ENTUM23   作:マブラマ

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第282話 火種と境界線

2021年11月2日、GOOMSTUDIO 休憩室

 

休憩室の空気は、いつもより重かった。

 

壁掛けテレビから流れるニュース映像。

バンナム本社前で行われていた #SaveAkari のデモが、機動隊の出動によって鎮圧されたという報道が映し出されている。

 

催涙ガス。

混乱する人々。

現場のざわめき。

 

そして――

「デモはGOOMSTUDIOの要請により鎮圧された可能性」と読み上げられるキャスターの声。

 

生駒葵はコーヒーカップを持ったまま、動きを止めた。

 

「……何? こんな強硬策、あり得るのか?」

 

声は震えていた。

だがすぐに表情を引き締め、拳を握る。

 

波瀬うるうもテレビ画面を凝視していた。

 

「ファンを力で抑え込むなんて……。アカリちゃんの支持を、こんな方法で止めるなんて……許せません。」

 

静かな怒りが、その瞳に宿る。

 

二人は無言で視線を交わした。

 

葵がゆっくり立ち上がる。

 

「内部から動く。証拠を集めて、正式に圧力をかけるしかない。」

 

うるうも頷いた。

 

「マウアーさんの情報と合わせれば、工作の実態を整理できます。ちゆるさんにも連絡して、連合側へ共有しましょう。」

 

感情だけではなく、行動へ。

 

テレビでは鎮圧後の混乱が続いている。

だがその映像は、逆に二人の覚悟を強くしていた。

 

#SaveAkari の支持は、単なるスローガンではない。

表現の自由と、ファンの意思を守るための動きへと変わりつつある。

 

GOOMSTUDIO内部。

静かだが確実に、変化が始まっていた。

 

葵は小さく呟く。

 

「もう、傍観はしない。」

 

うるうも静かに続けた。

 

「アカリさんの未来のために。」

 

休憩室のドアが閉まる音が、決意の始まりを告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年11月3日

 

この日、ベノちゃんは自身のYouTubeチャンネル『アニメ娘ベノ』で一本の動画を投稿した。

 

タイトルは――「鳴神裁を救いたい」

 

挑発的にも見えるその題名は瞬く間に拡散される。

 

しかし、動画の中身は意外なものだった。

エイレーンファミリーへの参加を促す軽いトークと、ベノちゃんとのコラボ提案。

どこか冗談めいた、半分ネタのような内容だった。

 

だが――それを見た鳴神は、ツイキャス配信で即座に反応する。

 

「俺は入らない。嫌いだからって理由じゃない。俺がやってるFGOやドリフトスピリッツのデータが消されたら困るからだ。」

 

配信内で具体的なゲーム名まで挙げ、過去の炎上にも触れた。

 

「ベノちゃんが萌実のパズドラのデータ消して炎上したのは本人だろ?巻き添えになりたくないんだよ。」

 

さらに半ば冗談混じりにこう続けた。

 

「もし俺のデータ消されたら、萌実がチェーンソー持って怒るからな。」

 

その発言は、瞬く間に切り抜かれ、拡散された。

 

結果――ベノちゃん側も、鳴神側も、双方が炎上状態へ。

 

タイムラインは批判と擁護が入り乱れ、

動画の意図とは別の方向へ話題が膨れ上がっていった。

 

その様子を見ていた萌実とエトラは、言葉を失っていた。

 

「……え?」

 

萌実はスマホを握ったまま固まる。

 

「なんで、そうなるの……?」

 

エトラも静かに画面を見つめる。

 

「冗談のつもりでも、今は燃えやすい状況よ……。」

 

沈黙が流れる。

 

#SaveAkari の余波が続く中、界隈全体が過敏になっているタイミングだった。

 

軽い企画のはずが、過去の因縁と疑念を掘り起こしてしまった。

 

萌実は小さく息を吐く。

 

「これ以上、連鎖しないといいけど……。」

 

火種は小さく見えても、空気が乾いていれば一瞬で広がる。

 

11月3日の夜。

界隈は再び、不穏なざわめきに包まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎上騒ぎが界隈をざわつかせていたその日。

 

まったく別の場所で、ひとつの朗報が生まれていた。

 

栗駒こまるの個人チャンネルが――ついに収益化審査を通過したのだ。

 

通知メールを見た瞬間、こまるは数秒間フリーズした。

 

「……え? え??」

 

画面を二度見。三度見。

 

「通ってるーーーー!!?」

 

その絶叫は配信マイクを通してリスナーにも届いた。

 

コメント欄は一瞬で祝福の嵐に包まれる。

 

「おめでとう!」

「努力が実った!」

「スパチャ解禁だ!」

 

こまるは両手で顔を覆い、半泣きになりながら笑った。

 

「みんなのおかげだよ……! 本当にありがとう!」

 

