ENTUM23   作:マブラマ

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第117話 炎上の火種

横浜のチーズ騒動から一夜明けた9月8日、エトラは自宅の小さな配信部屋に籠っていた。部屋には簡素なデスクとカメラ、そして彼女の愛車を模した赤と黒のミニカーが飾られている。エトラはキーボードを叩きながら、どこか緊張した面持ちでモニターを見つめていた。彼女の手元には、台本らしきメモと、ギルザレンⅢ世からの謎めいた指示が書かれたメールが開かれている。

「よし…やるしかないよね」

エトラは深呼吸し、カメラの録画ボタンを押した。彼女の瞳には、いつもより鋭い光が宿っていた。

「どうも、未来から来たアンドロイド、エトラだよ!今日はちょっと過激なトークしちゃうよ!アニメ『サークレット・プリンセス』の評価、ぶっちゃけボロクソに言っちゃう!」

配信は瞬く間に波紋を広げた。エトラはアニメのストーリー、キャラデザ、さらには円盤の売上枚数を容赦なく批判。彼女の言葉は鋭く、まるで炎を投じるかのように過激だった。

「正直、円盤の売上?3000枚もいってないんじゃない?こんなんじゃ二期なんて夢のまた夢だよ!」

彼女の声は、挑発的な笑みを帯びて響く。動画は投稿後、SNSで爆発的に拡散された。#サークレットプリンセス炎上 のハッシュタグがトレンド入りし、ファンの怒りと擁護の声が交錯する。エトラの名前は一夜にしてVTuber界の話題の中心に躍り出た――ただし、炎上の火種として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、にじさんじのスタジオでは、ギルザレンⅢ世が豪奢な椅子にふんぞり返り、モニターに映る炎上騒動を眺めていた。齢4000年のヴァンパイアの瞳は、まるで悪戯を成功させた子供のようにはしゃいでいた。手元のトマトジュースを一口飲み、彼は低く笑う。

「ふはは!エトラ、よくやった!この炎上は完璧だ!」

ギルザレンは手を叩き、スタジオに響く哄笑を抑えきれない。

「サークレット・プリンセスの炎上で、彼女の知名度は一気に跳ね上がる。VTuberの世界は、炎上もエンターテインメントの一部よ!」

黛灰が隣で渋い顔をする。

「閣下…これ、さすがにやりすぎじゃありませんか?エトラが叩かれてるし、なぜかエイレーンさんが首謀者扱いされてますよ」

「ふん、それが狙いだ!」

ギルザレンは不敵に微笑む。

「エイレーンを濡れ衣で追い詰め、ENTUMの反応を見る。これもまた、俺の4000年にわたる戦略の一環だよ、黛!」

アルス・アルマルが首を振る。

「でも、閣下、エイレーンさん、めっちゃ可哀想なんですけど…」

「細かいことは気にするな!」

ギルザレンはグラスを掲げ、トマトジュースを一気に飲み干す。

「この騒動は、エトラの初陣を飾る最高の舞台だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ENTUM樺太支部では、エイレーンがモニターに映る炎上騒動を呆然と見つめていた。SNSには「エイレーンがエトラに炎上商法を指示した」「ENTUMの策略だ」といった声が溢れ、彼女の名前が非難の的となっていた。デスクには、昨日食べ残した1キロチーズピザの箱が寂しく転がっている。

「な、なんで私が!?」

エイレーンは頭を抱え、叫ぶ。

「エトラさんの動画、私、何も知らないのに!これ、絶対誰かの仕業ですよ!」

彼女のスマホには、ベアトリクスからの着信が鳴り響く。画面に映る「名誉会長」の文字に、エイレーンはゴクリと唾を飲み込む。

「…やばい、ベアトリクスさんに怒られる…!」

ビデオ会議が始まると、ベアトリクスの冷ややかな声が響いた。

《エイレーン、説明してもらおうか。なぜエトラがこんな炎上動画を? 貴様のプロデュースの結果か?》

「ち、違います!私、関係ないんです!」

エイレーンは必死に弁解する。

「誰かがエトラを操ってるんです!私、濡れ衣です!」

ベアトリクスの瞳が鋭く光る。

《…ふん。なら、潔白を証明してみせなさい。ENTUMの名誉がかかっている》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、エイレーンは猛烈な勢いで調査に乗り出した。彼女はエトラとの通話記録、ギルザレンⅢ世のメールの痕跡、そしてSNSの裏アカウントの動きを徹底的に洗い出す。ついに、ギルザレンの工作を示す証拠――彼の指示を記した暗号化されたメールをハッキングによって入手した。ビデオ会議で、エイレーンはベアトリクスとアイリスディーナの前に立ち、証拠を突きつける。

「これ!ギルザレンⅢ世がエトラに炎上商法を指示した証拠です!私は無実です!」

アイリスディーナは証拠を一瞥し、微笑む。

《ふむ、よくやった、エイレーン。ギルザレンの策略にしては、少々雑だったよだな》

ベアトリクスは腕を組み、静かに頷く。

《…いいだろう。エイレーン、貴様の潔白は認めよう。ただし、この騒動を収束させるのは貴様の責任だ。エトラと萌実の12月11日の生放送で、視聴者の信頼を取り戻せ》

「了解です!」

エイレーンは敬礼し、瞳に新たな決意を宿す。

「エトラと萌実の初陣、絶対成功させて、ギルザレンに一泡吹かせてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、萌実の自宅では、エトラが申し訳なさそうにソファに座っていた。テーブルには、#ドミノチーズチャレンジのピザの残りが置かれ、テレビでは炎上騒動のニュースが流れている。

