2018年4月30日、株式会社ENTUMの第3スタジオは、熱気と緊張感に満ちていた。スタジオの照明がミライアカリを照らし、カメラが彼女の動きを捉える。ベアトリクスの命を受けた即興劇の収録が始まり、キズナアイの成功に刺激されたENTUMの新たな挑戦が、ここで試されていた。
アカリが明るく呼びかける。
「ハロー♪ ミライアカリだよ♪」
ピロリン♪と効果音が響き、彼女の笑顔がスタジオを温める。
「と言う訳で、今回はですね、即興劇をやります! それではいってみまーしょう!」
即興劇:裏切りの革命
舞台は一変、暗い照明の下、冷たい空気が漂う。ミライアカリは「リィズ・ホーエンシュタイン」として、過去の傷と信念を背負ったキャラクターに変貌。ニコラ、カタリーナ、ファルカ、ファム、アネット、そしてイングヒルトが彼女を取り囲む。
ニコラが低く、怒りを込めて問う。
「ホーエンシュタイン……貴様は、なぜ私たちを見捨てた!?」
アカリが冷たく答える。
「知りません」
カタリーナが一歩踏み出し、声を荒げる。
「嘘吐くんじゃないわよ! アンタはニコラを殺そうとした卑怯者よ!」
アカリが眉を上げる。
「卑怯?」
「そうよ!」
アカリの唇が歪み、突然、哄笑が響く。
「……フフフフッフフフフフッフフフフフフッアハハハハハハハハハハハハッ!」
彼女の笑い声はスタジオを震わせ、狂気と絶望が交錯する。
「そうよ、私が全部やったわ」
ジャキッ、ジャキッ、ジャキッ。
ニコラ、カタリーナ、ファルカ、ファム、アネットが銃を構える。
アカリは挑発的に煽った。
「ならばどうする? 私を撃つの?」
ファルカが小さく呟く。
「(リィズ先輩……)」
アカリが続ける。
「本当にそれでいいの?」
重い沈黙がスタジオを包む。アカリの声が、さらに鋭く響く。
「確かに常識的に考えれば私が悪で、アンタたちが正義ね。けど、本当の世の中を正してるのはどっちなの? 『強盗』『殺人』『放火』『強姦』! 私は何百何千の叛乱分子を消してきたわ。でもそれは善良な国民を守るためよ。アンタたちが法で裁けない悪を、私が代わりに葬ってやってるのよ!」
ニコラが怒りを爆発させる。
「貴様にそんな事する権利はない!」
アカリが冷笑する。
「あるわ。人は誰でも幸せを追求し、幸せになる権利がある。でも一部の国賊のせいで、それが不意に、意図も簡単に途絶えてしまう。そういう被害者は沢山見てきたでしょ? その都度心が痛んだでしょ? 何もできない自分を悔しいと思ったよね?」
ファムが涙を浮かべ、声を震わせる。
「リィズちゃん……」
アカリが畳みかける。
「悪は悪しか生まない。意地の悪い国民が世に蔓延るから、弱い国民はそれに屈して自分を腐らせ、いつかはそれを正しいと正当化する。残念だけど、それが今の世の中よ」
アネットが無言で俯く。アカリの言葉が、彼女たちの心を抉る。
「でも、お兄ちゃんと一緒にいれば真の平和が作れる! 善良な国民が犯罪者を怯えなくていい!平和な世界に変えられるのよ! アンタたちは知ってるでしょ? 私がシュタージに忠誠を誓ってから3年、世の中は私が求められてるのよ!」
ニコラが冷たく言い放つ。
「私は最初から信用してない! 貴様は自分のことしか考えない卑怯者だ! 私は貴様と違って、正式な手続きで戸籍を入れる!」
アカリが声を荒げる。
「義兄妹は結婚できない? そんなことは分かってる! でもそれでしか正せない! いつか認められてお兄ちゃんと一緒にいたい為私が裁き続けるしかないの!これが私に与えられた使命よ!」
ファムが泣き崩れる。
「うぅ…う…あぁ…」
アカリの声が絶叫に変わる。
「お兄ちゃんを幸せにするのは私しかいない! 私しかいないのよ!! どうして!? ねぇ? 分かんないよ!! みんなは私のことなんか理解できるはずないわ!! お兄ちゃんに相応しいのは私しかいない! 私が一番相応しいの!!」
ニコラが心の中で呟く。
「(何年経っても、ホーエンシュタインが言ったことは理解し難い)」
アカリが叫び続けアサルトライフルを構える。
「アンタたち全員消えろーーーーーーーーーーー!」
ファムが悲痛な叫びを上げる。
「もうやめてえええええええええええええ!」
バン!
銃声が響き、アカリが「ぐぶ!」と倒れる。
アカリがファムを睨み、叫ぶ。
「バカヤロー! ファム姉さん、誰を撃ってるの!? ふざけないでよー!」
ファムが涙を流しながら叫ぶ。
「もう嫌だ! 思い出したくないわ!」
アカリが立ち上がり、狂気を帯びた声で続ける。
「殺してやる! アンタたち全員殺してやる……!」
バン! バン! バン! バン! バン! バン!
訓練弾の連射音が響き、アカリが再び倒れる。
「ぐぶ! あ……ああああああああああああ」
アカリが最後の力を振り絞り、叫ぶ。
「このままでいいの!? 革命で世界を変えるなんて本気で信じてるの?!」
ファルカが涙を流す。
「……」
「違うでしょ!? 違うでしょ!? そうなったから……そうなったから私はアクスマンの犬になったのよ!」
ファムが必死に叫ぶ。
「頼む、頼む、目を覚まして!」
アカリが最後に叫ぶ。
「目を覚ますのはアンタたちの方よ! お兄ちゃんを幸せにするのは私しかいないのよ! 何で……何で分からないの!? 何で分からないのよ! この馬鹿共が!!」
収録終了
スタジオに静寂が戻る。アカリは床に倒れたまま、息を整える。ファムは涙を拭い、アネットが彼女を支える。ニコラ、カタリーナ、ファルカは互いに顔を見合わせ、言葉を失う。イングヒルトは静かに佇む。
即興劇は、ミライアカリの情熱と、ENTUMの仲間たちの心の傷を浮き彫りにした。ベアトリクスの望む「キズナアイを超える」結果にはまだ遠いが、この舞台は、彼女たちの絆と葛藤を強く焼き付けた。
スタジオのモニターに映る「1000万再生」の数字は、ENTUMの挑戦がまだ終わっていないことを示す。アカリが立ち上がり、笑顔を取り戻す。
「ハロー♪ 次も頑張るよ♪」
物語は、涙と叫びを超え、さらなる頂点を目指して進む――。