ENTUM23   作:マブラマ

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第268話 ZMAPPとキュア

2021年7月10日――東京都葛飾区亀有。

 

真夏の陽射しが照り返す商店街を、

萌実 とエトラ が並んで歩いていた。

その時、低く重い直6サウンドが、街の空気を震わせる。

白い日産・スカイラインGT-R R33型

が静かに道を塞いだ。

ドアが開き、降り立つ緑のナース服。

彼女の名は――ZMAPPちゃん。

白い翼のような袖。

十字の帽子。

揺れるツインテール。

かつて2014年、エボラちゃんの専制に抗い、希望として立ち上がった“抗体”の擬人化。

ENTUMを経て、今はあおぎり高校の運営に携わる存在。

彼女はまっすぐ二人を見た。

「時間がない。バスクが――アカリを無理やり『マブラヴオルタネイティヴ』に出演させようとしてる。」

萌実の目が見開かれる。

「は!? なんでそんな話に!? それ本人の意思は!?」

エトラの声は静かだが鋭い。

「強制なら、問題だね。」

ZMAPPちゃんは頷く。

「GOOMSTUDIO内部で動いてる。ジャミトフとバスクが主導。ミライアカリ の“輝き”を利用するつもりだ。#SaveAkariの声なんて無視して。」

さらに続ける。

「しかもKAMITSUBAKI STUDIO絡みの出演話に便乗して。でもアカリ本人の意思確認が曖昧なまま進めようとしてる。」

萌実は拳を握る。

「それ、ぜったいダメでしょ!」

エトラは即断した。

「場所は?」

「海ほたる。」

――三人はR33に乗り込み、アクアラインを疾走。

海上に浮かぶ海ほたるパーキングエリアへ。

ガラスドーム越しに見える東京湾は静かだが、

ベンチに座る三人の空気は張り詰めていた。

ZMAPPちゃんが続ける。

「私は抗体。支配や強制を見過ごすために生まれたんじゃない。」

その言葉には、2014年の戦いを思わせる熱があった。

萌実が勢いよく立ち上がる。

「ミライアカリはモノじゃない! 推しを勝手に動かすなんて許さない!」

エトラはスマホを操作しながら言う。

「NEOENTUM、ホロライブ、にじさんじ。連携を急ぐ。外堀を固めれば強行はできない。」

ZMAPPちゃんは小さく微笑む。

「ありがとう。これで、戦える。」

海風が吹き抜ける。

黒いR33のエンジンが再び唸り、白いR33型が再び走り出す。

東京湾アクアラインを抜け、夜へ向かうヘッドライトの光。

運転席のZMAPPちゃん は静かに言った。

「強行出演が事実なら、止める方法は三つ。一つ、本人の明確な拒否。二つ、世論の圧力。三つ、制作側との直接交渉。」

助手席のエトラが頷く。

「アカリちゃん本人とまず話す。」

後部座席で萌実がスマホを握りしめる。

「タグはもう動き始めてるよ。#SaveAkari。」

 

その頃――都内某所、GOOMSTUDIO会議室。

 

バスク郷里 が腕を組み、

ジャミトフ西村 が資料を眺めていた。

「世論はどうだ。」

「騒がしいが、決定的ではないかと。」

そこへブレイブ玄田の報告が入る。

「ZMAPPが動いています。NEOENTUM側と接触の可能性。」

バスクの眉が動く。

「抗体ごときが、政治に口を出すか。」

ジャミトフは低く笑った。

「世論戦になる。だが、こちらには契約とスポンサーがある。」

 

