2023年11月21日
渋谷スクランブル交差点
ネオンが夜を裂く。
巨大ビジョンが街を飲み込み、トラックが光を引き連れて横切る。
その中心で立ち尽くすのは――エイレーン。
かつて H.LIVE の社長として栄華を誇り、エイレーン学園を築いた女。
だが今は、債務と裏切りの果てに全てを失った存在。
崩壊。
解散。
離反。
心は空洞だった。
その時、ビジョンが切り替わる。
ソニーミュージックのロゴ。
パスタのようなウェーブヘア。
《パスタ王国の女王、アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノなのじゃ!》
歓声が交差点を震わせる。
それは――ミライアカリ。
転生の名は、ぺぺち…アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ
エイレーンの喉が震える。
「ア……アカリさん……?」
引退から9ヶ月。
崩壊の中心で見届けた彼女が、今、世界を照らしている。
背後から穏やかな声。
振り返ると、黒いコートの女性。
姜小花。
「彼女は今、ソニーミュージック所属です。大手ですから、もう壊れません。」
そして続ける。
「カティア・ヴァルトハイムさんの紹介です。#SaveAkari連合で、あなたの過去を知りました。」
エイレーンは涙を堪えきれない。
「……会いたい。謝りたい。」
小花は頷く。
「なら、会いましょう。」
ソニーミュージック・プライベートスタジオ
初配信を終えたばかりのぺぺち。
扉を開けると、そこには温かな面々。
ベノちゃん。
ベイレーン。
萌実。
そして――ぺぺち。
「エイレーンさん……来てくれたのじゃ?」
その声は、変わっていない。
エイレーンは跪く。
「私の野心で、あなたを傷つけた。全部、私の責任……」
ぺぺちは抱き起こす。
「謝らないで。過去も今も、全部つながってるのじゃ。」
部屋に静かな涙。
萌実が力強く言う。
「未来は、私たちで守る!」
小花は隅で微笑む。
「これで輪がまた一つ。」
渋谷の光は遠く。
だが、ここにある光は本物だった。
失敗も、裏切りも、崩壊も。
それでも――再生は起こる。
エイレーンは絶望の底から顔を上げる。
今度は支配ではない。
支える側として。
ぺぺちの笑顔が部屋を満たす。
「みんな、絡まってキラキラいくのじゃ!」
夜は、もう冷たくない。
失われた輝きは、形を変えて戻ってきたのだから。
2023年11月22日
東京都渋谷区
海鮮出汁居酒屋『淡路島の恵み だしや』
木目の温かい店内。
鰹と昆布の香りが漂う。
テーブルを囲むのは――
姜小花
萌実
エイレーン
ベノちゃん
ベイレーン
小花が静かに語り始める。
「見た目や思想の違いから“ゲッティ帝国”で迫害を受け、牢獄へ。そして脱獄し、“パスタ王国”を建国し女王となる――」
それは昨日デビューした
ミライアカリ――いや、“アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ”の設定。
「好きなものを好きなだけ楽しめる居場所を作る。この核の部分は、彼女自身と共通しています。」
小花は続ける。
「おそらくソニーミュージックエンタテインメントのスタッフが彼女の過去を聞き、それを反映して構築したのでしょう。」
萌実が小さく頷く。
ベノちゃんは目を潤ませる。
ベイレーンは腕を組み、静かに聞いている。
店の奥
柱の影。
不気味な笑みを浮かべる男――鳴神裁。
「最初の宣伝で力尽きて完全に出オチ。99%は忘れてるでしょうね。」
小声だが、刃のように鋭い。
「転生を強調した割に、それを活かしたキャラでもない。結局ゲームと雑談で滑っただけですよ。」
空気が一瞬、凍る。
しかし――エイレーンは静かに湯呑を置いた。
怒らない。
動揺もしない。