「萌実…ごめん。私、ギルザレンさんに乗せられて、こんな大事になっちゃって…」

エトラはうなだれ、声をかすれさせる。萌実はマウンパのキーホルダーを握りながら、優しく笑う。

「いいよ、エトラ。萌実も、最初はびっくりしたけど…これ、チャンスだよね。12月11日の生放送で、みんなをびっくりさせるような配信にしよう!」

エトラは顔を上げ、目を輝かせる。

「…うん!萌実と一緒なら、炎上だって笑顔に変えられるよ!」

二人の絆は、炎上の余波を乗り越え、さらに強くなっていた。12月11日の生放送は、彼女たちの真価を試す舞台となるだろう。そして、遠くで哄笑するギルザレンⅢ世と、樺太で闘志を燃やすエイレーンの思惑が、さらなる波乱を予感させていた――。

 

 

一方、その頃―――にじさんじのスタジオは、夜の帳が下りた後も妖しい輝きを放っていた。薄暗い部屋の中央で、齢4000年のヴァンパイアにしてギルザレン家の現当主、ギルザレンⅢ世が、豪奢な椅子にふんぞり返っていた。モニターには、エトラの炎上動画が引き起こしたSNSの嵐が映し出され、#サークレットプリンセス炎上のハッシュタグがトレンドを席巻している。彼の高めでコミカルな声が、スタジオに響き渡る。

「ふはは!いやはや、素晴らしいカオスだ!」

ギルザレンはトマトジュースの入ったワイングラスを手に、満足げに笑う。

「エトラの炎上、完璧に機能したな!ENTUMは慌てふためき、エイレーンは濡れ衣で右往左往。視聴者の目は一気に彼女たちに集まった!」

黛灰が隣で渋い顔をする。

「閣下、エイレーンさんが潔白を証明したみたいですけど…。このままじゃ、にじさんじが裏で糸を引いてたってバレるんじゃ…」

「ふん、バレたところで何だというのだ?」

ギルザレンはグラスを軽く振り、ニヤリと笑う。

「VTuberの世界は、炎も波乱もすべてエンターテインメントのスパイスよ。エトラの知名度は上がり、ENTUMの動揺は我々に次の隙を与える。完璧な一手だ!」

アルス・アルマルがソファに寝転がりながら、スマホを弄りつつ口を挟む。

「でもさ、閣下。ういはちゃん、ベアトリクスのGRスープラの洗車でこき使われてるらしいよ? かわいそー」

「ハハハ!それもまた一興!」

ギルザレンは手を叩き、哄笑する。

「相羽ういはの軽率さが、ベアトリクスの怒りを買うなんて、まるで舞台劇の喜劇だ!彼女の汗と涙は、次なるドラマの前振りよ!」

彼は立ち上がり、モニターに映るエトラと萌実の#ドミノチーズチャレンジの投稿を眺める。

「さて、次なる一手だ」

ギルザレンの瞳が、まるで夜の闇を切り裂くように鋭く光る。

「エトラと萌実の12月11日の生放送…あれをただの成功で終わらせてたまるか。もっと大きな波乱を、もっと鮮烈な物語を仕掛けてやる!」

黛が怪訝な顔で尋ねる。

「閣下、次は何を企んでるんです? またエトラに何かやらせたり?」

ギルザレンは不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりとグラスを傾ける。

「ふふ、細かいことはまだ秘密だよ、黛。だが、こう考えてみろ。ENTUMの生放送に、にじさんじの“何か”が絡めば、どうなる? 視聴者は目を離せなくなるだろう?」

アルスがスマホから顔を上げ、興味津々に身を乗り出す。

「おお、なんか面白そう!たとえば、ぶるーずがサプライズで乱入とか?」

「その発想、嫌いじゃないな!」

ギルザレンは指を鳴らし、目を輝かせる。

「だが、もっと大胆に、もっと予想外にだ!エトラと萌実の絆を試し、ENTUMの底力を暴き、視聴者を熱狂の渦に巻き込む――そんな計画をな!」

スタジオの空気が一瞬、緊張に包まれる。ギルザレンの言葉には、4000年の時を生き抜いたヴァンパイアの狡猾さと、VTuber界の覇者としての野心が滲み出ていた。

「―――準備を進めろ、黛、アルス」

ギルザレンは椅子に腰を下ろし、モニターに映る炎上の残り火を見つめる。

「12月11日は、ただの生放送じゃない。VTuber界の歴史に刻まれる一夜になるぞ!」

ギルザレンⅢ世の哄笑がスタジオに響く中、遠く横浜では相羽ういはがベアトリクスのGRスープラを磨き続け、樺太ではエイレーンが新たな企画に燃え、萌実とエトラは生放送に向けて絆を深めていた。だが、誰もが知らなかった。にじさんじのヴァンパイアが仕掛ける次の策略が、12月11日の舞台をさらなるカオスへと導こうとしていることを。物語は、炎の余韻を残しながら、さらなる高みへと加速していく――。

 

 

 

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