――R33は都心へ戻る。

エトラのスマホが震える。

画面にはミライアカリの名前。

通話接続。

《もしもし……エトラちゃん?》

彼女の声は、少し疲れていた。

エトラは優しく問いかける。

「TVアニメ『マブラヴオルタネイティヴ』出演の話、本当にあなたの意思?」

沈黙。

やがて、小さな吐息。

《正直に言うと……ちゃんと説明されてない。決まったみたいに聞かされただけ》

萌実が歯を食いしばる。

ZMAPPちゃんの瞳が強く光る。

「それで十分。」

彼女はハンドルを握り直した。

「強制なら、止める。」

海風の残り香が車内に漂う。

次の舞台は、交渉か、対立か。

だが一つだけ確かなことがある。

アカリの輝きは、誰かの“所有物”ではない。

R33のテールランプが夜に溶ける。

戦いは、静かに次の局面へ進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

R33は、都内某所――THINKR本社前で静かにエンジンを止めた。

ここはKAMITSUBAKI STUDIOの運営元。

目的は明確。代表者と直接話をすること。

運転席から降りたZMAPPちゃん が言う。

「ここで止められなければ、制作は進む。」

エトラと萌実も続く。

緊張が空気を張り詰めさせる。

その時――ビルのエントランスから、二人の少女が現れた。

透き通る存在感。

一人は花譜。

もう一人はヰ世界情緒。

偶然の遭遇――――萌実が息を呑む。

「え……情緒ちゃん……?」

ヰ世界情緒は静かに三人を見つめた。

その瞳には、揺るがない意志。

「話は、聞いています。」

花譜が一歩前に出る。

「ここに来た理由も、わかるよ。」

エトラは率直に言う。

「アカリちゃんの意思が無視されている可能性がある。」

一瞬の沈黙。

ヰ世界情緒が、はっきりと告げた。

「強制は、絶対に違う。」

その声は静かだが、強かった。

「もし制作側がそう動いているなら、私が止める。」

萌実が目を見開く。

「ほんとに……?」

情緒は頷く。

「アーティストの出演は、本人の選択であるべき。それが守られないなら、私は出演しない。」

花譜も続く。

「私たちの名前が“盾”や“口実”に使われるなら、意味がない。」

ZMAPPちゃんは一瞬だけ目を閉じ、安堵の息を吐いた。

「……ありがとう。」

エトラが情緒を真っ直ぐ見る。

「約束、してくれる?」

ヰ世界情緒は迷わず答えた。

「約束する。アカリさんの強制出演は、止める。」

都会の夜風が吹き抜ける。

対立ではなく、意思による連帯。

THINKRのビルを背に、四人は静かに立っていた。

戦いは、暴力ではなく選択の問題へと変わり始めていた。

R33のエンジンは、まだ温かい。

だが今夜は、少しだけ希望の方が強かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年7月11日――東京・大手町。

 

ガラス張りの店内に朝の光が差し込む。

舞台はスターバックス KDDI大手町ビル店。

キャラメルラテの甘い香りの中、向かい合う二人。

緑のナース服姿のZMAPPちゃん。

そして青髪に白いナース服、マスクを纏った姉――キュアちゃん。

元ENTUMスタッフ、現在はNEOENTUM側で活動する守護者。

健康と薬の力を象徴する存在。

ZMAPPちゃんがラテを一口飲み、切り出す。

「キュアお姉様、GOOMSTUDIOが本格的に動いてる。アカリを『マブラヴオルタネイティヴ』へ強制出演させる計画。」

キュアちゃんは静かに頷く。

「バスクとジャミトフね。」

その名に、空気がわずかに冷える。

「でも――出演は“治療”と同じ。本人の同意なしに進めれば、それは侵襲よ。」

ZMAPPちゃんの瞳が強く光る。

「昨日、エトラと萌実に伝えた。THINKR側では、情緒が止めると約束してくれたけど……油断はできない。」

キュアちゃんはクリップボードにメモを走らせる。

「なら、私たちは“免疫系”として動くわ。」

彼女は続けた。

「NEOENTUM、あおぎり高校、外部クリエイター。そしてワクチンちゃんにも協力を仰ぐ。世論と契約、両面から守る。」

ZMAPPちゃんが身を乗り出す。

「連合、組める?」

「ええ、ホロライブ、にじさんじとの水面下の連携も可能性はある。“強制”の前例を作らせない。」

店内の穏やかな音楽とは対照的に、

二人の会話は鋭い。

キュアちゃんはマスク越しに微笑む。

「ZMAPP。私たちはウイルスを排除するために生まれた。でも今、排除すべきは“恐怖”や“支配”。」

ZMAPPちゃんは小さく笑った。

「姉妹で戦えるって、心強いね。」

窓の外にはオフィス街の流れ。

だがSNSでは、#SaveAkari の波が広がりつつある。

キュアちゃんが最後に言う。

「これは対立じゃない。調和を取り戻すための処置よ。」

二人はラテを飲み干す。

甘さの奥に、確かな決意。

大手町の空の下、

“守る側”の連携は、静かに完成しつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年7月12日――奈良県十津川村。

 

深い山々に囲まれた夜。

月明かりに照らされながら走るのは、白いボディに赤いラインを残す

トヨタ・ハイメディック 初代(払い下げ車両)。

かつて命を救うために走り続けた救急車は、今は二人の小さな冒険の相棒だった。

運転席にはキュアちゃん。

助手席にはZMAPPちゃん。

車内にはキャンプ用品と、昼間のキャラメルラテの甘い余韻。

山道を越え、たどり着いたのは十津川村の小さなキャンプ場。

澄んだ川の音が静かに響く。

テントを張り、焚き火を囲む。

ぱちぱちと薪が弾ける音。

キュアちゃんが、クリップボードをそっと脇に置き、穏やかに言った。

「ZMAPP、こうして自然に身を置くとね。戦う理由が、もっとはっきり見えるの。」

ZMAPPちゃんは炎を見つめる。

「……うん。でも、やっぱりアカリのこと考えちゃう。」

彼女の声には、戦士の熱がわずかに混じる。

キュアちゃんは薪をくべながら微笑む。

「守るためには、まず整えること。免疫も同じよ。休息がなければ機能しない。」

山の空気は冷え始めている。

翠の髪と青い髪が、夜風に揺れる。

ZMAPPちゃんが空を見上げる。

「ねえお姉様。もしVTuber界隈が“病”にかかったなら、私たちは抗体になれるかな。」

キュアちゃんは即答した。

「なれるわ。でも攻撃するためじゃない。回復させるために。」

遠くで川が流れる音。

月に照らされたハイメディックの白い車体が、静かな守護者のように佇む。

SNSの波、交渉、対立。

すべては一旦、山の闇に溶けていく。

焚き火の炎が小さく揺れる。

キュアちゃんが最後に言った。

「力は充電できた。次に動くときは、もっと穏やかに、もっと強く。」

ZMAPPちゃんは小さく頷く。

星々が瞬く十津川の夜。

姉妹の絆は、

静かな山の鼓動とともに、確かに深まっていった。

 

 

 

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