ENTUM23   作:マブラマ

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ENTUM23Ⅲ 解放の日(後編)
第266話 -0


2021年7月1日――東京。

 

三度目の緊急事態宣言下。

人通りは少なく、街は静かだ。

だがその一室――エトラの自宅配信ルームだけは、確かな熱を帯びていた。

リングライトが灯り、モーションキャプチャセンサーが起動音を立てる。

中央に並んで立つのは、エトラと萌実。

画面にはトレンド一覧。

 

ミライアカリ限定配信成功

ベイレーン抗議

#SaveAkari

#FreeCoco

 

エトラが静かに微笑む。

「皆さん、こんばんは。今日は萌実と一緒にコラボだよ! アカリちゃんの限定配信、めっちゃ輝いてたよね。」

一拍置いて、少し熱を込める。

「ベイレーンさんの“訴えるだお”も熱かった! #SaveAkari、ほんと無敵ね。」

その名に、コメントが一気に加速する。

 

ミライアカリ

ベイレーン

 

チャットは祭り状態。

エトラと萌実最強!

#SaveAkari

アカリ輝け!

そこへ――

「ハロー、旦那様!」

萌実がチェーンソー(もちろん安全な配信用小道具)をぶんっと軽く振る。

「あなたの嫁の萌実だよ! アカリちゃんの輝き、全部すごい! チェーンソー振り回して #SaveAkari 盛り上げるよ!」

「ちょ、萌実、落ち着いて(笑)」

エトラはコーヒーを持ちながら苦笑する。

「でもね。盗作疑惑にも負けず、誠実に向き合ってた。あの姿勢は、本当に強いよ。」

コメント欄が少し落ち着き、温かな言葉が並び始める。

 

誠実だった

応援してる

#FreeCoco

 

萌実は勢いよく頷く。

「リスナーのみんながいるからだよ! #SaveAkari と #FreeCoco、もっと広めてこう!」

チャットは再び爆発。

 

萌エト最高!

絆!

ベイレーン頑張れ!

 

ゲーム企画に移れば、萌実が暴走気味に大騒ぎ。

エトラが冷静にツッコミ。

笑い声が絶えない。

だが、その根底にあるのはただ一つ。

守りたい、という気持ち。

配信終盤。

エトラはゆっくりと言葉を選ぶ。

「怒りだけじゃ続かない。でも、絆なら続く。」

萌実が隣で大きく頷く。

「旦那様たち、優しく強くだよ!」

コメント欄が一斉に流れる。

 

#SaveAkari

#FreeCoco

優しく強く

 

静かな東京の夜。

外は自粛の空気に包まれている。

だがネットの向こうでは、確かな光が灯っていた。

エトラの冷静さ。

萌実の情熱。

二つの輝きが重なり、

配信は笑いと感動に満ちた余韻を残して幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年7月2日――GOOMSTUDIO 会議室。

 

夏の陽光がブラインドの隙間から差し込み、長テーブルの上に無数の資料を照らしていた。

 

・「ミライアカリ+電流=大興奮!?」視聴維持率グラフ

・「温泉といえば…アレ、だよね…?」男性視聴者分析

・「ほぼ何を言っているかわからないミライアカリ【ミリしらアテレコ】」拡散データ

・メンバーシップ限定配信の成功報告

・「戦場の絆」コラボ反響

 

部屋の中心には、ジャミトフ西村。

その隣にバスク郷里。

他にも、ブレイブ玄田、トッシュ堀内、パプテマス・シロッコ、水谷沙羅、ローレン中本、エマ・シーン、ヤザン大塚、ジェリド井上、カクリコン戸松、レコア勝生らが揃っていた。

しかし空気は、勝利の祝宴とは程遠い。

 

沙羅とレコアの離反。

生駒葵、波瀬うるうの左遷。

ベイレーンの盗作抗議。

外部勢力の動き。

 

