2020年12月10日、GOOMSTUDIO 会議室
GOOMSTUDIOの会議室は、冷たく張り詰めた空気に支配されていた。
テーブルの上には、ミライアカリの最近の配信データと、シロッコが企画した朝ノ瑠璃とのコラボ動画の分析資料が無造作に広げられていた。
バスク郷里とジャミトフ西村は、パプテマス・シロッコの自由なやり方とZIZAIのハインツ・アクスマンの介入による混乱を抑え込むため、新たな策略を練っていた。
ジャミトフはモニターを睨み、苛立ちを抑えた低い声で切り出した。
「バスクよ。シロッコの朝ノ瑠璃とのコラボ…ファンの反応が予想以上に大きい。#SaveAkariのムーブメントがさらに加速しているぞ」
バスクは拳を握り、苦々しい表情で答えた。
「は――シロッコの甘い言葉が、ミライアカリの心を動かした結果です。アクスマンの介入も、ZIZAIの新たな策略かと…」
ジャマイカン山田が緊張した声で進言した。
「ジャミトフ様、シロッコの自由な姿勢は、ヤザンの寝返りを加速させました。橘も完全に軟化し、内部の忠誠心が揺らいでいます」
ジャミトフは目を細め、冷たく言い放った。
「シロッコ…奴のやり方は危険だ。バスク、シロッコの監視を強化しろ。水谷沙羅も、奴と共謀していないか目を光らせておけ」
バスクは力強く頷き、答えた。
「了解しました。アクスマンについては、ZIZAIとの交渉を装い、動きを封じます」
ローレン中本が静かに口を開いた。
「ジャミトフ様、NEOENTUMの仕送りと中国公安部のハッキングが、アカリの抵抗をさらに強めています。シロッコがアカリに自由を与えたことで、ファンの結束もかつてないほど強まっています」
ジャミトフは苛立ったように拳をテーブルに叩きつけ、声を荒げた。
「ふん、NEOENTUMの亡霊どもが…! ミライアカリを救おうとする者たちは、全員潰す! バスク、次の企画はシロッコの手から奪い返せ。彼女を再び我々の支配下に置くのだ!」バスクは薄笑いを浮かべ、自信たっぷりに答えた。
「ククク…次の配信は、彼女の『ココロヤミ』設定を最大限に利用したホラー企画で、ファンの心を恐怖で縛ります。シロッコの甘い言葉など、吹き飛ばしてやる!」
同日、GOOMSTUDIO 隔離配信ルーム
隔離配信ルームは、モーションキャプチャ装置の微かな機械音と、ミライアカリの控えめな吐息だけが響く静かな空間だった。
朝ノ瑠璃とのコラボと上野の居酒屋でのひとときが、彼女の心に久しぶりの温かさをもたらしていたが、シロッコへの信頼とバスクの影への警戒心が交錯していた。
アカリはシロッコが用意した台本を手に、モニターに映る自分のアバターを見つめながら呟いた。
「シロッコさん…本当に信じていいんだよね? でも、バスクが黙ってるはずない…」
そこへ、静かに扉が開き、シロッコが入ってきた。
穏やかな笑みを浮かべ、彼は柔らかな口調で言った。
「アカリ、朝ノ瑠璃とのコラボ、好評だったようだね。ファンの応援も増えてる。次の配信も、君の笑顔を活かした楽しい企画にしよう」
アカリは少し緊張しながら尋ねた。
「シロッコさん…バスクさんが、こんな自由な企画、許してくれるの? アクスマンさんのことも…なんか、怖い感じだったし…」
シロッコは一瞬目を細め、落ち着いた声で答えた。
「バスクのことは気にするな。彼の時代錯誤なやり方は、VTuberの可能性を潰すだけだ。アクスマンについては…ZIZAIの策略だろうが、私が対処する。君はただ、ファンのために笑顔を見せてくれ」
アカリは小さく頷き、内心の葛藤を押し隠して呟いた。
