2018年4月30日、株式会社ENTUMの会長室は、静かな緊張感に包まれていた。窓から差し込む春の陽光が、アイリスディーナのデスクを照らすが、部屋の空気は重く、まるで嵐の前触れのようだった。モニターには、第3スタジオでの即興劇の映像が流れ、ミライアカリの叫び声が響き続けていた。
《はぐぅっ……バカヤロー! ファム姉さん、誰を撃ってるの!? ふざけないでよー!》
アイリスディーナが眉をひそめ、鋭い視線をアカリに向ける。
「なんだこれは?」
アカリは少し緊張しながらも、明るく答える。
「即興劇です! ハロー♪ スタジオでみんなと一緒に作ったんですよ!」
アイリスディーナの声が低く、冷たくなる。
「リィズを誹謗中傷してるのか!?」
アカリが慌てて手を振る。
「ち、違います! 名誉会長が――」
アイリスディーナが目を細め、言葉を遮る。
「ベアトリクス……!」
彼女の声には、怒りと失望が滲んでいた。モニターの映像が一時停止し、アカリの困惑した表情が映し出される。アイリスディーナは椅子から立ち上がり、窓の外を一瞥する。
「ミライアカリ、この即興劇は誰の指示だ?」
アカリが小さく答える。
「名誉会長が……キズナアイに負けないようにって……」
アイリスディーナが深いため息をつく。
「ベアトリクスめ……リィズの名をこんな形で使うとはな」
部屋に重い沈黙が流れる。アカリは不安げにアイリスディーナを見つめ、言葉を探す。
「会長、私……ただ、みんなで良いものを作りたかっただけで……」
アイリスディーナが振り返り、穏やかな、しかし力強い声で言う。
「分かっている。アカリ、お前の情熱は認める。だが、ベアトリクスのやり方には問題がある。彼女と話をつける必要があるな」
アカリがホッとしたように頷く。
「はい……ありがとう、会長!」
アイリスディーナがモニターを消し、静かに呟く。
「キズナアイを超えるのは、力ずくではない。ENTUMの理念を忘れるな」
会長室のドアが小さく軋む。遠くのオフィスでは「1000万再生」の数字が輝き続けていたが、ENTUMの内部では、ベアトリクスとアイリスディーナの対立が新たな波紋を広げようとしていた。アカリの即興劇は、意図せずとも、会社の中枢に火種を投じた。物語は、信頼と理念を巡る葛藤へと突き進む――。
株式会社ENTUMの名誉会長室は、まるで雷雲が渦巻くような緊張感に満ちていた。窓から差し込む薄暗い光が、ベアトリクスのデスクを冷たく照らし、アイリスディーナの怒気が部屋を震わせる。遠くのオフィスでは「1000万再生」の数字がモニターに輝いているが、ここでは過去の亡魂と現在の葛藤が激しくぶつかり合っていた。
アイリスディーナがドアを勢いよく開け、声を荒げる。
「ベアトリクス! どういうつもりだ!!」
ベアトリクスは椅子に落ち着いたまま、冷ややかに答える。
「見たのね?」
アイリスディーナが一歩踏み出し、拳を握る。
「リィズを誹謗中傷する内容を動画として載せられん!」
ベアトリクスが僅かに目を細め、静かに反論する。
「貴女も存じてるはずよ。ホーエンシュタインがどこまで非道徳的な行為をやったかを」
アイリスディーナが声を震わせ、叫ぶ。
「だとしても、彼女が可哀想だ!!」
ベアトリクスは冷笑を浮かべ、言葉を続ける。
「これからも彼女は永遠に語り継がれる。東独史上最低最悪の悪女として。チャン・ノクス、チャン・ヒビン、楊貴妃、マリー・アントワネットと同じようにね」
アイリスディーナが歯を食いしばる。
「くっ……!」
ベアトリクスが淡々と続ける。
「評論家が彼女を擁護する発言をしてるけど、それは建前よ、建前。リィズ・ホーエンシュタインは東独史上最低最悪の悪女として語り継がれる。それだけの理由よ」
アイリスディーナが声を荒げる。
「だが、リィズはテオドールが――」
ベアトリクスが鼻で笑い、遮る。
「フン! とにかく、今後はそう捉えさせてもらうわ。最近聞いた話によると、彼女は名誉回復したらしい。これまで罪を償い、もう充分償ったとして、メルケル首相がそう言ったわ」
アイリスディーナの目が見開く。
「リィズが名誉回復……?」
ベアトリクスが静かに頷く。
「彼女は死んでないわ」
アイリスディーナが一瞬言葉を失い、呟く。
「そうだと……信じたいと思う……」
部屋に重い沈黙が降りる。ベアトリクスの冷徹な決意と、アイリスディーナの過去への想いが交錯し、互いに譲らぬまま対峙する。リィズ・ホーエンシュタインの名は、ENTUMの即興劇を通じて、予期せぬ波紋を広げていた。動画の公開を巡る議論は、単なる企画の枠を超え、会社の理念と歴史の傷を抉るものとなっていた。
名誉会長室の空気は冷たく、窓の外では春の風がそよぐ。ENTUMの物語は、ミライアカリの情熱と、過去の亡魂の影を背負いながら、さらなる試練へと突き進む――。リィズの真実と、ベアトリクスの「考え」が何をもたらすのか、誰もまだ知らない。