ただ、まっすぐに言う。
「アカリさんが今、幸せならそれでいい。」
店内のざわめきが遠のく。
「彼女には自由に活動する権利があります。」
その声は穏やかで、だが揺るがない。
かつて野心に溺れた彼女の言葉とは思えないほど、静かな強さがあった。
小花は横目で鳴神を見る。
分析も批評も、自由。
だが、自由は奪うものではない。
萌実が笑う。
「評価は後からついてくるよ。今はスタートしたばかり。」
ベノちゃんが小さく言う。
「ぺぺちちゃんは、ぺぺちちゃんだもん。」
ベイレーンは鼻で笑う。
「数字だけが全部じゃないだお。」
だしの湯気が立ち上る。
外では渋谷のネオンが瞬く。
成功か失敗か。
転生が活きたかどうか。
それを決めるのは、今じゃない。
ただ一つ確かなのは――
彼女は、もう牢獄にはいない。
自由に笑っている。
それだけで十分だと、エイレーンは信じていた。
2024年2月10日
夜。
ぺぺち――ミライアカリ は、かつて ENTUM に在籍していた頃の動画を見返していた。
画面に映るのは――Wake Up, Girls! とのコラボ。
島田真夢。
林田藍里。
片山実波。
七瀬佳乃。
久海菜々美。
菊間夏夜。
岡本未夕。
あの頃の空気。
あの頃の熱。
「懐かしいのじゃ……」
微笑んだ瞬間、スマホが震える。
Yahoo!ニュース。
2024年3月8日、Wake Up, Girls! 解散。
言葉が止まる。
「……また、時代が一つ終わるのじゃな」
その帰り道。
偶然の再会。
かつて皆守ひいろとして活動し、今は 西園チグサ として歩む彼女。
ENTUM解散と同時に失われた居場所。
拾われ、再生した場所。
「私たち、似てるよね」
「……そうじゃな。終わったと思った瞬間から、本番が始まるのじゃ」
二人は静かに笑う。
2024年3月8日
ぺぺち。
もちひよこ。
猫宮ひなた。
西園チグサ。
そして――届木ウカ。
再会。
そこで生まれた提案。
「ゲーム、作らない?」
タイトルは――『ENTUM23』
あらすじ
人々はシティネットワークに支配された街
“グッディ帝国”で暮らしていた。
全管理コンピュータ「SYSTEM」。
平和のための完全支配。
それに抗うレジスタンス。
国家保衛省と民間ゲーム会社「フラワーハニー社」の戦乱。
天才ゲーマー、ヒイロ・ネコミヤ。
やがて発動される
「PROJECT HEAVEN」。
だが中枢爆破により計画は頓挫。
そして明かされる真実。
ウォン・ダイの正体――それは、ミライアカリ。
政治犯として第101管理所に監禁され、SYSTEMに強制接続された存在。
解放直後、7Gオペレーターに選ばれたヒイロへ未来を託し、彼女は命を落とす。
残されたシフィは中枢へ残り、世界を書き換える。
それは、喪失と継承の物語。
2024年11月21日
ぺぺち 1周年ライブ
仮想空間の特設ステージ。
ENTUM時代の仲間たち。
もちひよこ。
猫宮ひなた。
西園チグサ。
届木ウカ。
客席にはアイリスディーナ・ベルンハルト の姿も。
ぺぺちは叫ぶ。
「1年ありがとうなのじゃ!」
『ペペロン・ファンファーレ!』
『パスタの歌 ~ペペロンチーノ~』
そして最後に歌ったのは――
眠れぬ森の美女
(歌:高岡早紀)
それは恐ろしい物語よ
キスを待ちつづけ眠るなんて
ああ わたしもワナにワナにはまりそう胸の谷間へと すべる雪が
都会(まち)を銀色の森にするの
でも あなたが罪のリンゴくれるなら
GAGYPA(バーブラ) ЛYCЖKA(ブシュカ) 食べてもいい
GAGYPA(バーブラ) ЛYCЖKA(ブシュカ) 泣いてもいい
髪に巻きつけた星のショール
熱いまなざしを隠すためよ
ああ 今夜は深く深く眠れそう
恋の美しい おとぎ話
信じられたのは出逢うまでね
でも あなたが目覚めさせてくれるなら
