2021年6月24日、東京の初夏、3度目の緊急事態宣言下。GOOMSTUDIOの会議室は、モニターの光と重い空気に包まれていた。
バスク郷里、ジャミトフ西村、パプテマス・シロッコ、水谷沙羅、ローレン中本、ヤザン大塚、ジェリド井上、カクリコン戸松が同席し、ミライアカリのメンバーシップ限定配信の反響と#SaveAkariの勢いに追い詰められていた。
ジャミトフはモニターを指差し、冷たく切り出した。
「バスクよ。メンバーシップ限定の動画は視聴したな?」
バスクは苛立ちを抑え、答えた。
「は――他のVTuberがやってることは変わりないですが視聴者回数は増え続けています。」
ジャミトフは目を細め、冷静に続けた。
「だが、これだけでは何かが足りぬ。メンバーシップでしか見られない動画を考えなければ…」
バスクは一瞬考え込み、吐き捨てるように提案した。
「…愚策ですがエイレーンの動画を参考にして過激な動画を投稿すべきだと思います。」ジャミトフは冷ややかな笑みを浮かべ、過去の失敗を突いた。
「…前回の服脱がせてみた動画覚え取るな?本人から苦情が来たぞ!『こんなの私の動画じゃありません!なんで理解してくれないのですか?私は百合百合パラダイスの野望を抱いて動画投稿したり漫画を描いてるのですよ。次同じ事したら二度と許諾しません』と言われたわい。」
バスクは動揺し、探るように尋ねた。
「…どうなさるつもりですか?」
ジャミトフは不敵に言い放った。
「エイレーンがダメならベイレーンの動画を参考にして配信させる。彼女はエイレーンの姉だ。」
バスクは慎重に反論した。
「ですが、本人に許諾を得ないとダメなのでは。」
ジャミトフは意に介さず、決定を下した。
「ああ、とりあえずこの方針で行くぞ。タイトルは……『学校はクソだお』だ。」
ヤザンは内心で呆れ、呟いた。
「(タイトルがまんまパクってるじゃねえか……こんなの盗作動画だ。)」
翌日、エイレーン自宅の部屋で、ベイレーンはタブレットを手にミライアカリの動画を視聴し、怒りを募らせていた。彼女はエイレーンやベノちゃんと同様、アカリへの接近禁止令を受けていたが、#SaveAkariの熱気とアカリの輝きに心を動かされていた。
しかし、GOOMSTUDIOの最新動画を見て激怒。
「何だこの動画は!?明らかにオイラの動画をパクってるだお!誰がこんなことを…」
ベイレーンは怒りを抑えきれず、スマホでGOOMSTUDIOに苦情の電話をかけた。
プルルルル…
電話に出たのは、シロッコの腹心である水谷沙羅だった。
《はい、此方GOOMSTUDIOです》
ベイレーンは怒りを爆発させた。
「おい!ミライアカリの動画見たけど、これはどう言うことだお!?盗作動画出してるな!?」
沙羅は一瞬戸惑い、冷静に対応した。
《え?少々お待ちください。》
数秒の沈黙の後、沙羅が再び応答。
《すみません、お名前をお伺いして宜しいでしょうか?》
ベイレーンは声を荒げた。
「エイレーンの姉のベイレーンだお。お前、ミライアカリを穢すのか!?エイレーンが黙っていないだお!」
沙羅は丁寧に確認した。
《べ、ベイレーン様ですね。ご確認したいのですがチャンネル名は。》
ベイレーンはさらに怒りを爆発させた。
「ベイレーンチャンネルだお。てめぇ!無断で動画投稿して…訴えてやるお!」
ベイレーンは数時間にわたり沙羅に説教を続けたが、怒りは収まるどころか増すばかり。沙佐は必死に弁明を試みた。
《…大変申し訳ございません。担当者が今確認していますのでもう少々お待ち頂けますか?》
ベイレーンは一蹴した。
「あ?お前、逃げる気だおか!?何度でも苦情入れてやるお!」
沙羅は沈黙し、言葉を失った。
《……》
ベイレーンは最後に怒鳴った。
「今すぐその動画を消せ!さもないと本当に訴えるだお!!」
ベイレーンの怒りは、GOOMSTUDIOの焦りと無謀な策略を象徴していた。
そして、姜小花のハッキングにより、ジャミトフとバスクの「学校はクソだお」企画がNEOENTUMに暴露され、ベイレーンの怒りがGOOMSTUDIOの崩壊をさらに加速させる自分の首を絞める結果となった。
バスクは管理室でさらに苛立った。
「ベイレーンまで反発だと? エイレーン、ベノちゃん、アカリへの接近禁止令も無意味! #SaveAkariの勢いが止まらん!」
ジャミトフは冷ややかに応じた。
「バスク、愚かな提案が裏目に出た。ベイレーンの動画を参考にしたのはお前の失策だ。シロッコ、次の策は?」
