2019年9月15日、エトラは自宅の配信部屋で、ノートパソコンに映る古い動画を呆然と見つめていた。画面には、2017年6月23日の出来事が映し出されている――エイレーン軍団とばあちゃる軍団の草野球試合の当日、萌実の自宅で撮影されたベノちゃんの悪戯動画だ。エトラの手はキーボードの上で止まり、彼女の瞳には怒りと驚愕が交錯していた。
「何…これ…?」
エトラは呟き、画面に映るベノちゃんの無邪気な笑顔に、思わず拳を握りしめる。2017年当時の彼女は、まだただのバスガイドとして平和に働いており、VTuberの「エトラ」としてデビューする前のこと。萌実との出会いもまだ遠い過去の話だ。それでも、動画の中で繰り広げられるベノちゃんの悪戯と、萌実の悲痛な叫びは、エトラの心を強く揺さぶった。
「ベノちゃん…こんなことしてたの? 萌実が…可哀想すぎる…!」
エトラは怒りを抑えきれず、しかしどこか呆然としたまま、動画を最後まで見続けた。
時は遡り、2017年6月23日。エイレーン軍団とばあちゃる軍団の草野球試合を控えた朝、萌実の自宅は賑やかな空気に包まれていた。リビングには、エイレーンとベノちゃんが待機し、萌実は着替えるために部屋を出たり入ったりしている。ベノちゃんはカメラを手に、軽快な口調で話し始めた。
「えー、今日はエイレーン軍団vsばあちゃる軍団の草野球試合に行ってきまーす!」
萌実はマウンパのキーホルダーを手に、目を輝かせながら応じる。
「絶対勝ってやるから!見ていてね旦那様♪」
エイレーンが、どこか遠い目で呟く。
「余談ですが、今日は電脳少女シロちゃんがデビューする日ですよ」
「着替えてくるね」
萌実はエイレーンの言葉をスルーし、部屋を出ていく。
「スルーですか…」
エイレーンは肩をすくめ、ため息をつく。萌実が部屋を出た瞬間、ベノちゃんの瞳に悪戯な光が宿る。
「萌実ちゃんの部屋にいてます。―――ここで萌実ちゃんが動画編集していまーす。Windows 10搭載のデスクトップパソコンがありまーす―――萌実ちゃんのベッドです。―――ん?これは、萌実ちゃんがよく使ってるGalaxy Tab S2だね」
エイレーンが怪訝な顔でベノちゃんを見る。
「またやるのですか?やめた方が…」
「エボラちゃんにデート断られた腹いせだ。萌実ちゃんのパズドラを弄ろうっと♪」
ベノちゃんはニヤリと笑い、Galaxy Tab S2を手に取る。
「…私は知りませんよ」
エイレーンは目を逸らし、責任逃れの姿勢を崩さない。ベノちゃんはカメラを自分の顔に向け、悪戯っぽくウィンクする。
「どうも、みんなこんにちはベノちゃんです!最近、萌実がYouTubeで調子乗ってるから、これから萌実を懲らしめようと思いまーす」
「ベノちゃん、やめましょうよ」
エイレーンが弱々しく制止するが、ベノちゃんのテンションは止まらない。
「お、ランク100までいってるじゃん!―――ふむふむ」
ベノちゃんはパズドラの画面を操作し、楽しげに続ける。
「どれもこれもレベル最大だね。よし、ホノりんを強化して強化モンスターを売却売却~♪そして合成♪」
「はぁ、どうなってもしりませんよ」
エイレーンは諦めたようにため息をつく。
「ほれほれ、どんどん強くなれ~」
ベノちゃんは悪戯を重ね、カメラに向かって笑う。
「野球から帰ってきたら気付くだろうね…ぷぷぷ…このキズナアイの本とか燃やしたからいけないんだよ…」
「それはベノちゃんが燃やしたんですよね?本当に知りませんよ」
エイレーンは念を押す。
「そんな悪いことしないで楽しいYouTubeやろうぜ」ベノちゃんは無邪気に笑い、カメラを振る。
「だからあなたがやったんですよね?」
エイレーンは半ば呆れ顔で繰り返す。
「じゃ、野球行ってきまーす♪」
ベノちゃんはカメラを切り、意気揚々と部屋を出ていく。数分後、萌実が野球ユニフォームに着替えて戻ってきた。
「お待たせ!行こうか」
「うん!♪」
ベノちゃんは無垢な笑顔で応じ、エイレーンも立ち上がる。
「さあ、ばあちゃるさんが待っていますよ」
エイレーンはそう言い、3人は草野球試合の会場へと向かった。
草野球試合から帰宅した萌実は、疲れ果てた体をベッドに投げ出し、Galaxy Tab S2を手に取った。パズドラを起動し、いつものようにモンスターをチェックしようとしたその瞬間――彼女の表情が凍りつく。
「ん~?」
萌実は画面を見つめ、違和感に眉をひそめる。彼女がコツコツ育て上げ、苦労して入手したモンスターが、ことごとく売却され、合成されている。ホノりんも、他の大切なモンスターも、跡形もなく消えていた。
「…え?何?何!?」
萌実の声が震え、瞳に涙が滲む。彼女は慌ててGalaxy S7を手に取り、エイレーンに電話をかける。
「エイレーン。お疲れ様…ごめんね、ちょっと聞きたい事あってね―――うん。単刀直入に言うけど。パズドラ触ってない? ……そう、あいつがやったの。ベノちゃんがやったんだね。……わかった。」
電話を切った瞬間、萌実の感情が爆発した。彼女の顔は怒りと悲しみで真っ赤に染まり、ベッドの上で叫び声を上げる。
「ふざけんなぁぁぁ!!! ああぁもう!! あーもう!! 何でなのよ…萌実、何も悪い事してないのに……うぅ…これで二回目だよ……もう……うぅ…エイレーンの…エイレーンの馬鹿あああああああああ!!!うぅぅぅ…あああああああああああああん!!…ぐすん…うあああああああああああ!!!」
萌実の悲痛な叫びが部屋に響き、涙が床にぽたぽたと落ちる。彼女の心は、裏切られた怒りと喪失感でズタズタだった。ベッドに突っ伏し、嗚咽を漏らす萌実の姿は、まるで大切なものを奪われた少女のようだった。
2019年9月15日、エトラは動画を最後まで見終え、深いため息をついた。
「萌実…こんな目にあってたんだ…」
彼女の声には、怒りと同情が混じっていた。
「ベノちゃん、なんでこんな酷いこと…! しかもエイレーンさん、知ってて止めなかったなんて…!」
エトラはスマホを手に取り、萌実にメッセージを送る。
「萌実、2017年の動画見たよ…。大丈夫? あの時のこと、話したいならいつでも聞いてあげるから」
数分後、萌実からの返信が届く。
「…エトラ、ありがとう。あの時はほんとキツかったけど、今はもう過去のことだよ。12月11日の生放送、絶対一緒に盛り上げようね!」
エトラは画面を見つめ、微笑む。
「うん、萌実。過去のことは過去。私たち、未来を最高にしよ!」
彼女の瞳には、萌実との絆をさらに深める決意が宿っていた。
ベノちゃんの悪戯と萌実の悲劇は、2017年の過去を彩る一幕だった。だが、2019年の今、エトラと萌実はその傷を乗り越え、12月11日の生放送に向けて新たな一歩を踏み出そうとしている。一方、にじさんじのギルザレンⅢ世は、次の策略を企み、ENTUMのエイレーンは炎上の余波を収束させようと奔走する。VTuber界の舞台は、過去と未来が交錯しながら、さらなるドラマへと突き進んでいた――。