GAGYPA ЛYCЖKA あげてもいい
GAGYPA ЛYCЖKA 溶けてもいい
GAGYPA ЛYCЖKA 罪でもいい
GAGYPA ЛYCЖKA 夢でもいい
歌い終えたぺぺちは、静かに微笑む。
「眠ってるだけじゃ、終わらないのじゃ」
ENTUMは終わった。
でも。
23は続いている。
物語は、まだ終わらないのじゃ。
2024年11月22日
ルミネエスト新宿・4階ラウンジ
冬の新宿は、白い息とショッピングバッグであふれていた。
その喧騒から少し離れたラウンジスペース。
ソファを囲む四人の少女たち――
音霊魂子
栗駒こまる
石狩あかり
大代真白
テーブルにはラテ。
SNSには「#Peppechi1Year」。
昨夜の余韻はまだ熱い。
1周年ライブで輝いていたのは、
アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ――
かつての ミライアカリ だった。
「最高だったよね」
こまるが頬を緩める。
だが魂子は、そっとグラスを置いた。
「……でもさ。GOOMSTUDIOの人たちのその後、知ってる?」
空気が少しだけ変わる。
かつての闇。
ぺぺちが転生する前、彼女を縛っていた影。
ジャミトフ西村
運営責任者として重圧を与え続けた人物。
「崩壊後、責任問題でかなり追い込まれたらしいよ」
魂子は静かに語る。
「ジャミトフは2回、命を狙われたんだって。1回目は元スタッフの報復で、2回目は#SaveAkariの過激なファンによる襲撃。でも、どっちも未遂に終わった。でも、3回目はダメだった。2023年10月、渋谷の裏通りで何者かに刺殺された。犯人は今も捕まってない。カティアさんが『正義の報復か、別の陰謀か、誰もわからない』って言ってた。」
こまるが震えながら呟いた。
「暗殺…怖っ! でも、アカリ先輩をあんな目に遭わせたんだから、自業自得かも…」
バスク郷里
右腕として強硬な態度を取っていた人物。
「バスクは崩壊後、アメリカ・ニューヨークに逃亡したの。バンナムのコネ使って、偽名で潜伏してたらしい。」
魂子が目を細め、続ける。
「でも、2023年6月、インターポールがパワハラと金銭不正の容疑で追跡開始。ニューヨークの街を逃げ回ってたバスク、2023年8月にマンハッタンで大型トラックにぶつかって轢死したんだって。事故か、追い詰められての自暴自棄か、真相は不明。でも、#SaveAkariのファンの間じゃ『因果応報』って言われてる。」
あかりがぽつりと呟く。
「もし生きてたとしても最終的には業界から完全に離れた……と。逃げても、過去は消えないんだね」
ジャマイカン山田
最も強硬だったスタッフ。
「ジャマイカンは2023年4月、韓国に逃げようとしたんだけど、なぜか北朝鮮に間違えて入っちゃったらしい。パスポート偽造してたのがバレて、元山で現地の兵士に拘束された。」
魂子が苦笑いしながら続ける。
「で、長らくは消息不明だったけど2023年9月、北朝鮮の当局が『スパイ容疑』でジャマイカンを高射砲で処刑したって。Xで流れた情報だと、処刑シーンは当局のプロパガンダに使われたらしい。めっちゃバカバカしいけど、"ミライアカリ"を傷つけた報いだよね。」
大代真白が呆れたように笑った。
「北朝鮮で高射砲って…ほんとどうしようもない奴だったんだね。人生、選択ミスると一気に詰むってやつか」
魂子は話題を変え、シロッコについて語った。
「で、シロッコはジャミトフたちの崩壊後も生き延びたよ。今はバンナムのニューヨーク支社で、側近の水谷沙羅とレコア勝生と一緒にVTuber事業やってる。シロッコはアカリに直接手を下さなかったから、責任逃れできたみたい。#SaveAkariのファンからは『裏切り者』って叩かれてるけど、ニューヨークで新プロジェクト立ち上げて、結構成功してるらしい。カティアさんが『シロッコは打算的だけど、VTuberの可能性を信じてる』って言ってた。」