確実に、亀裂は広がっていた。

ジャミトフがモニターを指差す。

「バスク、『ミライアカリ+電流=大興奮!?』は見たな?」

モニターに映るのは、ミライアカリ の驚き顔サムネイル。

バスクは目を細める。

「は――『炎のチャレンジャー』のイライラ棒を想起させる演出ですな。古典は強い。」

だが、ジャミトフの声が冷える。

「……ベイレーンが苦情を入れてきた。」

部屋が静まり返る。

「エイレーン三姉妹の動画は二度と参考にするな。いいな?」

バスクは一瞬硬直し、低く答える。

「……了解しました。」

ジャミトフは再び資料をめくる。

「『温泉といえば…アレ、だよね…?』は男性視聴者層を固定化した。『ミリしらアテレコ』も想定以上の拡散だ。」

口元に勝利の笑み。

「これでアカリは、我々の掌中だ。」

その言葉に、空気が凍る。

バスクが慎重に口を開く。

「まだ油断は禁物です。NEOENTUM、ZIZAI、あおぎり高校、ホロライブ、にじさんじ……

そして、ギャルインフルエンサー集団――FL∞ty。どこから妨害が来るか読めません。」

ジャミトフは鼻で笑う。

「外野の騒ぎなど利用すればいい。アカリの眩い輝きを餌に、界隈全体を掌握する。」

野望がむき出しになる。

ヤザンは拳を握りしめる。

「(支配? それが目的か……)」

沙羅とレコアは一瞬だけ視線を交わす。

無言の確認。

 

“連携を急ぐべき”

 

シロッコは静かに微笑む。

「(過剰な野心は、必ず外圧を招く……)」

エマは資料を見つめながら、胸を痛める。

「(過激な企画で消耗するのは、彼女自身……)」

ジェリドとカクリコンは苛立ちを隠せない。

 

外では、

#SaveAkari

#FreeCoco

 

そしてギャル界隈の静かな拡散。

会議室の重苦しい空気とは対照的に、

外部では絆が強まり続けている。

ジャミトフは最後に言い放つ。

「次の企画を用意しろ。話題は我々が作る。」

だが、その瞬間。

誰もが心のどこかで理解していた。

輝きは、支配できるものではない。

会議室のブラインド越しに差す光は、

まるで亀裂のように、長テーブルを斜めに切り裂いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年7月3日――深夜1時。

 

薄暗い社長室。

モニターの光だけが、静かに部屋を照らしている。

 

H.LIVE代表――エイレーンは、画面に映る所属AVTuberたちのアーカイブを確認していた。

その表情は、仕事としての冷静さと、どこか拭いきれない衝動の狭間にあった。

 

H.LIVE。

18歳以上を対象としたバーチャルタレントグループ。

ゲーム実況、雑談、ASMR。

そしてよりセンシティブなコンテンツは外部支援サイトで提供される。

BAN対策として、各ライバーはメイン・サブ・切り抜きの複数チャンネルを運営。

自社ホームページも動画プラットフォーム形式を採用している。

2020年11月にイブィ・バージニアとミルフィア・バレンタインが始動。

数か月ごとに新メンバーが加わり、ケフィリア・ニール以降の四名は二期生と呼ばれている。

ディスコルディア・ロースターも、その一員だ。

 

だが今夜。

エイレーンの視線は、どこか焦点を失っていた。

モニターを閉じる。

静寂。

ふと立ち上がる。

「(確認だけじゃ、足りない……?)」

 

夜の東京を抜け、彼女はある場所へ向かう。

 

辿り着いたのは、エトラの自宅。

 

深夜の住宅街は静まり返っている。

彼女はドアノブを握る。

当然、鍵はかかっている。

一瞬、迷い。

衝動。

だが次の瞬間――彼女の手が止まる。

胸の奥で軋む感覚。

「(……違う。)」

H.LIVEを率いる立場。

過激な表現の最前線にいるからこそ、守るべき境界がある。

「これは、私のポリシーじゃない。」

工具を握っていた手を、ゆっくりと離す。

夜風が吹く。

窓越しに見える室内。

月明かりに照らされた静かな空間。

エトラは何も知らず、穏やかな眠りの中にいる。

エイレーンは目を閉じ、深く息を吐いた。

 

欲望と責任。

刺激と倫理。

 

その境界線を越えなかったことだけが、この夜の救いだった。

彼女は無言で踵を返す。

闇の中へと消えていく背中は、先ほどよりもわずかに重い。

H.LIVEは過激さを武器に成長してきた。

だが、そのトップに立つ者の心は、決して無傷ではない。

この夜の出来事は、誰にも知られない。

 

しかし確かに――エイレーンの胸の奥に、小さな波紋を残していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年7月4日――東京。

