2021年10月22日――ミライアカリ自宅。
配信ルームは、相変わらずピンク色のデスクと淡い照明に包まれた、温かな空間だった。
ノートパソコンの画面には――マブラヴ オルタネイティヴ。
10月6日の放送開始以降、アカリはすっかりその世界観に引き込まれていた。
BETAとの絶望的な戦い。
極限状態の人間ドラマ。
そして何より――ヰ世界情緒が演じる臼杵咲良の声。
「うわっ、マブラヴめっちゃ面白い!ヰ世界情緒さんの声、最高だよ……」
目を輝かせ、身を乗り出す。
「ちょっと、アカリも戦いたいかも!」
その瞬間。
――ピンポーン。
インターホンが鳴った。
ドアの向こうに立っていたのは、月ヶ瀬ちゆる。
白衣姿のまま、冷静な視線で部屋を見渡す。
「こんにちは、アカリちゃん。様子を見に来たよ。」
「ちゆるさん!? どうしたの?」
ちゆるはモニターの映像を一瞥する。
爆炎。戦術機。緊迫のBGM。
「……ハマりかけているね。」
優しい声だが、分析は正確。
「確かに面白い。でも、アルバム『未来』の発売は10月27日。あと5日だよ。」
その言葉に、アカリの肩がぴくりと動く。
「あ……確かに。つい夢中になっちゃって……」
ちゆるは小さなノートを開き、淡々と続ける。
「今は集中が分散するとまずい時期。#SaveAkariの勢いもある。ここで完成度を落とすわけにはいかない。」
だが、声は厳しくない。
「マブラヴは逃げないよ。でも“今”の5日は戻らない。」
研究者らしい時間管理の理論。
アカリは数秒、画面を見つめる。
戦場の咆哮。
だがその向こうに、ファンの顔が浮かぶ。
「……うん。」
パタン、とノートパソコンを閉じる。
「アカリ、アルバム『未来』で輝くよ!マブラヴは後でちゃんと楽しむ!」
笑顔が戻る。
ちゆるは満足げに微笑む。
「それでこそ、ミライアカリだよ♪」
白衣の裾を翻し、静かに去っていった。
部屋に残ったアカリは、マイクと楽譜を前に深呼吸する。
戦う場所は戦場ではない。―――ステージだ。
BETAではなく、向き合うのは自分自身。
アルバム『未来』発売まで、あと5日。
秋の騒動の余波を超えて、
彼女は自分の“未来”へ向き直った。
画面は閉じた。
だが――決意の光は、消えていなかった。
2021年10月23日。
GOOMSTUDIOに配属されてまだ間もない、バンナム本社ゲーム事業部出身の新人――
マウアー・ファラオ。
彼女は社内の空気に違和感を覚えながらも、ある“伝手”を頼って行動していた。
その橋渡し役は――
エマ・シーン、レコア・勝生、そしてライラ・ミラ・ライラ。
彼女たちの紹介で、
マウアーは研究者――月ヶ瀬ちゆると対面することになった。
静かな研究室。
モニターに映る配信データと、
アルバム『未来』関連の分析資料。
マウアーは真剣な表情で切り出す。
「#SaveAkariに協力したい。組織の立場ではなく、個人として動きたい。」
ちゆるはしばらく彼女を見つめ、ゆっくりと頷いた。
「データ上も、アカリちゃんの活動は安定している。キミが加われば、さらに安全性が高まるかもしれない。」
マウアーは静かに拳を握る。
「なら、私は情報面で支える。無理な介入はしない。“守る側”に回る。」
研究室の空気が少しだけ柔らかくなる。
エマ達の橋渡し、ちゆるの分析、そしてマウアーの決意。
#SaveAkari の輪は、また一つ広がった。
GOOMSTUDIO内部にも、変化の兆しが生まれ始めていた――。
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