2021年7月8日――都内・.LIVE社オフィス。
真夏の熱気とは別の緊張が、会議室を包んでいた。
訪問者は二人。
GOOMSTUDIO幹部、バスク郷里とジャミトフ西村。
名目は「視察」。
実態は牽制と探り。
テーブルには整然と並ぶ資料。
七夕メンバーシップ限定配信の視聴データ
「温泉といえば…アレ、だよね…?」反響分析
「ミリしらアテレコ」拡散レポート
そして、#SaveAkariのSNS推移グラフ。
迎えるのは、電脳少女シロ、ばあちゃる、そして運営スタッフたち。
バスクが資料を閉じる。
「……盛り上がっているな。ファンの結束も悪くない。」
冷ややかな笑み。
「だが、コンテンツは力だ。感情の波は、いずれ引く。」
ジャミトフが続ける。
「我々は協力の可能性を探りに来た。管理下に置けば、さらに大きくできる。」
“管理”。
その言葉に、空気がわずかに凍る。
シロは穏やかな笑顔を崩さない。
「ご提案ありがとうございます。でも、アカリちゃんの輝きは“数値”だけじゃないんです。」
静かな声。だが揺るがない。
「ファンの信頼、仲間の支え。それが土台なんです。」
ばあちゃるが軽い口調で乗る。
「うちはね、“管理”より“共創”なんですよ。#SaveAkariって、ムーブメントじゃなくて関係性なんで。」
バスクの目が細くなる。
「……絆、か。」
机を指で軽く叩く。
「その絆が、圧力に耐えられるか見ものだな。」
ジャミトフは資料の一部を指差す。
「数字は正直だ。外圧がかかれば、スポンサーは揺れる。」
脅しではない。
だが示唆は十分。
シロは一歩も引かない。
「揺れることと、折れることは違います。」
ばあちゃるが笑う。
「それに、今はアカリちゃんだけじゃないですからね。」
名前は出さない。
だが連帯は広がっている。
H.LIVEの改革姿勢
他事務所との水面下の連絡
ファン主導のタグ拡散
バスクが立ち上がる。
「……今日はここまでだ。」
ジャミトフも席を離れ、去り際に低く言う。
「市場は戦場だ。情に浸る者から消える。」
ドアが閉まる。
張り詰めていた空気がようやく緩む。
ばあちゃるが小声で言う。
「いやー、暑さよりヒヤッとしたわ。」
シロは窓の外を見る。
「でもね、圧をかけてくるってことは――」
振り向く。
「効いてるってことだよ。」
オフィスの外、真夏の太陽が照りつける。
戦いは、まだ表面化していない。
だが確実に、水面下でうねり始めていた。
2021年7月9日――GOOMSTUDIO会議室。
ブラインド越しの夏光が、長机の上に斜めの影を落とす。
中心に座るのは、
ジャミトフ西村とバスク郷里。
モニターには、「VTuberチャンネル登録者ランキングを見ながら自分を見つめ直しました」
の視聴データ。
そして例の企画群――
「ミライアカリ+電流=大興奮!?」
「温泉といえば…アレ、だよね…?」
「ミリしらアテレコ」
数字と反響グラフが並ぶ。
ジャミトフが静かに言う。
「登録者714,000……悪くない。」
バスクは腕を組む。
「彼女もようやく自分の立場を理解したでしょう。」
会議室には幹部たち。
パプテマス・シロッコ、水谷沙羅、ローレン中本、ブレイブ玄田、トッシュ堀内、エマ・シーン、ヤザン大塚、ジェリド井上、カクリコン戸松、レコア勝生。
だが空気は一枚岩ではない。
沙羅とレコアはすでに距離を置き始めている。
橘の左遷、ベイレーンの抗議、ファルカの介入――亀裂は広がっている。
バスクが唐突に話題を変える。
「――最近、ヰ世界情緒がTVアニメに出演するそうで。」
ジャミトフが目を細める。
「どこからの情報だ?」
「KAMITSUBAKI STUDIO内部から。」
一瞬、空気が凍り、ジャミトフの声が低くなる。