シロッコは静かに微笑み、心の中で呟いた。
「(バスクの失態は私の計画を完璧にする…NEOENTUMに全てを渡す時だ。)」
2021年6月26日、エトラは自宅の配信ルームで、モーションキャプチャ装置を装着し、リスナーとの雑談配信を始めていた。
画面には、ミライアカリのメンバーシップ限定配信の反響や、ベイレーンのGOOMSTUDIOへの激怒が映し出されていた。
エトラは落ち着いた声で、リスナーに語りかけた。
「みんな、エトラだよ。今日はアカリちゃんの現状とか、最近のバタバタをゆるっと話そうかな。アカリの限定配信、めっちゃ輝いてたよね。#SaveAkari、ほんとすごいよ。」
コメント欄は瞬時に盛り上がり、「エトラ、最高!」「アカリちゃん、輝け!」「#SaveAkari」「ベイレーン、訴えるだお!」「アクスマンはとにかく謝罪すべき」「Good!」とファンの熱い声が飛び交った。
エトラは微笑みながら、ベイレーンの怒りを振り返った。
「ベイレーンさん、めっちゃ熱かったよね。『学校はクソだお』の盗作騒動、GOOMSTUDIO完全にやらかしたね。バスクとジャミトフ、追い詰められてる。これも全部ファンのおかげよ…もう、#SaveAkariの絆は無敵だよ。」
エトラはコーヒーを手に一息つき、続けた。
「アカリちゃん、魂子ちゃん、みりあちゃん、みんなの応援でここまで来れた。ココちゃんの卒業も、ファンの心を一つにしたよね。リスナーのみんな、いつもありがとう。」 コメント欄は「エトラ、泣ける!」「#FreeCoco」「アカリとエトラ、最強!」で埋め尽くされた。
2021年6月27日
東京都渋谷区 渋谷スクランブル交差点
梅雨の合間の晴れ間にきらめく――渋谷スクランブル交差点。
人波が信号の変わり目とともに一斉に動き出す、その中心で。
ホロスターズ第1期生、花咲みやびは、控えめにキャップを被りながら立っていた。
今日はオフ。とはいえ、彼の柔らかな雰囲気はどうしても目を引く。
「ねぇねぇ、ちょっといいですか?」
突然、カメラ付きスマホが目の前に差し出された。
そこにいたのは、如何にもギャルっぽい感じの金髪少女。
フルート・メルヴィル。
アメリカ・サンフランシスコ出身、19歳。
日本のギャル文化に魅せられ、自ら体現する存在。
ギャルインフルエンサーグループ『FL∞ty』のリーダーだ。
その隣で、水色髪をポニーテールにまとめ、ヘッドセットを耳にかけ、スマホと小型カメラを同時に操作している少女がいた。
エヴィ・レーナルト。
ワシントンD.C.出身、19歳。
“省エネ主義の天才ハッカー”の異名を持つホワイトハッカー。
無駄を嫌い、タイパ・コスパ至上主義を貫く冷静な存在。
「FL∞tyの街頭リアルトーク企画なんですけど、インタビューいいですか?」
フルートは満面のギャルスマイルで詰め寄る。
みやびは一瞬戸惑いながらも、にこっと笑った。
「え、ぼく? いいけど……何の話?」
エヴィが即座にタブレットを確認する。
「検索ヒット率高。ホロスターズ第1期生。感情価値コンテンツ向き。撮る。」
「うわ、分析早いね!?」とみやびが苦笑。
フルートはカメラを構え、ぐっと近づいた。
「質問! 男性VTuberとして、今の時代どう生き抜く?」
交差点の雑踏の中、みやびは少し考えてから答える。
「うーん……楽しくいることかな。自分が楽しくないと、見てくれる人も楽しくないから。」
フルートの目がきらりと輝く。
「エモいじゃん! それ、ギャル的にも100点!」
エヴィが淡々と補足する。
「ポジティブ発信は拡散効率高い。炎上回避率も高い。合理的。」
「合理的なんだ……」
みやびは笑う。
フルートは続けた。
「ぶっちゃけ、ギャル文化どう思いますか?」
少し驚いた表情のあと、みやびは素直に答えた。
「自分を好きでいようとする文化、だよね? すごく前向きだと思うよ。」
一瞬、フルートの表情が柔らぐ。
かつて真面目で大人しかった少女が、日本のギャル文化に救われた過去。
「……それ、めっちゃ分かってるじゃん。ぽよです」
エヴィは短く言う。
「相性良。コラボ価値有。」
信号が再び赤に変わり、群衆が止まる。
フルートは最後にカメラへ向かって叫んだ。
「渋谷で偶然ホロスターズ捕獲! みやびくん、最高! チャンネル登録よろしく~!」
みやびは手を振りながら笑う。
「こちらこそ、ありがとう。FL∞tyのみんなも、頑張ってね。」
