ENTUM23   作:マブラマ

177 / 229
第177話 #SaveAkari

2020年10月5日、GOOMSTUDIOの会議室は、まるで氷の刃が突き刺さるような冷ややかな空気に支配されていた。バスクの演説から一夜明け、内部の緊張は頂点に達していた。ブライト・ノアとエマ・シーンは会議室の隅で、声を潜めてひそひそと話し合っていた。

カクリコン戸松とジェリド井上も同席していたが、二人とも無言でバスクの動向を伺うように目を凝らしていた。ブライトが低い声で囁いた。

「エマ…バスクのやり方は間違ってる。アカリをこんな目に遭わせるなんて…VTuberの魂を踏みにじる行為だ。」

エマは小さく頷き、決意を込めて囁き返した。

「私もそう思う。バスクとジャミトフは、VTuberを道具としてしか見てない。でも、私たちにはまだできることがある。外部に連絡を取って、アカリを救う方法を考えましょう。」

その瞬間、ドアが軋む音と共にジャミトフ西村が入ってきた。冷ややかな視線が、まるで獲物を捉える猛禽のようにブライトとエマを射抜いた。

「何をコソコソ話している? 一般社員が、こんなところで私語とはいい度胸だな。」

ブライトは一瞬怯んだが、胸に宿る正義を奮い立たせて立ち上がった。

「ジャミトフさん、アカリを道具として扱うのは間違っています。彼女はVTuberとして、ファンのために笑顔を届ける存在なんです!」

ジャミトフは冷笑を浮かべ、ゆっくりと近づいた。

「笑顔? そんなものは幻想だ。VTuberはバンナムの資産であり、GOOMSTUDIOはその資産を最大限に活用するための施設だ。貴様らの理想など、足手まといでしかない。」

エマが一歩前に出て、声を張り上げた。

「アカリは私たちの仲間です! 彼女の心を踏みにじるような配信、絶対に許せません!」

ジャミトフの目が細まり、氷のような冷たさで言い放った。

「仲間? そんな甘っちょろい言葉は、この業界では通用しない。貴様らにその力があるなら、やってみることだな。」

彼は踵を返し、ドアが閉まる重い音を残して去っていった。

カクリコンが小さく呟いた。

「エマ、ブライト…本当にこれでいいのか? バスクとジャミトフのやり方、俺にはどうしても納得できない…」

ジェリドが拳を握り、声を震わせた。

「俺もだ。だが、バスクに逆らったら…俺たちの立場も危なくなる。どうすれば…」

エマは二人を真っ直ぐに見つめ、静かに、だが力強く言った。

「カクリコン、ジェリド、あなたたちもアカリを救いたいと思ってるよね? なら、私たちと一緒に動いて。GOOMSTUDIOの外に、仲間がいるはずよ。」

ブライトが力強く頷いた。

「そうだ。ZIZAIやNEOENTUM、あおぎり高校…彼らと連絡を取れば、アカリを救えるかもしれない。俺たちで、内部から情報を漏らすんだ!」

カクリコンとジェリドは一瞬顔を見合わせ、ゆっくりと頷いた。カクリコンが決意を固めた声で言った。

「分かった…俺も、バスクのやり方は間違ってると思う。アカリを救うために、協力するよ。」

ジェリドも小さく笑い、気合いを込めた。

「へっ、こんな時にビビってちゃ、VTuber業界の男がすたるぜ。やってやろう!」

会議室に、微かな希望の火が灯り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年10月6日、株式会社クリエイトリングの会議室では、オンライン会議が熱を帯び、まるで戦いの火花が散るようだった。音霊魂子、石狩あかり、水菜月夏希、大代真白が中心となり、画面には電脳少女シロ、猫宮ひなた、田中ヒメ、鈴木ヒナ、ばあちゃる、犬山たまき、湊あくあ、兎鞠まり、風宮まつり、神楽めあ、高槻りつ、ふくやマスター、富士葵、桜樹みりあ、御来屋久遠、御来屋春秋、ときのそら、郡道美玲、ルイス・キャミー、夢月ロア、そして萌実の顔が映っていた。

魂子が真剣な表情で切り出した。

「みんな、GOOMSTUDIOの内部情報を手に入れるために、ブライトさんやエマさんと連絡を取ろうとしてるよ。バスクの動きを監視して、アカリさんを救うチャンスを掴むんだ!」 シロが明るく、だが力強く応じた。

「アカリちゃんの笑顔を取り戻すためなら、シロ、どんなことでもやるよ! ファンにも呼びかけて、#SaveAkari のタグでムーブメントを起こそう!」

ひなたが拳を振り上げ、叫んだ。

「そうだ! バスクなんかに負けない! ひなた、ファンのみんなと一緒にアカリちゃんを応援するよ!」

ヒメが冷静に提案した。

「情報収集が大事だよ。GOOMSTUDIOの配信スケジュールや、アカリちゃんの動向を監視して、隙を見つけるんだ。」

ヒナが頷き、補足した。

「私たちも、Twitterでアカリちゃんを応援する投稿を拡散しよう。ファンの力を集めれば、バスクも無視できないはず!」

萌実が立ち上がり、まるで旗を掲げるように力強く宣言した。

「――みんな! アカリちゃんを救うために、全員で力を合わせよう! VTuberの絆で、バスクとジャミトフの野望を砕いてやる!」

その言葉に、画面越しのVTuberたちが一斉に応じ、絆の炎がさらに大きく燃え上がった。その時、VTuber研究所『シリウスシュガー』の所長、月ヶ瀬ちゆるが前に出た。

