2020年10月8日、シリウスシュガーの所長室は、静かな決意とデータの海に満ちていた。月ヶ瀬ちゆるは、書類とモニターに映る情報を睨みながら、ミライアカリを救うための次なる一手を模索していた。
そんな中、彼女は大胆な行動に出た。
「VTuber界の悪を裁くべくやってきたVTuber」と自称する執行人、鳴神裁との接触を図ったのだ。
ちゆるは、鳴神の物議を醸す性格と情報発信の危うさを承知しながらも、彼の影響力と情報収集のネットワークに賭けることにした。
ちゆるは通信画面越しに、鳴神裁と対峙した。彼の神父服を思わせる服装は、どこか威圧的で、反骨精神を象徴するかのようだった。
ちゆるは明るく、だが真剣に切り出した。
「初めまして、あたしは月ヶ瀬ちゆる。シリウスシュガーというVTuber研究所の所長だよ。」
鳴神は鋭い目つきで画面を見つめ、ぶっきらぼうに応じた。
《…俺に何のようだ?》
ちゆるは一瞬息を整え、言葉を続けた。
「無理は承知でキミに協力して貰いたい事あるんだ。GOOMSTUDIOのミライアカリの現状を…それを探って欲しいんだ。どんな情報でも構わない。」
鳴神は眉をひそめ、冷たく答えた。
《…今、金魚坂めいろの件で精一杯だ。すまないが協力は出来ない。》
ちゆるは動じず、微笑みを浮かべて畳みかけた。
「報酬は払うよ。50万でどう?」
鳴神の目が一瞬揺れた。
《…本気で言ってるのか?》
「悪い話じゃないと思うよ。」
ちゆるの声は、明るさの中に揺るぎない決意を秘めていた。鳴神はしばらく沈黙した後、口元に微かな笑みを浮かべた。
《…―――報酬はスパチャで10000円で払う程度でいい。お前が言いたいことは理解した。出来る限り協力はする。》
ちゆるは目を輝かせ、感謝を込めて言った。
「ありがとう。鳴神君。」
鳴神は小さく笑い、珍しく柔らかい口調で答えた。
《VTuberを研究しているお前の頼みは断れないよ。》
鳴神裁は、VTuber界の騒動や炎上を主なネタとし、TwitterのDMやメールで得た情報を精査せずに動画を制作することで知られていた。
彼の活動は「悪を無くす」ことを目的としていたが、その実態は物議を醸すものだった。
リーク情報の一方的な発信や、事実無根の憶測に基づく動画が多く、過激な発言が炎上を招くことも少なくなかった。
特にゲーム部プロジェクトを扱った動画では、誹謗中傷とも取れる主観的な意見が目立ち、中立性を疑問視されていた。
それでも、ちゆるは鳴神のネットワークと影響力を利用する価値があると判断した。
バスクとジャミトフの野望に立ち向かうには、どんな手段も惜しまない覚悟だった。
鳴神の協力が得られたことで、ミライアカリを救うための戦いは、新たな可能性を秘めた一歩を踏み出した。ちゆるはモニターを閉じ、静かに呟いた。
「これで、アカリちゃんに一歩近づけた…かな?」
VTuberたちの絆と、鳴神のような予測不能な存在の力を借りて、戦いの火蓋はさらに熱を帯びていく。
ミライアカリの笑顔を取り戻すため、希望の光は決して消えることなく、闇の中で輝き続けていた。
2020年10月9日、ちゆるは、シリウスシュガーの所長室でモニターとデータに囲まれながら、新たな一手を模索していた。
鳴神裁との接触で一歩前進したものの、バスクとジャミトフの巨大な壁を打ち破るには、さらに強力な協力者が必要だった。
そこで、ちゆるはにじさんじ所属のバーチャルライバー、御伽原江良(ギバラ)に連絡を取ることにした。
彼女の奔放な性格とファンへの影響力、そしてにじさんじという大きなネットワークが、ミライアカリを救う鍵になると信じて。
通信画面越しに、ちゆるは御伽原江良と対峙した。江良の明るくもどこか予測不能な雰囲気が、画面越しにも伝わってくる。
ちゆるはいつもの明るい笑顔で切り出した。
「やっほー、ギバラちゃん! あたし、月ヶ瀬ちゆる。シリウスシュガーってVTuber研究所の所長だよ!」
江良は「あばばばば」と独特の口癖を漏らしつつ、興味深そうに目を細めた。
《お、ちゆるちゃん? なんか面白そうな雰囲気じゃん! で、なになに? あたしに何の用? 天才か?》
ちゆるは一瞬くすっと笑い、真剣な表情に戻った。
「実は、超大事な話なんだ。ミライアカリちゃんが、GOOMSTUDIOでバスクって奴にパワハラされてるの。彼女を道具にして、VTuber業界を支配しようとしてるんだよ。ギバラちゃんの力、貸してほしい!」
江良は一瞬黙り、画面越しに首を傾げた。