雑踏の中、三人は一瞬だけ交わった。
VTuberとリアルギャルインフルエンサー。
価値観も文化も違うけれど、
“自分を好きでいる”
その一点だけは、確かに共通していた。
2021年6月28日。
都内のマンション一室。
ネイルを乾かしながら、フルートはベッドに転がり、スマホを高速でスクロールしていた。
「VTuber界隈、マジで深いんだけど……」
昨日、花咲みやびに出会ったことで、興味が一気に加速したのだ。
ギャル文化と似た“自己肯定の世界”。
その裏側が気にならないはずがなかった。
彼女はエゴサーチを始める。
「FL∞ty 評判」
「ギャル VTuber 相性」
「#SaveAkari」
――そこで、指が止まった。
「……え?」
画面に並ぶワード。
“パワハラ”
“圧力”
“活動制限”
中心にある名前は、ミライアカリ。
フルートの表情が一変する。
「ちょっと待って……これ、ガチ?」
彼女はさらに深掘る。
タイムラインを遡り、動画の切り抜き、声明文、ファンの証言を追う。
部屋の隅でノートPCを開いていたエヴィが、顔を上げる。
「情報ソース、混在。真偽要検証。感情拡散は危険だよ。」
「分かってます。でも……」
フルートは画面を見つめたまま、呟く。
「誰かが声上げなきゃ、消されるタイプのやつじゃないですか。」
ギャル文化は、“自分を好きでいるための戦い”だ。
理不尽に押さえつけられる構図を見ると、彼女の奥底にある正義感が疼く。
エヴィはキーボードを叩き、淡々とまとめる。
「直接的炎上参加、リスク高。だが、アルゴリズム補助は可能。関連タグの自然拡散。引用ではなく間接言及。効率良。」
フルートはにやりと笑う。
「それ、最高じゃん。ギャルは真正面から殴らない。可愛く拡散するの。」
数分後。
FL∞ty公式アカウントが、こんな投稿をする。
「自分を守れない世界は、可愛くないよね。声をあげる子が報われる界隈であってほしい。#SaveAkari」
直接名指しはしない。
だが、文脈は明確だった。
拡散は静かに始まる。
ギャル系インフルエンサー界隈から、VTuber界隈へ。
エヴィは分析画面を見つめる。
「拡散速度、上昇。炎上率、低。成功したよ。」
フルートはスマホを握りしめる。
「アカリちゃんがどんな人かは、まだ全部知らない。でもさ。」
ネイル越しに光る指先。
「理不尽に黙らされるのは、ギャル的にナシです。」
その日、VTuber界隈の片隅で、ネオンカラーの波が静かに広がり始めた。
2021年6月29日。
午前10時。
静かな住宅街にあるエトラの自宅――配信ルーム。
防音材が貼られた壁、リングライト、モーションキャプチャ機材。
机の上には飲みかけのコーヒーと、昨夜の配信メモ。
エトラはパーカー姿のまま、PCの前で固まっていた。
「……え?」
モニターに映るのは、見慣れないアイコンと大量の通知。
#SaveAkari
ギャル界隈からも拡散
FL∞ty
「え、ギャル……?」
リンクを開くと、そこにはネオン調のサムネイル。
投稿主は――フルート・メルヴィル。
その動画には、やんわりと、しかし確実にメッセージが込められていた。
“声をあげる子が報われる界隈であってほしい。”
エトラは思わず椅子にもたれかかる。
「これ、想像以上に広がってる……」
別ウィンドウでは、データ分析画面。
トレンドワードが微妙に上昇している。
そこへ、DM通知。
送り主は――エヴィ・レーナルト。
「直接的対立回避済。拡散効率最大化。敵対検知なし。安心可。」
エトラは小さく笑った。
「なんか……すごい子たちだなぁ。」
さらに通知が増える。
ファンの声、海外アカウントの引用、英語圏タグの追加。
そして中心にある名前は――ミライアカリ。
エトラは深く息を吸い、スマホを手に取る。
「……今日、配信するしかないよね。」
リングライトの電源を入れる。機材をセットしながら、彼女は呟く。
「守りたいって思ってくれる人が、こんなにいるんだもん。」
カメラの前に座る。
配信開始ボタンを押す前、ほんの一瞬だけ目を閉じる。
「ちゃんと、言葉を選ぼう。」
外では、いつも通り穏やかな朝。
けれどネットの海は、静かに、しかし確実に動き始めていた。
エトラは配信ボタンを押す。
「みんな、エトラだよ。ちょっとね……今日は大事な話、しよっか。」
リングライトの白い光が、柔らかく部屋を照らす。
配信画面に現れたのは、落ち着いた表情のエトラ。
コメント欄はすでに高速で流れていた。
来た!
