキーを齧りながら、ふと口を開く。

「でさ、エトラってほんとにアンドロイドなの?未来から来たとか、マジ?」

エトラはくすっと笑い、首を振った。

「いや、あれは…エイレーンさんの指示で、キャラ設定ってやつ。実は私、普通の人間だよ。未来とか、ただのノリだった」

「は!?何それ!めっちゃ騙されたじゃん!」

萌実は思わず笑い声を上げ、テーブルを軽く叩いた。

「やば、エイレーン。相変わらずぶっ飛んでるね」

「うん、エイレーンさん、ほんとすごいよね…」

エトラもつられて笑い、ふと萌実の瞳を見つめる。

「でも、こうやって話せてよかった。萌実、なんか…いい子だね」

「へ?急に何!?やめてよ、照れるじゃん!」

萌実は顔を赤らめ、クッキーを口に放り込んで誤魔化した。二人の会話はぎこちなかったが、少しずつ、まるで氷が溶けるように温かみを帯びていく。カフェの窓から差し込む光が、二人の間に新たな絆の兆しを照らし出していた。

その後、エトラはベアトリクスの支援を受け、独自の配信環境を整え、新たな一歩を踏み出した。萌実との関係も、初対面の衝突を経て、どこか不思議な友情へと変化していく。エイレーンの企みが、二人をどんな未来へ導くのか――それはまだ、誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ENTUM樺太支部のオフィスでは、エイレーンが満足げな笑みを浮かべていた。薄暗い部屋の中、彼女の目の前のモニターにはエトラの初任務の報告が映し出されている。萌実との衝突、そしてその後の和解――すべてがエイレーンの思惑通り、否、それ以上の結果を残していた。

「ふふっ、エトラさん、やってくれましたね!」

エイレーンはコーヒーカップを手に、くるりと椅子を回転させながら呟いた。

「いやはや、最高のエンターテインメント! 萌実のあの反応、想像以上のドラマだったわ!」彼女の声は、まるで舞台の演出家が成功を確信したかのような高揚感に満ちていた。樺太支部への左遷という逆境すら、彼女にとっては新たな舞台を切り開くチャンスでしかなかった。窓の外では、雪混じりの風が吹き荒れる樺太の荒野が広がっているが、エイレーンはその寒さをものともせず、熱い情熱を燃やしていた。「さて、次は何を仕掛けようかしら?」彼女はモニターに映るエトラの姿を見つめながら、企みの笑みを深めた。

 

 

 

 

 

一方、ロシアのブレヴェストニク空港。冷たいコンクリートの基地内に、ナターシャがモニターの前に座っていた。彼女はエイレーンのアシストとしてエトラのデビューに関わり、その後、元の配属先であるこの僻地の空港へと戻っていた。軍服の襟を正し、厳格な雰囲気を漂わせながらも、彼女の瞳はモニターに映るエトラの配信映像に釘付けだった。

「ふむ…このエトラという子、なかなか面白い動きをするな」

ナターシャは低い声で呟き、軍用ブーツを机に投げ出したまま、画面に映るエトラの軽快なトークを眺めていた。彼女の手元には、冷めかけたロシアンティーと、任務の合間に食べる黒パンが置かれている。ナターシャは、エイレーンからの依頼でエトラの初期設定や配信環境の準備に協力した一人だった。戦闘機の整備や厳しい訓練の合間に、VTuberという未知の存在に触れたことは、彼女にとって新鮮な息抜きだったのかもしれない。

「未来から来たアンドロイド、か。エイレーンのふざけたアイデアにしては、悪くない」

ナターシャは小さく笑い、モニターに映るエトラが萌実とのぎこちな和解を語るシーンを見つめた。

「この子なら、もっと大きな舞台で輝けるかもしれないな」

彼女の視線は、まるで遠くの戦友を見守るように温かかった。ブレヴェストニクの凍てつく風が窓を叩く中、ナターシャはエトラの未来に思いを馳せ、静かにティーを啜った。

 

 

5年後、エトラがあおぎり高校に加入した事は別の話である。




実際の萌実とエトラのファーストコンタクトはZガンダムのカミーユとジェリドのファーストコンタクトとは全く違います。
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