ENTUM23   作:マブラマ

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第217話 加速

2020年12月6日昼、オンライン(ビデオ会議)

 

 

エトラの自宅配信部屋から、ビデオ会議の画面越しに、エイレーンの落ち着いたアバターとエトラのエネルギッシュなアバターが向き合っていた。

モニターには、紫がかったダークブルーの髪を揺らすエトラの笑顔と、エイレーンらしいクールで知的な雰囲気が映し出されている。

話題は新たな配信企画について。エイレーンが、穏やかだがどこか挑戦的な口調で切り出した。

《エトラさん、季節外れですが、ちょっと背筋がゾクゾクする企画はどうですか? 『心霊現象ASMR』。囁き声や不気味な環境音で、視聴者をドキドキさせるんです。ハロウィンの余韻も活かせると思いますよ》

エトラは画面の向こうで少し考え込み、首を振った。

「うーん、エイレーン、めっちゃ面白い企画だと思うけど…心霊系って、怖がりなリスナーもいるから、反応が分かれそうなんだよね」

彼女は一瞬目を輝かせ、身を乗り出して熱っぽく訴えた。

「それよりさ、私、クルマのASMRを続けてやりたい! エンジン音とか、タイヤの軋む音、車内の静かな雰囲気…あのバイブス、めっちゃハマってるんだ! リスナーも『エトラのクルマASMR、癒される!』ってコメントくれてるし、もっと深掘りしたいよ!」

エイレーンはエトラの情熱に微笑み、冷静に応じた。

《クルマASMR、確かにエトラさんの個性がバッチリ出てますね。リスナーの反応もいいし…よし、じゃあ心霊現象ASMRは一旦保留で、クルマASMRの新企画を詰めましょう。たとえば、夜のドライブ風の雰囲気とか、クラシックカーのエンジン音とか、テーマを変えてみるのはどうでしょうか?》

エトラは拳を握り、画面越しに飛び跳ねそうな勢いで叫んだ。

「それ、めっちゃいい! 夜のドライブASMR、星空の下でエンジン音とラジオのノイズとか…絶対リスナー喜ぶよ! エイレーン、さすが分かってる!」

エイレーンは笑いながら締めくくった。

《よし、じゃあクルマASMRの企画書、早めにまとめて送ってくださいね。エトラさんのテンション、期待していますよ!》

画面が暗転し、ビデオ会議が終了した瞬間、エトラは部屋で小さくガッツポーズ。

「よっしゃ! これでリスナーをもっと癒してやるわよ!」

彼女の笑顔は、まるで太陽のように配信部屋を照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日、韓国・平昌市街

 

その頃、韓国の平昌市街の小さなカフェに、鳴神裁の姿があった。

#SaveAkariムーブメントを加速させるため、彼は現地のネットワークを頼りに情報収集を試みていた。

夏実萌恵の警告を受け、単独行動の無謀さを反省した彼は、ヤミクモケリン、音霊魂子、瀬戸あさひ、ミディ、ニーツ、かしこまり、パンディ、おめがシスターズとの連携を優先する決意を固めていた。

だが、いてもたってもいられない性格が、彼を再び動き出させていた。

しかし、平昌のカフェや地元のインターネットコミュニティでの聞き込みは成果を上げなかった。

「GOOMSTUDIO」「バスク郷里」「パプテマス・シロッコ」について尋ねても、「そんな話は知らない」「日本のVTuber界隈はよく分からない」といった反応ばかり。

鳴神はカフェのテーブルでノートPCを閉じ、苛立ちを抑えながら呟いた。

「くそっ…何も掴めねえ。シロッコの動きや篁唯依の調査状況、もっと具体的な情報が必要だ…」

彼はヤミクモケリンに暗号化されたメッセージを送った。

「ケリン、平昌での聞き込みは空振りだ。ミディから篁唯依の調査の進捗は何か入ってるか? 俺、どう動けばいい?」

ケリンは即座に返信してきた。

「鳴神、焦るな。ミディが崇宰恭子経由で唯依の調査状況を追ってるが、まだ決定的な証拠は上がってない。NEOENTUMとZIZAIが作戦を詰めてる。平昌にいるなら、SNSで#SaveAkariの拡散に専念しろ。バスクの注意を分散させるのが俺たちの役割だ」