エトラ待ってた
#SaveAkari
ギャル界隈すごい
エトラは小さく頷く。
「まずね……びっくりした人も多いと思う。ここ数日で、いろんな界隈から声が上がってる。」
画面のサブモニターには、ネオンカラーの投稿。
フルート・メルヴィルのメッセージ。
「正直、直接やり取りしたことはないよ。でもね。」
少し微笑む。
「“声をあげる子が報われる界隈であってほしい”って言葉、あれは本物だと思った。」
コメントが一気に加速する。
分かる
あれ刺さった
ギャル強い
エトラは続ける。
「界隈が違っても、文化が違っても、“理不尽は嫌だ”って気持ちは同じなんだよね。」
そして、静かに名前を出す。
「アカリちゃんのこと――」
ミライアカリ。
コメント欄が一瞬で埋まる。
「いろんな情報が飛び交ってる。でもね、大事なのは、本人が安心して活動できること。それだけ。」
彼女は少し身を乗り出す。
「攻撃するために拡散するんじゃない。守るために声をあげる。」
その言葉に、チャットは静まり、そして整然と流れ始める。
守るため
理解
エトラありがとう
エトラは深呼吸する。
「海外の人たちまで反応してくれてる。ギャル界隈も、VTuber界隈も、ファンも。これってすごいことだよ。」
一瞬、モニターの隅にDM通知が光る。
送り主は――エヴィ・レーナルト。
「炎上率安定。安心可。」
エトラは思わず吹き出す。
「分析班、優秀すぎない?」
コメントが和む。
だが、彼女は真剣な表情に戻る。
「ただね、線は越えちゃダメ。誰かを傷つける言葉は、私たちの味方じゃない。」
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「優しく強く。これでいこう。」
チャット欄が、まるで呼応するように整う。
#SaveAkari
優しく強く
守るための声
エトラは微笑む。
「界隈が繋がる瞬間って、こういうことなんだね。」
画面の向こうで、
ネオンとリングライトの光が、静かに交差していた。
2021年6月30日。
バーチャル空間いっぱいに広がる、きらめくピンクの背景。
星とリボンが舞い、光の粒子がゆっくりと弾ける。
その中心に立つのは――ミライアカリ。
モーションキャプチャ装置をまとい、いつもの元気いっぱいの笑顔でカメラに手を振る。
「みんな、ハロー! ミライアカリだよ♪ 今日もメンバーシップ限定配信! みんなと一緒に、めっちゃ楽しい時間にするよ! ファンのみんなと、輝くよ!」
コメント欄が一瞬で加速する。
アカリきたー!
待ってた!
#SaveAkari
今日も輝いてる!
トークコーナーでは近況報告。
ゲーム企画ではハイテンションなリアクション。
「ちょ、待ってそれズルいってー!」
「ナイス! 今の神プレイじゃない!?」
弾ける声が、ピンクの空間をさらに明るく染めていく。
だが、ふと――彼女の表情が、ほんの一瞬だけ真剣になる。
「最近、変な噂があってごめんね。」
コメントの流れが少しだけ落ち着く。
「でもね、アカリ、みんなの笑顔のためにちゃんと輝くから! 信じてて!」
その言葉に、コメントは爆発した。
アカリ信じてる!
#SaveAkari
ずっと応援する!
輝いて!
まるで光の奔流。
画面いっぱいに溢れる応援が、彼女を包み込む。
その時、イヤホンに小さく音声が届く。
送り主は――葵。
「アカリ、お前の輝きは止まらない。ベイレーンの抗議がバスクの弱点を暴いた。私とうるうは知ってると思うが千代田支部に左遷した。私達以外に仲間たちがここにいる。自分を誇りに思え。#SaveAkari。」
アカリの瞳がきらりと光る。
ほんのわずかに、唇が震え、そして微笑みに変わる。
「(葵さん、うるうちゃん……ありがとう。)」
胸の奥が熱くなる。
彼女は何事もなかったかのように、しかし確かな力を宿して叫んだ。
「みんなの愛、めっちゃ感じるよ! 橘さんも遠くで応援してくれてる! アカリ、ファンのみんなと一緒に、ずっと輝く!」
コメント欄は再び奔流となる。
アカリめっちゃ素敵!
#SaveAkari
盗作なんて関係ない!
負けないで!
アカリは一つひとつ読み上げながら、満面の笑顔を見せる。
「みんな、ありがとう! アカリ、負けないよ!」
その瞬間、ピンクの光が一層強く輝いたように見えた。
噂も疑惑も、不安も。
それでもなお、彼女は前を向く。
――輝くために。
――信じてくれる人のために。
Fortsetzung folgt im zweiten Teil