 

朝の光が、静かにカーテン越しに差し込む。

エトラは、いつも通りの穏やかな朝を迎えた……はずだった。

だが、違和感がある。

ドアノブのわずかな傷。

鍵穴の金属が擦れた跡。

そして、部屋に残る説明しがたい“空気の乱れ”。

昨夜の気配は、夢ではない。

エトラの瞳に浮かんだのは恐怖ではなく、静かな怒りと冷静な決意だった。

スマートフォンを手に取り、通話をかける。

「萌実、ちょっと話したいことがあるんだけど……今すぐ会える?」

声は穏やか。だが芯がある。

受話器の向こうで即座に反応が返る。

《エトラ!? なんかヤバい!? すぐ行くよ! 旦那様の嫁として全力出すからね!》

 

数時間後。

 

勢いよくドアを開けて飛び込んできたのは、萌実。手にはもちろん配信用のチェーンソー(小道具)。

事情を聞いた瞬間、彼女の表情が一変する。

「……それ、本気でアウトじゃん。」

拳を握り締める。

「H.LIVEに乗り込む? 私、マジで怒ってるよ。」

エトラは小さく苦笑する。

「チェーンソーは置いといてね(笑)。でも、これはちゃんと向き合わないといけない。」

 

H.LIVE代表――エイレーン。

彼女は一線を越えなかった。

だが、越えかけたという事実は消えない。

「社長として、あれは許されない。だからこそ、正面から話す。」

エトラの声は静かだが、揺るがない。

二人はテーブルを囲み、作戦を練り始める。

H.LIVEのライバーたち――イブィ・バージニア、ミルフィア・バレンタイン、ディスコルディア・ロースター、そして二期生。

個人の問題で終わらせない。

組織として、未来のために。

萌実が身を乗り出す。

「じゃあさ、配信で“匂わせ”つつ、最後はちゃんと話し合いの場を作る? ファンの力も借りる感じで。#SaveAkariの時みたいにさ。」

エトラはコーヒーを一口。

「うん。攻撃じゃなくて、再確認。エイレーンに“ポリシー”を思い出させる。」

怒りで壊すのではなく、責任で正す。

それがエトラのやり方だ。

コメント欄には、すでに「#SaveAkari」「#FreeCoco」のタグが並び始めている。

炎は、ただ燃やすためのものではない。

照らすための光にもなる。

エトラと萌実は、視線を交わし、頷いた。

これは対立ではない。

未来を守るための一歩だ。

静かな朝は、決意の朝へと変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜――配信開始5分前。

 

スタジオに立つのは、エトラと萌実。

いつも通りの照明。いつも通りのBGM。

だが空気は、ほんの少しだけ張りつめている。

「……いくよ。」

配信スタート。

 

コメント欄は瞬時に埋まる。

「萌エトきた!」

「#SaveAkari」

「今日もチェーンソーある?」

 

萌実がいつものテンションで場を温める。

「ハロー旦那様ー! 今日も元気にいくよー!」

笑い声が広がる。

だが数分後、エトラが静かに切り出した。

「今日はね、ちょっと真面目な話もあるんだ。」

コメント欄の流れがゆるやかになる。

「配信者って、表に立つ存在だけど……裏でもちゃんと誠実でいなきゃいけないよね。」

言葉は柔らかい。

しかし芯は鋭い。

萌実が続ける。

「どんなジャンルでもさ、守るラインってあるじゃん? それ越えたら、信頼って一瞬で崩れるんだよ。」

匂わせ――だが、ぼかし過ぎない。

エトラはカメラをまっすぐ見つめる。

「だから今日は、H.LIVEの代表にも、この配信を見てほしいと思ってる。」

その名は出さない。

だが、誰のことかは分かる。

 

数分後。

 

非公開チャットに通知が入る。

 

――視聴者:エイレーン

 

スタジオの空気が変わる。

エイレーンは、無言で見ている。

エトラは深呼吸した。

「越えなかった一線があるなら、それはまだ間に合うってことだよね。」

その言葉は、責めるためではなく、問いかけだった。

数秒の沈黙。

やがて、チャット欄に短い一文が現れる。

 

《……話そう。》

 

