2018年4月11日。夕陽がゆるやかに傾き、東京・ENTUM本社の最上階にある会長室を黄金色に染めていた。
外は喧騒。企画会議の怒号が壁をすり抜け、遠くからわずかに届いてくる。しかしこの部屋だけは、別世界のように静かだった。
会長室。重厚な扉と静謐な空気に包まれたその場所で、名誉会長――アイリスディーナ・ベルンハルトは、一枚の書類に視線を落としていた。デスクには整然と並ぶ資料と、ほのかに香る紅茶の湯気。背後のガラス窓からは東京湾が遠くに霞んで見える。
「企画が通らないから制裁した、だと?」
アイリスディーナの声は低く、しかし確かな重みをもって静けさを貫いた。
その正面、会長席にふてぶてしく腰かけていたのは、ENTUMの影の実力者・ベイレーンである。肩をすくめて言い放つ。
「私は優遇されてるからいいとして、エイレーンとベノが一番問題児だから企画通してくれないだお。名誉会長、訓練弾バンバン撃ちすぎですお」
「……」
アイリスディーナは無言のまま、書類を一枚めくる。そこには信じられないタイトルが並んでいた。
「『何人まで女の子の服を脱がせられるのか?』と『エボラウイルスを耐えられるか』……。なるほど、通らないのも当然か」
「馬鹿だお、エイレーンもベノも。頭ぺろぺろすぎるだお……」
ベイレーンは思わず机に突っ伏した。が、すぐに顔を上げて、茶目っ気のある笑みを浮かべる。
「ま、そんな馬鹿たちでも、仲間には違いないだお。だからこそ、守ってやりたいって思うのかもしれないお」
その言葉に、アイリスディーナは小さく目を細めた。
「ゆっくり考えよう。そのうち良い企画が思い浮かぶさ。焦る必要はない」
「ですね。名誉会長の弾丸さえ避ければ、なんとかなる気がするだお」
ベイレーンの冗談に、アイリスディーナも静かに笑った。こんな風に笑うのは久しぶりだったかもしれない。
彼女は窓の外に視線を移す。遠く、オフィスのモニターには「1000万再生」の数字が煌々と輝いていた。
「(株主総会、やらないとな……)」
小さな呟きが、部屋に残響を残す。
その瞬間、再び静寂が戻った。けれど、それは終わりではない。むしろ始まり。ENTUMという船は、問題児たちの奇抜な企画と、ベアトリクスの訓練弾の嵐をくぐり抜けながら、ゆっくりと未来へと進んでいく。
静かなる名誉会長と、自由奔放な策士ベイレーン。
ふたりの対話が交わるたびに、またひとつ、新たな物語が芽吹いていくのだった――。
※本作に登場予定だった山口達也に関する描写については、投稿サイトの規約を考慮し、該当する場面をすべてカットしています。ご理解いただければ幸いです。