「バスクのやり方は問題あるけど、彼はVTuberを道具としか見ていない。――でも少し気になるね。GOOMSTUDIO。親会社はバンダイナムコホールディングス…かなり手強い相手だよ。」

月ヶ瀬ちゆるは、社交的で明るい少女だった。理化学研究所から認可を受け、VTuber研究を主とする『シリウスシュガー』を立ち上げ、一人で研究に没頭する変わり者だ。非常に賢いと評される一方、怪しい実験で研究所を爆発させることもあり、周囲からは「頭のいいバカ」と愛されつつ揶揄されていた。彼女の言葉に、会議室の空気が一瞬引き締まった。魂子が頷き、決意を新たにした。

「ちゆるさんの言う通り、バンナムは手強い。でも、私たちの絆なら、絶対に勝てる! アカリさんを救うため、全力でいこう!」

VTuberたちの団結は、まるで星々が一つに輝く銀河のように、希望の光を放ち始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年10月7日、ミライアカリは、GOOMSTUDIOの無機質な配信ルームに閉じ込められたまま、冷たい椅子に座っていた。蛍光灯の青白い光が、彼女の金髪サイドテールとピンクの星マークが揺れる蒼い瞳に冷たく映り、涙がその瞳を濡らしていた。

モニターは暗いままで、手元にはバスクが押し付けた台本が無造作に置かれていた。重い静寂が彼女の心を締め付け、過去の楽しかった記憶が次々と蘇った。アカリは膝を抱え、震える声で呟いた。

「……バーチャルさんはみている。か―――あの頃は楽しかったな。ひなたちゃん、もちひよこちゃん、ひいろちゃん、ツキミちゃん―――蜜先生。うぅ…みんなに会いたいよ…うぅ…」

涙が頬を伝い、彼女の声は切なさに震えた。『バーチャルさんはみている』での仲間たちとの笑顔、自由な配信の日々が、今は遠い幻のように感じられた。猫宮ひなたの元気な声、もちひよこの柔らかな笑い、ひいろの優しい気遣い、ツキミのクールな一言、蜜先生の温かい指導――全てが彼女の心を締め付けた。ドアが軋む音と共に、ジャマイカン山田が入ってきた。冷笑を浮かべ、アカリを見下ろした。

「何だ、その情けない顔は? 泣いても状況は変わらんぞ。さっさと台本を読んで配信の準備しろ。」

アカリは涙を拭い、ジャマイカンを睨みつけた。

「こんな配信、したくない! ファンのみんなを裏切るようなこと、絶対にできない!」ジャマイカンの目が細まり、声を低くした。

「無意味な配信をするから! 貴様のわがままが、バンナムの計画を台無しにするんだ。分かったな?」

アカリは立ち上がり、拳を握り締めた。

「わがままじゃない! 私は、ファンのみんなに笑顔を届けるためにVTuberになったんだ! あなたたちの道具にはならない!」

ジャマイカンは鼻で笑い、吐き捨てた。

「笑顔? そんなものは必要ない。君はバンナムの宣伝塔なのだ。さっさとスタンバイしろ。」

彼はドアに向かい、振り返らずに言い放った。

「他の連中は頑張ってるのに、何故貴様は努力しない。弛んでるぞ。」

ドアが閉まる重い音が響き、アカリは再び椅子に崩れ落ちた。孤独と絶望が彼女を押しつぶそうとしたが、仲間たちの顔が脳裏に浮かんだ。

「ひなたちゃん…もちひよこちゃん…みんな、私を待っててくれるよね…?」

彼女は目を閉じ、唇を噛んだ。

「私は…負けない。絶対に…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年10月8日、シリウスシュガーの所長室では、月ヶ瀬ちゆるが書類とデータに目を凝らし、静かな闘志を燃やしていた。彼女の周囲には、VTuber研究の資料やバスクの演説の解析データが散乱していた。社交的で明るい少女だが、理化学研究所から認可を受けた『シリウスシュガー』の所長として、VTuberの未来を真剣に考えていた。ちゆるは独り言のように呟いた。

「バスクのやり方は、VTuberの魂を踏みにじる…でも、バンナムの力は手強い。どうやってアカリちゃんを救うか、頭フル回転で考えないと!」

彼女の手元には、GOOMSTUDIOの配信スケジュールや内部の監視システムに関する断片的な情報があった。

ちゆるは目を細め、微笑んだ。

「ふふ、爆発するような実験は得意だけど…今回は、もっとデリケートな作戦が必要だね。ブライトさんやエマさんからの情報が、鍵になるかな?」

彼女の賢さが、希望の糸を紡ぎ始めていた。ミライアカリを救う戦いは、内部と外部の絆が交錯し、静かに、だが確実に動き出していた。

 

Fortgesetzt werden

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。