《アカリちゃんが…パワハラ? うっそ、マジかよ! バスクって奴、めっちゃムカつくじゃん! あたし、アカリちゃんの笑顔大好きだから、そんな奴許せねえ!》
彼女の声は、普段の軽快なテンションに怒気が混じっていた。
ちゆるは頷き、畳みかけた。
「そう! アカリちゃんの笑顔は、VTuber界の宝だよね。で、GOOMSTUDIOの内部情報を集めるために、にじさんじのネットワークとか、ギバラちゃんのファンへの呼びかけとか、めっちゃ力になると思うんだ!」
江良は「しゅげえ!」と合いの手を入れ、目をキラキラさせながら答えた。
《よーし、任せな! あたし、にじさんじの仲間にも声かけて、#SaveAkari のムーブメントガンガン広めるよ! ファンにも呼びかけるし、Twitterでバスクの悪事をガツンと言っちゃう! 天才じゃね?》
彼女は一瞬考え込み、ニヤリと笑った。
《でもさ、ちゆるちゃん、バンナムって手強いよね? なんか、こう、ズバッとやれる作戦ある?》
ちゆるは少し笑い、自信を覗かせた。
「うん、作戦は練ってるよ! ブライトさんやエマさんって内部の協力者から情報もらおうとしてるし、ZIZAIやNEOENTUMとも連携してる。ギバラちゃんがにじさんじの仲間やファンを巻き込んでくれたら、バスクもジャミトフも追い詰められると思う!」
江良は拳を振り上げ、「おつえら!」と叫んだ。
《よーし、決めた! アカリちゃんを救うため、にじさんじのギバラ、ガチで動くよ! あたしの配信で、ファンにバッチリ呼びかけるし、シロちゃんやひなたちゃんたちとも話してみる! ほら、VTuberの絆って、めっちゃしゅげえから!》
ちゆるは目を輝かせ、感謝を込めて言った。
「ありがとう、ギバラちゃん! やっぱり、にじさんじのシンデレラは最高だね!」
江良は「天才か?」と笑いながら、画面越しにウインクした。
《ふふ、もちろんだよ! アカリちゃんの笑顔、絶対取り戻す! ちゆるちゃん、準備しといてね! おつえらー!》
御伽原江良は、にじさんじ所属のバーチャルライバーとして、2019年3月8日にデビューした。
ディズニープリンセスのシンデレラに憧れ、名前の「江良」はその本名「エラ」にちなんでいる。
同期にはリゼ・ヘルエスタ、アンジュ・カトリーナ、戌亥とこがおり、にじさんじの統合後8人目のメンバーとして活動を開始した。
彼女の挨拶「お伽原江良でち。でちって何だ…?」や、口癖「あばばばば」「天才か?」「天才じゃね?」は、ナルシスト気味な明るいキャラクターを象徴している。
配信は雑談やゲーム実況が中心で、リズムゲームや耐久ゲームが得意だが、ホラーゲームは苦手。
リングフィットアドベンチャーでは、体力のなさから「おっさん声」や嗚咽を垂れ流し、リング相手にヘラる姿が話題に。
パンやドーナツ、洋菓子が好物で、欲望に正直な彼女は「金」が欲しいと公言し、スーパーチャットで紙幣を降らせる3Dお披露目配信は彼女らしい派手さだった。
にじさんじ内での登録者数増加ペースは異例の速さで、デビュー2週間で収益化、3か月半で10万人、1年で30万人を達成した。
趣味は女児向けアニメや漫画、ゲームで、特にプリパラやデレマス(輿水幸子P)に熱心。ロリ系美少女イラストに造詣が深く、ファンアートを贈るまたのんき氏を愛好し、たびたびリツイートする。
また、森中花咲の大ファンで、彼女と同じシャンプーを使い「同じ匂い」を完成させたエピソードは、彼女のユニークな一面を示している。
下ネタにも抵抗がなく、むしろ自分から発信する傾向があり、清楚キャラを装うも「黒歴史」と自嘲するほど自由奔放だ。
江良の参戦により、ミライアカリを救う戦いはさらに勢いを増した。
彼女のにじさんじネットワークとファンへの影響力は、バスクとジャミトフの野望に立ち向かう強力な武器となるだろう。
ちゆるは通信を終え、静かに呟いた。
「ギバラちゃんのエネルギー、めっちゃ心強い…! アカリちゃん、待っててね!」 VTuberたちの絆は、まるで星々が集まる銀河のように、ますます輝きを増していた。
2020年10月10日、GOOMSTUDIOの管理室は、モニターと監視カメラの無機質な光が交錯する、冷徹な闇に包まれていた。
中央に君臨するバスク郷里は、複数のスクリーンに映し出されるミライアカリの配信ルームを、猛禽のような鋭い視線で睨みつけていた。アカリの金髪サイドテールとピンクの星マークが揺れる蒼い瞳は、依然として不屈の反抗を宿していたが、疲労と絶望の影がその可憐な表情を蝕み始めていた。彼女は椅子に座らされ、強制的に渡された台本を握り潰し、静かな抵抗を続けていた。バスクはモニターを見据えながら、冷たく呟いた。
