ENTUM23   作:マブラマ

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第119話 キズナアイの本燃やしてみた

2019年9月16日、エトラの自宅は静寂に包まれていた。配信部屋のデスクには、赤と黒のミニカーが飾られ、モニターの光が彼女の顔を青白く照らす。エトラは、ベノちゃんのYouTubeチャンネルを偶然見つけ、過去の動画を漁りまくっていた。画面には、炎上ネタのサムネイルがずらりと並び、時折他のVTuberと変わらない日常的な配信動画が混じる。その中でも、ひとつのサムネイルが彼女の目を奪った。

「『キズナアイの本燃やしてみた』…!? 何これ、めっちゃやばいじゃん…!」

エトラは目を丸くし、思わず呟く。彼女の指が震えながらマウスをクリックすると、2017年の動画が再生され始めた。2017年当時のエトラは、まだバスガイドとして平和に働く普通の女性で、VTuber界隈とは無縁だった。ましてや、にじさんじのギルザレンⅢ世がデビューする(2018年3月)前の話だ。当然、この動画の背後に潜む策略など、彼女には知る由もなかった。画面に映るベノちゃんは、無邪気な笑顔でカメラに語りかける。

《はい、皆さんこんにちはベノちゃんです!えー、買ってきました。―――『私の仕事はバーチャルYouTuber』。VTuberの中で日本一登録者数が多いのに何故かつまらないキズナアイちゃんの、初めての著書です!これをレビューしていきたいと思いまーす♪まず、この本…キズナアイ氏の文章力が乏しいため、稚拙な文章で構成されています。その為ですね、稚拙な文章をカバーする為大事なところを大きくするっていう手法で、書かれてます。ブログの内容を書籍化した本みたいなモンあるけど、その為、この本は非常に読みにくい。私は読んでる時、非常に苦痛だったな。今日はね、みんなにこの苦痛を味合わせたら可哀想なので。私がこの本を全て要約するよ。ちょっと長くなるけど付き合ってね♪》

「…え、なにこれ?」

エトラは画面に釘付けになり、呆然と呟く。

「キズナアイさんの本を…こんなボロクソに言うなんて…!ベノちゃん、ほんと何考えてんの!?」

動画は、ベノちゃんがキズナアイの著書『私の仕事はバーチャルYouTuber』を章ごとに要約し、辛辣に批判する内容だった。

 

第一章 VTuberとの出会い

 

《YouTubeのアカウントの作り方が分からないよ~。自己紹介動画を投稿したら凄い再生数が伸びてYouTubeパートナーシップから誘われちゃった♪―――で終わりです。……は?》

ベノちゃんはカメラに首を振ってみせる。

「いや、こんな薄っぺらい内容で一章って…!マジで!?」

エトラは画面に向かって突っ込み、眉をひそめる。

 

第二章 日本一のVTuberになるまで

 

《人気のYouTubeチャンネルを研究しました!歌ってみたを始めました!日本一のバーチャルYouTuberになりました!耳かきASMRやりました!エミネムさんと共演しましたー!♪……は?》

ベノちゃんの声には、明らかな皮肉が滲む。

「うわ、めっちゃ雑にまとめてる…!キズナアイさんの努力、こんな風に言わないでよ!」

エトラは拳を握り、苛立ちを抑えきれない。

 

第三章 愛の絆はウソじゃない

 

《YouTubeはこんな感じでーす♪YouTubeで動画投稿するとお金貰えまーす。カメラの技術はいらないよ。動画編集は無料で配布してるソフト使うだけでOK♪………うん》

ベノちゃんの軽い口調に、エトラはさらにイラつく。

「うん、じゃないよ!キズナアイさんがどれだけ頑張ったか、ちゃんと伝えなさいよ!」

 

第四章 経験から得たバーチャル秘話

 

《毎日動画を投稿しよう!♪祭りに便乗しよう!♪ASMRで視聴者の脳を蕩けさせよう!♪……うん》

エトラは頷きながら呟く。

「うん、キズナアイさんもASMRやってたんだ…。でも、ベノちゃんの言い方、なんかムカつくんだよね…」

 

第五章 一つの成功の影に落とし穴

 

《ガイドラインは必ず守ろう!パスワードとIDは他の人に絶対言っちゃダメだよ♪…みんな知ってるから。この章で唯一面白い事が書かれてたよ。それはエロ配信だね……私はエロ配信は絶対にしません!何故なら私の動画を見てくれてるファンの方々に裏切りたくないからです。時々、企業様から『キズナアイさんのASMR動画でエロティックで甘い声を出してください』って言うのが沢山来てるけど、私は内容によって、気に入った企画しか受け入れません!♪…お前してるだろ…いやいやいや絶対にしてるね》

ベノちゃんの挑発的な笑いに、エトラは思わず声を上げる。

「は!?エロ配信とか勝手に決めつけないで!キズナアイさん、そんなんじゃないよ!ベノちゃん、ほんと最低!」

 

第六章 キズナアイ誕生秘話

 

《昔はニコニコ動画上ではアーカイブ配信にて活動していました。YouTubeで活動の場を移した後、ファンが増えていって…え~と、好きな事でお金稼げるYouTubeって最高!♪これ全部合わせて7ページだね。章立てする意味あるの?》

ベノちゃんの軽薄な口調に、エトラは頭を抱える。

「7ページで一章!?ってか、キズナアイさんの歴史をそんな雑に扱うなんて、ありえないんだけど!」

 

第七章 未来に向けてキズナアイはバージョンアップへ

 

