ツッコミどころも多いと思いますが、温かい目で見ていただければ幸いです。
なお、本作はフィクションです。
作中に登場する人物・団体・企業名などは実在のものを参考にしている場合がありますが、物語上の都合により設定や名称を変更しています。
実在の人物・団体・出来事とは関係ありません。
第175話 地獄の始まり
2020年9月30日、元ENTUMの輝く星、ミライアカリは、個人勢として自由の翼を広げ、眩い笑顔と天真爛漫な魅力で無数のファンを虜にしていた。彼女の歌声は星屑のようにキラめき、配信のたびに視聴者の心を温かな光で満たした。しかし、運命の歯車は、まるで闇夜の時計の針のように、静かに、だが冷酷に動き始めていた。わずか5日前、彼女のもとに一通の誘いが舞い込む。送り主は、バンダイナムコホールディングス――業界の巨星とも称される巨大企業だ。華やかなスカウトの言葉は、まるで甘美な毒のように彼女の心を絡め取った。「新たな夢の舞台」「無限の可能性」――その言葉に導かれ、ミライアカリはGOOMSTUDIOへの所属を決意する。新しい世界への第一歩。それは、彼女が長年夢見てきた輝かしい未来への切符だと信じていた。契約書にペンを走らせるその瞬間、彼女の胸は高鳴っていた。未来への希望、ファンとの新たな物語を紡ぐ喜び――。だが、彼女は知らなかった。サインのインクが乾く刹那、彼女が踏み出したのは光に満ちた楽園への道ではなく、奈落の底へと続く暗黒の回廊だったことを。運命の幕が上がり、ミライアカリはまだ見ぬ深淵へと足を踏み入れる。彼女の笑顔は、果たしてこの試練を乗り越え、再び輝きを放つことができるのか――?
同日、GOOMSTUDIOの会議室は、嵐の前触れを孕んだ重苦しい静寂に閉ざされていた。長机の中心に君臨するバスク郷里は、まるで猛獣のような威圧感を放ち、冷酷な眼差しで場を圧倒していた。その隣には、GOOMSTUDIOの設立を主導した野心に燃えるジャミトフ西村が、氷の刃のような視線で一同を射抜く。彼はバンダイナムコの権力を握り、VTuber業界の頂点を狙う策謀家だった。部屋の片隅では、カクリコン戸松とジェリド井上が言葉もなく、ただバスクの動向を静かに見つめていた。二人の沈黙は、まるで闇に沈む湖面のように不気味な静けさを湛えていた。バンダイナムコ本社から派遣された社員、ブライト・ノアは、緊張で顔を強張らせながら立ち尽くしていた。彼は深く息を吸い、胸に宿る決意を呼び起こすように口を開いた。
「バスクさん、なぜミライアカリをこの事務所に所属させたのですか? 彼女には自由な配信環境こそが――」
だが、その言葉は鋭い音とともに断ち切られた。バスクの手がブライトの頬を叩き、会議室に乾いた衝撃音が響き渡る。ブライトはよろめき、隣にいた同僚のエマ・シーンが咄嗟に彼を支えた。
「ブライトさん!」
「放っておけ!――――一般社員は黙っていろ! ここはバンナムの施設だ。普通の事務所とはやり方が違う!」 バスクの声は冷たく、嘲笑の刃がその端に潜んでいた。ブライトは頬を押さえ、震える声でなおも抗った。
「GOOMSTUDIOであろうと、バンダイナムコの一員であることに変わりはありません!」
彼の言葉には、VTuberへの純粋な信念が宿っていた。だが、バスクは立ち上がり、ブライトを見下ろして哄笑した。
「ここはホロライブやにじさんじ、そしてキズナアイを打ち倒すための前線基地だ。貴様の都合など知ったことか!」
怒気の咆哮が会議室を震わせる中、ブライトはなおも食い下がった。
「我々の役目は、ファンの方々に笑顔を届けることではないのですか?」
彼の瞳には、業界への情熱が燃え滾っていた。だがその瞬間、バスクの部下がブライトに迫り、拳を振り上げる。
「一般社員は黙っていろ!」
強烈な一撃がブライトの腹に叩き込まれ、彼は膝をついた。
「貴様…私はバンナム本社からの派遣だぞ!」
ブライトは息を切らしながら叫んだが、部下は冷笑を浮かべる。
「ここはバンナムの施設だ。一般の規律など通用しない。」
「貴様、それでもVTuber事務所の人間か!」
ブライトの叫びは虚しく響き、部下たちは「黙っていろ!」と繰り返しながら彼を執拗に殴りつけた。カクリコン戸松の瞳に一瞬の躊躇が浮かび、ジェリド井上の手は拳を握りしめたが、二人とも動くことはなかった。ただ、暴力の嵐を沈黙の中で見つめるだけだった。バスクが会議室を後にする背中を見送りながら、エマは唇を噛み締めた。