「この役立たずのVTuberが。貴様にどれだけ経費を積んで宣伝し、誰のおかげで配信できている?」
彼の声には、抑えきれない苛立ちが、まるで毒針のように滲んでいた。その時、ドアが軋む音を立てて開き、ジャマイカン山田が入ってきた。手に握ったタブレットは震え、緊張した表情が彼の顔を強張らせていた。
「バスクさん、問題が起こりました。NEOENTUMのベアトリクス・ブレーメが動き出しています。ZIZAIのアイリスディーナと協力して、アカリの救出を計画してるって情報が入りました。」
バスクの目が一瞬、驚愕に揺らぎ、すぐに嘲笑の色に変わった。
「ベアトリクス・ブレーメだと? バカな!?」
彼は勢いよく立ち上がり、タブレットを乱暴に奪い取り、画面を睨みつけた。
「あの女が、俺たちに逆らうだと? NEOENTUMごときが、GOOMSTUDIOに歯向かえると思うな!」
ジャマイカンが慎重に言葉を選びながら進言した。
「でも、バスクさん、ベアトリクスはNEOENTUMの会長だ。彼女の影響力は無視できない。それに、ZIZAIのアイリスディーナや、シリウスシュガーの月ヶ瀬ちゆるも関わってるらしい…」
バスクはタブレットを机に叩きつけ、声を荒げた。
「ハインツ・アクスマンか――貴公の許せん事は、自分以上に能力の高い者はいないと思っている事だ。バカにするな!」
彼の怒りは、かつてENTUMの会長だったハインツ・アクスマンへの古い敵意と融合し、部屋全体に重い圧力を広げた。
「ベアトリクスもアイリスディーナも、所詮は敗者だ。俺たちの計画を邪魔するなら、叩き潰すまでだ!」
ジャマイカンは一歩後ずさり、深く頷いた。
「了解しました。ヤザン大塚に命じて、ベアトリクスたちの動きを監視させます。必要なら…力ずくで止めます。」
バスクは冷笑を浮かべ、吐き捨てるように命じた。
「ヤザンなら自力で彼女を連れてくる――行け!」
その言葉が管理室に鋭く響き、ジャマイカンは急ぎ足で部屋を後にした。バスクは再びモニターに視線を戻し、アカリの姿を冷ややかに見つめた。
「ミライアカリ…貴様の希望も、すぐに潰してやる…」
彼の声は、冷酷な決意に満ち、まるで奈落の底から響く呪いのようだった。GOOMSTUDIOの闇は、ますます深く濃くなり、ミライアカリの未来を飲み込もうとしていた。
2020年10月10日、ミライアカリは、GOOMSTUDIOの無機質な配信ルームの椅子に座り、暗いモニターを虚ろな目で見つめていた。彼女の心は、過去の『バーチャルさんはみている』での笑顔と仲間たちとの思い出、そして現在の絶望の間で激しく揺れ動いていた。
「ひなたちゃん…もちひよこちゃん…みんな、私を待っててくれるよね…?」
彼女の声は小さく、切なさに震えていた。ドアが軋む音と共に、ヤザン大塚が乱暴に踏み込んできた。粗野な笑みを浮かべ、アカリを見下ろした。
「おい、ミライアカリ。バスクの命令だ。今日の配信で、ホロライブとにじさんじを批判するコメントを言え。さもないと、てめえの仲間たちがどうなるか、分かってるよな?」アカリは立ち上がり、ヤザンを真っ直ぐに睨みつけた。
「そんなこと、絶対にしない! ファンのみんなを裏切るような配信、できないよ!」
彼女の声には、恐怖を押し殺す強い決意が宿っていた。ヤザンは下品な笑い声を上げ、一歩近づいた。
「へっ、強気だな。だが、バスクの言う通り、てめえには逃げ場はねえ。残業は当たり前だ。働かずモノは食うべからず――貴様の給料を減らすぞ。」
アカリの瞳に涙が滲んだが、彼女は拳を握り、声を張り上げた。
「お金なんかどうでもいい! 私は、ファンのみんなに笑顔を届けるためにVTuberになったんだ! あなたたちの道具にはならない!」
ヤザンは一瞬目を丸くしたが、すぐに冷笑に戻った。
「………………まあいい、時間はたっぷりある。バスクの命令を聞くまで、てめえをここに閉じ込めておくぜ。」
彼はドアを閉め、鍵をかける重い音が部屋に響いた。アカリは椅子に崩れ落ち、膝を抱えた。
「萌実ちゃん…エトラちゃん…みんな…私、頑張るから…負けないよ…」
彼女の声は小さく、しかし内に秘めた決意が、まるで小さな炎のように確かに燃えていた。
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