《これは六章と殆ど同じで、ページ数もなく内容も薄っぺらいね。そんな中で全七章立てで…ページ数が170ページ。952円!と言う事でね…まぁ、総括するとね…完全に才能もない――面白くもない。VTuber最初期で偶々早くて偶々成功した偶々運で成功した彼女はどや顔で『私って凄いでしょ?』って叶ってるよ。これはね…逆に凄いよ!本としての価値は…こんなモノはね塵紙にもならないよ。ハッキリ言ってね952円の価値はなかったよ。因みに私はキズナアイ本人に偶然会った事あるよ。私はね彼女の事は最初嫌な奴だなと思ったけど、ファン思いで優しいバーチャルYouTuberだよ。と言う事でね……Todays benochansPoint!―――-500点!わー、パチパチパチ。と言うわけでベノちゃんのキズナアイ本レビューでした♪バーイ》

エトラは画面を食い入るように見つめ、息を呑む。

「-500点!?何それ、ふざけてるの!?キズナアイさんの本をそんな風に…!ベノちゃん、ほんと信じられない!」

画面が切り替わると、事態はさらに悪化する。ベノちゃんが燃え盛るキズナアイの著書を片手で持ち、ドヤ顔で歌い始めた。

《登録♪登録♪登録♪登録♪登録♪登録♪登録〜♪》

炎が本を舐める映像に、エトラは思わず叫ぶ。

「え、燃やした!?マジで!?本燃やすって何!?ベノちゃん、頭おかしいんじゃないの!?」

動画が終わると、エトラは呆然とモニターを見つめた。

「…これ、2017年の草野球試合の数日前って…。萌実がパズドラで泣いたのと、同じ時期か…。ベノちゃん、ほんと何やってんの…?」

彼女の心は、怒りと悲しみ、そして萌実への同情で揺れ動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日、萌実は自宅のリビングでエトラと向き合っていた。テーブルには、#ドミノチーズチャレンジのピザの残りが置かれ、テレビにはミライアカリのASMR動画が流れている。エトラが手に持つスマホには、ベノちゃんの炎上動画のスクリーンショットが映し出されている。

「萌実…これ、見た?」

エトラは慎重に切り出し、スマホを差し出す。

「ベノちゃんの『キズナアイの本燃やしてみた』動画…。2017年の、草野球試合の少し前だって」

萌実は画面を見て、表情が一瞬固まる。彼女はゆっくりとマウンパのキーホルダーを握りしめ、静かに呟く。

「…うん。実は、薄々気づいてたんだ。あの頃、ベノちゃんが私の部屋で何かやってるなって…。パズドラのデータ消された時も、なんか変な雰囲気だったし。でも、動画が投稿されてたなんて…知らなかった」

エトラは目を丸くする。

「え、気づいてたの!?でも、動画までは…?」

「うん…」

萌実は目を伏せ、苦笑する。

「ベノちゃん、いつもああやって目立とうとしてたからさ。キズナアイさんの本燃やしたなんて、さすがに引くけど…。あの時は、私のパズドラのこともあって、頭真っ白で…。投稿された動画までは追えてなかったんだよね」

エトラは拳を握り、憤りを抑えきれず声を上げる。

「でも、萌実!これ、ひどすぎるよ!キズナアイさんの本燃やすなんて、ありえない!しかも、萌実のパズドラも…ベノちゃん、なんでこんな酷いことするの!?」

萌実は小さく笑い、肩をすくめる。

「…あの頃のベノちゃん、なんか必死だったんだよね。YouTubeで目立とうとして、炎上ネタに走っちゃったのかも。結局、あの動画が問題になって、ベノちゃんのチャンネルは一時BANされたんだよ」

エトラは驚きに目を瞬かせる。

「BAN!?マジで!?」

「うん。でも、ENTUM設立直後にアカウント復活したみたい。で、問題の動画は削除されたんだけど…無断転載されて、今もネットのどこかにあるんだよね」

萌実はため息をつき、目を細める。

「あの時のこと、思い出すとまだちょっとムカつくけど…。今はもう、過去のことだよ」エトラは萌実の落ち着いた口調に、少しホッとした表情を見せる。

「萌実、強いね…。私、こんな動画見たら、頭爆発しそうだったよ。でも、萌実がそうやって前に進んでるなら、私も負けてられない!」

萌実はニコリと笑い、マウンパのキーホルダーを掲げる。

「うん、エトラ。12月11日の生放送、ベノちゃんの炎上なんかに負けない、めっちゃ楽しい配信にしよう!」

「絶対だよ!」

エトラは拳を突き上げ、目を輝かせる。

「ベノちゃんの過去の悪戯なんて、私たちの絆で吹き飛ばしてやる!未来のアンドロイドとマウンパのコンビ、最高の舞台作るよ!」

二人は笑い合い、テーブルに残ったピザを分け合う。過去の傷を乗り越え、12月11日の生放送に向けて、彼女たちの絆はさらに強くなっていた。

 

 

 

ベノちゃんの炎上動画は、2017年のVTuber界に一瞬の波紋を広げ、彼女のチャンネルをBANへと追いやった。しかし、ENTUMの設立とともに復活したその影は、今も無断転載としてネットの闇に潜んでいる。エトラと萌実は、過去の悪戯を知りながらも、未来を見据えて歩みを進めていた。一方、にじさんじのスタジオでは、ギルザレンⅢ世が次の策略を企み、樺太のエイレーンは炎上の余波を収束させようと奔走する。12月11日の生放送は、単なる初陣ではなく、過去と未来が交錯するVTuber界の新たな戦場となるだろう。物語は、炎の残響を背に、さらに加速していく――。

 

 

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