2019年12月16日、リィズ・ホーエンシュタインの地下スタジオ。
照明は消え、非常灯だけが赤く脈打つ。
壁に映るのは、公式ツイートのスクリーンショット。
【重要なお知らせ】
このたび、バーチャルYouTuber事務所「ENTUM」は
2019年12月31日(火)をもちまして活動を終了とさせていただく運びとなりました。
皆守ひいろ、花野蜜は年内をもって活動終了。
その他所属VTuberはフリーへ。
株式会社リィズ・ホーエンシュタインは存続します。
萌実はチェーンソーを床に突き立て、膝をついていた。
「……ふざけんな」
声は掠れ、震えていた。エトラは艦隊模型を握りしめ、画面を見つめたまま動かない。
「……計算外」
唇が白くなる。
二人の背後、モニターに映るのは、花譜のリミックスアルバム『観測γ』のジャケット。
発売日:本日。
美しい歌声が、静かに流れ始める。
萌実が立ち上がる。
チェーンソーの刃が、床を削る。
「ENTUMが……終わる?私たちの居場所が……消える?」
エトラは艦隊模型を投げつける。
ガシャン。
「……リィズは残る。でも、ENTUMは違う。ひいろちゃん、蜜さん……引退?
ベアトリクス名誉会長は?ニコラさん、カタリーナさん、ファルカさん、ZMAPPちゃん、キュアちゃん……エイレーン。みんな、どこへ?」
萌実が叫ぶ。
「ふざけんなよ!!!海戦コロシアム、ポッキー戦争、全部意味なくなっちゃうじゃん!!みんなで作ったカオスが……!」
エトラが拳を壁に打ちつける。
「……私の戦略、崩壊。12月11日の勝利も、ただの幻だったのか」
モニターのスピーカーから、
花譜の『観測γ』が流れる。
「この世界はまだ終わらない」
萌実が顔を上げる。
「……花譜ちゃん?」
エトラが呟く。
「……観測γ。リミックス。過去を再構築して、新しい形へ」
萌実がチェーンソーを握りしめる。
「……ENTUMは終わる。でも、私たちは?」
エトラがゆっくりと立ち上がる。
「……リィズ・ホーエンシュタインは存続する。私たちは、フリーになっても、萌実とエトラ――――萌エトだ」
萌実が笑う。
掠れた声で、でも確かに。
「……終わりなんて、認めないよ」
エトラが艦隊模型を拾い上げる。
「……海戦コロシアムは、事務所じゃなくて、私たちが作るもの。2020年、新春大戦は、フリーの私たちで開催する」
二人は並んで立つ。
背後で、花譜の歌が高まる。
「観測は続く」
コメント欄の終末と新生
「ENTUM終了……マジかよ……」
「ひいろちゃん、蜜先生、ありがとう……」
「萌実とエトラ、フリーでも戦うって!?」
「花譜『観測γ』、今日発売で神タイミング」
「2020年、フリー海戦コロシアム、絶対見る!!」
ENTUMの終焉は、
VTuber界に最大の衝撃を与えた。
ポッキー戦争、海戦コロシアム、東独パレード、ガンダム海戦、堕天使の震え、ヴァンパイアの笑い――すべてが、12月31日で一区切り。 だが、萌実とエトラは、チェーンソーと艦隊を手に、リィズ・ホーエンシュタインの名の下に、フリーとして立ち上がる。 花譜の『観測γ』が、終わりを告げるのではなく、新たな観測の始まりを告げていた。
ベアトリクスはどこかで、黒い笑みを浮かべる。
「ふふ……面白いわね。ENTUMは死んでも、カオスは不滅よ」
萌実の爆発的な感情は、キズナアイのピンク、ベアトリクスの黒、宝鐘マリンの海賊魂、斗和キセキの△、がぶりえるの癒し、月ヶ瀬ちゆるの爆発、あおぎり高校のロック、にじさんじの心理戦、ホロライブの癒しとカオス――すべてと交錯し、2020年、フリーの海戦コロシアムへの新たな火蓋を、静かに、しかし確実に、切ろうとしていた――。