こまるが不満げに言った。
「シロッコだけ生き延びるなんて、なんかズルい! でも、アカリ先輩がぺぺちとして幸せなら、もういいかな…」
魂子は最後に言った。
「でもね。復讐とか破滅が目的じゃない。アカリ先輩が自由になった。それが一番大事なんだよ」
静かな沈黙。
やがてこまるが笑う。
「ぺぺちさん、今めちゃくちゃ楽しそうだもん!」
魂子は立ち上がる。
「過去は闇。でも、今は光。私たちは支える側でいよう」
四人は頷いた。
外の街灯が、どこか優しく見えた。
このとき彼女たちは知らない。
生駒葵と波瀬うるうが一年後、あおぎり高校のスタッフとしてviviONへ来ることも。
未来の歯車が、静かに回っていることも。
2025年5月9日、春の訪れを告げる桜が散り始める頃、ぺぺちの公式SNSに衝撃の発表が投稿された。
「みんな、…ぺぺちなのじゃ。急だけど、活動休止するのじゃ。復帰時期は未定…。パスタ王国を少し休んで、ソースを新しく練り直すのじゃ。#SaveAkariの絆、みんなの愛、ぺぺちの宝物なのじゃ。待っててなのじゃ!」
ファンの間で悲しみの波が広がったが、転生以来の輝きを知る者たちは「ぺぺちの休息を尊重しよう」と声を上げた。
ソニーミュージックのスタッフ、エマや萌実、魂子たちはバックステージで支え、月ヶ瀬ちゆるの分析データが「休止は新たなパワー蓄積のサイン」と示した。
GOOMSTUDIOの亡霊は遠く、ぺぺちの休止は、次の伝説への序曲となち、復帰の日は、ファンの願いと共に、いつかまた――
「ただいまなのじゃ!」
その声が響く日を。
誰もが、信じて待っていた。
2025年5月10日
雨上がりの東京。
静かな午前だった。
鳴神は、
一晩かけて書き上げた文章を読み返していた。
投稿先は――note。
タイトルは、「ミライアカリという時代」。
そこには、活躍の軌跡、引退の衝撃、そして“ぺぺち”としての転生
が、淡々と、しかしどこか悔恨を滲ませながら綴られていた。
感情的な暴露ではない。
煽りでもない。
ただ一つ、最後に書かれていた一文。
「私は彼女を語る資格があったのか。今でも分からない。」
投稿ボタンが押される。
拡散は、静かに始まった。
同日 午後12時30分
あおぎり高校運営元株式会社viviON
受付で名を告げると、空気がわずかに張り詰めた。
応接室に現れたのは――
音霊魂子
石狩あかり
栗駒こまる
三人。
かつて、言葉の刃を向けられた側。
鳴神は深く頭を下げた。
「……申し訳ありませんでした。」
長い沈黙。
言い訳はしなかった。
分析も批評も、今日は持ち込まない。
魂子が静かに言う。
「もう、過去のことだよ。」
あかりが続ける。
「大事なのは、これからどうするかだと思います。」
こまるは少しだけ笑う。
「ちゃんと謝れるなら、それでいいんじゃない?」
鳴神は顔を上げないまま、もう一度頭を下げた。
それ以上は語らなかった。
そして――そのまま立ち去った。
振り返らない。
まるで、最初からそこにいなかったかのように。
なお、この時点で大代真白は2025年2月28日に卒業。
約4年間
(休止期間を含め約4年9ヶ月)
その活動に幕を下ろしていた。
体調は快方へ向かっているという。
彼女の名前は、あの日の応接室にはなかった。
だが、確かに歴史の一部だった。
鳴神は現在、ツイキャス とnoteを中心に活動を継続している。
表舞台の中心ではない。
だが消えてもいない。
謝罪は終わりではない。
評価は、人が決める。
そして時代は、静かに次へ進んでいく。
ミライアカリという名も、
ぺぺちという王国も。
それぞれの場所で。
物語は続いている。
Fortsetzung in Teil 4