「ジャミトフやバスクのやり方…本当にこれでいいの?」
彼女の囁きは小さく、しかし深い疑念と、闇の底へと引きずり込む恐怖に満ちていた。会議室の空気はなおも重く、ミライアカリの未来を覆う暗雲が、静かに、だが確実に広がり始めていた。
GOOMSTUDIOの配信ルームは、まるで魂を閉じ込める鉄の牢獄のように冷たく、息を詰まらせる無機質な空気が漂っていた。薄暗い室内には、モニターとカメラだけが無感情に佇み、ミライアカリは椅子に縛り付けられ、自由を奪われた囚人のように身動きできずにいた。没収されたヘッドフォンの代わりに、刺すような静寂が彼女の耳を苛む。そこへ、まるで闇から這い出た亡魂のように、バスク郷里が音もなく姿を現した。冷酷な笑みがその顔に刻まれ、目は底知れぬ深淵を宿していた。
「ミライアカリ、これから貴様はGOOMSTUDIOの看板として働く。ホロライブやにじさんじを潰すための駒だ。」 バスクの声は低く、まるで凍てつく刃のように抑揚なくアカリの心を切り裂いた。彼女の唇が震え、か細い声で抗う。
「アカリは…そんなためにVTuberやってるんじゃない! ファンのみんなに笑顔を届けたくて…!」
その言葉に、バスクは一歩踏み出し、彼女の顎を乱暴に掴んだ。指先は冷たく、まるで彼女の意志を握り潰すかのようだった。
「自惚れるな! 貴様の事など、配信の推移に過ぎん! ホロライブやにじさんじ――そしてキズナアイの抵抗を挫折させる上に、この配信は極めて重要な意義を持つ。」
アカリは全身に力を込め、バスクの手を振り払い、叫んだ。
「ファンを裏切るような配信、絶対にしない!」
その声は、恐怖の中でなお燃える決意を宿していた。だが、バスクの目は、まるで獲物を仕留める猛獣のように危険な光を帯びた。
「逆らえると思うな。お前には逃げ場がない。」
彼はアカリの肩を強く掴み、吐き捨てるように言葉を叩きつけた。
「本気でバンナムに忠誠を誓うなら、やって見せることだ。直ちにスタンバイだ。」
アカリの心は、恐怖と怒りが渦巻く嵐の中で激しく揺れ動いた。だが、彼女は唇を噛み締め、目を固く閉じた。「私は…負けない…」
その小さな声は、まるで闇夜に瞬く星のように、微かだが折れぬ意志を放っていた。バスクの冷笑が部屋に響き、彼女の決意を嘲るように空気を震わせる。だが、その瞬間、アカリの心の奥底で、ファンの笑顔を守るための小さな炎が、静かに、しかし確実に燃え上がり始めていた。
同時刻、ZIZAI本社の会長室は、まるで嵐の前の静けさのように、張り詰めた緊張が重く漂っていた。アイリスディーナ・ベルンハルトは、書類の山を前に、鋭い鷹のような瞳で一枚一枚を睨みつけていた。彼女の傍らには、NEOENTUMの幹部、ファルカ・ミューレンカンプと会長のベアトリクス・ブレーメが、鋼のような意志を湛えて毅然と立っていた。アイリスディーナの視線が書類から離れ、二人を貫くように鋭く見据えた。
「……バスクめ…最初からアカリを利用するつもりだったのか!なんと破廉恥な!」
彼女の声は静かだったが、抑えきれぬ怒気がまるで雷鳴のように低く響いた。ファルカが拳を握り締め、憤怒を露わに声を荒げた。
「彼奴、やり方が汚すぎますよ。ゲーム部の一件でも、裏で動いてたのはバスクですよね。」
彼女の言葉には、過去の裏切りへの記憶が滾っていた。ベアトリクスが重々しく頷き、冷静だが力強い口調で応じた。
「私も同意見よ。バスクとジャミトフの野望をこのまま放置するわけにはいかないわ。アカリを救うため、私たちも動くべきよ。」
アイリスディーナは立ち上がり、瞳に燃えるような決意を宿した。その眼差しは、まるで闇を切り裂く剣のようだった。
「よし、ZIZAIとNEOENTUMの総力を挙げて、アカリを救出する。――ファルカ、準備を進めろ。」
その言葉は、戦いの火蓋を切る号令のように、会長室に力強く響き渡った。部屋の空気が一瞬にして熱を帯び、ミライアカリを巡る戦いの幕が、今、静かに上がろうとしていた。
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