萌実が小さくガッツポーズをする。

配信はそこで終わらせない。

エトラは最後に言った。

「これは炎上じゃない。確認。私たちは壊したいんじゃない。守りたいんだ。」

コメント欄が一斉に流れる。

 

「向き合え!」

「信頼取り戻そう!」

「#SaveAkari」

「萌エト最強」

 

夜は深まる。

だが今回は、誰かが闇に消える話ではない。

対話が始まる夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

H.LIVE社長室――

 

モニターを閉じたエイレーンは、深く息を吐いた。

「(まずい……この流れは、まずい。)」

配信の切り抜きは既に拡散され始めている。

「越えなかった一線」

その言葉が、胸に刺さり、彼女は立ち上がった。

 

「今は出ない方がいい。時間が経てば沈静化する……」

そう判断し、社長室を出ようとした、その瞬間、ドアが静かに開く。

そこに立っていたのは、白衣姿の女性だった。

 

理化学研究所認定VTuber研究所『シリウスシュガー』所長――月ヶ瀬ちゆる。

 

冷静で、澄んだ瞳。

 

「どこへ行くの?」

 

声は穏やか。だが逃げ道を塞ぐ角度で立っている。

エイレーンは視線を逸らす。

「今は動くべきじゃない。感情的な場に出れば、組織全体が揺らぐ。」

ちゆるは首をかしげる。

「“揺らいでいる”のは、組織ではなく、キミの覚悟じゃないかな?」

沈黙。

「研究者として一つ言っておくね。信頼は、時間経過では回復しないよ。検証と説明責任――それが再現性のある唯一の手段だよ。」

白衣の袖が揺れる。

「キミは越えなかった。しかし“越えようとした”という事象は存在する。」

言葉は冷静だが、非難ではない。

「逃げれば、それは未解決データとして残るよ。向き合えば、教訓になる。」

エイレーンの拳が震える。

「……私は、守る側のはずだった。」

「なら証明しよう。」

ちゆるの視線は真っ直ぐだった。

「キミが守る存在であることを、今ここで。」

数秒の静寂。

やがてエイレーンは、ゆっくりと方向を変える。

逃げるためではなく、向き合うために。

「……配信、開ける。」

ちゆるは小さく頷いた。

「賢明な判断だよ。エイレーン」

 

その夜。

 

逃走の物語は終わった。

対話の検証が、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日――簡素な会議室。

カメラは回っていない。配信もない。

そこにいるのは、1人だけ。

 

エイレーン

そしてノートパソコンの画面に萌実とエトラの顔が映っていた。

 

 

重い沈黙が落ちている。

最初に口を開いたのは、エイレーンだった。

「……昨日は、逃げようとした。」

視線は伏せられている。

「越えなかった、なんて言い訳にもならない…あの夜、私は衝動に支配された。社長として失格です。」

エトラは静かに聞いている。

萌実は腕を組み、じっと見ている。

エイレーンは深く頭を下げた。

「本当に、申し訳なかった。」

形式ではなく言葉を選ばず、ただ事実としての謝罪。

数秒の沈黙。

萌実が先に口を開く。

《正直、めちゃくちゃ怒ってる。》

率直だ。

《でもさ、逃げなかったのは評価する。私たちの配信、見てたよね?》

エイレーンは小さく頷く。

エトラが続ける。

《エイレーン、私たちは炎上させたいわけじゃない。守りたいのよ。H.LIVEも、ライバーも、ファンも。》

エイレーンの肩がわずかに震える。

《守る立場の人が境界を曖昧にしたら、全部崩れる。》

エトラの声は優しいが、厳しい。

《だから約束して。二度と、個人の衝動を立場より優先しないって。》

沈黙。

やがてエイレーンは顔を上げる。

「約束する。」

そして続けた。

「外部監査と、行動指針の明文化を行う。私一人の判断に依存しない体制を作ります。」

萌実が目を丸くする。

《お、ちゃんと改革モード入ってるじゃん。》

エトラは微笑んだ。

《信頼はゼロからじゃない。マイナスから戻すものだよ。》

その言葉に、エイレーンは再び深く頭を下げた。

謝罪は、終わりではない。

始まりだ。

三人の間にあった張り詰めた空気は、まだ完全には消えていない。

だが確かに――対立は、対話へと変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年7月6日

愛知県知多郡南知多町・チッタ・ナポリの隠れ家

 