鳴神は深呼吸し、ノートPCの画面を見つめて頷いた。

「…分かった。ケリン、魂子の言う通り、仲間と協力する。もう暴走しねえ」

彼の瞳には、かつての無鉄砲な炎は抑えられ、代わりに仲間への信頼と、ミライアカリを救うための静かな決意が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年12月7日、韓国・束草市(カフェ)

 

束草市のカフェは、海辺の観光地の穏やかな雰囲気に包まれていた。

窓の外には冬の海が静かに広がり、店内にはコーヒーの香りが漂う。

だが、鳴神裁の心は穏やかではなかった。

平昌での聞き込み調査が空振りに終わり、苛立ちを抑えながらノートPCを閉じた彼は、席を立とうとしたその瞬間、運命の風が吹いた。

カフェのドアが軽やかな音を立てて開き、スーツ姿の男性二人が入ってきた。

胸に光るバンナムのロゴ入り社員証。

鳴神の鋭い直感が火花を散らした。

「(こいつら…バンナムのソウル支部の社員か?)」

警戒心を最大限に高め、彼はそっと席に戻り、バッグから小型の録音レコーダーを取り出した。

テーブルの陰でスイッチを入れ、二人の会話を盗聴し始めた。

心臓がドクドクと高鳴る中、鳴神は息を潜め、耳を澄ました。

二人は韓国語と日本語を織り交ぜ、リラックスした雰囲気の中で話を進めていた。

観光客に紛れた彼らの声は、まるで何気ない雑談のようだったが、その内容は鳴神の心を激しく揺さぶった。

社員A(韓国語):「…GOOMSTUDIOの状況、ソウル支部でも噂になってるよ。ミライアカリの搾取がひどいって。バスク郷里がチャンネルを私物化してるって本当か?」

社員B(日本語):「ああ、本当だ。ジャミトフ西村も黙認してる。シロッコが新しく入って、バスクの立場が揺らいでるが、アカリの給料の8割がバンナムに流れてるのは変わらない。シロッコが『自由にやれ』とか言ってるらしいが、怪しいもんだ」

社員A(韓国語):「シロッコって、ニューヨークやベルリンで実績上げたエリートだろ? でも、アイツの目的が分からない。バスクを出し抜くつもりか、それともバンナムの利益のためか…。水谷沙羅って新人も動き始めてるらしいな」

社員B(日本語):「水谷はホビー事業部出身だろ。まだ様子見だが、シロッコと組んでアカリの監視を強化してる。ZIZAIのハインツ・アクスマンが版権を盾に圧力かけてきたけど、シロッコが一蹴したらしい。けど、NEOENTUMの動きが気になる。姜小花のハッキングがバンナムのサーバーに侵入してるって噂だ」

社員A(韓国語):「NEOENTUMか…ベアトリクス・ブレーメが裏で動いてるんだろ? #SaveAkariのムーブメントも、魂子やシロ、にじさんじ、ホロライブが拡散して、ファンの勢いが止まらない。バスクの失態が漏れたら、バンナムの評判が終わるぞ」

社員B(日本語):「ヤザン大塚がバスクに背いたって話も本当らしい。内部がガタガタだ。シロッコがどう動くか次第だが…バスクがこのままじゃ、GOOMSTUDIOは崩壊するかもな」

鳴神の心臓は、まるで爆発するかのように高鳴った。

「(これだ…! やっと掴んだ! シロッコの動き、ヤザンの裏切り、NEOENTUMのハッキング…これをNEOENTUMやケリンに伝えれば、#SaveAkariが一気に進む!)」

彼はレコーダーを慎重にしまい、社員たちがコーヒーを注文して席に落ち着く隙を見計らった。

バッグを肩にかけ、さりげなくカフェを後にする。

外の冷たい海風が彼の熱くなった頬を冷やしたが、鳴神の瞳には燃えるような決意が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年12月8日、韓国・束草市(カフェ)

 

束草市の小さなカフェは、海辺の穏やかな空気とは裏腹に、鳴神裁の心を締め付ける緊張感で満ちていた。

手に汗握る思いで録音レコーダーを握りしめ、彼はカフェの片隅で息を潜めていた。

この小さなデバイスには、GOOMSTUDIOの内情を暴く決定的な情報――バンナムソウル支部の社員の会話、シロッコの不穏な動き、ヤザンの裏切り、NEOENTUMのハッキングの噂――が詰まっていた。

