ENTUM23   作:マブラマ

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第116話 チーズ革命

樺太の空は、雪混じりの風が冷たく吹きすさぶ。ENTUM樺太支部のオフィスで、支部長のエイレーンは、モニターに映る企画書を前に不敵な笑みを浮かべていた。彼女の手元には、ドミノ・ピザのロゴが輝く資料と、熱々のコーヒーが置かれている。左遷されたはずのこの地で、彼女の情熱はむしろ燃え上がっていた。

「ふふっ、これぞ私の真骨頂!」

エイレーンはキーボードを叩きながら、ビデオ会議の画面越しにENTUM本社のベアトリクスへと語りかける。

「ミライアカリさんに、こんな企画はどうでしょう? 『【ASMR】アカリと一緒に1kgチーズピザ食べよ?【ヘッドホン推奨】』!視聴者の耳をトロトロのチーズとアカリちゃんの声で魅了する、完璧なASMR企画です!」

画面の向こうで、ベアトリクスは腕を組み、眉をひそめる。

《…エイレーン、貴様の奇抜なアイデアは嫌いじゃないが、ASMRで1kgのピザ? 現実的じゃない。却下だ》

「ちょっと待って、ベアトリクスさん!」

エイレーンは身を乗り出し、目を輝かせる。

「これはただの企画じゃありません!ドミノ・ピザ ジャパンとのコラボです! そう、#ドミノチーズチャレンジ! ニューヨーカー1キロウルトラチーズを高く伸ばしてSNSに投稿するキャンペーン付き! 総額100万円の賞金とe-ギフトカードのプレゼントまでついてる、超ビッグな企画なんです!」

ベアトリクスは一瞬、目を細める。彼女の鋭い視線が、エイレーンの企みを値踏みするようだった。

《…ドミノ・ピザのコラボ、か。―――詳細を聞かせなさい》

エイレーンは満面の笑みで企画書を画面に映し出す。

「概要欄はこう! 『#ドミノチーズチャレンジ 提供:株式会社ドミノ・ピザ ジャパン。ついにあの1kgチーズピザが復活! 今回はトッピング付きで味の変化も楽しめるって!?』――で、ニューヨーカー1キロウルトラチーズを高く伸ばした写真をSNSに投稿、ドミノの公式アカウントをフォローすれば、選ばれた20名に100万円を山分け、さらに抽選で20名にe-ギフトカード1万円分をプレゼント! 締め切りは10月3日、発表は10月4日。どうでしょう、完璧ですよね?」

ベアトリクスはしばし沈黙した後、口元に微かな笑みを浮かべた。

《…ふん。悪くない。ミライアカリの声とチーズのビジュアルなら、視聴者を引き込むだろう。許可する。ただし、エイレーン、失敗は許されないわよ》

「任せてください!」

エイレーンはガッツポーズを決め、画面越しに敬礼する。

「アカリちゃんのASMRで、VTuber界にチーズ革命を起こしてみせます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、企画は順調に進み、ミライアカリの『【ASMR】アカリと一緒に1kgチーズピザ食べよ?【ヘッドホン推奨】』動画が準備された。エイレーンは樺太支部のオフィスで、配信準備を終えた後、なぜか自分も1キロチーズピザを頬張っていた。デスクには、チーズがトロリと伸びるニューヨーカー1キロウルトラチーズが鎮座し、彼女は満足げに呟く。「うん、これぞチーズの極み!アカリちゃんのASMR、絶対バズりますよ…!」

エイレーンはピザを手に、モニターに映るアカリの笑顔を見ながら、ひとり勝利の味を噛みしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、萌実の自宅では、まったく異なる空気が流れていた。リビングのテーブルには、ドミノ・ピザの箱が開けられ、1キロチーズピザの濃厚な香りが部屋を満たしている。萌実とエトラはソファに並び、ノートパソコンでミライアカリのASMR動画を視聴していた。

「うわっ、アカリちゃんの声、めっちゃ癒される…!」

萌実はピザをちぎりながら、目を輝かせる。チーズが長く伸び、彼女は思わず笑顔になる。

「ねえ、エトラ、この#ドミノチーズチャレンジ、やってみない? めっちゃ楽しそう!」エトラはピザを豪快にかじり、口の周りにチーズをつけたまま頷く。

「おお、いいね!私、チーズめっちゃ伸ばして、100万円の山分け狙っちゃうよ!」

彼女はスマホを手に取り、さっそくピザを高く持ち上げるポーズを試みる。

「ほら、萌実、写真撮って! これ、TikTokでバズるかも!」

「ちょっと、チーズ垂れてるよ!」

萌実は笑いながらスマホを構え、エトラのコミカルなポーズを撮影する。

「萌実も負けないんだから!マウンパ持って、超可愛く撮るよ!」

二人はピザを手に笑い合い、ミライアカリのASMR動画をBGMに、まるで姉妹のような和気あいあいとした時間を過ごしていた。画面越しのアカリの声が、チーズのトロける音と混ざり合い、部屋に温かな雰囲気を織りなす。

「ねえ、エトラ」

萌実がふと真剣な顔で言う。

「12月11日の生放送、絶対成功させようね。萌実、こうやってエトラと一緒にいるの、ほんと楽しいよ」

エトラはニッコリ笑い、ピザを掲げる。

「もちろんだよ、萌実!私たちの初陣、チーズみたいにトロけるような配信にしよう!」

 

 

 

エイレーンの仕掛けた#ドミノチーズチャレンジは、ミライアカリのASMR動画を通じて、VTuber界に新たな旋風を巻き起こそうとしていた。萌実とエトラの笑顔、ベアトリクスの静かな期待、そして遠く樺太でピザを頬張るエイレーンの情熱――すべてが、12月11日の生放送へと繋がる一歩となっていた。このチーズの夜は、彼女たちの物語に新たな彩りを加え、さらなる波乱と笑顔を予感させていた――。

 

 

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