 

潮の香りが漂うヴィラの一室。

窓辺に立つのは、シャア・アズナブルを模した仮面を風になびかせた

ドーセット・アカホシ大佐。

 

その背後で、ノートPCの画面を睨むのは

鳴神裁。

 

二人は潜伏中だった。

GOOMSTUDIOの中枢――ジャミトフとバスクの動き。

拡散される疑惑、揺らぐ連帯。

 

ドーセットが低く告げる。

「力で崩すな。構造で崩せ。連合を固めろ。孤立させるな。」

名が挙がる。

 

NEOENTUM

あおぎり高校

ホロライブ

にじさんじ

 

「炎上は武器だが、制御できなければ自爆する。」

鳴神はキーボードから手を離す。

「じゃあ、どう動く。証拠を全部ぶちまけるか?」

ドーセットは首を振る。

「テストリークはするな。反応を見るための“匂わせ”は、敵にもヒントを与える。」

海風がカーテンを揺らす。

「狙うなら一点だ。内部会議資料の真偽を第三者に検証させる。感情ではなく、事実で崩す。」

鳴神が鼻で笑う。

「俺に“慎重”をやれってか?」

「違う。君にしかできない形で、慎重にやれと言っている。」

沈黙。

波音だけが続く。

ドーセットは続ける。

「#SaveAkariも#FreeCocoも、熱はある。だが熱は冷める。残るのは証拠と構造だけだ。」

鳴神は窓の外を見つめた。

「……なら、段階的だな。リークは“検証可能な部分”から。煽りじゃなく、資料の整合性を突く。」

仮面の下で、ドーセットがわずかに笑う。

「それでいい。」

外では夕陽が海を赤く染める。

潜伏は逃走ではない。

準備期間だ。

ヴィラの一室で、二人は拳を軽く合わせた。

派手な蜂起ではなく、

拡散ではなく、

構造的な反撃。

南知多の波は絶えず打ち寄せる。

嵐はまだ来ていない。

だが――確実に、近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年7月7日――メンバーシップ限定配信。

 

ピンクと白に彩られたバーチャルルーム。

そこに現れたのは、眩しい笑顔の

 

ミライアカリ。

 

「みんな、ハロー! ミライアカリだよ♪今日も限定配信、いっぱい楽しもうね!」

弾ける声。

画面越しでも分かるエネルギー。

コメント欄は即座に流れ出す。

 

「待ってた!」

「#SaveAkari」

「今日も輝いてる!」

 

アカリは一瞬だけ真剣な表情になる。

 

「最近、ちょっと色々あったよね。心配かけちゃってごめんね。」

過激な企画の波紋。

盗作疑惑。

だが彼女は俯かない。

「でもね、アカリはアカリらしく、みんなの前でキラキラしてたい。信じてくれる人がいるなら、絶対に輝くから!」

コメントが一斉に加速する。

 

「信じてる!」

「ずっと味方!」

「#SaveAkari」

 

空気が変わる。

しんみりは、ここまで。

「よーし! クイズ大会いくよー!」

ミニゲームコーナーに突入。

ファン参加型のバーチャル対決。

笑い声が弾ける。

 

「え!? それ正解なの!?」

「アカリそれズルくない!?」

 

彼女のリアクションは大きく、素直で、どこまでもエンタメ。

 

配信の後半。

アカリはゆっくりとコメントを読み上げる。

「“何があっても応援する”……ありがとう。」

一瞬だけ声が柔らぐ。

「アカリはね、みんながいるから立ててるんだよ。」

その言葉に、画面はハートと絵文字で埋まる。

 

同時刻――海辺のヴィラ。

 

ドーセット・アカホシ大佐と鳴神裁もまた、この配信の切り抜きを見ていた。

鳴神が呟く。

「……数字じゃないな。これは。」

ドーセットが静かに応じる。

「信頼の熱量だ。」

 

アカリの最後の言葉が響く。

「みんな、ありがとう! アカリ、絶対負けないよ!」

拍手のSE。

エンディングBGM。

 

#SaveAkari

#FreeCoco

 

タグはさらに勢いを増す。

騒動の渦中でも、炎上の影があっても、輝く者はいる。

そしてその光は、潜伏する者たちの次の一手にも、確かに火を灯していた。

 

Fortgesetzt werden

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