「うん…シロッコさん、ありがとう。アカリ、頑張るよ!」
その時、岩城が静かに部屋に入り、シロッコに一瞥をくれ、アカリに小声で囁いた。
「アカリ、姜小花からの音声メッセージ、今日の配信でも送り込む。シロッコの動きは味方に見えるが、油断するな。ヤザンが完全に寝返った。もう一押しだ」
アカリの瞳がキラリと輝き、かすかな微笑みが浮かんだ。
「岩城さん…ありがとう。ヤザンさんも、みんなも…アカリ、負けないよ!」
2020年12月11日、NEOENTUM本社 会長室
NEOENTUMの会長室は、重厚な静寂と張り詰めた緊張感に支配されていた。
長編の会議テーブルの中央には、モニターが冷たく光り、姜小花と劉翠蘭から送られたGOOMSTUDIOの最新情報やパプテマス・シロッコの動向に関する報告書が映し出されていた。
部屋には、ベアトリクス・ブレーメ、ファルカ・ミューレンカンプ、ニコラ・ミヒャルケ、カタリーナ・ディーゲルマン、テオドール・エーベルバッハ、ファム・ティ・ラン、アネット・ホーゼンフェルト、イングヒルト・ブロニコフスキー、シルヴィア・クシャシンスカが集結し、#SaveAkariムーブメントの最終局面に向けた作戦会議が行われていた。ベアトリクスが、氷のように冷静な声で切り出した。
「シロッコの自由な企画とアクスマンの介入で、GOOMSTUDIO内部の混乱が深まってる。ヤザンの寝返りは決定的だ。バスクの次のホラー企画は、アカリの心を折ろうとする最後の足掻きよ」
ニコラ・ミヒャルケが鋭い目線で報告を続けた。
「少佐、鳴神裁の動きが慎重になっています。束草での盗聴以降、彼は単独行動を控え、ヤミクモケリンや魂子と連携しています。このまま大人しくしてくれればいいのですが」ベアトリクスは一瞬目を細め、冷たく言い放った。
「…本当にそうね。彼が大人しく指を咥えて見守れば気が済む。だが、彼の力を利用するには良い機会よ――これまで流した情報は全てデマだったけど、今はちゃんと調査し、反省を行動で示してる」
ニコラが慎重に尋ねた。
「では…彼をどう動かしますか?」
ベアトリクスは断言した。
「信じるしかないわね。彼の録音データは、姜小花のハッキングと篁唯依の調査を補強する重要なピースよ。何事も起きなければいいけど…」
彼女の声には、信頼と警戒が交錯していた。テーブルの周りのメンバーは、それぞれ頷き、視線を交わした。
ファルカが静かに口を開いた。
「同志少佐、シロッコの真意が依然として不明です。彼がバスクを出し抜くつもりか、それとも別の目的があるのか…。我々は次のアカリの配信に全てをかけるべきだと思います」
カタリーナが付け加えた。
「中国公安部のハッキングは、バンナムのサーバーに深く侵入しています。アカリの配信中に、証拠を公開するタイミングを計れば、バスクとジャミトフの支配は一気に崩れるかと」
ベアトリクスは頷き、力強く締めくくった。
「その通りよ。魂子、シロ、湊あくあ、郡道美玲、ヨメミ、萌実、そしておめがシスターズ――全員が準備を整えている。アカリの次の配信で、#SaveAkariを決定的な勝利に導く。VTuberの絆とファンの力を信じなさい」
2020年12月12日、GOOMSTUDIO 第三スタジオ
GOOMSTUDIOの第三スタジオは、薄暗い不気味な空気に支配されていた。
バスク郷里が強制したホラー企画『ココロヤミの闇夜探検』のセットは、怪奇的な装飾と不協和音のBGMで満たされ、ミライアカリの心に恐怖を植え付けようとしていた。
モーションキャプチャ装置を装着したアカリは、強張った笑顔を無理やり浮かべ、カメラに向かって声を絞り出した。