最近は界隈全体が不穏な空気に包まれていた。

炎上、対立、憶測。

 

そんな中での、純粋な“努力の成果”。

 

同じあおぎり高校のメンバーたちからも祝福メッセージが届く。

 

「こまる、やったね!」

「今日はお祝いだ!」

 

重苦しいニュースが飛び交う11月3日だったが、

この瞬間だけは違った。

 

努力は、ちゃんと報われる。

 

こまるは配信の最後に、少し照れながら言った。

 

「これからも、もっと面白いこといっぱいやるからね!収益化はゴールじゃなくてスタートだから!」

 

界隈の空気が揺れる中、

小さく、しかし確かな希望の光が灯った日でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年11月4日

 

石川で活動する“問題児紙一重”系YouTuber、桐谷栄二郎が投稿した一本の動画が物議を醸した。

 

内容は――走行中のバス車内で突然ポーズを決め、仮面ライダーに変身する、という演出動画。

 

だが撮影は公共交通機関の車内。

乗客の困惑した様子も映り込み、「迷惑行為ではないか」と批判が殺到した。

 

SNSは瞬く間に炎上。

拡散、切り抜き、まとめ動画。

 

沈静化までに約3日を要した。

 

鳴神の配信

 

この件について、鳴神もツイキャスで言及した。

 

「公共の場でのパフォーマンスは線引きが必要だ。目立つことと、迷惑をかけることは違う。」

 

感情的に煽るのではなく、活動者としての責任論を中心に叱責。

 

その配信は一定の評価を受け、一部では「今回は正論」との声も上がった。

 

 

さらに事態は広がる。

 

 

 

動画を見たバス運行会社の関係者が学校へ通報。

学校側は以前から桐谷のYouTube活動を把握しており、内容について複数回の注意も行っていたという。

 

そして突きつけられた選択。

 

「動画投稿を続け退学するか」

「動画投稿をやめ学校生活を続けるか」

 

桐谷は一度、学校生活を優先する決断を下す。

 

ツイキャス生放送で、活動休止と事実上の引退を発表した。

 

そして3か月後

 

2022年2月4日。

Twitterに投稿された一本のギター動画。

 

それが再び学校の問題となり、呼び出しの末、退学処分が言い渡される。

 

翌2月5日、YouTube復帰。

 

その後は高卒認定資格を取得し、大学進学も果たしたという。

 

 

 

 

 

この一連の流れを知った萌実とエトラは、言葉を失った。

 

「ここまで大事になるなんて……」

 

エトラは静かに言う。

 

「行動の影響は、自分だけで完結しないのよね。」

 

一方で、鳴神の配信については一定の評価を示した。

 

萌実はぽつりと呟く。

 

「……今回は、ちゃんと線引きの話をしてた。」

 

炎上、責任、進路。

 

ネット活動が現実と交差したとき、

その代償は決して軽くない。

 

11月4日の出来事は、界隈に“境界線”の重みを改めて突きつける形となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年11月7日

 

この日、ミライアカリは新企画動画を公開した。

 

タイトルは――「ハロー!イラスト版ミライアカリだよ!【アカリギャラリー】」

 

内容は、ファンアート紹介企画。

 

アルバム『未来』発売後の勢いを受け、

SNSに投稿された数多くのイラストを紹介するという、

温かい空気に包まれた配信だった。

 

画面が切り替わる。

 

「ハロー!ミライアカリだよ〜!」

 

明るい声と共に始まるギャラリーコーナー。

 

ティターンズ風衣装のイラスト、ハロウィン仕様のデフォルメアカリ、アルバム『未来』ジャケット風の幻想的な作品。

 

アカリは一枚一枚にリアクションする。

 

「え、これすごくない!? 光の表現やばい!」

「ちょっと待って、このアカリ可愛すぎない?」

「衣装の細かいとこまで描いてくれてる〜!」

 

コメント欄は終始あたたかい。

 

「紹介された!」

「描いてよかった!」

「アカリ嬉しそうでこっちも嬉しい」

 

最近は界隈に波風が立つ出来事も多かった。

 

だがこの日だけは違った。

 

炎上も対立もなく、ただ“好き”が循環する時間。

 

アカリは最後にこう締めくくった。

 

「みんなが描いてくれるから、アカリはもっと頑張れるんだよ。本当にありがとう。これからも一緒に未来を描こうね!」

 

ファンとの絆を再確認する配信。

 

#SaveAkari の空気も、この日は“守る”ではなく“楽しむ”へと変わっていた。

 

小さなギャラリーの中に、

確かな未来が広がっていた。

 

 

Fortgesetzt werden




桐谷栄二郎のモデルになったYouTuberはご存知だと思いますが、現在(2026年8月24日)UUUMに所属している桐崎栄二です。
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