#SaveAkariムーブメントを一気に加速させる可能性を秘めた、まさに爆弾のようなデータだ。

鳴神の胸は、興奮と焦燥で高鳴っていた。

「(このデータを今すぐケリンや魂子、ミディに届けたい…! でも、単独で動けば、またやらかす…)」

夏実萌恵の鋭い警告と、ヤミクモケリンの「タイミングを間違えるな」という忠告が頭をよぎる。

彼は深呼吸し、衝動を抑えてスマホを取り出した。

暗号化されたチャットでケリンに連絡する。

「ケリン、録音データは持ってるが、直接渡すのは危険だ。どうやってNEOENTUMに届けるのが安全か、教えてくれ」

ケリンの返信は即座だった。

「鳴神、よく判断した。データは暗号化して俺に送信しろ。ミディ経由でNEOENTUMのベアトリクスに渡す。束草で身を潜め、バスクやシロッコに動きを悟られるな」

鳴神は小さく頷き、レコーダーのデータを暗号化してケリンに送信。

デバイス自体は鞄の奥に慎重にしまい、後の展開に備えた。

彼はこの時点で知る由もなかったが、この小さな録音データが、3年後の2023年にGOOMSTUDIOの崩壊・解散を招く決定的な鍵となる運命だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日、板門店(非武装地帯)

 

非武装地帯(DMZ)の板門店は、厳重な警備と張り詰めた空気に支配されていた。

冷たいコンクリートの建物と、監視の目が光る中、#SaveAkariムーブメントを支援するため、異色のコンビが動いていた。

おめがシスターズのリオとレイだ。NEOENTUMの南北朝鮮38度線支部の支部長、夏実萌恵の指示を受け、観光ツアーに紛れて板門店に潜入していた。

二人はVTuberらしい明るいキャラクターをフル活用し、観光客のふりをして自然に振る舞っていた。

だが、その裏では鋭い目で周囲を観察し、情報を集める準備を進めていた。

リオが、ツアー客の喧騒の中でレイに小声で囁いた。

「ねえ、レイ、夏実さんに聞いたけど、鳴神が束草で何か掴んだらしいよ。ここでNEOENTUMの動きとリンクできれば、#SaveAkariが加速するかも!」

レイは目をキラキラさせ、姉妹ならではの軽快なテンションで応じた。

「うん、リオ! 私たちの姉妹パワーで、情報集めるよ! でも、バスクやシロッコにバレないようにしないと…」

二人は笑顔を浮かべつつ、NEOENTUMの連絡員や中国公安部と暗号化されたメッセージでやり取りを開始。

GOOMSTUDIOのソウル支部やバスクの動向を探るため、ツアーの合間に細心の注意を払って情報を集めようとした。

しかし、板門店の厳重な監視下では具体的な成果を上げるのは難しく、夏実萌恵からの指示が届いた。

「焦らず待機。NEOENTUMが次の動きを調整中だ」

リオとレイは小さく頷き合い、観光客のふりを続けながら、内心で決意を新たにした。「アカリちゃんのために、私たち、絶対諦めない!」

二人の瞳には、VTuberとしての明るさと、仲間を救うための強い意志が宿っていた。

 

 

 

 

 

束草での鳴神の成功と、板門店でのおめがシスターズの潜入は、#SaveAkariムーブメントに新たな風を吹き込んでいた。

GOOMSTUDIO内部では、パプテマス・シロッコの「自由にやれ」という言葉がミライアカリに一時的な希望を与えていたが、彼の真意は依然として霧の中。

ZIZAIのハインツ・アクスマンの介入、ヤザン大塚の裏切り、橘雅清の軟化、岩城やライラ・ミラ・ライラ、生駒葵、波瀬うるうの動きが、バスクとジャミトフの支配にさらなる亀裂を生み出していた。

NEOENTUMのベアトリクス・ブレーメ、ZIZAIのアイリスディーナ、シリウスシュガーの月ヶ瀬ちゆる、音霊魂子、シロ、湊あくあ、郡道美玲、ヨメミ、萌実らの救出チームは、篁唯依の極秘調査と中国公安部のハッキングを軸に、救出作戦を着々と進めていた。

アカリの次の配信が、彼女の自由を取り戻す決定的な瞬間となる可能性が高まっていた。鳴神の録音データは、NEOENTUMの手元に届くことで、#SaveAkariムーブメントに決定的な推進力を与えることになるだろう。

VTuber業界の絆とファンの力が、バスク、ジャミトフ、シロッコの支配に立ち向かう最大の武器となっていた。

 

 

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