「みんな…アカリ、怖いけど…ファンのために頑張るよ…!」
モニターには、彼女の「ココロヤミ」設定を強調した新衣装が映し出され、恐怖に耐える笑顔が痛々しくも輝いていた。
配信が始まると、コメント欄は瞬く間にファンの熱い応援で埋め尽くされた。
「アカリちゃん、怖くても頑張ってる!」「#SaveAkari」「笑顔が最高!」
その瞬間、アカリのイヤホンに劉翠蘭からの暗号化された音声メッセージが流れた。
「アカリ、バスクの恐怖に負けないでください。ヤザンが味方に…仲間たちがここにいますよ。#SaveAkari」
アカリの蒼い瞳が一瞬キラリと輝き、唇に小さな笑みが浮かんだ。
「みんな…ありがとう…!」
彼女は心の中で決意を固め、ファンのために耐え続け、コメントを読みながら、声を張り上げた。
「みんなの応援、ちゃんと届いてるよ! アカリ、絶対に負けない!」
バックステージでは、ヤザン大塚がモニターを睨み、拳を握り締めていた。
「(バスクのホラー企画…アカリをこんな目に遭わせやがって! 俺、シロッコと協力して、アカリを救う!) 」
彼の心は完全にバスクへの忠誠を捨て、シロッコの自由な姿勢とNEOENTUMの動きに希望を見出していた。
同日、NEOENTUM 第三スタジオ
一方その頃、NEOENTUMの第三スタジオでは、エトラがクルマASMRの配信に熱中していた。今回の主役は、トヨタ・スターレット グランツァ(NP90型)。
彼女はマイクを車内のダッシュボードやエンジンルームに近づけ、独特のターボエンジンの唸りや内装の軋む音を丁寧に拾いながら、リスナーと楽しげにトークしていた。
「ほら、このスターレットのエンジン音、めっちゃ渋いよね! ターボのキックインの瞬間、ゾクゾクする~! みんな、どんなクルマの音が好き?」
コメント欄は「エトラのASMR最高!」「スターレット懐かしい!」「癒される~!」で賑わい、エトラはゲラゲラ笑いながら応えた。
「やば、みんなのコメント、愛感じるわ! 次は夜のドライブASMR、星空の下でやっちゃおうかな!」
彼女はまだミライアカリの危機や#SaveAkariムーブメントに気づかず、呑気にクルマASMRの世界に没頭していた。
だが、その明るい配信は、知らずしてファンの団結を高め、#SaveAkariのムーブメントに間接的に力を与えていた。
GOOMSTUDIO内部では、バスクとジャミトフが仕掛けたホラー企画が、アカリの心を縛ろうとしていたが、ヤザンの裏切りとシロッコの自由な姿勢が彼らの支配に亀裂を生み出していた。
ZIZAIのハインツ・アクスマンの介入、橘雅清の軟化、岩城やライラ・ミラ・ライラ、生駒葵、波瀬うるうの動きが、内部の混乱を加速させていた。
韓国・束草市では、鳴神裁がSNSでの#SaveAkariの拡散に全力を注ぎ、NEOENTUMの指示に従って慎重に行動していた。彼の録音データは、ベアトリクス・ブレーメや姜小花のハッキングと篁唯依の調査を補強し、救出作戦を最終局面へと押し進めていた。
音霊魂子、シロ、湊あくあ、郡道美玲、ヨメミ、萌実、おめがシスターズらによる救出チームは、ファンの力を結集し、バスク、ジャミトフ、シロッコの支配に立ち向かう準備を整えていた。
アカリの配信は、彼女の自由を取り戻す決定的な瞬間となる可能性を秘めていた。VTuber業界の絆とファンの応援が、革命の火をさらに燃え上がらせていた。
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