ENTUM23   作:マブラマ

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第121話 新たな炎上劇

2019年9月18日、エトラの自宅の配信部屋は、モニターの青白い光に照らされていた。デスクには赤と黒のミニカーと、#ドミノチーズチャレンジのピザの空き箱が残っている。エトラは、ベノちゃんのYouTubeチャンネルを再び開き、最新動画のサムネイルに目を奪われた。タイトルは『【喜劇】世界中に愛されるバーチャルYouTuberのつくり方』。サムネイルには、チャールズ・チャップリンを彷彿とさせるチョビ髭を付けたベノちゃんが、キズナアイの著書第二作を手に不敵に微笑む姿が映っている。

「またベノちゃん…何企んでるの?」

エトラは眉をひそめ、警戒しながらも再生ボタンをクリックした。彼女の心には、昨日視聴した『キズナアイの本燃やしてみた』の衝撃がまだ残っていた。

「まさか、また燃やす気…?いや、まさかね…」

動画が始まると、画面は1910年代~1920年代のサイレント映画を思わせるモノクロ調に切り替わる。BGMには、軽快でどこか懐かしい『The Entertainer』が流れ、ベノちゃんが登場。彼女はチャップリンのトレードマークであるチョビ髭を付け、黒いボウラーハットとステッキを手に、コミカルに動き回る。

「はい、皆さんこんにちは!ベノちゃんです!♪ 今日は、キズナアイちゃんの新作、『世界中に愛されるバーチャルYouTuberのつくり方』を、ベノちゃん流にレビューするよ!」

彼女はカメラに向かってウインクし、サイレント映画風の字幕カードが画面にポップアップする。

「準備はいい? さあ、ショーの始まりだ!」

ベノちゃんは古めかしい木製のテーブルに腰掛け、キズナアイの著書を手にコーヒーを啜り、パンをかじる。彼女の動きは大げさで、まるでチャップリンの喜劇を演じるようにコミカルだ。

「ふむふむ、この本ね、キズナアイちゃんが『どうやって世界中に愛されるVTuberになったか』を熱く語ってるけど…ふふ、ベノちゃん的には、ちょっと物足りないかな?」

エトラは画面を見つめ、呟く。

「何これ…?サイレント映画パロディ?ベノちゃん、ほんとぶっ飛んでるな…。でも、このノリ、嫌いじゃないかも…?」

彼女の声には、警戒と好奇心が混じっていた。ベノちゃんは本をパラパラめくり、字幕カードで章ごとの内容を要約する。

「第一章:世界に羽ばたくには、個性が大事! 第二章:ファンの心を掴むには、愛と情熱! ふんふん、なるほどね~♪」

彼女は大げさに頷き、コーヒーカップを落とすふりをして視聴者を笑わせる。だが、動画の終盤、雰囲気が一変する。ベノちゃんは突然真剣な表情になり、キズナアイの著書を手に取る。BGMが不穏な低音に変わり、彼女はマッチを取り出し、ゆっくりと本に火をつけた。炎が本を舐める中、ベノちゃんの顔には悩ましげな表情が浮かぶ。彼女は一言も発せず、ただ炎を見つめる。そして、画面に「fin」と白文字が浮かび、動画は静かに終了した。

「…は!?また燃やした!?」

エトラは思わず立ち上がり、モニターに叫ぶ。

「ベノちゃん、なんでまた本燃やすの!?キズナアイさんの本、めっちゃ頑張って書いたのに!これ、絶対炎上するよ…!でも、最後のあの表情…何!?何なの!?」

エトラの心は混乱と怒りで渦巻いていた。ベノちゃんの動画は、単なる炎上商法を超えて、どこか深い意図を感じさせるものだった。

「…これ、ただの悪戯じゃないよね?ベノちゃん、何か企んでる…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、萌実の自宅にエトラが歪んだ。リビングには、キズナアイのお気持ち表明動画をきっかけに集まった二人の絆が漂う。萌実はマウンパのキーホルダーを手に、ソファでエトラと並んでベノちゃんの最新動画を見ていた。動画が終わると、二人は言葉を失った。

「…また、燃やしたんだ…」

萌実は呆然と呟き、マウンパを握りしめる。

「アイちゃんの本…。あの時も燃やして、今回も…。ベノちゃん、なんでこんなことするの?」

エトラは拳を握り、憤りを隠せない。

「ねえ、萌実、これ見た?『世界中に愛されるバーチャルYouTuberのつくり方』を、チャップリン風の演出で燃やしてるんだよ!サイレント映画みたいなノリで、めっちゃふざけてるのに、最後はなんか…悩んでる顔してた。意味わかんないよ!」

萌実は目を細め、静かに呟く。

「…うん、見た。アイちゃんのお気持ち表明の動画で、燃やされたこと知ったけど…。でも、アイちゃんが『本当に燃やすとは思わなかった』って言ってたの、なんか…心広すぎるよね」

エトラは大きく頷く。

「―――アイちゃん、めっちゃ優しいよ!私、絶対こんなの許せない!でも、最後のベノちゃんの表情…なんか変だったよね。炎上狙いなのに、なんか…後悔してるみたいだった。どういうつもりなの!?」

萌実は少し考えてから、口を開く。

「…あの頃、ベノちゃん、目立とうとしてたんだよね。炎上ネタで注目集めようとして、やりすぎちゃったのかも。でも、キズナアイさんの心の広さ見てると…なんか、ベノちゃんの行動がちっぽけに見えるよ」

「ほんとそれ!」

エトラは勢いよく立ち上がり、拳を振り上げる。

「アイちゃんのあの笑顔、めっちゃパワーもらったよ!私、ベノちゃんみたいな炎上商法、絶対やらない!12月11日の生放送、アイちゃんみたいなハッピーな気持ちをみんなに届けたい!」

萌実はニコリと笑い、マウンパを掲げる。

「うん、エトラ。萌実も同じ気持ちだよ。アイちゃんの心の広さ、めっちゃ尊敬する。ベノちゃんの動画、確かにムカつくけど…私たち、アイちゃんみたいに笑顔で進もうよ!」

エトラは目を輝かせ、萌実の肩をポンと叩く。

「だよね!私たちの生放送、キズナアイさんの笑顔に負けないくらい、めっちゃハッピーにするよ!ベノちゃんの炎上なんて、チーズみたいに溶かしてやる!」

二人は笑い合い、互いに拳をぶつけ合う。キズナアイの寛大な心とベノちゃんの炎上を対比させ、12月11日の生放送への決意をさらに固めた。リビングの窓から差し込む月光が、二人の絆を優しく照らしていた。

 

 

ベノちゃんの最新動画は、キズナアイのお気持ち表明によって新たな光を浴び、VTuber界に複雑な波紋を広げていた。彼女の炎上商法は、キズナアイの心の広さによって霞み、萌実とエトラの絆を一層強くしていた。一方、にじさんじのギルザレンⅢ世は新たな策略を企み、樺太のエイレーンは炎上の余波を収束させるべく奔走する。12月11日の生放送は、過去の炎と未来の希望がぶつかり合う、VTuber界の新たな舞台となるだろう。物語は、さらなるドラマへと突き進んでいた――。

 

 

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