「……そこには手を出すな。」
「潰す必要はないかと。」
「違う。触れるな。」
その強い制止は、GOOMSTUDIOの限界を示していた。
沈黙。
やがて話題はTVアニメ『マブラヴ オルタネイティヴ』へ。
バスクが皮肉る。
「成功するのでしょうか?」
ジャミトフは鼻で笑う。
「三部作だ。理解する層は限られる。」
「失敗に見えますな。」
「放っておけ。」
その無関心さが、別の不安を呼ぶ。
会議室の端で、ヤザンは拳を握る。
シロッコは微笑みながら観察している。
エマはアカリの“見つめ直す姿勢”を思い出し、複雑な表情を浮かべる。
沙羅とレコアは目配せする。
連携先の名が脳裏をよぎる。
NEOENTUM
あおぎり高校
ホロライブ
にじさんじ
GOOMSTUDIOは外を牽制している。
だが内部の結束は、確実に薄れている。
ジャミトフは最後に言う。
「市場は冷酷だ。感情に流される者から脱落する。」
しかし。
今、揺らいでいるのは市場ではなく――組織そのものだった。
ブラインドの隙間から差し込む光が、
机上の資料を白く照らす。
数字は嘘をつかない。
だが、数字だけでは測れない“熱”が、既に外で燃え始めていることを、この部屋の何人が理解しているのだろうか。
群馬・榛名山。
初夏の空気を切り裂くエンジン音。
ハンドルを握るのはエトラ。
助手席には萌実。
車は鮮やかなイエローのスズキ・スイフトスポーツ(ZC33S)
軽量ボディと俊敏なレスポンス。
山道との相性は抜群だ。
「やっぱ榛名、気持ちいいね!」
萌実が笑う。
エトラは穏やかにアクセルを踏み込む。
だが――バックミラーに、赤い影。
迫ってくるのはフォード・フォーカス ST (4代目)
運転席には傭兵オリオン――本名・祇園織文。
助手席には、灰色のロングヘアに翡翠色の瞳を持つ美女、鈴蘭。
左肩には黒い鈴蘭のタトゥー。
無線が入る。
「ドライブデートか。悪くない腕試しだ。」
挑発。
萌実が振り向く。
「え、なにあれ!? 速そうなんだけど!?」
赤いフォーカスが車間を詰める。
ターボの唸り。
エトラの目が変わる。
「……来るよ。」
連続ヘアピン。
フォーカスがインに飛び込む。
しかしエトラは外側から絶妙なライン取り。
ブレーキを一瞬残し、荷重を前へ。
スイフトが滑る――だが崩れない。
『幅寄せドリフト』。
リアを流しながら、相手の進路を封じる。
オリオンが舌打ち。
「軽量FFでそこまでやるか……!」
次の高速コーナー、フォーカスのトルクが勝る。
並ばれる。
エトラは即座にカウンターステア。
滑り出したリアを正確に制御。
スロットルを繊細に開け、立ち上がりで一気に加速。
ZC33Sの軽さが活きる。
出口で半車身前へ。
最後のストレート。
萌実が叫ぶ。
「いっけええええ!!!」
スイフトが先にゴールラインを抜けた。
静寂。
赤いフォーカスが隣に並び、ゆっくり停車。
オリオンが窓を下げる。
「……誤解するな。本気で殺すつもりはなかった。」
冷静な声。
鈴蘭は無言でエトラを見つめる。
翡翠色の瞳に、わずかな敬意。
エトラは静かに返す。
「公道で“その言い訳”は通用しないよ。」
萌実が小声で付け足す。
「デートの邪魔しないでほしいんだけどー。」
一瞬の沈黙。
オリオンは短く笑う。
「……次はサーキットでだ。」
赤いフォーカスが闇へ消える。
榛名の夜風が静かに吹く。
萌実が深呼吸。
「いやー、ヒヤッとした。でもさ。」
エトラはハンドルを軽く撫でる。
「うん。楽しかった。」
エンジンを再始動し、黄色いスイフトスポーツは、静かに山を下りていった。
Fortgesetzt werden
ヒューマンバグ大学のオリオンと鈴蘭をゲスト出演しました。
助っ人キャラです。